(2011年12月24日(土)朝6:54
東京都新宿区早稲田 鶴巻南公園にて撮影)
さて、前回12月23日付記事では新潟大学大学院医歯学総合研究科教授 安保徹先生が提唱する病気の2つの原因、「低酸素」と「低体温」についてお話しいたしましたが、引き続き、安保先生についてご紹介いたします。
【「身体を温める」ことが病を遠ざける】
家族や友人が風邪をひいたときに「温かくして寝てね」と声をかけたり、けがをした人や病気で苦しむ人を「温かく見守る」といった、看護の世界で「温かい」という言葉を頻繁に使うのは、先人からの教えでもあります。これは、20億年前から私たちのエネルギー産生を手伝ってくれているミトコンドリアが、身体を「温めること」で活性化し、人の癒し・健康になることを、体内から私たちに情報として知らせてくれているのではないでしょうか。
また、2011年11月17日付読売新聞(夕刊)では、北海道で同月15日夕方、81歳の男性が、運転を誤って河川敷に転落してしまい、同乗していた孫の女の子(3歳)とその男性は車の中で一夜を過ごしましたが、翌日無事に助けられたと報じられていました。零下3度以下という厳しい冷え込みであったにもかかわらず、2人は足に凍傷を負っただけですんだそうですが、大変驚くべきことです。2人は、愛犬であるラブラドールレトリバーの「ジュニア」をしっかり抱き、ジュニアの体温で身体を温め、寒さをしのいだということです。まさに「愛犬の温かい体温」が2人を救ったということです。このニュースを聞いた時には、私の心の中までもがホッと温まりました。
「身体を温める」ことに関しては丹羽クリニック院長 丹羽正幸先生が丹羽式統合医療の一つの柱である「温熱免疫ルーム」でも実践されている治療法です(詳しくは11月4日(金)のブログ記事「丹羽式統合医療 その他の施設について」をご覧ください)。
人間の体温は36度といわれています。36度を超せば高い体温になりますし、36度を割れば低体温になります。人間の体温が36度と決まったのは、太陽が1分間に呼吸する回数を表す18(それに合わせて人間の呼吸も1分間に18回)の、その倍の36という数字が体温の基礎数値になっているからであるといわれています。
ところで、私が親しくさせていただいており、2008年の弊所主催の年末講演会にて、「薬のいらない健康法」というテーマでご講演いただきましたイシハラクリニック院長 石原結實先生は、「身体を温める」ことについて深く研究されている先生です。ご著書には、『「体を温める」と病気は必ず治る』(三笠書房、2003)などがあり、他にも健康に関する数多くの書籍を出版されています。年末講演会で石原先生は、50年前は、大人の平均体温は36.8度、子どもは37度ありましたが、今の日本人の体温は高い人で36.2度位、多くの人が35度台にまで下がっている、とお話しされました。石原先生によると、身体の体温が1度下がると、免疫力が30数パーセント落ち、身体はマイナスのダメージを受け、病気になる頻度が高くなるのだそうです。35.5度という状態が恒常的に続くと「排泄機能低下」や「自律神経失調症状」、「アレルギー症状」が出現し、さらに35.0度まで下がると、身体の中で、がん細胞が最も繁殖する温度となってしまうそうです。このようなことからわかるように、人間の身体は「一種の熱機関」として働いているわけですから、体温は人間の健康や生命にとって極めて重要であり、強い寒さに襲われると、体温が低下して死に至ることもあるということです。どんな屈強な若者でさえ、冬山で遭難すると体温が低下して死に至ることがあるのはそのためです。たった0.5度の違いでも身体に与えるダメージは大きく、「体を温めること」は、病気を遠ざけるために極めて重要なポイントであるということです。石原先生は食べ物、飲み物を上手に摂り、体を温める生活習慣を身につけることが大切だとお話しされました。
