[2] オンタイム
クライアントが「スピード感」「早急な回答」「迅速な対応」を求めていることは絶対に忘れてはならない弁護士の心得るべきことであろう。
そのためには、オンタイム(定刻で、時間通りに)で、期日を厳守して仕事をしなければならないことはいうまでもない。チームで仕事をするときは、各自がオンタイムで仕事をしなければならないし、関係者全員の状況にも十分配慮しなければならない(チームワークについては次回以降述べる)。
今は、株の自動取引や特許競争等々のために1秒が争われる時代となり、昔と比べて1秒の重みが変わってきたという。オンタイムで仕事を行うことは当然のことで、高度に電子化した今の社会においては、より効率、スピードが求められているので、前倒しで仕事を行うことが大切である。
私は、弁護士として仕事をするに当たって、「尽くすべきは尽くす」という言葉をモットーとしてきた。いかなる時も力を惜しまず、ありとあらゆる努力をして、最善の問題解決を図る、という意味である。
日々仕事に取り組む中では「これ以上努力しても無駄になるかもしれないな」という憶測が生じることがあり、そうなると「無意味」と決めつけ、アクションをとらなくなってしまう弁護士もいるかもしれない。
しかし、あらゆる努力を惜しまぬ姿勢を貫くこと、そして努力することをあきらめない気概によって、事態が予想外に好転し、然るべき成果を得られることもある。
このためには、つねに前倒しでスケジュールを実行し、努力を惜しまず、貪欲に仕事を追い求める精神が必要なのである。前倒しで仕事をすれば、見直し、推敲等が十分にできるから、より完璧な尋問やシナリオができるのである(昔の弁護士は法廷の当日の朝に準備書面を用意するなどということもあったそうだが、それではよい書面などできないに決まっている)。前倒しでスケジュールを実行すれば、クライアントを安堵させることにも繋がるし、自分自身の自信にも繋がる。
弁護士の書面の提出は総じて遅いといわれるが、その原因は、1つ目には多忙のため、2つ目は性格的なルーズさ、3つ目はクライアントの準備不足が挙げられるようだ。時に、相手に手の内を明かさないためという理由もあるようだが、特段の事情がない限り、クライアントのために十分な審議を尽くすべく、裁判所に対しても相手方に対しても、後述するデッドラインを確実に守って提出する、ということは最低限のルールである。さらに、通常のクライアントとのやり取りのなかで迅速に対応していくことは、クライアントの信頼を得るカギとなる。
[3]デッドライン
デッドラインとは、 新聞・雑誌などの原稿締め切り時刻を意味するが、弁護士にあっては法定期間がそれにあたるだろう。民事訴訟手続きでは、控訴期間(民事訴訟法第285条)や上告期間(同法第313条)、即時抗告期間(同法第332条)など、訴訟を続けるか否かを決する重要な期間が法定期間として定められており、この期間を守らないことにはクライアントが目指す目的を果たすことが不可能となる。デットラインを守れないというのは、クライアントのために最善を尽くすべき弁護士としては完全に失格なのである。
さて、「オンタイム」「デッドライン」について述べてきたが、前倒しで仕事をすることがそれを克服することであることは言うまでもない。そのためには、なるべく早く、極端に言えば、即時に調べたり、確認・問い合わせたりして、、それを僅かなページ数でもいいから書面にすることが大切なのである。期限ギリギリに取り組んでも、見直す時間もないし、深く調査する時間もない。毎日毎日少しずつでも書けば、前倒しで仕事をすることになるのである。
しかし、弁護士は、昼間はクライアントとの打ち合わせや裁判所への外出等でまとまった時間を取ることが難しいものである。
私は、法定期間終期の一日前に書面を提出することを常に実践してきた。どういうことかというと、先行逃げ切り型で訴訟の準備をするのではなくて、コツコツと地道に積み上げ型で訴訟の準備をすることである。もちろん期日直前になって大急ぎで書面を作る方式でないことは言うまでもない。
時には、コツコツと地道に準備を進めても、時間が足りなくなることがある。しかし、時間が足りなくなったこと自体は反省の余地があっても、この経験から、今後はより短時間で高い成果を上げられるよう段取りを工夫するということを学べばよいのである。肝心なのは、やるべきこと(この場合は書面を書きあげること)は、徹夜をしてでも期限に間に合うようにやるという執念を持つことなのだ。また、書面を書いているうちに、構成に迷いが生じたり、既に書いた部分をよりよく書き直したくなったりして、いたずらに時間を要することがあるが、その際には、途中で妥協せずに、徹夜をしてでも取り組む姿勢が大切なのである。
苦しいときも、辛いときも、やるべきことを後回しにしてはならない。特に弁護士はクライアントの代理人なのだから、やるべきことをやれていなかった場合、本人(クライアント)に対して弁解のしようがない。すぐやることを常套と心がけることである。
[4] 即断、即決
即断、即決とは、その場で直ちに決める、間髪をおかずに決断を下すという意味である。かつてドッグイヤーの時代と言われ、その後マウスイヤーの時代となったが、今は、生き残るためには、さらに未来のことを考えて瞬時に判断することが必要となっている。
しかし、このような、状況が目まぐるしく進化する時代においてもなお、日本企業は即断、即決ができていない。海外の企業から笑われているかの如く日本人は決断が極めて鈍い民族であり、だから化石のような存在だと言われてしまうのである。
弁護士は、即断、即決を迫られることがあることも意識しておかなければならないだろう。
以上