(2011年12月21日 朝9:25 千葉県富里市日吉台にて
ディッソディア(ダールベルグデージー)を撮影)
10月14日(金)より今まで計10回、「病気」をテーマにしたブログ記事を執筆しておりますが、このブログを執筆するにあたり、そもそもの「病気の原因」とはなにかを考えてみたいと思いました。
「病気の原因」については、私が日頃よりお世話になっている全国の病院、医者、治療家の方々に様々なご教授をいただいておりますが、先生方によって千差万別な考え方があります。どれもそれなりに頷くものばかりですが、特に私が関心を持ったのは、今回から3回にわたってご紹介する新潟大学大学院医歯学総合研究科教授 安保徹先生が提唱する病気の2つの原因、「低酸素」と「低体温」についてです。
安保先生は東北大学医学部を卒業され、米国アラバマ州立大学に留学中の1980年に「ヒトNK細胞抗原CD57に関するモノクロナール抗体」を作製され、更に「胸線外分化T細胞」の発見、「白血球自律神経支配のメカニズム」を解明されるなど、数多くの研究成果を発表されている方です。現在は新潟大学大学院医歯学総合研究科の教授として、免疫学の研究に全身全霊を注ぐ日々をお過ごしです。加えて「人が病気になるたった2つの原因」(講談社、2010)、「免疫革命」(講談社、2003)など数多くの本をご執筆されています。
私が初めて安保先生を存じ上げたのは、2006年10月に、当時、株式会社鵞湖書房 代表取締役であった小松茂生様のご紹介で、株式会社オピニオンパ―ク(長野県諏訪市沖田町)コンディショニングトレーナー熊谷清次様のところに治療にお邪魔した際に、安保先生のご著書をご紹介していただいたことがきっかけでした。爾来、安保先生の数々のご著書を見かけ、安保先生の研究内容に大変興味関心を持っておりました。そして今年9月7日(水)に新潟にて初めてお会いし、10月19日(水)、12月11日(日)と今まで3回お会いしました。安保先生は、分け隔てのないお人柄です。先生のお話しになる津軽弁が、先生が気さくな方であるとますます思わせるのかもしれません。
【ストレスが「低体温」「低酸素」を引き起こす】
安保先生は「免疫学」の権威です。「免疫」とは読んで字の如く「疫病(病気)を免れる」ことで、体内に侵入した細菌やウイルス、体内で発生した腫瘍など生命の存続に不利なものを排除する力のことですが、リンパ球などの白血球細胞がこれを担っているそうです。
そして、「ストレス」がたまって神経系の働きが乱れると、免疫力も徐々に低下していきます。安保先生によると、たとえば希望を持って治療に当たる人と、絶望感に苛まれながら治療を受ける人では病気の回復に大きな差が出てくるそうです。心と体は一体であり、物理的な治癒だけではありえず、患者が心の問題を抱えたまま(ストレス下にありながら)治療するのは不可能と言ってよいでしょう。
普段私たちが日常生活を送る上で、「ストレス」を抱えこむと、それによって、一時的にしろ血流障害が起きて体が冷えてしまうそうです。そして、「ストレス」が強ければ強い程、血流障害がひどくなり、「低酸素」「低体温」の状態が日常化し、人は病気になるのだそうです。
そもそもストレスとは何でしょうか。「ストレス」という言葉自体は、頻繁に使われる日常語として浸透しています。「ストレス」という言葉は1935年、ハンス・セリエというカナダの生理学者が唱え始めました。彼は、ストレスを「体外から加えられた要求に対する身体の非特異的な反応」と定義しました。つまり、ストレスとは、外部の何らかの刺激が体に加わった結果、体が示すゆがみや変調ということです。
「ストレス」は誰しも多かれ少なかれ必ず生じるものです。少しのストレスであれば日常生活を送るにも支障がありませんし、活力の基礎にもなります。しかし、ストレスが過剰になると、体はその状態に適応しようとします。もともと人間には、刻々と変化する外界の環境に対して生体を安定した状態に保とうとする働きがあり、これをホメオスタシス(生体の恒常性)と呼んでいるそうです。
その結果、体は「低酸素」「低体温」の状態が続くことになります。たとえば寝不足が重なると顔色が悪くなります。これは、寝不足により自然と体温が下がり、酸欠状態になってしまうからです。また心配事が重なると、例えば恐怖に晒されると顔が青ざめますが、これはまさに「血の気が引く」という表現通り、血管が収縮して血が流れなくなるのです。これらの状態は誰もが一度は経験があるでしょう。東洋医学では病気のことを「気滞」と書きますが、まさに血が流れなくなり、病気になってしまうのです。
安保先生によると、この「低酸素」「低体温」の状態に陥ることこそ、病気の原因であるとのことです。安保先生は、病気の原因を「働き過ぎや心の悩みなどによるストレスと、それによる血流障害、すなわち冷えが主な原因」とおっしゃっています。健康でいるためには、「低酸素」、「低体温」を防ぐことが必要ですが、これには、ミトコンドリアを活性化させる必要があるということです。
【「解糖系」と「ミトコンドリア系」】
