高井伸夫の社長フォーラム100講座記念~1講1話・語録100選~

【第25回】幹部の降格人事では何らかの選択的提示をすること(1996年2月2日)

 

 降格人事のとき、役員・従業員は、敗北の恐怖心が死の恐怖心を超えることがある。向上心が萎えるとき、向上心が抑圧されたとき、人間である意味を失う。これが自殺に奔る理由の1つとなる。

 それを避ける方法は、何らかの選択肢を提示する「選択的降格」をとること。「君はわが社の社員として不適だから、部長付参事として働くか、子会社の○○として働くか、決めてほしい」と、選択的提示をする。それによって彼は自分で選んだという状況ができる。そこから自分で活路を拓こうとする。選択の余地のないやり方はできるだけ避ける。

 そして「3日以内に君の気持ちを伝えてほしい」と、タイムリミットを決める。形だけでも了承したというプロセスをとらないと、破局的な降格になってしまう。

 降格人事は、つらいけれどもトップが本人に伝達すること。そのときの切り出し方は「残念だが」という言葉で始める。そして最後に温かい言葉の配慮が必要だ。人事部長が行うと、とかくぶっきらぼうになる。

 もうひとつ、トップが話す前に何気なく、さりげなく、前ぶれを出しておくこと。ある日突然はダメ。

 風土刷新が必要な場合は、まず役員に過去の様々な失態について責任追及をする。これが懲戒解任。降格の極致。これが一番難しい。

 「いろいろあったが、君は退任慰労金なしで辞めてもらわざるを得ないが、君が望めば私なりに今後のことはできるだけのことはしたい。私だけでなく会長も君のことを心配している。社長の私に相談するか会長に相談するか、どちらでもいいから、私にこだわらずに君の気持ちで選べばいい」。このように付け加える配慮がないといけない。

 何でもいい、選択の余地を残して救ってくれる人がいる、という世界を構築していく。そして、打ち明けることができる状況づくりも必要だ。カウンセラーや精神科医を顧問にして、匿名でも相談できるようにする方法もある。これが現実的な解決法である。

 

 

第12回  『一流の人は小さな「ご縁」を大切にしている』

 

(前)株式会社かんき出版 社長
コトづくり研究会 代表
境 健一郎

 

 本書は高井伸夫先生が傘寿を迎えられたときに、自分を支えてくれた「縁にまつわる智恵」についてまとめられ、かんき出版から出された書籍です。

 

 「縁」を深く掘り下げ、出会った縁を広げ、深め、そして長く続けていくための心づかいや、そのためのシステム作り、さらには悪い縁を見極めていく方法などについて書かれています。

 

 先生は、自らの体験から、

 「人間には宿命と運命がある。宿命は変えることはできないが、運命を変えることは可能。その運命を変えるものは、縁を活かす力」

 と強調されています。

 

 高井先生にお会いすると、思い出す人がいます。

 

 約40年くらい前にお会いした、東北大学学長退任後、4代目の癌研付属病院院長となり名医といわれた黒川利雄先生です。黒川先生は患者さんに接する前には、必ず白衣のポケットに入れたホッカイロで手を温めてから、微笑みながら頷きながら、脈を計られるのです。

 

 その理由を聞いたところ、次のように答えられました。

 「病院の廊下で順番を待っている患者さんの心理は、ガンに対する恐怖心で不安なはず。そういうときに、冷たい手で患者さんに触れると、それだけで〝ひやっと”される。それをいくらかでも和らげてあげたい。それだけでも心が少し落ち着くはず。そして安心と勇気が与えられればと、願っています」と。

 相手を思いやる心が、多くの患者さんに「黒川先生とつながっている」と安心させ、信頼されていたのでしょう。

 

 相手から相談を受けることを仕事とされている高井先生も同じように、いつも泰然自若たいぜんじじゃくとして、笑顔を大切にされています。

 先生は仏教用語の『和顔施わがんせ』(笑顔を人に施すことで、自他ともに功徳くどくを得ることができる)の教えを自分に言い聞かせているそうです。

 

 そして、お会いした人には、「何かお役に立つことはないか」「誰か紹介できないか」といつも思いをめぐらしながら、会話や会食をされている姿が浮かびます。

 

 

 本書の、ほんの一部を紹介します。

 著者の「小さな縁をも大切にする」考え方や体験を参考にしていただければと思います。

 

 

  • 縁づくりは初対面で決まる

 

 「縁づくりがしやすいのは、お互いが『縁をつくりたい』と意識しているときです。なかでも初対面のときは、絶好のタイミングと言えます。なぜならお互いに、相手のことを知りたいと思う気持ちが非常に強いからです。それだけ『縁の種』を蒔く土壌が整っているのです。

 

 そのために一番大事なのは、会う前に『どんな人かな』とワクワクする気持ちを自ら高めて、笑顔で、つまりマインドセットをして接することです。

 そうすれば自分が発する〝あなたを好きになりたいオーラ”が出て、相手が発する〝あなたのことを好きではありませんオーラ“をうまく消すことも可能です。

 

 このように誰かと縁を結ぶ絶好のタイミングは、初対面のときであること。そして縁が確定するのは、その出会いが二度目へとつながったときであることを覚えておいてください」

 

 

  • 「縁に気づく感性」を高める

 

 「徳川将軍家の剣術指南役に留まらず、幕閣として大きな影響力を持っていた柳生家に次のような家訓があると言われています。

 

 『小才は縁に出合って縁に気づかず、

  中才は縁に出合って縁を活かさず、

  大才はそでり合う縁をも活かす』

 

 あなたは、どれに当てはまると思いますか?

