高井伸夫の社長フォーラム100講座記念~1講1話・語録100選~

【第11回】社員を鼓舞する「大義名分」をつねに意識せよ

~「この施策に展望あり」~(1994年6月8日)

 

 今は皆苦しい。何かやって成功する確率は従来に比べてはるかに小さくなった。原則倒産、原則失敗の時代だ。不安や挫折、とまどい、躊躇、恐怖などがいつも心の中にある。しかし「座して死を待つ」という世界であってはならない。何かアクションを起さないといけない。そこで「動機を与えて意欲を起こさせる」、これが経営者に要求される。

 これを実践するには、何といっても「大義名分」が必要である。これを確立しないとやる気は起こらない。挑戦意欲を沸き立たせるには、社員を鼓舞する大義名分を意識させることである。当該施策の必要性を語り切ることが大切である。

 大義名分は、現場感覚・職場感覚にマッチしたもの。即ち社員の心をとらえ心を打つにたるものでないといけない。さらに美辞麗句ではなく、デジタルであればあるほど効果的だ。

 第2は、想定問答を予め想定しておくこと。予想される質問に対する答えを想定しておくことだ。

 第3は、想定状況を設定すること。即ち予想されるリスクへの対処を想定しておく。危険の大きさ、障害の厳しさは昔以上である。危険を乗り越え障害を克服するには、様々な事態を予め想定したうえで、しかも推進力を維持しながら進む以外にない。それが社長のみならず社員に自信を持たせることにつながる。備えあれば憂い無しの世界をつくる。

 第4に大事なことは、タイムリミットの設定とそれに至るスケジューリング。いついつまでにこれをやり遂げるという進行表だ。

 第5は、責任者を決める。そして、第6は軍資金。これらを踏まえて計画書・提案書をつくるわけだ。

 そして第7は、それを発表するときは、内容がいかに深刻なものであっても「展望あり」という、明るさを演出することを忘れてはならない。それは、現実的可能性のある再建計画でなければならないということである。

 

 

今回より、若手中国人の米留学生による米国所感を連載いたします。

 

第1回 アメリカの政治

~トランプ氏に対抗しうる民主党の有力候補~

 

2016年に世界を騒がせた大統領選挙から早三年、賛否両論で意見の分かれるトランプ大統領は来年の大統領選挙でも共和党の最有力候補として出馬する予定だ。フェイクニュースから移民問題など、数々の爆弾発言や虚言で世の中のお騒がせ者となったトランプ氏だが、驚くことにMoody'sの事前調査ではトランプ氏が大差をつけて民主党に勝利すると予想されている。

 

そんな予想がされる中、民主党にも追い風が見えている。注目なのはやはり2020年のアメリカ大統領選挙で選挙権を持つ人口が、米歴史上最もダイバーシティ(多様性)に富んだ世代であることだ。ピュー・リサーチ・センターによると、全有権者の内、非白人層が歴史上最高となるおよそ3割を占め、1割が1995年以降に産まれた通称ジェネレーションZ世代が占めることとなる。

 

国民の選挙への関心も過去と比べ物にならないほど高くなっている。2014年に行った中間選挙では36.7%の有権者が票を入れたのに比べ、2018年の中間選挙では49.3%もの有権者が投票している。その2018年の中間選挙にて、CNNは投票した有権者を対象に出口調査を行い、18,778人の回答者から大まかな有権者の年齢、性別、人種、住んでいる地域等から投票する傾向を分析している。その調査によると、18-24歳の投票者の68%は民主党を好むようだ。同様に、非白人層の殆どと半数以上の女性投票者も民主党を支持している。そして共和党は例年通り、白人男性の厚い支持を確保している。調査の中にはアンケートも含められており、回答者は具体的なオピニオンに対しYesかNoで答えている。その中で特筆すべき点は「現代のアメリカで白人は優遇されている」というオピニオンに対し、YESと答えた87%の回答者が民主党を支持していることだ。そして例年のように、移民の多い都市部では民主党の支持が厚く、田舎では比較的に共和党を支持している層が厚い。そのどちらにも属せず、支持の変動が激しいサバーブ(市街、郊外)の票をどう獲得するかがカギになりそうだ。

 

民主党の支持が近年増えている最も大きな理由は「トランプに対抗できる」ためであり、民主党自体から厚い支持を得ているスターを輩出した訳ではない。2019年10月末の現時点で、民主党内で最も支持率の高いジョー・バイデン氏のサポーターの多くが「トランプに勝てるから」という理由で彼を支持している。なので現時点ではアメリカの民主党支持者たちは絶対的なリーダーが存在しておらず、これから先も票が激しく流動するだろうと見込める。それを裏付けるように10月23日にCNNから発表された最新の調査では、53%の民主党支持者が支持する候補者を変更することに抵抗はないと答えている。

 

現時点で2020年の民主党代表に選ばれる有力候補は以下の通りだ。

1.ジョー・バイデン(支持率27%)