さて、体内に取り込まれた糖、アミノ酸、遊離脂肪酸などのエネルギー基質は、各細胞の中のミトコンドリアがそれらを酸化させて、エネルギー源とするのだそうです。ミトコンドリアを活性化させるには、身体をミトコンドリアが活動する37度~39度の環境へと温める必要があります。ミトコンドリア系が優位になれば、「解糖系」ががん細胞を分裂・繁殖させてしまうことも抑えられるのだそうです。安保先生によれば、「お風呂に入ってホッカイロを貼って湯たんぽを使って24時間身体を温めれば、1カ月のうちにがんの進行は止まるでしょう。」とのことです。また、がんの化学療法である「抗がん剤」を使うと低体温になり、顔色が悪くなります。これではがん細胞がますます分裂・増殖してしまうことにつながるそうで、安保先生は「抗がん剤なんて、『増がん剤』です」ともおっしゃっていました。
低酸素・低体温を治療する方法として何があるか、安保先生にお伺いしたところ、下記の通りお教えいただきました。
(1)低酸素を治療する方法
時々深呼吸をする(対症療法)
生き方の無理をやめる(根本療法)
(2)低体温を治療する方法
からだを温める(対症療法)
ストレスを除く、体操する、日光浴(根本療法)
上記のうち、対症療法は、日頃から簡単に実践できるものですので、ブログ読者の皆さまも、日常生活に取り入れてはいかがでしょうか。(なお、「生き方の無理をやめる」ことについては、次回のブログ記事にて詳細を述べたいと思います。)
【生命の世界の本質】
さてこのように、安保先生は、私たちの身体は60兆個の細胞で構成されており、その中に性質の異なる2つのエネルギー工場を持っているというのです。そして、それは絶妙なバランスで成り立っているそうです。このバランスが崩れることで病気になるのです。何も解糖系を全く使わない(まったくストレスを感じない)ことが良いわけではなく、解糖系、ミトコンドリア系両方のエネルギーのバランスが大事なのです。安保先生は、「ストレスのない生活がいいわけでなく、楽することばかり求めても生きたことにならない。(身体の)機能を使いこなすことが重要。いわゆる『中庸の世界の本質』である。」とおっしゃっています。まことに名言であると思います。
私がお世話になっている三井温熱株式会社東京施術所所長 岩間功先生は、「三井温熱療法」で、瞬間的に訪れる強烈な熱さ、時間をかけて徐々に感じる心地よい熱さ、温かさや気持ちよさを感じる絶妙な熱などを利用して、自律神経のリハビリテーションを行っていくという治療法を実践していらっしゃいます。瞬間的に感じる熱さは受け手にある種の恐怖感を与えて交感神経の強い緊張を促し、心地よい温熱の流しや徐々に感じる熱さは安心感を与え副交感神経を促すことになるそうです。このような療法で緊張とリラックスを繰り返すことにより、自律神経に刺激を加えてバランスをとっていくそうです。この治療法こそ、『中庸』の実践であるということではないでしょうか。
三井温熱株式会社HP http://www.mitsui-onnetsu.co.jp/
なお、「三井温熱療法」によると、熱を与えた皮膚が「熱い」と感じたところ(温熱反応)を分析して、治療を施します。「温熱反応」は、「関連痛」すなわち内臓の不調が脊髄にて感覚神経に反映され、皮膚の痛みとして現れることと似ています。「関連痛」は、一種の錯覚であり、内臓の不調が脊髄内で皮膚の痛みとして伝達され、どの位置に痛みが出るかによって、どの内臓に不調がでているかが分かるものであるそうです。「関連痛」はある程度症状が進行してからでないと自覚症状が出ませんので、「三井温熱療法」では熱刺激を加えて、治療点を判断し、その箇所に熱を与えることで、次第に血流をよくするという方法をとっています。将来的には、まだ病気になっていない人、痛みが出ていない人たちが、予防医学という観点からこの治療法を捉えてほしいと、岩間先生は述べられていました。
さて、話を戻しますと、酸素を使わないエネルギー産生方法である「解糖系」は、瞬発力のエネルギーですので、アクセル全開で危機に立ち向かうことができるそうです。その時、血管の末端は無酸素状態となり、赤血球同士がくっついてドロドロになります。このことについて安保先生は、「血液ドロドロもすばらしい。血液ドロドロは、『戦いの世界』に対する身体の対応に他ならないからです。」とおっしゃっています。大事なことは、アクセル全開で働いた後に血液サラサラ(ミトコンドリア系)へとしっかり切り替えることだということです。
