存続こそ企業の社会的責任(前半)


 

IMGP1996.JPG

2012年6月17日(日)12:35
東京都千代田区 千鳥ヶ淵交差点付近にて紫陽花を撮影

 

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<当事務所報「Management Law Letter 2009新緑号」
(2009年4月発行)の巻頭言よりほぼそのまま転載>

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【企業という存在】

 

企業とは、物の生産・商品の販売・サービスの提供等によって利益を上げることを目的とする組織であり、消費者・需要者は商品やサービスに満足すれば契約に基づいて企業等に対価を支払う。こうした一連の企業活動は日常的なことであり、会社法や商法が規定されていることからも所与の事実と認識されているだろうが、経済の担い手としての企業の存在が社会で許されている根本的な所以について、最高裁は憲法との関係で次のように述べている。

 

すなわち、「会社は…自然人とひとしく、国家、地方公共団体、地域社会その他(以下社会等という。)の構成単位たる社会的実存なのである」「憲法第3章に定める国民の権利および義務の各条項は、性質上可能なかぎり、内国の法人にも適用されるものと解すべきである」(「八幡製鉄事件」最大判昭45・6・24)とし、法人たる私企業も憲法上の権利義務の主体であることを明言し、さらに「憲法は…22条、29条等において、財産権の行使、営業その他広く経済活動の自由をも基本的人権として保障している。それゆえ、企業者は、かような経済活動の一環としてする契約締結の自由を有し…」(「三菱樹脂本採用拒否事件」最大判昭48・12・12)とし、企業の経済活動が憲法上保障されていることを指摘しているのである。

 

 

【企業の存続】

 

企業一般は、おしなべて多数の人間によって構成される協働体であり、大きな組織である。そのため、企業には株主・取引先・消費者のみならず労働者等の多数の利害関係人がいるのであり、企業は社会において単なる個人を超えた存在であって、私的存在とは言えないほどの意義を持っている(鈴木竹雄・竹内昭夫著『会社法』(有斐閣、1982年刊)参照)。そして、今では全就業者に占める雇用者の割合は86.5%に達し(総務省2009年1月発表統計※)、その比率が30年連続で上昇し続けている“雇用社会”であることからすれば、企業が存続し続けること自体が雇用の場の確保となり、人心を安定させることにもつながると言えるのである。

※なお、総務省2012年1月発表統計では、全就業者に占める雇用者の割合は87.7%にまで達している(岩手県、宮城県及び福島県を除く全国・9地域別結果)。

 

【企業の社会的責任】

 

このように、企業は憲法上も社会的実存として存在が認められ、また実際上も人心および社会の安定のために存続することが大いに期待されている。

そして、企業は社会的実存であるがゆえに社会的責任を負う。なぜなら、個人は社会の一員として当然に社会的な責任を負うし、憲法の条文上も、憲法で保障されている自由および権利は「濫用してはならないのであって、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ」(憲法12条)と規定していることから、多数の人間の協働体として活動している法人たる企業となれば大組織であり、社会に対する影響力も大きく、個人よりも格段大きな社会的責任を負うからである。ましてや、企業には経営の自由があるだけに、その責任は一層重大であり、「公共の福祉」についてもより真剣に考えなければならないことになる。

これについてはドラッカーも、「企業と社会は、企業の経営の健全性について共通の利害を有する。企業の経営の失敗は国民経済を害し、ひいては社会の安定を害する。社会は、優れた経営陣だけが実現することのできる価格政策、雇用、人事、マネジメントを必要とする」とし、企業が社会の安定と発展にいかに大きな役割を担っているか強く指摘している(『企業とは何か』第10章参照)。

 

(次回に続く)

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