 そこで、縁に気づく感性を高めるポイントをあげます。

 

ポイント① 感謝グセを身につける

人間は一人では生きられません。さまざまな人やモノに助けられて、この世に生かされています。そのことに感謝する気持ちがあれば、自ずと『縁に気づく感性』が磨かれます。縁という偶然を必然に変えるには、感謝の気持ちが欠かせません。

 

ポイント②  好奇心をもって行動する

『知りたい』『やってみたい』ことが増えれば増えるほど、情報アンテナの感度が鋭敏になります。情報・知識というものは、好奇心のある人のところに集まってくるもの。それによって、縁を自然と引き寄せることができ、自分自身の人間としての幅が大きくなっていきます。

 

ポイント③ 自分自身の強みや魅力をよく知る

せっかく縁ができても、相手に『また会いたいな』と思ってもらえる何かがないと、付き合いを積み重ねていくことができません。どんな小さなことでもいい。今までに周囲から褒められたり、感謝されたりしたことを思い出してみてください。その褒め言葉はそのまま自分の強みであり、魅力なのです。自信をもってアピールしましょう。

 

ポイント④ 相手を知る

『相手が何に関心を持っているのか』『何を認めてもらうと嬉しいのか』を知ったうえで、自分は相手に何を提供できるのか、どうすれば喜んでもらえるのかを考える必要があります。老子の言葉に『人を知るものは智なり、自ら知るものは明なり』があり、縁につながる言葉です。

他人のことを理解できる人は智恵の優れた人だけれど、それ以上に素晴らしいのは、自分自身のことをよく知っている人である、という意味。ポイント③と④をセットでとらえてください。

 

ポイント⑤ 自然をよく観察する

人間は自然の一部です。縁もまた作為的ではなく、自然に、偶発的に生じるもの。ですから自然との関わり合いのなかで、その変化をしっかり観察していると、ひょいと顔を出す縁に気づけるようになります。たとえば強風で大きな木がポキッと折れるのに、竹はしなやかに持ちこたえる。その観察のなかで、「本当の強さ」を感じたら、「無言の教え」との出会いになります。これは日本人の得意なことです。誰かと会ったり、手紙を出したりするとき、時候の挨拶から入ることが多い。自然を観察して、コミュニケーションに活かす術が身についているのです」

 

 

  • 「会えて良かった」と思ってもらう3つの力

 

 「1つ目は、相手にとって参考になる意見や考え方を述べる力。

 相手が興味を持ってくれそうな話をする。そのためには、できれば相手のことを事前にできるだけ調べておきたいもの。 

 

 2つ目は、相手がしてほしいことを察する力。

                                        

 相手が困っていることなどを上手にすくいあげて、何らかの力になること。自分の力でできることがあれば提案してみる。もし自分が直接力になれない場合でも、『その件なら、力になれそうな人を知っています』という形で、誰かを紹介する方法があります。

 

 3つ目は、相手と交わした会話について、お互いが今後どう行動していくか、その見通しを明確に伝える力。

 ここをうやむや・・・・にしたまま終わると、相手に『会えて良かった』と思ってもらえません。そのときの会話を受けて、自分はいつごろ、どのように行動するのか、具体的に示す必要があります。

 

 とくに気をつけなくてはいけないのは、『今度』というあいまいな言葉。『今度』は当てにできないと思われるだけ。いつ行動するかを明確にしておくだけで、あなたへの信頼度は違ってきます」

 

 

  • 「淡交」が「縁」をつなぐ

 

 「縁に恵まれている人と、縁に薄い人との違いは、人に関する関心の度合いだと言えます。

 ただし、関心が強ければ強いほどいい、というわけではありません。しかも、自分の利益のために利用しようという下心があれば、なおさら人は離れていきます。

 

 何事もそうですが、人に対する関心も『ほどほど』が良いのです。

 その程度を抑えるために重要なのが、『淡』の精神を持つことです。

 

 荘子そうじはこう言っています。

 『君子くんしまじわりあわくして水のごとく、小人しょうにんの交わりは甘きことれいの若し』

―優れた人の付き合いは水のように淡白なので、交際が長続きする。小人物の付き合いは甘酒のようにベタベタしていて、利害関係がなくなると、やがて途絶えてしまう。

 

 良い縁をつないでいくための基本は『淡交』。

 いちばん大事なのは、相手に対して『爽やかで、ひとかどの人物である』という印象を持ってもらうことなのです」

 

 

  • 「縁」の修復には、「陰褒め」が効く

 

 「縁というものは、ちょっとしたことで簡単に切れてしまうもの。交流を続けたいなら、修復に努めなければなりません。いちばんいいのは、『陰褒め』という手法です。

 

 文字通り、本人に直接ではなく、本人と親しい人に間接的に褒め言葉を言うのです。自分への褒め言葉が第三者から伝わると、その信憑性がより高まります。単なるお世辞や社交辞令ではなく、本心から自分を褒めてくれたと感じるのです。

 

 しかも褒め言葉には、『相手にも、褒め言葉のお返しをしようという気持ちを起こさせる』という性質があります。こうして〝褒め言葉の連鎖“が起こると、二人の関係は間違いなく修復されます」

 

 

  • 相手の立場で態度を変えない

 

 「相手が自分より年下だとか、地位が低い、能力が劣る、弱い立場にある、とわかると、たちまち見下すように横柄にふるまう人が少なくありません。

 相手がどういう人物であれ、人と接するときは、礼節を尽くすという軸を持つことを心してください。

 

 そのために私が日頃心がけているのは、できるだけ『命令形で話さない』ということです。

 『私はこう思うけど、どうですか?』『こう考えてはどうでしょうか』というふうに、問いかけの形で発言するのが一番です。

 

 相手に自分で決めたように思ってもらう言い方をすれば、成果が上がってくるのです」

 

 

  • 「縁」を大切にする人は、お墓参りを欠かさない

 

 「あなたは親族や友人、知人のお墓参りをしていますか?

 この世で交流した人との縁は、亡くなっても、輪廻りんね転生てんしょう、生まれ変わって、また来世で出会いたい。縁というものは時空を超えて続くもので、どちらかの死をもって切れるわけではないと思っています。

 

 お墓参りをする人たちは、『いまは亡き先祖や肉親たち、または特にお世話になった先輩たちに、恥をかかせたくない』という気持ちが強いので、正しく生きようと努めている人が多いように思えます。

 だから、私はお墓参りを大切にする人を信じます」

 

 

  • 「縁」は回すと、どんどん大きくなる

 

 「『縁の総量』というものを意識したことがあるでしょうか。

 

 福沢諭吉は『学問のすゝめ』のなかで、こんなことを言っています。

 『人と交わらんとするにはただに旧友を忘れざるのみならず、兼ねてまた親友を求めざるべからず』

―古くからの親友を大事にしながらも、新しい友を求めなさい―というのです。   

 