  ペンシルベニア州生まれの76歳。バイデン氏はオバマ大統領就任時に副大統領として活躍していたことで知られている。オバマ元大統領とは非常に友好な関係を築いていることから黒人層にも厚い人気を得ている。彼は1972年に妻と娘を自動車事故で失ったこともあり、そのことからアメリカのヘルスケアに対して特に関心を持っていると表明している。対立関係にあるトランプ現大統領に対し、バイデン氏は「トランプ氏が8年も就任するとなると、アメリカの本質的なキャラクターを変えてしまうことになるだろう。」と言っている。

2.エリザベス・ウォーレン(支持率23%)

 オクラホマ州生まれの70歳。女性。現在はマサチューセッツを中心にアメリカ北東部で活動しており、ニューヨーク、ボストンといった都市部の所謂リベラル層や女性から厚い支持を得ている。ウォーレン氏はアメリカの「構造から大きな変革」をもたらそうと表明している。具体的には近年インフレしつつある学生ローンの削減、GAFAを始めとする権力を持ちすぎた企業の分割提案、そしてスーパーリッチ層に対する富裕税を設けようとしている。

3.バーニー・サンダース(支持率15%)

  バーモント州出身77歳。今回最も高齢な候補者な上に、10月上旬に心臓発作を起こしたことから体力面でやや心配されていることもある。政治方針としてはユニバーサルヘルスケアを強く支持しており、トランプ現大統領の移民対策に対し、「心のない」行動だと非難しているサンダース氏は移民の親子を引き離す現在のシステム(注)から改善しようと表明している。環境問題に対しても強い意見を持っているサンダース氏は2050年までに自国での化石燃料使用をゼロにすると掲げている。

注:「ゼロ・トレランス(寛容ゼロ)」政策…特に増加しているメキシコとの国境地帯での不法移民の摘発に伴い、2017年10月頃から「逮捕・起訴された親」と「子ども」の隔離が始められ、2018年5月に政策化された。翌6月には国内外からの圧力や強い反発を受け、両親が子どもに「危険」を及ぼさない限り親子を一緒に収容することを定める大統領令が出され、連邦裁判所判事はこの6週間に引き離された子ども推定2700人を親と再会させるよう命じた。しかし、米国自由人権協会(ACLU)は、トランプ政権は交通違反などの軽い罪やネグレクトなどで親を訴え、国境で親子を引き離し続けていると主張している。

 

 

第10回 巨大台風の来襲から思いついた私的な組織論

 

あすか人事コンサルティング
代表 太田 正孝

 

 台風15号と同じようなコースで強烈な19号が襲ってきました。  今度は首都圏、中越、東北など広範囲で川の氾濫による大災害が起こってしまいました。犠牲者のご冥福を祈り、被災者の心と被災地域の回復を願うばかりです。

 

 私は昔シカゴ在住の時に豪雨による洪水の恐怖を味わいました。郊外の社宅でしたので割と広い庭があり、庭を下ると1m下に幅2mほどの小川が流れ普段は気持ちのいい場所でした。ある豪雨の日曜日、小川の水位がジワジワと上がって庭全体が川になっていくので恐怖に襲われました。あと10センチ弱水位が上がれば家の中にどっと浸水するといったところで上昇がとまり、将に「寸止め」でホッとしました。

 古来、怖いものとして「地震、雷、火事、親父=ヤマジ?(台風?)」といわれます。中でもじわじわ迫って来る台風と水害は本当に恐ろしく、私が経験した色んなイベント「パラパラ漫画」のうちの怖い一コマとして記憶に残っています。

 

 今回の大災害もしばらく時間が経つと行政の不手際などが取り沙汰されるかもしれません。特に大きな被害は本州の東半分という広大な地域に亘っているので国レベルの防災・復旧組織のあり方も議論されることでしょう。あとからタラレバ論が出てくるのは仕方ありませんが行政批判一辺倒ではなく事象を科学的に検証して今後の防災体制に反映してもらいたいものです。

 ということもあり今回は「組織」にまつわる話を少々書きたいと思います。

 

 私は人事コンサルとして会社の組織づくりに関ったことがあります。その折り高井先生からうまくいく経営組織についてのご高見を伺った記憶があります。組織と人次第で会社の盛衰が決まるので、まず無駄の少ない組織をつくりメンテし続けるのが前提ですが、現実はそう簡単なことではありません。日々変わりつつある環境に対応するために植物や動物と同様に組織も進化しないと生き残れないのは明白です。「茹でガエル」の例でよく揶揄される日本人ですが、何らかの大きなイベント、事件、事故に見舞われた時こそ進化するビッグチャンスと捉え、覚悟をきめて重い腰をあげ汚名返上していけばいいと思います。

 事件事故など大きな不具合が生じた背景に人事労務問題があるのではないかとされ、組織・人事・労務環境にメスが入る傾向があります。検証の過程でマニュアル内容、手順、人の熟練度、教育問題、労務問題の有無に加えて「ハインリッヒの法則」にある小さな不具合を見過ごしてきた理由が取り上げられます。

