(2011年5月3日 午後2時01分 滋賀県大津市坂本 千手院にて撮影 牡丹の花)
(2011年5月5日 午前10時47分 栃木県小山市若木町の邸宅にて撮影 牡丹の花と私)
1755年にポルトガルのリスボンを襲った大地震は、この町をいっきに破壊し、津波による死者も含めて6万人の犠牲者を出したといわれているそうですが、地震の被害の甚大さによるだけではなく、この地震が当時のヨーロッパの世界観に大きな影響を与え、リスボン大地震を歴史に残すものとしたようです。このことは、2011年4月18日付産経新聞朝刊京都大学教授佐伯啓思先生が書かれた「日の陰りの中で」の記事の中に書かれています。
同記事によると、リスボン地震によって大きな精神的影響を受けた人物の一人にイマヌエル・カント(1724年~1804年、プロイセン王国<現在のドイツ北部~ポーランド西部>出身の哲学者、ドイツ観念論哲学の祖ともされる)がいたそうです。彼は有名な『判断力批判』という書物の中で次のようなことを述べているそうです。
「荒れ狂う海、暴風、雷、こうした人間の力をはるかに超えた巨大な自然現象は人間に恐怖心をおこさせる。それは人の命も財産もすべて一瞬にして破壊し尽くすだけの力を備えている。そのことに人は本能的に恐怖を覚える。しかし、理性の力と構想力をもって人は、自然現象を解明し、恐怖を乗り越えることができる。そのとき、人は自然に対して『崇高』な感じをもち、その崇高さによって、人格性を高め、自然を支配することができる。」
このカントの言葉を受けて、佐伯先生は次のように述べられています。「カントや当時の啓蒙主義者、合理主義者が切り開いた道は、人間は、ただ生物的な存在として自然にひれ伏すのではなく、理性の力によって自然に働きかけ、自然を支配し、さらには社会に働きかけてこれを変革し、こうしていっそうの幸福を手にいれる、ということである。」「もちろん、カント自身は理性の限界をよく理解していたし、人間の能力が万全などとはまったく考えていなかった。にもかかわらず、リスボン大地震から250年もたてば、人は科学と技術の力を万能であるかのようにみなすようになる。この極限に核の技術ができ核兵器と原発ができあがった。」
この記事によると、リスボン大地震は科学技術発展の一つの契機になったということですが、今回の東日本大震災はまったくその逆を示す契機となる地震であったと私は考えます。リスボン大地震を契機に、幸福を手に入れるため科学技術の発展に勤しんだところ、身の丈を忘れ、人間の心に驕りが出て来たために、今回の事態を招いてしまったというべきではないでしょうか。佐伯先生も、「東日本大震災がかつてのリスボンのように世界観の転機になるのか否か、それは不明である」が、「この転換は、当時出現した啓蒙思想や化学主義とは逆で、人間中心的な理性や科学の限界を如実に示すものであった。自然の脅威は、それを支配できるとした人間の驕りを打ち砕いた。」と述べられています。
1868年の明治維新から1945年(広島・長崎への原爆投下)までが、77年です。そして1945年から2011年までが、66年です。どちらの区切りも「核」というのは何かの偶然でしょうか。2度あることは3度あるのでしょうか、こうなれば、わが国も独自の路線をとって、自然との共生をしっかりと国民意識に根付かせ、国策の中に明記して国の運営を行う時期に来ているものとして対処すべきでしょう。
ちなみに、私は「原子力発電」という言葉は語弊があるように思います。爆弾のことを「核爆弾」というように、原子力発電も「原子力」とはいわず、「核電力」というべきではないかと思います。
日本人は「ものづくり」が上手いとか言われていますが、哲学とか思想とかがしっかりしないと、いくら「ものづくり」が素晴らしくても破たんしてしまうのです。繰り返しになりますが、この地震を契機に「科学技術万能」を見直し、「道徳観(哲学)」「精神」「神(宗教)」を新たに見直すことが肝要だと思います。
今回の地震で「人生観が変わった」「自分の中の価値観が変わった」という声を多く聞きます。私が改めて人生観で認識したことは、「所詮何事も自分でやらなければならない」ということです。しかしながら、「自分でやらなければならない」ということと「自分でできる」ということとは違います。他人の手助けが必要だからです。他人の手助けが必要であるということを念頭におき、自らも進んで他人の手助けをすることが必要であると思います。他人から支えられていることを忘れてはいけません。また、極限的な状態では、人は自分のためには頑張れないものですが、他人のためなら力を発揮できるのです。ギブアンドテイクという言葉がありますが、まさにギブアンドテイクが大切です。要するに、それは人間観につながることなのです。そして、社会観は「共同体思想」という方向へと展開し、「共同体思想」の更なる掘り起こしが必要となるでしょう。
高井・岡芹法律事務所
会長弁護士 高井伸夫
(次回に続く)