地球と太陽との距離は、生命にとって不可欠な「水」が存在することのできる温度環境を生み出しました。約38億年前、最初の「生命」と呼ばれるものが生まれたと考えられているそうですが、最初の生命は、まだ地球には酸素が無いため、海の底で、メタンやアンモニアから硫化水素を還元してアミノ酸などの有機物を作り出したり、地熱といったエネルギーを得るなどして、酸素を使わずに「解糖系」によってエネルギーを得て、分裂をくり返しながら生きていました。こういった生命は、原核細胞と呼ばれます。しかし、藍藻(ランソウ)、藍色細菌などと呼ばれ、植物と同じように光合成を行い、酸素を発生させる原核生物である「シアノバクテリア」の出現により、大気中には酸素が放出されるようになり、このため、酸素による酸化の害によって、酸素の嫌いな原核細胞は生きづらくなっていったのです。そこに酸素の大好きな「ミトコンドリア生命体」が出現し、原核細胞と共生をはじめました。これが、ミトコンドリアの起源であり、原核細胞は「真核細胞」へと進化しました。地球上に存在する植物と動物は、すべて真核細胞によって出来ているのだそうです。
ミトコンドリアとはゾウリムシのような原始生命体で、人の細胞1個の中に、数百から数千個共生しているのだそうです。ミトコンドリアはブドウ糖を分解し、酸素を使ってエネルギーを作ります。人は、全身60兆もの細胞にエネルギーの原料を送り込むために、食べ物の栄養素や呼吸から得た酸素を細胞まで運び、「解糖系」と「ミトコンドリア系」という2つのエネルギー生成系(エネルギー工場)によって活動エネルギーに変えることになるのです。
さて、「解糖系」と「ミトコンドリア系」の違いは、「解糖系」は食べ物から得られる栄養素をエネルギーに変換するシステムで、ブドウ糖(糖質)すなわち食べ物の栄養素が原料となっており、糖を分解するだけなのですぐにエネルギーが作り出せるのが特徴です。解糖系でつくられたエネルギーは、「瞬発力」と「分裂」(成長)に使われます。「ミトコンドリア系」は食べ物の栄養素に加え、日光、呼吸によって得られた酸素を使ってエネルギーを作り出します。ミトコンドリア系でつくられたエネルギーは、「持続力」に使われています。
たとえば短距離走のように素早い動作を行うためには、「解糖系」エネルギーが必要になります。なぜなら人は全速力で走るとき、息を止めて走っていますので、その間は無酸素状態になっています。ですから、酸素を使わないエネルギー産生方法である「解糖系」を使うのです。またイライラした状態が続いたり、カッ!と興奮して怒るだけでも血管の末端は簡単に無酸素状態になり、「解糖系」のエネルギーが使われます。
しかし「解糖系」を使い過ぎると酸素欠乏になり、疲労感を招く乳酸がたまります。その時はゆったりと休息をとって、ミトコンドリア系に切り替える必要があるのです。貝原益軒の書いた「養生訓」にも、「心気を養うことが養生の術(方法)の第一歩である。心をおだやかにし、怒りと欲を抑制し、憂いや心配をすくなくして、心を苦しめず、気を傷めないことが、これこそ心気を養う大切な方法である」とあります。仏教では「怒り」がもっとも激しい煩悩の一つであるとされていることからも分かるように、苦悩、苦痛、苛立ち、怒りが病気の原因であるということは、古くから先人たちの教えとして伝わってきたことであると思います。
このように、私たちは本来ならば「解糖系」と「ミトコンドリア系」の2つのエネルギー経路を使い分けているのですが、ストレス社会では「解糖系」ばかりが使われてしまい、「ミトコンドリア系」とのバランスが崩れてしまいがちです。「解糖系」ばかりが稼働するようになったとき、がん細胞が生み出されやすくなるそうです。そして、「瞬発力」の母体である「解糖系」は細胞分裂の際にも働きますから、がん細胞をも分裂によって繁殖を繰り返させてしまいます。
長期間、酸素を必要としない解糖系が使われると、ミトコンドリアの働きが抑制されてしまいます。そして、低酸素・低体温の状態であることが日常化すると、病気になってしまいます。ミトコンドリアを活性化させるには、身体をミトコンドリアが活動する37度~39度の内部環境(深部体温)へと温める必要があります。
ちなみに、父親のミトコンドリアは受精時に受精卵の中で母親のミトコンドリアに食べられて消滅し、父親のミトコンドリアの遺伝子は次世代には伝わらないそうです(2011年10月14日付日経新聞夕刊)。なぜ父親のものが排除されるのかは現在では分かっていないそうですが、母親のミトコンドリアの遺伝子のみが子に伝わるということです。これについては、現生人類の祖先をたどっていくと、数十万年前のアフリカの女性に行きつくという説「ミトコンドリア・イブ」が知られています。また、成熟した一つの卵子には、実に10万個ものミトコンドリアが存在し、逆に精子はミトコンドリアが極端に少ない分裂を繰り返す解糖系細胞であるそうです。つまり、精子は解糖系優位で、卵子はミトコンドリア系優位であることから、安保先生は、「男性は冷やすことでたくましくなる」し、「女性は温めることで成熟する」と表現されています。陰嚢と卵巣の位置がそのようになっています(戦前・戦後通じて、女性は暖かい沖縄県が、男性は寒くて高地<低酸素>の長野県が長寿の1位を占めていることは非常に興味深いデータであると安保先生はお考えです)。また、「解糖系細胞=男性」は、有害な酸素に苦しんでいたところを、「酸素を好む好気性細菌=女性」に救ってもらい、自らが産生した栄養を分け与えるのと引き換えに、これまでになかった莫大なパワーを手に入れたわけですから、女性の存在なくして男性は生きていけないのである、とも述べられています。私は常日頃から女性のエネルギーは男性より強いと感じておりますので、安保先生の理論には納得させられました。
次回は体を温めることが病を遠ざけること等について、述べたいと思います。