 やがて最終的に大きな不具合の原因は組織そのものの欠陥から、に収斂していき、再発防止対策として「左脳」で考えた組織変更がされるケースが多いのです。

 組織に原因ありと結論づけることで当事者や経営幹部の責任が薄まり曖昧になっていく効果があります。前任トップにまで責任が及ぶのを避ける目的もあるようですが。

 しかし、本当に再発防止のための組織変更をするには科学的・客観的・現実対応型に基づいて見直しするのが王道です。そのために集められた大量の情報の中のシグナルとノイズを峻別できる体制をとり原因としては事象の連鎖反応でありその流れを冷徹に解明することが大事です。経験上、組織の問題に収斂させるのは比較的楽なので経営トップが常に留意すべきところです。

 現実には広報のまずい対応などでマスコミ・世論が原因よりもトップ批判に集中しすぎるケースもあります。その場合本来組織編成そのものに潜んでいた大きな欠陥が見過ごされ進化の機会を失うこともあるのでこの事にもまた留意が必要です。

 

 組織について改めて人類の歩みからみてみると、古くは過酷な自然や捕食動物、他民族の侵略に備える目的で親族・同族間で役割分担する形で組織化が始まりました。以来数十万年もの間、一貫して自衛目的のための役割分担を決める組織作りが続き武器の進歩とともに組織も複雑化してきました。

 現在では、のべつ幕なしに戦争、紛争があった歴史を踏まえ先進国間では平穏な社会を維持する仕組みが定着してきていると思いますが、地球規模でみると宗教の違いなどからいまだに深刻なコンフリクト(摩擦)がある状況です。

 世界の政治組織をみると権力集中型の独裁組織や三権分立型の民主組織に大きくは大別されると思いますが、民主組織形態をとりながら実質は独裁者が統治しているなど多様です。

 国連の組織も、部分最適と全体最適の差を調整できず越えられない高い壁があるのが現実です。いまだ超人類(スーパーヒューマニティ)へ進化できない私達は高井先生がよく指摘される「心」の進化すらもできていないようです。お互いに譲りあって平和に過ごすという寛容さだけでも身につけたいと思います。会社組織でも参考にしたいものです。

 

 古い話ですが東西冷戦の末期、1987年の国連総会で当時のレーガン米大統領は「私は地球外のエイリアンが脅威をもたらしてきたら世界のイデオロギーの相違が急速に消滅すると考えている」という趣旨の演説をしました。これは人類共通の強敵が現れない限り世界は一体になれないという指摘でした。国連という組織は約200の国が加盟しているのですが、表面上は加盟国みんなが一票をもつ対等な社会なので全体最適の決議は幻想でしかないようで組織が機能しない実例です。最近いろんなアイデアによる組織論がいわれています。ティール組織とかがその例です。会社がまとう組織に「プレタポルテ」はありませんので、色んな組織論を参考に独自で「オートクチュール」を用意するのが自然です。

 

 「オートクチュール」作りの流れでいうと、まず明確な経営理念に基づいて経営戦略をたて、実行できる組織案を作る流れが始まりです。伝統的な組織の業務分掌、権限表を発展させて組織単位毎に役割と成果責任(アカウンタビリティー)を明確にしておくという方法をとるのがお勧めです。これは欧米の会社では普通に行われているやり方です。

 これにより予定成果の記載漏れや重複の検証がしやすくなり後のメンテにも役立ちます。そしてそれを担えるだろう人を選抜配置する、これが国際化にも適合できる流れです。

 高井先生も言うわれているように、組織はできるだけ階層を少なくシンプルであるべきですが、現実はベテラン層が余るので処遇のためだけの組織を増やすことがよく行われます。背景の一つは整理解雇しにくい日本特有の現象で一概に悪いとも言えないのが悩みでしょう。しかしこれにより組織間で共鳴しやすい「固有周波数」にノイズが混ざり早い意志決定を遅らせている原因の一つです。

 

 来年4月、大企業から順次「同一労働同一賃金」についての法律が施行されますので「同一労働とは何か」が課題になります。これを組織のことをも考える良い機会と捉えて社員のエンゲージメント調査を含め組織の点検・再編成をされるよう願っています。

終わり

 

「明るい高齢者雇用」

第7回 一生で4回は転職―米国 定年に閉塞感なし―

(「週刊 労働新聞」第2153号・1997年5月19日掲載)

 

※当時の掲載文に一部加筆補正をしております。

 前回触れたようにアメリカにも現実には定年制が存在する。しかしその一方年齢差別禁止法も並び立つ。この問題を論ずる上で無視できないのは“企業が定年制度を設けることを禁止する雇用法改正を実現させた(1986年)”全米退職者協会(注:1999年からは正式名称AARP)の存在である。1947年、全米退職教員協会を前身に発足した同協会は、大統領選を含め、議会の公聴会への参加や、議員へのアプローチなど高齢者絡みの政策立案に影響力を持ち、今は会員数3,000万人(注:2018年時点は3,800万人)を超す米国政財界も一目置く巨大組織となっている。会員数拡大の最大の要因は、高齢者でも加入できる健康保険制度を生み出したことにある。アメリカには日本のような公的医療保険制度が整備されていないため、入会希望が殺到した。今でも年会費わずか8ドル(900円から1,000円程度)(注:2018年時点では16ドル[単年払込の場合、5年一括払込なら1年あたり12.5 ドル])で、高齢者向け総合情報誌「モダン・マチュリティ(隔月刊)」を購読でき、協会会員証を持っていれば全米のホテル、レストラン、レンタカーサービスなどで5~10%の割り引きも受けられる。日本ではこのような組織が誕生し機能するようになるだろうか。

