震災復興院の掲げるべき方針


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(2011年5月23日 朝6:59 東京都渋谷区 代々木公園にて撮影)

 

 

 

 前回の記事で、原子力発電に代わる新発電方式を提案いたしましたが、今回は、被災地の復興についての方針、そして日本全体の復興についての方針の二つを述べます。

 

(1) 被災地の雇用復興

 

 地域活性のための手続きとして、従来法規制等の関係で事業化が不可能な事業を、特別に行うことを可能にする規制緩和の手段「経済特区(構造改革特別区域)」という制度があります。

 

 この度の地震の被災地である東北地方に、労働条件を規制する労働基準法等の規定が緩和適用される、労働契約の特区、いわば「労働特区」の指定をするべきだと私は考えています。

 

 今は、単に被災地だけでなく、日本各地で中小企業が破産状態になっています。たとえば、石川県能登半島の輪島漆器製造業は、3月11日以前から、給与の支払いが遅れ、従業員が販売した物品の債権を取り立てた場合、その回収した債権のほとんどを自分の賃金に充当するという方式が採用されつつあります。例えば、40歳の営業担当の女性は、名目賃金が14万円前後で、手取りが10万円前後だったそうです。

 

 東北地方の多くの地域では、一次産業の比重が高いですが、この一次産業は被災前から長期にわたって低落状態にあり、後継者の育成・確保も大変厳しい状態になっています。東北地方の産業の低落傾向については、日本全体の少子化の中では、これはやむをえないものとして受け取り、また、この度の東日本大震災でも、この低落傾向は一層加速するでしょう。このことを思えばこそ、まさに、今、新産業を興す必要があります。そして、高齢者が多い東北地方では、「技能・技術産業」を起こすべきでしょう。この技能・技術産業には、一番説得力のある「防災産業」を戦略産業として育成し、自動車に次ぐ輸出商品の一つとしていくことが復興への一つの証になると思われます。防災産業だけに限らず、東北地方を中心とした文字通り「新産業」を起こし、県ごとのタイムリミットと数値目標を掲げて、雇用の場の創造を具体的に図っていくことが必要だと思います。なぜなら、雇用は地域の活力を推測する目安となるバロメーターであるからです。

 

 また、世界随一の防災産業だけでなく、意識して、他の産業にも力を入れ、産業育成を図らなければならないと思います。なぜなら、日本は貧しい国になってしまって、あらゆる分野に注力することができないからです。例えば、日本の国民所得は、1997年には303万1千円でしたが、2009年には約266万円となり、この12年間で、1997年のほぼ1・5カ月分の所得に匹敵する37万1千円も減少して、8分の7になりました(内閣府国民経済計算確報)。また、一世帯当たりの平均所得をみてみると、1994年には664万2千円でしたが、2008年には547万5千円となり、この14年間で、なんと116万7千円も減少して、6分の5に目減りしてしまったのです(厚生労働省国民生活基礎調査)。

 

 

(2)日本全体を視野においた『震災復興院』の掲げるべき方針

 この度の地震により、被災地周辺地域である、日本経済をけん引していた首都圏(東京や埼玉、千葉、神奈川)でも、そして日本全体でも、今後、雇用問題が大きな社会問題となることを私は予想しています。

 

 この雇用問題を具体的に解決するには、リストラという方式ではなくて、賃金ダウンをより強く容認する労使協定の普及と、裁判所の後押しが必要となるでしょう。また、雇用量の増加を促すため、採用人数に応じた企業への減税の実施なども有効であると考えています。

 

 さて、日本全体の復興計画なるものの策定にあたって私への様々な助言を参酌して、私が提案するのは、「平成の震災復興院」です。

 

 「平成の震災復興院」とは、1923年(大正12年)9月1日に発生した関東大震災の際、第2次山本内閣の内務大臣に就任した後藤新平が設立した「帝都復興院」を準(なぞら)えたものです。

 

 私は、この度の東日本大震災のための「平成の震災復興院」は以下の方針を掲げるべきであると考えます。

 

