2011年5月18日のアーカイブ

20110518 北京.JPG

 (2011年5月12日 午後12:54 中国北京市 在中国日本国大使館にて撮影)
                            在中国日本国大使館案内

 

20110518 上海.JPG(2011年5月13日 午後12:18 中国上海市 在上海日本国総領事館にて撮影 
在上海日本国総領事・泉裕泰様と )  在上海日本国総領事館ご案内

 

 

【渋沢栄一の天譴論】

 

 1923年9月1日に発生したマグニチュード7.9の関東大震災は、東京、横浜を中心とする関東地方の広範囲に甚大な被害をもたらしました。死者行方不明者は10万5千余人と言われています(「理科年表」及び気象庁発表数値)。

 

 この関東大震災時の救済事業、復興事業史などに度々登場する、渋沢栄一という、幕末から昭和初期に活躍した実業家をご存じの方も多いかと思います。

 

 渋沢氏は、第一国立銀行(今の「みずほ銀行」の基礎の一つです)や東京証券取引所や東京ガスなどといった多種多様な約500もの企業・事業の設立・経営に関わり、日本資本主義の父ともいわれている方です。

 

 関東大震災の際に、渋沢氏は「大震災善後会」(会長は徳川家達氏、御三卿の一つである田安徳川家の慶頼の三男で、1903年~1933年貴族院議長)を設立しました。そして、自らも粕谷義三氏(1923年~1927年衆議院議長、武蔵野鉄道の役員を務めるなど実業界でも名を残した人物)らと共に副会長を務め、救護・救援活動に力を尽くしました。

 

 渋沢氏は、このように「私利を追わず公益を図る」ことを重視し、社会活動にも熱心なことを認められ、子爵(明治時代の華族制度における公・侯・伯・子・男の五爵の内第4位)という位を授かりました。

 

 当時富を築いた資本家として断トツとも言われた実業家岩崎弥太郎氏(三菱財閥の創業者)や、三井高福・安田善次郎・住友友純・古河市兵衛・大倉喜八郎などといった他の明治の財閥創始者が「男爵」の位を授与されるにとどまったことを考えると、子爵の位は、渋沢氏の興した企業・事業の規模の大きさとそれが多岐にわたっていたこと、そして社会活動がどれだけ偉大だったかということを物語っています。

 

 さて、関東大震災から8日後の9月9日に、東京商業会議所に約40名の実業家が集まり、座長を務めた渋沢氏は、民間融資による救護・復興に関する組織を提案し、その際、世間も注目する「天譴(てんけん)論」を展開しました。

(「天譴」とは、「天のとがめ・天罰」を意味し、「天罰」とは、「自然に来る悪事の報い」を意味します。『広辞苑 第四版』新村出[編]、1994、岩波書店)

 

 「今回の大震火災は日に未曾有の大惨害にして、之天譴に非ずや」…「我が国の文化は長足の進歩を成したるも、政治、経済社交の方面に亘り、果して天意に背くことなかりしや否や」(『東京商業会議所報』6巻10号、1923年11月、19頁)

 

 続いて渋沢氏は、報知新聞の1923年9月10日付夕刊で「思ふに今回の大しん害は天譴だと思はれる…この文化は果して道理にかなひ天道にかなつた文化であつただらうか、近来の政治は如何、また経済界は私利私欲を目的とする傾向はなかつたか…この天譴を肝に銘じて大東京の再造に着手せなければならぬ」と、述べました。

 

  渋沢氏が、当時の世の何を「悪事」として自然が報いたと考えたのかは、必ずしもはっきりとはしませんが、明治維新後の急速な近代化の中で、「私利私欲を目的とする傾向はなかつたか…」と述べていることから、世の中全体が「清く・正しく・美しく」や「道徳」といった「日本人の心」を軽視した社会になってきていたことを指しているのではないかと思います。

 

 

【因果倶時】

 「日本人の心」とは、清く・正しく・美しく、道徳、親切、謙虚、大義、義理、人情、信義、誠心誠意、一所懸命、潔さ、節度、純潔、世の為・人の為、恩、道義心、配慮、思いやり、労り、良心、常識、真面目、正直…などなど、私が思いつく限りを列記してみましたが、正に人間の理想とされることです。

 

 トロイア遺跡の発掘で有名な考古学者シュリーマンは、1867年に発刊した旅行記『清国・日本』の中で、「この国(日本)には平和、行き渡った満足感、豊かさ、完璧な秩序、そして世界のどの国にもましてよく耕された土地が見られる」と、貧しくとも秩序を重んじる豊かな精神性や勤勉さを持った日本人の心を絶賛しています。しかし、この「日本人の心」は、生活が豊かになり、物に溢れ、飢えに苦しめられることはなくなり、贅沢や便利さに慣れた現代の日本人から、離れつつあると思います。

 

 「因果倶時」という、「原因と結果は常に一致するものであり、未来の結果も、今日の自分の積み重ねである」という意味の仏教用語があります。

 

 私は、渋沢氏が関東大震災の際に述べたことと同様に、この度の東日本大震災は、日本人が、「日本人の心」を失ってきたという原「因」が導いた結「果」であったと認識するべきだと思っています。

 

 また、福島第一原発事故については、今まで、原子力の利用というものについて、危険性を指摘する者はごくわずかで、私たちの日常は「巨大な無関心」に覆われていました。このことも、この度の震災の原「因」ではないかと考えています。

 

 テレビ番組(NHK総合テレビ2011年5月5日21:00~、NHKニュースナイン)で、ノーベル化学賞受賞者の野依良治氏が、「世界的に人口が増える中で、人は自然の限定的な枠組みの中で暮らしていかなければならない。今後、科学の力で明らかになっていく『自然の摂理』に逆らわないようなライフルタイルに意識変革していかなければならない」と述べられていましたが、まさにその通りだと思います。原子力発電の有益性や経済的な側面ばかりに気を取られていたことを、今次の震災の「因」と認識して、貧しくとも秩序を重んじる豊かな精神性をもった日本人の心を取り戻し、質素なライフスタイルへと意識変革し、エネルギー資源問題を解決していくべきだと思います。

 高井・岡芹法律事務所
会長弁護士 高井伸夫

(次回に続く)

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