福島第一原発事故~所感統括


20110513.JPG (2011年5月8日 午前11:06 静岡県御殿場市 秩父宮記念公園にてチューリップを撮影)
秩父宮記念公園 http://chichibunomiya.jp/

 

 

【活断層の上の核の地雷】

 『巨大地震が原発を襲う』(船瀬俊介著,地湧社)は2007年9月1日に発行された書籍ですが、その111頁には,<“地震危険地帯”に原発集中>,という中見出しがあって,福島第一原発の6基も,原発危険地域に集中している,と明示されています。また,津波についても,112頁以下で詳しく論じられています。

 

 この本を読んでみると,日本国民は,原発に関し,核の地雷を踏まされている,ということを忘れていると思えてなりません。つまり,原発を日本に設置するということは,核の地雷が,活断層の上に置かれているということ意味しています。より分かり易く言えば,あなた自身が家を建てるときに,原子力(核)発電所(核地雷)の回りに家を建てられるかどうかを考えれば,わかることでしょう。

 

 核の時代を迎えようとしているこの時代に,日本において,原子力発電にどのように取り組むのか,一から再構成を検討するべきです。特に,電力会社の首脳部は,この本を熟読して,ゼロの視点から原子力発電所問題を考えるべきでしょう。

 

 「ゼロの視点」とは、予断と偏見を排すということでしょう。

 

 それからすれば、第5回(4月8日号)のブログに書いた、ドイツの電力会社の社長が2009年11月に東電に来社した際に指摘した「これだけ地震の多い土地に、原発を中心に電力を供給することはいかなるものなのか。太陽・水力・風力発電、今では波力発電等もあるのだから、原発よりもそちらに変えていくことの方がいいのではないか?」という意見は、まさに日本の原子力(核)発電の弱点をついた適切な言葉であって、これに受け応えした東電の首脳部の態度・見識がいかに間違ったものであるかを痛感させられます。

 

 

 

 

【東電が第87期(来期)有価証券報告書に記載すべき事柄】

さて,東電は,2010年6月28日に関東財務局長に提出した第86期有価証券報告書(2009年4月1日 ‐ 2010年3月31日)の中で,「事業リスク」として下記の通り記載して報告しています。

 

 

EDINET 
http://info.edinet-fsa.go.jp/

東京電力株式会社(E04498)第86期有価証券報告書(20頁)より抜粋

  1. 電気の安定供給
    当社グループは,電気の安定供給確保に向け万全を期しているが,自然災害,設備事故,テロ等の妨害行為,燃料調達支障などにより,長時間・大規模停電等が発生し,安定供給を確保できなくなる可能性がある。その場合,復旧等に多額の支出を要し,当社グループの業績及び財政状態は影響を受ける可能性があるほか,社会的信用を低下させ,円滑な事業運営に影響を与える可能性もある。
  2. 原子力設備利用率
    当社グループは,原子力発電所の設備と運転の信頼性を高めることを通じて,原子力設備利用率の向上に努めているが,自然災害や設備トラブル,定期検査の延長等により原子力設備利用率が低下した場合,燃料費の高い火力発電設備の稼働率を必要以上に高めることとなり総発電コストが上昇する可能性がある。また,
    CO2排出量の増加に伴い,追加的なコストが発生する可能性がある。この場合,当社グループの業績及び財政状態はその影響を受ける。
    なお,平成19年7月に発生した新潟県中越沖地震によって当社の柏崎刈羽原子力発電所が被災し,複数のプラントが運転を停止しているため,その復旧状況によっては影響を受ける可能性がある。
  3. 原子燃料サイクル等
    原子燃料サイクルを含めた原子力発電は,中長期的な安定供給の確保はもとより,地球温暖化防止のためにも必要不可欠なものであり,引き続き安全・安定運転を大前提に着実に推進していく。ただし,原子力発電の推進には,使用済燃料の再処理,放射性廃棄物の処分,原子力発電施設等の解体を含め,多額の資金と長期にわたる建設・事業期間が必要になるなど不確実性を伴う。バックエンド事業における国による制度措置等によりこの不確実性は低減されているが,制度措置等の見直しや制度外の将来費用の見積額の増加,六ケ所再処理施設等の稼働状況,同ウラン濃縮施設に係る廃止措置のあり方などにより,当社グループの業績及び財政状態は影響を受ける可能性がある。

 

 

 

 今般の事故は,東電がここに記載している事業リスクが発現したものでした。しかし,放射能が人間,生物,自然,に与える地球規模のリスクを抱えているという認識はまったく記載されていなく,電力供給の側面のリスクのみの認識が記載されています。

 東電には,「原子力(核)を扱う企業」「その影響」という立場からのそれらのリスクを十分に認識する必要があったのです。日本の10電力会社は、社長会において、この東電の誤りを厳しく反省して,その態度・見識を改め,国民に早急に明示する必要があるでしょう。そして東電の87期の有価証券報告書の内容に注目すべきでしょう。何故なら86期のごとき記載では,最近は企業情報開示の規制が強化されているにも関わらず、極めて形式的で実効性が希薄な内容だからです。