 縁というのはお金と同じで天下の周りもの。貯め込んでいるより、どんどん使った方が世の中に回っていきます。ですから、せっかくの縁を自分一人でため込んではダメ。ほかの人にも〝縁のお裾分すそわけ”をしながら、縁の総量をどんどん増やして、ぐるぐると回していくと、ダイナミックな縁のネットワークをつくることができるのです」

 

 

  • 頂いた名刺を活かす管理法

 

 「名刺は縁の証です。それなのに名刺をおろそかに扱っている人が多いような気がします。

 

 私は名刺の管理を月2回くらいのペースでします。その間にいただいた名刺をボックスから取り出し、名刺交換時に記入しておいた『お会いした年月日』『個人名』『会社名』『所在地』の4つをデータ化します。名刺の裏に書かれている情報(紹介者、同伴者、お会いした場所)があればそれも一緒に保存。

 

 その後、名刺を『引き続き交流を続けたい人』と『もう接触する機会がほとんどない人』と、2つに分けます。

 その2種類に分ける観点は、『自分自身の人格形成や仕事にプラスになるかどうか』ということです。人格的に優れているとか、豊富な知識や経験・情報、幅広い人脈を持っているなど、自分を刺激してくれるものをお持ちの方ならいいのです。

 

 そうして親しくなりたいと思った人には、今後も交流を続けていけるように、積極的に働きかけます。たとえば『事務所報』を送ったり、メールマガジンを発信したり、講演会にお招きしたり……。一度の出会いを継続する縁につなげる方途ほうとさぐることに余念がありません。

 

 ほとんど覚えていることですが、『この人は誰のご縁で知り合ったのかなぁ』と気になったときは、まず『個人名』から検索します。名刺交換した年月から、スケジュール表をたどって、紹介者や同伴者、出会った場所などがわかることが多いのです。そのとき改めて当時の状況や、紹介してくれた人の顔を思い出して感謝します。

 

 また地方へ出張する場合、その地域で縁のある人の名簿を見ながら、『せっかくだから、ついでに久しぶりにお会いしに行こう』と欲張りな計画を調整して〝ついで訪問“することもあります。

 

 いずれにせよ、名刺はきちんと管理し、記憶しておいてこそ、縁をつないで人脈を形成していくうえで意味のあるツールになるのです」

 

「明るい高齢者雇用」

第21回 雇用阻害要因:排除の論理が先行―低い大企業の意識― 

(「週刊 労働新聞」第2167号・1997年9月1日掲載)

 

 高齢者雇用において企業の姿勢にある障害とは、(イ)社会的責任論が通らない、即ち企業エゴが蔓延していることが根本である。高齢者を雇用することには、総論は賛成だが、各論になると競争力を減退させるとして「わが社はそれを回避せざるを得ない」と言って反対する。企業にそれを強く勧めれば、法律による強制を求める。すなわち全ての企業が同時に同一の舞台に上がらなければならない。わが社だけ先行実施することになれば、競争上不利益を蒙ることになる。この様なことを罰則もないのに採り入れるなど経営の任にあるものとしては到底考えられないという。だから、あえて言えば、罰則のない状況では、高齢者雇用問題には企業としてはメスを入れられないということになる。

(ロ)また、企業はリストラを進めている、すなわちスリム化を進めているが、大企業においては、高齢者を排除する論理が先行し切っている。つまり高齢者を“育成”“活用する”という意識を全く欠くのである。若年者のみで企業を構成することが、すなわち活性化であるという信仰すら抱いているといってよい。

“生産性は一人当たりで”という論理を進めるのみで、“高齢者を低賃金で雇用して”という人件費効率の考え方が稀薄である。高齢者については、在職老齢年金・雇用継続給付・社会保険料・源泉所得税を総合的に考えなければ、人件費の生産性は出てこない。

仮に60歳到達時の賃金額が月額50万円の人を定年後月額45万円で再雇用すれば、社会保険料などの負担を入れて考えれば、実質会社負担は年に614万円で本人の取得年額は446万円となる。企業負担は本人の能力・退職を考えれば614万円は厳しいかもしれないが、それでは本人の賃金を月額28万円にした時の社会保険料等を入れた実質会社負担額は382万円となり、これなら何とか負担できるということになるのかも知れない。この時の在職老齢年金・雇用継続給付を含めた本人の取得額年額は448万円となり、月額50万円の時の手取り446万円を上回るのである。

以上の試算は社会保険労務士白沢辰夫氏(ビジネスガイド445号[1995/10/10 )によるものであるが、効果的に国の制度を活用すれば、企業負担も少なく、従って人件費生産性を上げながらかつ本人手取り額も相当額を確保し得る途があることを示している。

(ハ)さらに、高齢者についての人事管理が手抜きの状態にあるといって良い。高齢者雇用は中小企業にも、多くが期待されるが、そこでは現実問題として、細かい処遇管理のノウハウを得ようとしない。即ち企業ニーズと高齢者ニーズのマッチングを行って処遇管理を行うという柔軟な発想で、複数処遇のメニューを用意して高齢者を雇用し管理していくという発想が稀薄である

複数処遇のメニューの例としてはA 社員同様、B 28時間/週、C 22時間/週――の3タイプや、フルタイム、パートタイムの2形態制あるいは半日、隔日、フル3形態など色々工夫されて来ているが、まだまだ一般化する状況にない。

 

高井伸夫の社長フォーラム100講座記念~1講1話・語録100選~

【第24回】仕事は喜びであることを教えよ(1995年11月22日)

 

 私は30年ほど前に、労働組合との対応において、「従業員に対して仕事は喜びであることを教育していかなければならない」と主張した。これは私のセミナーの基調のひとつである。

 人間であることの証明は、まさに足腰を動かすこと、手を動かすこと、口先を動かすこと、頭を働かせること、つまり労働することにこそある。このように人間にとって根源的な労働が苦痛であるはずがない。言い換えれば、労働することは人間であることの証明である。

