2014年10月8日(水)
東京都港区虎ノ門4丁目にてランタナを撮影
花言葉 「協力」「合意」
「人的資本の価値を高めるキャリア権」
日本の国力の劣化を社会資本という切り口からも私に意識させたのは、「このまま何もしなければ、東京オリンピック開催50周年の2014年は、同時に『日本の社会資本崩壊元年』になる恐れがある」(根本祐二氏)というコメントであった(『エコノミスト』2011年7月号)。
この記事を読み、人事・労務問題を専門とする弁護士として直感したのは、社会資本と並び国力を支えるもう一方の柱であるヒトの仕事の能力の問題であった。どれほど優秀な人材でも本気で勉強し続けなければ力が落ちるのは当然だが、能力の劣化は、建造物や道路等のよりも外見からはわかりにくい。
これより前、私は、諏訪康雄先生(現中央労働委員会会長)が大学院で教鞭を執られていた2007年7月に、先生が予てより提唱されていたキャリア権概念の存在を直接ご教授いただく光栄に浴し、この考え方を勉強して社会に広め立法化することをめざし、キャリア権研究会(座長・諏訪先生)を主宰した(2008年4月~2010年5月)。そして、研究会の成果は「報告書」にまとめ刊行した。
キャリア権概念とは、法的議論はおき、要は働く者が自らの能力を高め、個人も企業・組織も共に発展することにより、社会全体の力を高めようとする考え方である。自らの能力とキャリアの向上のために努力する個人へのバックアップを、国をあげて行う必要があるとするこの新しい概念は、当然に国力向上に資する。ただ、いくら高邁な理想でも社会に浸透しなければ意味がない。本研究会を契機にこの4月(注・2013年)にNPO法人キャリア権推進ネットワークが設立されたが、キャリア権を社会に普及するには、企業も含む万人が納得する大義名分が必要である。
この点、本や資料を乱読し模索していたところ、「日本が豊かさを維持するためには、いかに人的資本を増やすか、そのことにかかっている」という一文に、発想のヒントを得た(2012年12月28日付日経新聞夕刊「あすへの話題」青柳正規氏「国の豊かさ」)。日本は水以外の天然資源に恵まれないため、社会的に生み出した成果、いわば社会資源を富ます以外に豊かさは得られない。社会資源には、物的な社会インフラ等である社会資本と、教育や労働力等の人の価値の総和としての人的資本があるだろう。日本の人口は減少し続け、2100年には今の半分以下、5000万人足らずになるという予測もある。単純に考えても、人的資本の価値を倍増させなければ日本は今の豊かさを維持できないのだ。
人的資本の価値を高め、国としての豊かさを保つための重要な方途として、まさにキャリア権概念は位置づけられるべきなのである。こうした大きな思想の中でキャリア権を捉えてこそ、初めて、社会一般にも企業や政治家にも受け入れられる素地ができる。多くの人・組織・団体がこの考え方に関心を持ち、NPO法人の活動に参加してくださることを願っている。
◎ NPO法人キャリア権推進ネットワークwebsite http://www.career-ken.org/
※ 高井・岡芹法律事務所2013年4月25日発行事務所報「Management Law Letter」No.98より転載