  1. 震災復興院の総裁には小泉純一郎氏を政府は三顧の礼を持って迎え、小泉氏はすべての機関や事業を一本化し、スピード決済・スピード実行を旨とする。
  2. 先に述べた通り、いわば、想定外を想定した世界唯一の「防災科学国家」を目指し、防災産業を今後の主要輸出産業に育てる。 
    また、このたびの震災で日本は国難に直面することになりましたが、次なる国難に備えることが肝要でしょう。それは、日本の領土保全を図り、万全を期するということです。それには防衛産業への注力が必要となるということでしょう。日本全体で防衛産業に従事する企業は多くあると思いますが、これらに対する温かい目をもって接しなければならないということです。この度の震災によって自衛隊が歓迎されるだけでなく、その活動ぶりに地域住民が拍手を送っている実情からして、防衛産業への注力は国民的支持を受けるでしょう。その他、色々な新産業あるいは既存の産業で注力すべき産業を明示する必要がありますが、私はいささか産業論には縁遠い立場の者ですから、勉強して今後述べることがあるかもしれません。
    復興事業の資材調達、アイデア、委託先選定にあたっては支援をしてくれた国すべてに窓を開く。例えば、皆さんが複雑な思いを抱かれている北朝鮮にも窓を開く、という意味です。
  3. 復興投資=教育投資(米百俵の教えと同様)と心得るべし。
    【「米百俵の教え」とは】
    小林虎三郎(1828年8月18日生、長岡藩・現在の新潟県生まれ、長州の吉田寅次郎(松陰)とともに「佐久間象山門下の二虎」と称せられた人物)を描いた故山本有三氏が戯曲として書き下ろした「米百俵」内で、虎三郎が「早く、米を分けろ」といきり立つ藩士たちに向かって「この米を、一日か二日で食いつぶしてあとに何が残るのだ。国がおこるのも、ほろびるのも、まちが栄えるのも、衰えるのも、ことごとく人にある。……この百俵の米をもとにして、学校をたてたいのだ。この百俵は、今でこそただの百俵だが、後年には一万俵になるか、百万俵になるか、はかりしれないものがある。いや、米だわらなどでは、見つもれない尊いものになるのだ。その日ぐらしでは、長岡は立ちあがれないぞ。あたらしい日本はうまれないぞ。……」と語るエピソードのことです。(新潟県長岡市のホームページよりhttp://www.city.nagaoka.niigata.jp/kurashi/bunka/komehyaku/kome100.html
  4. 共同体思想を掘り起こし、更に育成する。
    日本の復興、再生への長い道のりは、社会の中に、共同体思想(すなわち、社会奉仕的かつ社会貢献的な共同体を構成する思想)、共助・互助・相互扶助の精神をどう浸透させられるかにかかっています。このような極限的な状態だからこそ、人は自分のためには頑張れないものですが、他人のためなら力を発揮できるから、共同体思想を掘り起こし、普及し、強化する必要があるのです。それには、多彩なそして多岐にわたるコミュニティー作りが必要でしょう。
  5. 実務的には資金調達が最も要かつ困難であるでしょう。
    EX:
    ・皇室、経団連等の大企業、高額所得者の寄付の促進税制を拡充整備する。
    ・復興外債の発行
    ・高額所得者や法人に復興外債(国債はだめです。国債は早晩破綻するとすでに予測されているから)の購入の義務付け
    ・国民一律10%賃金ダウンの甘受
     なお、東電の関係者は、三分の一の従業員のリストラを行った上で、年間4割の賃金ダウンを行うこと。
    ・公務員にも20%を目標に大いにリストラを図り、かつ、一律に20%の賃金ダウンを行う。例外は許さない。かつて、昭和初期に、裁判官・検察官が、気が狂ったように興奮して大反対をしたような愚は、絶対にしてはならない。

  6. 復興終了年限を明示し、そのときの国家の青写真を国民に提示する。
    その青写真は、国民が高揚感を持てるようにし、かつ実効性のあるものでなければならない。
    そして、復興終了年限は、最大限10年、できたら5年以内を明示すること。
    復興は、一気にできるものではありません。一歩一歩、着実に前へと進めることが大切です。当然、そこには障害があるでしょうが、障害を乗り越えたときこそ、更に前進することができます。障害があるからといって、それにへこたれてはいけません。復興終了年限まで、歩み続けることが大切です。

 

 

【哲学的思索の拡充を】

 被災地の雇用復興、日本全体を視野に入れた復興の方針を述べてまいりましたが、これらを実行し、日本回復を図る・再興をするためには、哲学という学問領域を拡充させなければならないと思います。老子の教えである「足るを知る」といった東洋哲学の真髄を究めるなど、哲学的思索の拡充が、教育の場ではもちろん、日本人全体でこれを見直し、再度勉強する必要があるでしょう。また、哲学だけではなくて、政教分離とはいえども、宗教学をあらためて見直し、道徳等の日本人の原点に戻って再構築を図るべきでしょう。もちろん、神・仏などを勉強することは言うまでもありません。さらに文化の進展を大いに図らなければなりません。すなわち、文化政策等を充実させていくことが必要でしょうし、そのバックアップとして観光行政も一層充実させなければなりません。観光の語源は中国の古典『易経』とも言われていますが、その『易経』に「観国之光 利用賓于王(国の光を観る 用て王に賓たるに利し)」とあるとおり、「観光」とは国の「光」を観ることですから、それぞれの地域の「光」るところをさらに磨き上げることが必要です。

 高井・岡芹法律事務所
会長弁護士 高井伸夫

(次回に続く)

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