 87期の有価証券報告書には,

  1. 3月11日の福島第一原発等の事故の推定損害額の総額を明示すること
    ちなみに,私は,第3回4月8日のブログに書いた通り, 16兆5000億円は、覚悟しなければならないと思います。
  2. そのうち何億円を東電として補償するものであるのか,その総額を明示すること
  3. 3.    そしてそれが東電として支払える範囲内にある数額なのか、それを超える数額なのか,明示すること

の3点が必要でしょう。

 また,この補償額の如何によって,会計監査人は,報告書に,「企業の継続性(企業の存続)について,重大な疑義あり」との監査意見を付するか否か,の判断を下すことになります。

以上

 

【追記】

 なお,司法の場の在り方も,根本的に変革しなければなりません。

 

【「原子炉設置許可処分無効確認等請求事件」(「もんじゅ」行政訴訟)】

最高裁判所 第一小法廷 判決 平成17年5月30日 事件番号平15年(行ヒ)第108号,
名古屋高等裁判所 金沢支部 判決 平成15年1月27日 事件番号平成12年(行コ)第12号,
福井地方裁判所 判決 平成12年3月22日 事件番号平成4年(行ウ)第6号,

の判決が適切であったかどうかを,見直すべきものと思料します。

 

 ある法曹関係者が「原発の安全性が争われた,国を相手取った設置許可処分の取り消し訴訟で裁判所は許可取り消しを認めてこなかった。想定外のことで事故が起きたと判断すれば過去の司法判断との整合性が取り易く,異常に巨大な天災地変(原子力損害賠償法3条但書)だと認定する可能性もある」と指摘しているそうです(2011年5月2日号「日経ビジネス」86頁,日本経済新聞社編集委員・三宅伸吾)。

 

 裁判所は,そもそも,地震は自然災害であって,想定「外」とか「内」等という話はありえず,また,東電による放射能被害が,人災そのものであると強く主張されていることを念頭に置いて,自らの過去の司法判断との整合性を取るための理由で「異常な巨大な天災地変」だと安易に認定することはしてはなりません。それを踏まえて,上記判決が適正なものであったかどうか,今一度真剣に省みるべきでしょう。

 

 長年弁護活動に当たった者として,およそ裁判官は,要件の分析をして論理的な思考ばかりに陥って事の真髄を突く直観力が萎えているのではないかと判断しています。裁判官たる者は「何が正である」、「何が不正である」をいわば直感で見極めることが職責の最たるもの、すなわち「良心」そのものであります。裁判官は,中立の立場で公正な裁判をするために、その良心に従い独立してその職権を行い、日本国憲法及び法律にのみ拘束される(日本国憲法第76条)のです。すなわち,裁判官はまずは「良心」から出発しなければなりませんが,この点が欠けていないかどうか,全日本の裁判官に,問いただすべきでしょう。

 

 そして,原子力(核)発電は、E・F・シューマッハが言っているように(詳しくは4月29日付第8回記事「スモール・イズ・ビューティフル」をご覧ください),「救いである」としても「呪いである」ことを十二分に認識して、判断していかなければなりません。

 

 ドイツの哲学者,M・ハイデガー(1889年~1976年)も,原子力(核)を利用するには,管理が必要不可欠であることは,「この力(原子力)の承認を表明している」とともに,「この力(原子力)を制御しえない人間の行為の無能をひそかに暴露している」と,原子力(核)には,その力の有益性と,その力を人間が制御しえないという危険性という2つの側面があることを指摘しています(1963年8月にハイデガーが小島威彦氏(ハイデガーの著書の翻訳者)に宛てた手紙。「ハイデガー 生誕120年,危機の時代の思索者」KAWADE道の手帳,河手書房新社発行,2009)。

 

 このように,原子力(核)の利用とは,すなわち,正であるとしても、不正であることは明白なのであるから、まさに賢者の集まりである最高裁判所をはじめ,この事の核心に迫る判決等が展開されることを、今後期待しています。

 

 さらに,刑事事件について言えば,

【福島県元知事佐藤栄佐久に対する有罪の判決「収賄被告事件,収賄、競売入札妨害被告事件」】

東京高等裁判所 判決 平成21年10月14日 事件番号 平成20年(う)第2284号,
東京地方裁判所 判決 平成20年8月8日 事件番号 平成18年(刑わ)第3785号,第4225号,
(最高裁判所は上告を受理しなかったと伝えられています)

の判決が適切であったかどうか,については,裁判所が省みることはもとより、そもそも東京地方検察庁は政治的圧力に阿(おもね)て,あるいは屈して、起訴した案件ではないかという疑義があります。それゆえ、この点を解明する職責があるでしょう。何故ならば佐藤栄佐久元知事は原発問題についても政府の方針と相いれない存在であったからです。

 

 これらは、私が一件書類を見ることができず不勉強ですから詳細を述べることはできませんが、問題点を指摘させていただくことにとどめます。

 高井・岡芹法律事務所
会長弁護士 高井伸夫

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