私は1973年(昭和48年)1月に開業して以来、年末年始も含め、年中無休で一心不乱に仕事をしてまいりました。時には親しい知人と食事をご一緒したり、旅行等にも赴いてきましたが、その間でも常に仕事・執務を忘れたことがありませんでした。特に、私の専門とする労働問題という世界は、「戦いの世界」でもありました。切り替えが大事であるということを、常々認識はしておりましたが、それを疎かにしてきたのです。やはり人間にはバランスが必要であるということを、安保先生の病気の原因論に触れ、深く考えさせられました。
安保先生はこの絶妙なバランスについて、「そうした生命の世界の本質に触れることができれば誰もが感動し、生きることのすばらしさを体感するはずです。これまでの医学には、そうした視点がありませんでした。目の前の症状ばかりに着目し、肝心の生命の世界が置き去りにされていたのです。」とおっしゃっています。
人間の力には限界があります。なぜ人間の力に限界があるのかといえば、安保先生のおっしゃる通り、人間には2つのエネルギー工場がありますが、「解糖系」という瞬発力のエネルギーによってアクセル全開で活動することを続けることはできないからです。それに人間は、「調和」を欠いては健康ではいられないからであると思います。また、人間は宇宙の小さな構成物に過ぎず、気が遠くなるほど長い宇宙の歴史、それが積み上げてきた法則にさからって生きてはいけないのであると思います。宇宙が伸縮しながら膨張し続け、そして最後には消滅するというプロセスがあるといわれますが、伸縮すること、即ち調和が絶えず必要なのでしょう。
安保先生は、ご著書『免疫革命』(講談社、2003)の中で、「何もかもが、人間の力で対応したり、適応したりできるわけではありません。そのことを、現代人は忘れているような気がします。やはり、自然の力というのは偉大です。…深い悩みから体調をくずしてしまった場合、悩みさえとれれば交感神経緊張状態から脱却できて、病からも解放されるとわかっていても、現実には悩みにとらわれてしまってうまくいきません。日常的なレベルの心のあり方では、どうしても解決できないことがあるのです。そんなときは、人間本来のもっと深い祈りにたどりついたり、あるいは伝統的文化に立ち返ることで、楽になることがあるのではないでしょうか。…そういう儀式を経ることで、悲しみから脱却したり、あるいは未来の安泰を願う心構えをつくったりしているのだと思います。たとえ科学で証明できることでなくても脱却しがたい心の苦しみから真に逃れることが目的だとしたら、そのためにできることは、積極的にとりくんでいい」と述べられています。
私は、人間の力がおよばないところに別の力、宇宙にある力が働いていると思います。人間の身体、とりわけ病気を引き起こすさまざまな要因のなかに大きく影響を及ぼしているのは、この「宇宙の力」であると思います。人間を取り巻く宇宙の調和を乱すから「病気」になります。であるからこそ、病気になると、「神にすがる」(宇宙の力にすがる)という心境が生まれるのでしょう。2011年8月2日付日本経済新聞朝刊36面「夜の祈り」という神戸大学准教授 宮下規久朗先生によるコラム(7月20日から8月2日まで同紙文化面にて連載)では、フィンセント・ファン・ゴッホ(1853年~1890年)の『星月夜』について、宮下先生は「病への恐怖や孤独の中から神を求める感情が激しく渦巻いているようだ。」と表現しています。病気になったとき、人間は宇宙の「気」、「波動」、「サトルエネルギー(微弱エネルギー)」に頼らざるをえないのが人間の本来的な姿なのだと思います。
次回も引き続き安保先生の記事を投稿し、まとめとしたいと思います。
なお、この記事をもって、本ブログ2011年最後の記事とさせていただきます。
来年もブログ記事を投稿してまいりますので、引き続きどうぞよろしくお願いいたします。
ブログ読者の皆様におかれましては、健やかなる新年をお迎えになられますよう、心よりお祈り申し上げます。