 その労働が苦痛であるとされる所以は、それが義務であること、拘束されているものであるが故だ。

 だから労務管理の基本は、統一した労働、組織ある労働、目標ある労働を、いかに義務感や拘束感を排除して実現するかにあり、その具体的実践に努力しつづけることにある。

 農業であれ、製造業であれ、商業サービス業であれ、みんな同じ。そしてソフト化が進行する。頭脳労働の時代になればなおさらである。

 「走れ」と強制すれば人は走るだろう。走れないとは言えない。しかし頭の方は強制されても「頭がまわらない」と言える。つまり、思いつかない、アイデアが浮かばない、と言える。労働が喜びであることを味合わせるシステムでないと、頭脳労働、「思う」、「考える」、「感じる」機能は発揮されない。ソフト企業は成果を挙げることができない。

 

 

第11回 『労務も知らずに上司といえるか』
雇用崩壊時代に生き抜く

 

(前)株式会社かんき出版 社長
コトづくり研究会 代表
境 健一郎

 

 高井伸夫先生がかんき出版から、表題の『労務も知らずに上司といえるか』を出版されたのは、2009年3月のことです。

 

 その前年、2008年前半までのビジネス社会の課題は、高齢化、少子化、グローバル化などの転換期に、どう対応するかでした。しかし、その効果的な解決策が定まる前に、アメリカのサブプライムローン問題に端を発したリーマンショックと、それに連鎖した世界的な金融不況が始まったのです。

 

 日本も2008年後半から瞬く間に、百年に一度とも言われる世界同時大不況に巻き込まれました。第2次世界恐慌とも言われたものです。

 

 

 ちなみに、恐慌(パニック)とは、経済用語ではなく、本来は心理学用語です。猛烈な不況の中で、社会全体がいいようのない不安や閉塞状態に陥り、先の見えない恐怖と戦う心理状態に追い込まれてしまったことをいいます。

 

 多くの企業が、このような先行き不透明な経営環境の変化や売上不振に耐えきれず、リストラやワークシェアリングなどによって、人件費削減や雇用調整を余儀なくされていました。

 

 このころに本書が出版されたのです。

 

 2009年に出版された書籍であり、現在は法改正により変更されている法律や指針もありますが、コロナ禍で、倒産、閉鎖、縮小などの危機を迎えた現在でも、参考にしたいことが多い内容です。

 

 そのコロナ禍のなかで、リモートワークやテレワークなどを体験したことにより、新しい雇用・勤務形態やビジネス、働き方、生き方が生まれつつあります。

 どのような時代になっても、個人も、企業も、生き抜く原則が、「高井哲学」として本書に書かれております。

 

 

 本書の「はじめに」の一部に、先生は次のように書かれています。

 その後に、本書より「高井語録」をいくつか集めました。

 

 

 ……このような雇用崩壊、雇用変革ともいえる時代を迎え、この荒波を乗り越え、生き残っていくための新たな課題・・・・・として、本書で特にわたしが強調したいのは、次の点です。

 

 ① 性別、年齢、学歴、雇用形態、国籍による差別をなくし、多様化を活かした組織をつくる。そのために、上司は過去の成功体験に頼らず、自らも成長を続け、部下にも正面から向き合って、よさ・強さをもった人材に成長させる。部下も「自ら正しく成長しよう」という意欲を大いにもつ。

 ② 誠実で成果を出す社員や、非正規社員といえども、専門分野・得意分野を磨いた人が尊ばれる組織や風土をつくるために、“含み損社員”に対し、的確な対応をする。

 ③ コンプライアンスの本来の意味である「社会の要求に応える」ために、「倫理的に、法律的に問題はないか」という社会を洞察する力と、社員をはじめとしたステークホルダーへの愛や慈しみいつくしみの人柄が求められる。

 ④ 今後ますます増えることが予想される部下のメンタルヘルスの問題に、適切な予防と対応をしておく。

 ⑤ リストラとスカウトなどにより、社員の流動化が加速する。それにともない、知的財産、個人情報を守ると同時に、社員や企業の不祥事やトラブルが発生した場合のリスクマネジメントを徹底する。

 

 これらはすべて人事・労務に通じる基本的な課題です。つまり、

 

 「労務を知らずして、上司とはいえない」

 

 という時代になったのです。

 

 私はこれまで、いくつかの企業の再建をお手伝いしてきて、あらためて感じることがあります。

 経営が危なくなったのが、外的要因であっても内的要因であっても、逆境やピンチを乗り切るカギは、「企業は人なり」です。

 

 その根幹となるのが労務です。

 労務とは、「上司と部下とのいい関係」を育むはぐくみ約束事です。

                                       (「はじめに」より)

 

 

  • 雇用崩壊時代のリストラとワークシェアリング

 

◎大恐慌下ではいかなるポストの正社員といえども、
 含み損社員であればリストラの対象とされ、
 解雇される運命にある。

 2008年12月9日付の「朝日新聞」は、アメリカの自動車メーカー「ビック3」のリストラを論じた記事で、「企業が公的資金導入による救済を求めるにあたっては、企業自身も利益の確保のために人件費を削減する義務がある」と論じています。

 このように、恐慌下においては、企業の社会的責任の一端として、リストラする「権利」ではなく、「義務」があるという概念が登場したのです。

 

◎標準化が難しく創意工夫が求められる
 「ハートワーク」の時代には、ワークシェアリングなど
 仕事を分かち合うこと自体が難しい。

 現場の実態をよく知る経営者は、次のように言います。

 「仕事を分け合うことで生産性は落ちるし、また、景気が回復し増産体制に入ろうとしても、一度、〝分かち合い“で力の出し惜しみが恒常化して心身を完全になまらせてしまうと、労働能力は容易には元に戻らず、その結果、企業は立ち行かなくなる」と。

 実際に以前、ベンツはリストラを実施して立ち直り、フォルクスワーゲンはワークシェアリングを選択して失敗したと言われています。

 

 

  • 強い組織をつくる人材マネジメント

 

◎従業員を一律に成長させるシステムは、もはや機能しない。
 今後は能力ある人材を厳選し、選ばれた者に、
 よりいっそう育成・投資を集中する必要がある。

 この人材育成による「選択と集中」を推進するにあたって、もっとも大切なことは、すべての部署で、まず「後継者を育てる」という認識・意識です。企業人、経営者、管理職者にとって最大の課題は、「教育的役割」「後継者育成」である—各リーダーにそう意識させることが、トップおよび上司の責務です。

 