 

 Q、定年に閉塞感はありますか。

 A、「定年」に関して余り暗いイメージが無いのは、就職して定年まで1社に勤め続けないのが普通で、一生のうち平均4回は職を、または会社を変わるのが習慣だからだと思います。「辞める」ことは「終わる」のではなく、新しく「出発」することにつながるからです。会社を移るのは、給料その他の条件が良いからです…。「クビ」にせず(実際にはクビなのですが)、「自主的に退職」させるのがこちらの企業のやり方です。なぜならクビになると本当に将来性がなくなり、「終わる」ことになるからです。

 

 アメリカでも(「でも」という表現は適切でないかもしれないが)early retirement(早期退職)制度が一般的に存在することは改めて紹介することとして、雇用が流動化していることが定年に伴う「世間から隔絶されてしまったような自閉的な感情」(藤沢周平「三屋清左衛門残日録」)を緩和するのに役立っているということであろう。

 

 Q、アメリカ人は定年後、「朝寝覚めのベッドの中で、まずその日1日をどう過ごしたらよいのか」考えなければなりませんか?

  A、「定年」とは、年金生活ができるというだけで、アメリカ人は仕事をやめねばならない…という感覚は持ちません。コンサルタントとか、独立事業とか自由業に従事し好きな時に仕事をし、遊びたい時には遊ぶ、という生活を引退生活と心得ています。

   引退して、かえって忙しくなったという人ばかりとも言えるほど、引退してから時間が足りないほどやることは一杯あります。例えば、引退して初めてクラブに入会でき、毎晩社交で忙しいとか、好きな慈善事業の手伝いができたとか、旅行できるとかです。

 

 

 

高井伸夫の社長フォーラム100講座記念~1講1話・語録100選~

【第10回】内部告発をどう抑止するか(1994年5月11日)

 

 企業機密は漏洩してはならない、という形で日本の就業規則は成り立っている。これは忠実義務という世界。内部告発はそれに違反する行為としてとらえられてきた。それが、良心経営の時代に変わることで、不正を糾すという観点から内部告発も認知され始めた。

 内部告発するのは、落伍した者や不平不満の持ち主である一般社員だけではない。管理職や役員にもいる。不遇をかこつあまり、それを自分自身で慰める手段として、即ち報復として内部告発をするわけだ。

 日本の企業は、機密管理になじまない体質がある。それは、情報の共有化が企業活力の源泉になっているから。どうしても情報は拡散する。

 だから、内部告発の抑止は、経営者への信頼、感服の世界を構築する以外にない。言い換えれば、心をひとつにする社長の言動だ。社長自ら勉強する、話を聞く、討論する、共感する瞬間を多く持つ、三手先を読むなど、「あらゆる局面に手が打ってあった」と感服させる力量だ。

 さらに、処遇に不平不満が起こらないように公正を旨とし、恣意性を排除することも大切なことだ。

 内部告発の内容が誹謗中傷のたぐいであれば、徹底的に責任追及しないといけない。大げさに調査を進めることである。犯人探しに血道をあげているフリをしなければいけない。些細なことだとして放置すると、どんどんエスカレートする。「内部告発ぐせ」に陥る。

 企業機密の漏洩防止には、「誓約書」をとること。誓約を結んでも一見、価値がないように思えるが、極めて有効である。何よりも署名捺印したことが心理的に機能する。そして、最初の違反者に手厳しく対処することが現実的な実効性を担保する。誓約書は、まず入社時に出させる。ついで管理職・役員に就任する時に出させる。そして退職時退任時には必ずとる。そのことを退職金・退任慰労金と連動させる。具体的には、誓約書を出さないと退職金を支給しないという規定をつくることである。

 

「AIと私たち」 第12回(最終回)

AI時代の生き方

 

 AIについて個人的に学び始めて4年と少し。この間に世界は着実にAIを発達させ、私たちは多くの恩恵を享受している。3年前は「AIが人の仕事を奪う」という悲観論が多く聞かれたが、今ではAIとの共生を前提とした議論(AIでできること、危険性、対処法、法整備等々)が活発になっている。特に我が国は元々他の先進諸国に比して労働時間が圧倒的に長く生産性の低さが指摘されているところに加え、深刻な少子高齢化による人口減、労働力不足が加速する中、AIの活用による生産性確保は国力維持に欠かせないと言っても過言ではない。世界一の長寿国家ゆえに「日本は世界で最もAIの導入に適している」という声も聞かれたほどなのに、「AI後進国」と揶揄されるようになってしまっている現状を覆すには、相当な時間と改革を要する。

 

