評価とヒューマンワーク


 

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2014年10月26日(日)東京都港区芝公園にてアガパンサスを撮影
花言葉:「恋の訪れ」

 

※「労働新聞」2010年3月29日 第2770号「髙井伸夫弁護士の<人事労務の散歩道>」より転載

 

評価とヒューマンワーク

 

企業の労務管理が重要である理由のひとつは、労働者自身が、職場は成長の場であり仕事は人格形成に資するという意識を持っていることであろう。いかに多くの人がひたむきに生き、業務に勤しんでいることか。労務担当者が、こうした人々に報いる企業でありたいと真剣に願って努力するとき、その労務管理はヒューマニティー(仁愛)に裏打ちされたものとなり、働く者のロイヤリティーや労働生産性にも好影響を及ぼすのである。

 

それゆえに、企業の人事考課の面においても、これからは「ヒューマンワーク」を評価する視点が必須となるであろう。

 

査定の結果の数字で、しばしば落ち着きが悪いことがある。それは、評価とは本来、全人格的に360度の意識で行われなければならないにもかかわらず、各企業で一般に行われている人事評価は、数値化しやすい特定の項目についてのみデジタルに評価して、客観性を担保しているようにみせる辻褄合わせをしているからなのである。

 

こうした方法では、数値化が困難な「ハートワーク」「ヒューマンワーク」の領域の業績は勘案されにくいため、結果の妥当性も、働く者にとっての納得感も得られなくなってしまう。それでは、彼ら彼女らの仕事への意欲が向上するはずもない。

 

これからの「ヒューマンワークの時代」では、経営者の打ち立てた明確なミッションのもと、全人間性をかけてなされた働きを正当に評価して報酬に反映させなければならない。実際の現場では、無意識的であるにせよ、業務遂行に当たって体現された「ヒューマンワーク」を、調整給の根拠のひとつとしているだろう。

 

「一生懸命は万策に勝る」とは、(株)コーセー執行役員荒金久美氏(注:役職は当時。現在は取締役)が、大学の後輩達に向けて語られた言葉であるが(赤門学友会報「懐徳」2009年6月号)、企業の評価制度は、こうした一生懸命に仕事に取り組む姿勢とそこから生まれる成果の広がりを、最も重要な評価対象としなければならないのである。

 

さて、日頃から「ヒューマンワーク」を実践している人は、雇用契約のもと働いていても、時間労働的な思考から自ずと脱却し、クライアントや相手を満足させることを旨とする請負労働的な思考・働き方をしている。「ヒューマンワーク」は時間労働の枠に収まらない概念でもあるため、その実践者にとっては、残業時間という定義自体がナンセンスだろう。

 

仕事に携わる時間の長さのみをもって長時間労働の弊害を説くことは愚かである。粉骨砕身の働き方をしてこそ初めて自己実現を果たす場合があることは紛れもない事実であり、それを規制しては本人の成長を阻害する。立法論として、将来的には残業時間のとらえ方自体も根本的に変える必要があるだろう。

 

ただ、「ヒューマンワーク」を極めようとしてもできないことに挫折し、組織・集団からの落伍や淘汰の恐怖に襲われ、人によっては精神疾患に陥る危険があることも忘れてはならない。働く者が自己保健義務の一環として自らの健康に留意し、使用者もこれに配慮することは重要なことである。

 

今のような先行き不透明な経済状況では、人も企業も差別化が求められる。「ヒューマンワーク」の概念は、不況の時代にこそ確固たる評価基準として機能するといえる。

 

 

以上

 

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