◎能力の優れた社員が増えるにつれ、
 社員の関係はギスギスしていくが、そうなると
 管理職には、より高度なマネジメント能力が求められる。

 これからの管理職は、マネジメント能力、さらにはリーダーシップがあるかどうかによって、部下をもつ「ライン管理職」と、部下をもっていないが、職場の方向性を策定する戦略部隊として機能する「スタッフ管理職」に二極化していく。

 

◎従業員の副業を認める基盤を早急に整える
 必要があるが、副業を認めるにあたっては
 一定の条件を設定しなければならない。

 副業はこれまで原則として禁止されてきましたが、生活のためにダブルインカムを容認する方向に向かうのは必然といえます。ただし、認めるにあたっては就業規則の見直しから着手し、一定の条件を設定しなければなりません。たとえば、「同業他社での勤務は禁じる」「本業に支障をきたさない範囲に限る」などです。

 

 

  • 問題社員・含み損社員などへの対応

 

◎態度には、本人の本気度、やる気、
 モチベーションがはっきりと出るため、
 「態度」の評価をもっと重視すべきである。

 態度は、たんなる勤務態度にとどまりません。人事考課上は、本人の意識や自覚の高さを含む総合的な「執務態度」を意味します。具体的には、「組織の目的と戦略を理解しているか」、「上司が要望していることの意味を理解しているか」、そして「それを自分の日常に落とし込んで行動しているか」などに加え、報告、連絡、相談といった協働的態度のきめ細かさも要求されます。

 

◎人事考課などの資料と客観的合理性があれば、
 賃金の引き下げ措置は、
 法的に可能なことである。

 賃金をダウンせざるをえない社員に対して、人事労務コンプライアンスに則った降給を実施するには、まずは、就業規則に降給規定を設けることです。日本の就業規定には、「年一回昇給する」という規定があるばかりで、降給規定を置いている企業はあまりありません。そして、実際に降給規定を適用し、賃金ダウンを実施するには、人事考課の結果や評価、加えて、客観的合理性、すなわち社会的な妥当性が必要です。

 

◎労基法に「合理的な理由があれば解雇できる」
 という趣旨が盛り込まれたのは、
 企業が終身雇用を維持できなくなったからだ。

 たとえ景気が回復しても、革新を続けない企業に寿命があるように、成長しようという意欲のない個人にも〝賞味期限”があります。とくに成果が挙げられない社員や月給制もしくは年俸制の社員でも、〝賞味期限”が切れた人などを総称して〝含み損社員“といいます。このような人をやむを得ず解雇せざるを得ないところまで企業経営はきているのです。

 

 

  • 部下をもつ人の人事労務コンプライアンス

                                   

◎従業員の能力を常に把握し、時機に応じて
 給与に反映させる賃金制度が必要不可欠。
 定年延長問題は成果主義を促進する側面を持っている。
 (この項は2章より引用しています)

 能力評価を給与に反映させるのであれば、従業員が若いうちから、そうした制度を実施しておく必要があります。みんながみんな、能力があるわけではありません。もともと能力の低い人もいれば、能力はあっても人材としての〝賞味期限”が切れてしまった人もいます。成果主義が強まれば強まるほど、能力以外のことによる差別を禁止するという平等主義が強まり、あらゆる差別は撤廃に向かうはずです。年齢の問題もそうなるでしょう。

 

◎労働の質がソフト産業化すると、
 単純労働者と知的労働者の乖離がますます進み、
 労働時間による賃金決定が不合理なものになっていく。

 今日、労務の提供とは仕事の完成を意味することになりつつあり、労働時間をもって、その対価を計算することは不適切であるという意識が広まりつつあります。これにともない、新たに成果主義賃金体系にもとづく報酬のあり方を、法的に整備することが必要になってきました。その一方で、評価を厳格にし、昇給・降給と昇格・降格の規定とともに厳正に運用する手立てを確立することも重要です。

 

 

  • 部下のメンタルヘルスを意識する

 

◎健康管理は自己管理・自己責任が原点。
 自己保健義務の観点から、企業側も、
 従業員にその意識をうながすような施策を実行すべき。

 下記のような自己保険義務を規定した就業規則を明示している企業は、極めて少ないのが現状です。労災問題が起こると、真っ先に企業の安全配慮義務が問われますが、自分の心身は自分で守るのが原則です。

 「従業員は、自らの責任において健康保持に努めることとする」

 「健康診断の受診義務、必要な場合の再検査の受診義務」

 「従業員は、体調不良時には、職務に優先して、原則として会社が指定する診察機関などで受診する権利および義務を有する」

 

◎労災問題のなかで、もっとも重要かつ深刻なのは、
 メンタルヘルスの問題。上司の選定、職場環境の改善など、
 企業の積極的対応が不可欠。

 人事面では、上司には包容力や人間理解力が求められます。また、上司や管理職を中心に産業医や専門医らとのネットワークを確立するなど、精神障害に対応する体制づくりを考え、精神的健康管理に関する就業規則の整備にも力を入れる必要があります。

 また職場面では職場の温度、空気の清浄度などにも注意し、人間的な温かみがあり、ストレスを蓄積しにくい環境に改善しなければなりません。

 以上のような条件を備えていないと、勤労意欲が阻害され、生産性が減退することになります。これは、たんに従業員の問題にとどまらず、企業の病理現象ともなってくるため、職場環境の改善は、労務管理の重要な課題の一つといえます。

 

◎過労死対策としては、個人の耐性を見て、
 耐えられる人には重要なポストに、
 耐えられない人にはそれに応じたポストについてもらう。

 過労死の問題がクローズアップされたのは、長時間労働の問題だけでなく、ソフト化社会で競争が激化したことにより、頭と心を使うようになったこともその一因であると考えられます。要するに、精神的疲労によるストレスが過労死の主な原因になっているといっても過言ではありません。

 

◎パワハラに過剰反応すると、
 本来の指揮命令が不十分になる恐れがある。
 パワハラとの境界線を理解しておく。

 境界線の判断の基本的なポイントは、上司の指導、注意、叱責などの行為が、「職務と関係のあるものか」「業務上必要なものか」という点にあります。ただし、業務上必要であっても、その行為が、「一般的に必要とされる範囲を逸脱していない」ことに留意し、また人格を否定するような発言は厳に慎まなければなりません。

 

 