■国のなすべきこと

 国レベルでは社会的なコンセンサスを積み上げ、制度設計を進めると同時に、AI教育の地盤を強固なものにしなければならない。2020年度から英語と同時にプログラミング教育が小学校で必修化されることはその一端であろう。プログラミング教育といっても、プログラミング言語を学ぶのではなく、「コンピュータを受け身ではなく、積極的に活用する力」や「プログラミング的思考(論理的思考力)」の習得を目指す。指導者(教師)側が対応できるのかという懸念はあるが、先送りにする時間的猶予はない。

 また、国は人生100年時代も見据えた「リカレント(学び直し)教育」に力を入れ、AI人材を増やしたい意向だが、こちらも我が国はOECD諸国の中で世界最低水準と評されている。国民性や制度の差もあれど、労働時間が長く低賃金傾向にある現在の日本において自主学習できる国民は限られており、「時間がない」、「お金がない」の2点が突出した障害となっている。社員に手当を出して積極的に学び直しを進めたり、教育プログラムを組んで社内で人材を育てたりする企業もあるが、これらは体力のあるごく限られた大企業の話。我が国の全企業数のうち99.7%を占める中小企業の人材を育てるには、国のバックアップが必要である。未来に向けた幼児教育、高等教育の改革は勿論重要であるが、現役世代にも相当額の投資がなされなければならない。

 

■企業のなすべきこと

 ただし、国のバックアップがあったとしても、現役世代が学び直しを果たすためには、各企業内で少なくともヒトに余裕を生む必要がある(カネについては国の援助を活用する道がある。文科省HP参照http://www.mext.go.jp/a_menu/ikusei/manabinaoshi/index.htm)。そのためには生産性の向上が欠かせない。人間よりもAIが優れている分野はどんどん任せ、人間は人間がやるべき仕事だけに集中することで、作業量は減ると同時に作業効率は上がり、確実に余裕が生まれる。

 雇用形態は既に変容しつつあるが、今後、人口減に適応した働き方への移行が否応なく求められる。AI等のIT技術を積極的に取り入れ、リモートワークや週休3日制、フリーランスや副業等、一企業としてではなく、国全体でより生産性が見込める働き方を受け容れ、対応していかねば、企業としての生産性が上がらないことはもちろん、人材離れをも招きかねない。AIが雇用の流動化を後押しし、経済が活性化すれば、結果的に各企業の利益につながる。

 AIの導入にかかる初期費用は技術進歩によって年々下がる一方、導入できる分野や作業は年々増え、同時に、AI導入を手助けする企業やサービスも拡大している。よく分からないからといって蓋をせず、1日でも1時間でも早く着手すること。その分だけ競争に勝ち残る確率は上がる。

 

■個人のなすべきこと

 AIについて意欲を持って向き合っている人が確実に増えていることは、弊所主催のAIセミナーへの参加者傾向からみて明らかである。そして若者は新しいツールを抵抗なく受け容れる。今の子どもたちは1歳でスマホのスワイプ(画面移動)やピンチイン・ピンチアウト(縮小・拡大)を自然に覚えてやってのける。喋る冷蔵庫もお掃除ロボットも自動運転車も当たり前に存在する世界で成長する彼らには、「AI」という区分すらなくなるかもしれない。昔は「AI」だったものが技術進化によって常識になり、「AI」とは呼ばれなくなる、というのは松原仁教授(公立はこだて未来大学教授・人工知能学会 前会長)も述べているところである。

 ただし、現在時点において我が国の人口は中高年齢者層の占める割合が圧倒的に高い。AIを含むITリテラシー(知識・利用能力)が低く、それゆえに恐れ、変化を嫌う層であり、国・企業のトップを占めるのもまたこの層であることがAI改革停滞の一因であることは否めない。この意味で、個人の意識改革が日本のAI時代の大きな鍵を握っているのである。

 

■学ぶことがAIの信頼性を高める

 4年間AIを見つめてきて、5年は当然、10年先を見据えて動かなければ取り残されることをあらためて実感している。短期的にはGAFA(米グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン・ドット・コム)に代表される大手IT企業がその利益を享受しているように見えるかもしれないが、中長期的にはAIの生産性の恩恵は社会全体に行き渡る。この過程において受け身でいては、自身のデータを、ひいては自分自身を都合よく使われるだけになってしまう。個人が学び、納得のうえで情報を使う環境を選び、データ管理の技量を上げる。それは今の自衛はもちろんのこと、高齢化の備えにもつながる。AIについて理解することまでは難しくとも、AIの使い方やデータリテラシー(知識・利用能力)は身に着けられる。人間はAIが使える分野・課題を考え、明らかにしてAIに対応させ、人間の得意分野と棲み分ける。そうした意識がAIの信頼性を高める。

 人生100年時代において生涯学習が叫ばれる昨今、AIを新たな生きがいにしてみても良いのではないだろうか。

 

 まとめ

 ・AI人材育成の鍵は国と企業の相互努力と中高年齢層の意識改革

 ・AIを学ぶことでAIの信頼性を高める

 ・AIを人生100年時代の生きがいとせよ

 

(終/担当 高井・團迫・宇津野)

 

 

第9回 AIにも「ロボット三原則」を

 

あすか人事コンサルティング
代表 太田 正孝 

 