  • 知的財産の防衛とリスクマネジメント

 

◎管理責任者は、自社の企業機密・知的財産権を
 管理するだけでなく、他社から借りたり、購入したりしたものの
 管理にも気を配ること。

 その管理を明確にするための原理・原則を明文化しておきます。

 「企業機密・知的財産権の管理責任者を役職として設置する」

 「企業機密などの規定」

 「アクセスできる者の制限」

 「不要になった文書などの破棄」

 「企業機密・知的財産権の創出・評価の規定」

 役員や従業員が業務の過程で企業機密・知的財産権に該当する情報を新たに創出した場合には、その内容を管理責任者に遅滞なく申告し、または事前に報告し、了承を得なければならないという規定をつくっておくことです。

 

◎情報・知識・知恵を集約したものを共有できる
 システムを構築し、組織のフラット化を実現してこそ、
 企業の組織的活動は活力あるものになる。

 知的財産が高い評価を得る時代になると、次のことが重視されます。

 ①事実・データや数多くの情報から抽出された意味ある情報としての「知識」

 ②知識から生み出される付加価値としての「知恵」

 ③問題を迅速に解決する「知的価値」

 昨今、上司や同僚に、こうした情報や知識を開示しないケースが増えています。
 一方、優秀な頭脳を有する人の転職や引き抜きが繰り返されることによって、人材の流動化が生じています。だからこそ、知識や情報などの共有化とナレッジマネジメント、守秘義務の必要性を考える必要があるのです。

 

◎労働関係においては、企業機密の概念は
 まだ確定していない。各企業で営業秘密の範囲を
 意識的に明確にしておく必要がある。

 企業側は、営業秘密の保全を機能させるためには、契約で縛ることが不可欠です。それにより拘束力を生じさせ、損害賠償請求を可能にするというかたちで秘密保全を構築することが求められます。しかも、それに違背した者は、一律に厳しく制裁することを考えておく必要があるのです。

 

次回は12月25日(金)に掲載します。

 

「明るい高齢者雇用」

第20回 雇用阻害要因:各論大反対の荒波―組合エゴもひびく― 

(「週刊 労働新聞」第2166号・1997年8月25日掲載)

 

 東京都高齢者雇用開発協会は、高齢者問題の推進のため、企業への相談、指導援助、助成金の支給業務などで東京都をカバーする公的機関である。現在、事務局長以下職員23人、企業訪問などを行う高年齢者雇用アドバイザー33人の陣容。「時は今、継続雇用の65歳」というのが協会のキャッチフレーズであるが、これに向けて、総論は理解・賛成、各論大反対の荒海に漕ぎ出し、悪戦苦闘中である。

 その事情をお聞かせ頂いた末廣毅氏は、東京大学法学部を卒業後、三井鉱山(株)に就職。総務部で得た経験を生かし、昭和39年に入社した三井物産(株)では人事、企画業務に注力し、昭和55年より三井海洋開発(株)に出向した。昭和62年には同社常務取締役総務人事部長を務め、同時に三井物産(株)関連事業部部長職を兼任。昭和63年(株)エニー代表取締役社長に就任。平成4年に三井物産(株)を退職後は人事労務面での相談役として各方面で活躍している。公職として、東京都地方労働委員会使用者側委員をはじめ様々な団体において労働問題の委員、役員を歴任し、平成4年6月より東京都高年齢者雇用開発協会雇用アドバイザーとして労働者の雇用開発問題に尽力され、その企業訪問数は既に数百件を数えるに至っている。

 「しかし、その活動の成果の程は、と問われれば、いまだである。リストラの嵐の中で隔靴掻痒の感がある」と末廣氏は語る。以下はアドバイザーとして企業の高年齢者雇用に取り組む末廣氏にお話し頂いたものである。

 「訪問される側にしても、招かざる客なので、空いた時間はなかなか見つからず、また上層部はいつも忙しい。折角、ようようにして時間を割いて話を聞いてもらっても、前半は和気藹々、理解し合って意気投合、されど後半は、わが社のみはリストラの最中で高齢者まで手がまわりかねる云々、丁丁発止とすれ違いの議論となってしまう。話を聞かせて頂き、聞いて頂けたのが望外の幸せと謝辞を述べ、再度来訪の決意を秘めて退出するのが大方のパターンである。

 なかには干天の慈雨、地獄に仏の如き理解力のある優れた経営者の方にお会いでき、問題解決に向け大きな前進をみることがあり、感激し苦労が一挙に氷解する思いのすることもあるが、まだまだ事例としては少ない方で、前途遼遠の感がある。

 しかし、それでも、使命感を奮い起こし、排除先行の各論打破には、地道な説得の努力継続以外には途はないものと思い定めている昨今である。

 高齢者の継続雇用を阻むものとしては様々な要因があるが、敢えて言えば、①企業の姿勢、②労働組合・社員全体のエゴ、③高齢者自身に関わる問題、④世論の面から、といったものがある。さらには、行政サイドの問題もある」。

 「総論は理解・賛成、各論大反対」というのが、まさに高齢者雇用を巡る的を射た指摘であろう。末廣氏は高齢者の継続雇用を阻む要因として4つの観点を提示されているが、次回からは、上記それぞれの問題点について、末廣氏から伺った内容を基に検討していくこととしたい。

 

高井伸夫の社長フォーラム100講座記念~1講1話・語録100選~

【第23回】ゴールドカラーが3人いたら企業は戦い抜ける(1995年10月18日)

 

 私は今まで、ホワイトカラーはグレーカラー化する、ブルーカラーはパート化すると言ってきた。そして、ホワイトカラーの上にゴールドカラーが出現する。

 これから生き残るためには、この人材の確保がまさに必要だ。100人凡人がいても仕方がない。原則倒産の時代に100人の凡人集団で乗り切れるわけがない。ゴールドカラーが3人いたら企業は戦い抜ける。

 もちろんグレーカラーもそれぞれ自律的な行動をするけれども、突出した人材がいなければ混迷から抜け出すことは不可能だ。

 これからは、引き抜きを念頭において経営しなければならない。「引き抜く」ことと「引き抜かれる」ことの2つのテーマだ。引き抜かれるような人材(ゴールドカラー)を育成し、それが引き抜かれないようにする。リテンション対応だ。これが経営の大きなテーマ。

 抜擢・引き抜きの反対で、落ちこぼれ社員にどう対処するかも課題となる。落ちこぼれ社員を抱えると不活性の要因となり、発展を阻害するからだ。

 アメリカではアウトプレースメントといって、余剰人員を積極的に消去する転職促進策が進められている。

 これからは、ホワイトカラーのグレーカラー化が進み、ブルーカラーとホワイトカラーの中間の賃金しかもらえないグレーカラーが急速に増える。簡単に言えば、社員の身分化が進むことだ。選ばれた職分ゴールドカラー、中堅のグレーカラー、そしてパートタイマー。従業員の構成も賃金構成も、この3つとなる時代がやってくるだろう。

 

 

第10回 『高井式 一生使える勉強法』(2)
成長モードにスイッチする

 

(前)株式会社かんき出版 社長
コトづくり研究会 代表
境 健一郎

 

 20年ほど前に、諏訪泰雄氏(前中央労働委員会会長・法政大学名誉教授)が提唱した「キャリア権」という概念があります。

 この理念は、「人びとが意欲、能力、適性に応じて希望する仕事を準備、選択、展開し、職業生活を通じて幸福を追求する権利」と定義されています。

 

 高井伸夫先生は、この概念に共感し、2008年、諏訪氏に座長をお願いして「キャリア権研究会」を立ち上げられました。

 

 さらに先生は、『「キャリア権」 法制化を目指す会』の代表者として、キャリア権の概念を社会に広く知ってもらいたいという思いから、啓蒙活動に力を注がれています。

 

 たとえば、2019年5月より、『週刊新潮』にほぼ隔月で、「キャリア権 法制化の意義」と題した意見広告を執筆されています。直近では、10月22日号に第9回目が掲載され、次回は12月の予定だそうです。

 

 また、『「キャリア権」法制化を目指す会紀要』も発刊されました。

 2020年2月の第1号には13名、9月の第2号には45名の著名な方が「キャリア権」について寄稿されており、読み応えがあり、着実に啓蒙活動の効果が出ているように思えます。

 

 

 さて本号は、前号に続き、かんき出版で先生が執筆された表題の書籍『高井式 一生使える勉強法』からです。

 

 先生は仕事柄、若いときから社長や役員の方との打ち合わせが多く、そこで分かったことは、成功が持続しているリーダーの人たちには共通しているものがあると言われます。

 

 それは「一生、成長し続けたい」という意欲が普通の人より強く、また、それに対して貪欲なまでに「学ぶ心」を持ち続けているということです。

 

 その学びの中身は、次の2つです。

 

 1つは、ビジネスに役立つ能力をつける。

 1つは、人間力をつける。

 

 最近、世の中全体の風潮として、小さな努力で大きな効果を求め過ぎるように思います。

 しかし、とくに勉強では、すぐに身につくものもあれば、一見、要領が悪いような反復行動、反芻思考によってのみ身につく力もあるのです。

 

 したがって、これらを意識して、キャリア形成を計れば、周りからの信頼も増すでしょう。

 あせらずに努力を続けることで、「骨太な人だ」「行動力もあるし、思慮深い人だ」などと思われる人に成長するために、勉強を続けたいものです。

 

 このように、成長した自分像を描きながら勉強することが、結果的に、一番確実に効果を上げる方法だと先生は言います。

 

 本書を読むと、先生が人や情報、読書などとの出会いを、丁寧にスピードを持って、ここまで考えるか、ここまでやるかというくらい対応されているのが分かります。

 

 以下に、項目だけ列挙いたします。先生の視点が伝わると思います。

 

 

  • 高井式・長続き勉強法

 

 第1原則  「いつでも、どこでも」の勉強グセをつける

 第2原則  同じ学びで大きな差がつくノウハウを知る

 第3原則  どんなときも楽しみながら勉強する

 第4原則  学ぶ師やテーマを先に決めておく

 第5原則  人から賢く学ぶ

 第6原則  自分流を貫く

 

 

  • 勉強グセをつける

 

 ・  勉強の習慣化のためには、考えすぎずに、まず何かを先に始めてしまう

 ・ 脳がクリアに働く朝型に替える習慣は、まず「3日続けて」を3クールで身につく

 ・ 忙しい人でも、1週間に1冊は本を読む

 ・ 読むときは2色以上のペンを用意して、重要箇所や気に入った言葉に印をつける

 ・ 新聞は勉強グセと、世の中の動きや変化を読み取るために最適

 ・ ブログ、メールなどもいいが、同時に手紙や日記を手書きで書く

 ・ スキマ時間の使い方で、自然と勉強グセと能力が身につく

 

 

  • 同じ学びで差をつける

 

 ・ みんなが歩む常識路線ではなく、脱常識路線を歩んでみる

 ・ 大きな力を出すには、自分によい形のプレッシャーをかける

 ・ 終身雇用、年功序列の時代は、大きなミスがなければ評価された減点主義の時代。
   いまは加点主義の時代。実績を積み重ねないと評価されない

 ・ 集中力は、数ある人間の能力を、同時に引き出してくれる能力である

 ・ 自己の価値を最大化するには、得意技を持つこと

 ・ 勉強は頭でするだけではなく、汗をかいたり、肌で感じたりすることも大切。
   勉強を頭だけの作業と狭く考えないようにする

 ・ 先見性を磨くために、現在を注意深く見ていく

 ・ 数字に強くないと、ビジネスパーソンとしての賞味期限を早める

 

 

  • 長続き勉強法で楽しむ

 

 ・ つまらないと思う仕事からでも、「固有の面白さ」を発見してみる

 ・ 自分の抱えた課題を、好き嫌いを無視して、まず「見える化」する

 ・ 多様性の時代だからこそ、「無用の用」を知る

 ・ 相手のことを話題にすれば、相手は何時間でも話をしてくれる

 ・ 一人旅で自然と向き合い、自分を見つめなおす                                                           

 

 

  • 人から賢く学ぶために

 