 9月になって過しやすい気候になってきました。地球の自転軸が公転面に対して傾いていたお陰で日本では季節の移ろい、夏から秋へ、を楽しむことができます。

 

 さて、高井先生から与えられたこのコラム「徒然なるままに」も早いもので残り少なくなりましたが、先日の台風15号の直撃を受けた千葉県民の一人でもありますので急遽自然災害についても少し触れてみたいと思います。

 

 千葉県は結構広いので場所により天候が異なります。私のいる千葉市周辺は房総半島部や柏市、印西市など北西部といつも同じではありません。今回の台風は千葉市に上陸したので隣接する私の地域の真ん中を通過していったと思います。

 8日日曜の深夜から明け方は強風で家が揺れつづけ、風雨の打ちつける音のすごさもあって家が崩壊するかという強い恐怖感に襲われました。深夜に突然停電して以降2晩半電気のない暮らしになりました。

 いままでの停電は比較的短時間で終わっていたので台風通過後しばらくして復旧するだろうと楽観的に思っていました。しかしお昼ごろ出かけようとしたところ、道路を塞ぐ大きな倒木や小枝、落ち葉の物凄さにまず驚きました。ラジオで千葉市内の瞬間風速が57メートルと聞いて合点がいき、県内の被害の大きさを予感させられました。

 何から何まで電気に依存していたと実感しながらの2日半熱帯夜に襲われ生活スタイルの脆い面を考えさせられました。「おばあちゃんの知恵」ではないですが昭和時代の省エネ生活の工夫や知恵を思い出しながら過ごすようにしていました。

 あれから相当期間、停電や断水の復旧、応急修理待ちが続いている地域の方々の苦痛やご苦労についての報道が続いています。早期の復旧を願うばかりです。

 

 停電によりデスクトップ型のPCしかない私は情報遮断されましたので改めてPCのない時代を思い起こしてみました。

 コンピューターが職場に入ってきたのは30数年ほど前からだったと思いますが、当時はまだ使い勝手も良くなく机の上には黒電話が存在感をもって鎮座していました。情報伝達の多くは電話や直談、会議での打合せ、一杯やりながらの情報交換などで意志決定をしていました。

 労働条件は高度成長時代の延長もあって年々向上していました。労働力も団塊の世代が参加してきていたので年代別の労働力はピラミッド型でいい具合になっていました。

経営学者アベグレンが「日本的経営三種の神器」として「年功序列制」「終身雇用」「企業別組合」が日本企業成功のキモと指摘し、この言葉が流行した頃です。

 

 日本人の心情に年功序列意識があり、伝統的な先輩後輩関係の維持を尊重する人事賃金制度が一般的だったと考えられます。社会的な作法や言葉づかいにも違和感なく整合し、企業文化として根付いていました。責任感、協調性が大事で、気配り力や集団に貢献することを評価する企業社会だったと思います。人事考課も性格特性や執務態度などのプロセス評価が重視され成果は個人評価としては二の次でしたが年功序列制度と相性が良かったと思います。

 

 一方で個人の職務成果を数値化して評価する狭義の成果主義の評価制度は事前の決め事も多く、上司の負担がかなり増えるとして運用面で拒否反応がでて定着させるのに苦労しました。このような転換は時期尚早だったと思った顧客企業もありました。

 その後20年ほどの間、国際化が進んだ企業では仕事の成果を重視する制度への転換は進みつつあります。高井先生がかねてより「口と筆を酸っぱく」してあちこちで指摘されていたように年功序列の制度は役割を終えつつあります。早く時代に則した制度に替えないと人員選抜・配置、役割配分、期待成果の間で齟齬がでてくるのは明白です。

 

 昨今、日本の労働事情が女性、高齢者、外国人の労働力導入拡大、若手労働力の不足も相まって急激に変化しています。長期展望でも総人口の減少、都市集中化と地方疲弊化の進行など、悲観的な見通しが多くなっています。

 この歴史的な労働環境変化の中、高井先生には持ち前の発信力で政治経済労働界に刺激を与えてくださるよう期待したいと思います。

 

 コンピューター化の話にもどすと、いまでは技術が高度化し、IoT、クラウド、ビッグデータ、AI、5G等々さらにはその集大成として応用面での自動運転などが取り沙汰されています。背景にはハードウェアの進化が著しく、所謂「ムーアの法則」(CPUの性能が18ヶ月で2倍になる・・・インテル創業者のゴードン・ムーアが1965年に示した)で劇的に進歩したデバイスを使った情報技術が人間を知的領域でも凌駕する段階に入りつつあります。

 お台場方面に行く都市交通「ゆりかもめ」など軌道が確保されているところにはすでに無人運転が導入されています。まもなくバス、トラック、電車などにも拡がりそうな勢いで、運転席にはだれもいない乗り物に乗るのが現実になると言われています。

 

 人事労務の領域もビッグデータを活用したAI化が進み大事な採用活動もAIが行うなんていうのも始まっています。近未来、人間が働く職種は何か、など雑誌なんかで取り沙汰されるようになりました。この流れをみるとAIに対応するために人事労務が一層重要分野になることでしょう。一定の成果を上げた後は皮肉にも人事部門自体がAI化されてしまうかもしれませんが。

 

 AIも機械の一種ですから不具合の発生は避けられないでしょう。複雑に発展してきた人間社会でいつも完全に機能すると言えないと思います。例えば都心の複雑な交通インフラのなか運転手のいないバスに平気で乗れる人はどれ位いるでしょうか。AIが人間の感情や倫理的判断を求められる場面で瞬時に最適解を出せるとは思えないのです。倫理的判断をともなう有名な問題「トロッコ問題」ではAIはどうするのでしょうか。AIを設計する人が仮に倫理観をアルゴリズムに取り入れられたとしてもAIが人間の感覚では冷酷ともいえる行動をとる可能性があるからです。これからもAIに不向きな領域が存在しつづけると思いますので、個人的には何でもAIに依存することのないように厳しいルールを整える時期が来ているように思っています。 

 立法、法律は当然ですが人間領域にも精通した高井先生のAIチームで是非議論していただきたいところです。

 

 1964年SF作家アイザック・アシモフが考案した「ロボット(工学)三原則」を思い出します。「人間への安全性、命令への服従、自己防衛」というものです。「ロボットは人間に危害を加えてはならない。また、その危険を看過することによって、人間に危害を及ぼしてはならない、・・・など」この原則はその後のSF小説にとどまらず現実のロボット工学にも影響を与え、今でも有効と思います。AI時代にはこの原則はますます大事なこととして尊重されようを願うばかりです。

終わり

 

「明るい高齢者雇用」

第6回 40年勤めてまだ課長―米国では普通のこと―

(「週刊 労働新聞」第2152号・1997年5月12日掲載)

 

 

 前回に続き遠藤安岐子専務理事とのインタビューをご紹介する。

 Q、アメリカでは職務給が一般的と聞きますが。

 A、完全な職務給体系です。新陳代謝は20歳代からあるといえ、できない者は即座に「クビ」…の国ですから、年齢に関係なく、始終、社員は変わっています。給料に関してですが、給料は年齢に関係なく職種で相場がありますので、その職種から上に行かない限り、または会社を変えない限り給料は上がりません。例えば、60歳の方も23歳の方も、もし職種が「セクション・チーフ=課長」だと、全く同じです。40年勤めてまだ課長か、と言われても本人が良いなら会社は高い給料を払うわけではないので、「これでいい」のです。それに対して誰もおかしいと思いませんから。

 

 日本人を規律する「長幼序あり」という儒教的社会感の下で、実力主義が機能するか、賃金が職能給体系に徹することができるかという根本的問題が高齢者雇用の明るさを大きく左右するであろう。しかし日本の年功序列社会の下では就社意識が横溢し、就職意識はない。明るい高齢者雇用の実現に向け、各自がスペシャリスト、プロフェッショナルになる必要があるとなれば、当然職種を格段に意識することになろうし、またそうでなければ明るい高齢者雇用はないということになる。そこにこそ、明るい高齢者雇用を実現する意識改革の原点の1つがある。

 

 Q、アメリカには定年制がありますか。

 A、定年制はあります。アメリカの企業、官庁、地方自治体その他に関しても、定年は一応65歳ですが、これは65歳から連邦政府のいわゆる厚生年金が100%支給されるからです。62歳で引退した場合、年金は65歳まで80%しかもらえないのですが、それでも早く引退する人もあります。但し、これはあくまでも政府で義務付けられている積立年金だけに頼る人で、一般に政府の年金だけには頼らず、個人で年金積立てをしたり、生命保険積立年金などで退職に備えています。

  軍隊や地方自治体(州政府、都政府、市役所)では、25年間勤めると自然に引退となり、それ以上勤めても年金が上がる訳ではないし、給料も上がらないので、普通45歳くらいで引退し、第2の職に就き、年金プラス給料で人生を送る人が多いです。

  また、マイアミ市の職員の場合ですが、25年間市役所に勤めると、仕事をしても、しなくても、年間6万ドルの年金プラス給料が収入なので、かなり裕福です。

 

 アメリカにも定年制があるのである。そしてアメリカでも定年制と年金制度が大いに絡まっているようである。日本において、それが今後可能かどうか、やはり課題であることをここでも知るのである。

 

 

 

高井伸夫の社長フォーラム100講座記念~1講1話・語録100選~

【第9回】合意の形成~営業力とは「偶然を必然にする力」(1994年3月23日)

 

 経営も営業も、根本は「合意の形成」である。少々のトラブルやクレームで引き下がっては合意の形成にならない。ひたむきに合意の形成に向けて努力することが、結局は合意の形成につながる。

 合意の形成には、まず、相手を自分化すること。相手の価値観をわが社の価値観に置き換えることが合意形成の第一歩だ。相手のためになる商品を開発し、提供しようという姿勢があって、初めて相手の価値観を洗脳できる。

 営業とは偶然と奇跡の連続であるが、最近の営業不振は、偶然性すら少なくなって奇跡が多くなったことにある。

 