 ・ 何か課題を抱えたら、「他人の知恵を借りる習慣」を身につける

 ・ 質の良いメンター(精神的支援者)をつくっておく

 ・ 歴史上の大人物も師匠にしておく

 ・ 統一ある刺激は数少なくとも、数多い散漫な刺激に勝つ

 ・ 先人から効率よく学ぶ一つの方法は、名言集を読むこと

 ・ グローバル化時代は、語学の前に「日本の歴史と文化、伝統」について学ぶ

 ・ 新聞、雑誌の科学記事に目を通して、理系の感性を磨く

 

 

  • 好奇心を失わないために

 

 ・ 好奇心にとって大切なことは、「子どもっぽさ」を失わないこと

 ・ 人の話をよく聞く勉強ほど、効率的な勉強はない

 ・ たとえお節介と言われようと、「世話好き」も有力な勉強法のひとつ

 ・ アイデアとは、既存の要素の新しい組み合わせ以外の何物でもない

 ・ 自己暗示の法則1 意思と想像が争ったとき、必ず勝つのは想像である

        法則2 意思と想像が一致したとき、その力は和でなく積になる

        法則3 想像力はコントロールできる

 ・ 勉強会やセミナーに参加したとき、何を得たかの検証を怠ってはいけない

 

 

  • 自分流を貫くために

 

 ・ 自分流のメモ術で絶対に外せないポイント

    ①乱筆でメモをしても、新たに書き直すのは手間がムダ

    ②メモのストックは検索可能な状態にしておくこと

         ③情報の出所、メモした日付、自分の感想などを書き込んでおく

 ・ 自分流で勉強する前提である基本の押さえ方には、3つのポイントがある

    ①基本数字を把握すること

       ②原理、法則、定理を知ること

       ③用語(言葉の意味)を正確に理解すること

 ・ 自分流で勉強するときは、「時代遅れ」と思われることを恐れない

 ・ 大事を為すには、七分の道理と三分の無理

 

次回は11月27日(金)に掲載いたします。

 

「明るい高齢者雇用」

第19回 「こだわり」も必要―豊富な経験が裏打ち―

(「週刊 労働新聞」第2165号・1997年8月18日掲載)

 

 年齢を気にしない職種における出向もまた成功する例が多い。

 某大手商社から官庁絡みの仕事をする企業に出向した経理調査役D氏を紹介しよう。65歳までの雇用が保障され、年俸は当面800万円、60歳以降は640万円ということである。2年程で交替してゆく官庁からの出身者である40歳ぐらいの課長とうまくやり、かつ実務ができ、若い人にも教えることが採用要件であった。D氏は現在59歳、入社以来経理一筋であった。前の会社での職位は、56歳まで経理関係の部門で副部長を務めたという。

 経理業務はいわば年齢に関係のない職種であろう。高齢になって肉体的敏捷性が失われてもなお対応できる職種といってよい。そして役人とうまくやっていくとなると、出世欲を前面に見せない人物でなければならない。スペシャリスト志向というのが適当な表現であろうが、結果的に当人が入社以来経理畑一筋で他部署の経験がなかったことが幸いしたのである。

 さて、明るい高齢者雇用の要件には、即戦力、スペシャリストが求められることが一般的である。すなわち実務ができることがその要件となるが、これがしかし容易なことではない。日本においては、ゼネラリストとしてそのキャリアを積むケースが依然多く、さらに一定の年齢に達すると、専らマネジメント業務に終始して、実務から遠ざかることが少なくないからである。

 本来キャリアというものは、知識が多様な対処や判断に伴う経験に裏打ちされて、高いレベルのスキルとなって身につく過程をいうが、その意味では、加齢と共にその能力に厚みが増すことが期待される。

 先の例はその典型ということになろうが、しかし、慣れによる慢心があったり、常に新たな知識を求め吸収しようとする意識がなければ、スペシャリストたり得ることは到底おぼつかないのもまた事実であろう。

 加齢と共に衰える気力・体力を補ってなお余りあるスキルを持つこと、しかもそれが陳腐化していない、生きたスキルであること、そしてそのスキルを実務において活用・応用できることなどが重要となるが、さらに、その人が持つ価値観あるいは生きざまのようなものが出向あるいは転職の成否を分けるような気がしてならない。

D氏のケースでは、本人のプロ意識、さらにある種の自信と自負が、自ずと仕事そのものへのこだわりとなって発揚されたとも言えるだろうか。虚心に返って自分自身の見極めと棚卸しを行い、こだわるべき点が何かを得心した時に、現在の職場への出向が違和感なく受け入れられたに違いないのである。

 出向者と出向先企業が相互に理解し合うこと、それも本人のキャリアのみならず、その背後にある価値観や経営理念を理解することが何よりも重要であることを、この出向例は物語っているようである。

 ここまで4氏の出向事例をもとに、明るい高齢者雇用の実相を見てきたが、さらに次回からは、求人企業の開拓に奔走するある方を通して、この高齢者雇用を巡る障害と解決の方途を考えてみたい。

 

高井伸夫の社長フォーラム100講座記念~1講1話・語録100選~

【第22回】製造物責任法(PL法)と社員教育(1995年9月20日)

 

 PL法の施行によって、消費者からの問い合わせやクレームは間違いなく増加する。

 あるメーカーでは、1995年の問い合わせは約25,000件で、前年比25%増。そのうち金銭要求をともなうクレームは0.3%あったという。因みにこの会社は支店ごとに顧問弁護士を雇った。

 問い合わせをしてきたお客様がクレーマーになるかファンになるか、これは会社の将来を大きく左右する。そしてそれは、問い合わせを受けた社員の言動が分かれ道となる。これからは、電話の応対をはじめとするお客様とのクレーム対応教育は、いままで以上に意味をもってくる。

 クレーム処理はトップダウンで取り組む課題だ。クレームが来たら、すべて社長まであげること。新商品、新サービスが出たときは、なおさらトップダウンでクレームを処理することが肝心だ。

 営業担当に売上目標と販売テクニックだけを教える教育や、工場の社員にひたすらマニュアルによるチェックのみを教えるといった教育では、PL法への備えは生まれない。

 PL法対応のキーワードは、「品質」と「安全」である。品質と安全がすべての部門で意識されるように社員教育を組み立てていく必要がある。理想的な姿は、それを何らかの形で1人1人の業務に組み込むことだ。さらには、取締役会をはじめとするすべての意思決定に際しては、品質と安全に配慮したかどうかを必ずチェックすることが必要であり重要である。

 

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