 営業力とは偶然を必然にする力、奇跡を平常にする力である。そのための努力を継続しなければならないが、その原点は「創意工夫」しかない。

 創意工夫とは、自分の商品をよく勉強すること、お客様の商売を熟知する(彼を知り己を知りて百戦危うからず)ことだ。

 創意工夫の次には、お客様に好意をもつ、即ちお客様から好かれるのではなくお客様を好きになること。そしてお客様のお役に立つという精神をもつことである。

 

 事業資産は様々あるが、その中に「営業資産」という価値観を組み入れないと、これから企業は生き残れない。そのためにもクレーム対応力は大切になる。

 1つの言葉をきっかけに信頼を勝ち取っていく。そのきっかけとなる意味ある言葉が「不平不満」、「苦情」。それらに解を与える努力から営業資産がつくられていく。それはお客様の気持ちに応えることだからである。

 

 

「AIと私たち」 第11回

AI応用期を迎えて

 

 「AIはすでに学術研究の時期を終え、世の中で応用する活用期に入った」―先日、AI企業への総額23兆円の巨額投資を発表したソフトバンクグループの孫正義会長兼社長の言葉である。日本企業の経営者の多くは先輩がつくったものの焼き直しをしており「真剣さが足りない」との厳しい言葉も並ぶ(日本経済新聞2019年7月28日朝刊2面)。

 

■課題は当事者意識の希薄さ

 当連載でも欧中米に対する日本のAI関連分野の遅れは指摘してきたところであるが、昨今はもはや我が国がAI先進諸国に追いつくことは不可能であり、これ以上差を開けられぬようにする他ない、といった論調が多く見られる。研究職等の専門家だけでなく、国民皆が、特に中小を含む経営者層が当事者意識を持ってAIを理解し、取り組まねばならないことは、各所で繰り返し発信してきたが、個人レベルの理解に留まり、企業や国を挙げた大きな流れを生み出すまでには及ばなかったことは至極残念である。経営者の多くはこの5年程を「AIはなんだかすごいらしい」「AIで何かできるらしい」という段階から動けないままであったように思われる。

 いずれ社会システム全般がAIの支配する機構へと変革する。その中でAIと人事労務の関わりはさらに大きく変質し、労働法もまた大きく変わりゆくだろう。政府は「同一労働同一賃金」の実現に向けてパートタイム労働法(改正後は「パートタイム・有期雇用労働法」)、労働者派遣法を改正し、2020年4月1日からの施行を決めた(中小企業の「パートタイム・有期雇用労働法」の適用は翌2021年4月1日から)が、AIが普及すればこの問題もかなり様相を変えるはずだ。低生産性層や低賃金層とAIとの職務の代替の進み方如何だからである。AIが労働市場や労働力に与える影響は計り知れない。労働市場の分析や新しい雇用指標も必要であろう。

 AIはすでに人間と共存している。その活躍の場は多岐にわたり、生活のありとあらゆる面で人間をサポートしつつある。研究者・開発者等の専門家に委ねるのではなく、個々人が当事者意識を持ってこれを前提としたより良い社会づくりを考えなければならない。

 

■AI利用に潜む危険性を考える

 AIに絡む問題の恐ろしいところは、インターネットやデータと密接に関わることによる操作簡易性、拡散性、その速度・範囲が世界に及ぶという広範囲性と永続性ではないかと思う。

 2018年4月には、AIによって「偽造」された、前アメリカ大統領バラク・オバマ氏が現トランプ大統領を非難する「フェイク動画」が話題になった。大した手間も掛けずに作られた政治的目的、経済的利害関係を持ったフェイク動画が一瞬で世界中に拡散され、「フェイク」であることが見破られない限りごく簡単に世論を動かし、社会的混乱を招く。

 2019年8月に日本で起きた、就活生の「内定辞退率」予測データを販売した「リクナビ問題」では個人情報というデータの取扱いが深刻かつ重大な問題となり、大きな議論を呼んだ。AIと共存し、より生産性の高い新たなサービスを生み出していく中で、その根幹となるデータの利活用の流れは必然である。必然だからこそ、それを皆が受け入れられるような仕組みやルールの整備が欠かせない。本件も諸問題が「適切に」処理されていれば、より精密・迅速な採用活動や雇用のミスマッチ解消、ひいては経済活性化に資するサービスであったと思われる。大企業が当該データを購入したとの報道が後を絶たないのはその証左である。今回の事態は、AIやデータ経済の進展に企業はもちろん、国民も、そして国も追い付いていない実態が露呈したとも受け取れよう。

 

 政府は6月に大阪で開催されたG20サミットにおいて「信頼ある自由なデータ流通(DFFT))」を提唱し、経済産業省がデータ活用事例集の公表準備を進めている(参考:経済産業省によるDFFTコンセプトサイト)。法制度、企業倫理、個人の意識をAI時代に適応させることが急務である。

 

 

 まとめ

 ・個々人がAIとの共存に対する当事者意識を持つこと

 ・AIとの共存における利便性とともに危険性を理解すること

 ・国、企業、個人がそれぞれにAI時代に適応すること

 

(第11回ここまで/担当 高井・團迫・宇津野)

 

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