2015年12月25日のアーカイブ

第12回 高井先生言行手控え


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2015年12月7日(月)7:32 中目黒公園にてスイートアリッサムを撮影
花言葉:「優美、美しさに優る価値」 

 

 

築地双六館 館長
公益社団法人全国求人情報協会 常務理事
吉田 修

 

■高井先生と「蝉しぐれ」

「いちめんの青い田圃は早朝の日射しをうけて赤らんでいるが、はるか遠くの青黒い村落の森と接するあたりには、まだ夜の名残の霧が残っていた。じっと動かない霧も、朝の光をうけてかすかに赤らんで見える。そしてこの早い時刻に、もう田圃を見回っている人間がいた。黒い人影は膝の上あたりまで稲に埋もれながら、ゆっくり遠ざかって行く。」

(藤沢周平「蝉しぐれ」より)

高井先生は、藤沢周平とりわけ、この蝉しぐれの描写が大好きであると伺いしました。この文章には、日本人の心の中にある自然の原風景があり、古代から連綿と続く人と自然のあり様がイメージ豊かに描かれています。

高井伸夫、1937年(昭和12年)三重県生まれ。先生の何かの文章に「子供の頃は、朝から晩まで自然のなかで遊んでいた」とありました。

豊かな自然の中で育った郷愁とその中にいる自分の存在のイメージが一定の湿度と温度で今日まで先生の中に保たれていたことがわかります。それは、1937年生まれという時代のアイデンティティーもあるもしれません。ちなみに、1937年生まれの方々は以下の通りです。塩野七生、養老孟司、庄司薫、出井伸之、河野洋平、浅井慎平、 加山雄三、伊東四郎、笑福亭仁鶴、平尾昌晃、森祇晶、コシノ ヒロコ、モンキー・パンチ、ロバータ・フラック、 ジャック・ニコルソン、モーガン・フリーマン。。。

いつまでも、元気でかつ現世代に影響を与え続ける存在でいていただきたいと切に思います。

 

■人・仕事・経営、 私が、今、気になっていること

「高井先生言行手控え」は最終章を迎えました。前編として、「人・仕事・経営、 私が、今、気になっていること」のテーマでの先生へのインタビュー記事を2回に分けて、後編では、「高井先生を読み解く10の質問」として即答いただいたご回答をお届けいたします。「考え抜く知性」がここにあります。日本の労働市場の行く末に心悩ましているすべて方にお読みいただきたいと思います。

 

■非正規社員の増加が一番気掛かり

Q1:先生が今、大変、気になっていることを以下の観点でご教示ください。

①   働く人(求職者)について気になること

働く人に関して私がいまもっとも気になっているのは、非正規社員が増え続けているということです(図①)。
非正規が4割になったという厚労省統計(図②)が先日話題になっていましたが、非正規が5割を超えたら、格差問題は各世 代でますます深刻化し、社会の不安定感はさらに強まるのではないかと憂慮しています。それが社会不安(たとえば、残虐性の高い事件が多くなった、薬物関係の事件が頻発し低年齢化している、公務員・教師の事件が多くなった、農業人口が低下し続けている、離婚が増加している、メンタルヘルス疾患の問題が広がっている、うつ病患者が増加している等々)となり、日本社会の安全を阻害する要因になる可能性すらあると思います。

 

図①

正規雇用と非正規雇用労働者の推移.jpg厚生労働省 「非正規雇用の現状と課題」より作図



図②

正規非正規割合 .jpg

厚生労働省 平成26年「就業形態の多様化に関する総合実態調査」(平成27年11月4日発表)のデータより作図

 

・ 非正規が増えている要因はいろいろあると思いますが、第一に、社会の少子高齢化によって需要が減少している(市場が縮小している)にもかかわらず生産設備が削減されていないという状況のなかで、企業は競争社会にありますから、より良いものをより安くということになると、人件費を削減する以外にないということになります。

そうすると、企業は、正社員を雇えなくなり、非正規社員で間に合わせるということになります。そのため非正規社員がどんどん増えて、正社員がどんどん減るということになります。その結果、働く者、求職者の不公平感が強まるということになります。

付言しますと、日本企業は、人件費の安価な海外の進出先(新興国)には設備投資をして、最新の設備にして生産活動をしていますが、国内では設備投資をする余力がないために設備は更新されずにどんどん古くなっています。古い設備では生産性が劣るために、海外での最新設備での効率の良い生産よりも国内での生産が高くつくことなり、国内では人件費にしわ寄せがきます。その結果、今後、時間が経つにつれてますます非正規社員が増えることになります。

 

・日本で昔から 「貧しきを憂えず、等しからざるを憂う」という言葉があります。出典は『論語』の季氏篇です。「有國有家者、不患寡而患不均、不患貧而患不安。」国を有(たも)ち家を有(たも)つ者は、寡(すくな)きを患(うれ)えずして均(ひと)しからざるを患え、貧しきを患えずして安からざるを患う〕が原典の意味合いですが、日本では、「結果の平等」と「機会の平等」の問題として語られてきました。

たまたま見つけた昭和6年(1931年)6月5日付け「大阪毎日新聞」の「官吏の減俸問題」を扱った論説記事にも、「貧しきを憂えず均しからざるを憂う、と古の賢人はいった。誠に人間心理を道破したものであって、現代社会の深憂はここにある。」と書かれています。この年の2年前に世界大恐慌が起こり、この年の9月に満州事変が起こりました。日本も世界全体も大不況のまっただ中にあった時期です。

非正規の増加は、この時代と同じ状況を招くかもしれません。格差が拡大し、不公平感がますます高まり、社会不安が日本の社会にどんどん強まってくるのです。それは、前述のとおり、日本の国としての安定性を失わしめることになります。

 

・ 非正規社員の増加による社会不安を克服する方策は「同一(価値)労働同一賃金」概念を法定することだと思います。法定化の結果、日本の労働者全体の賃金が全体的に低下することは不可避ですが、「貧しきを憂えず、均しからざるを憂う」という精神からいえば、「同一労働同一賃金」概念は、極めて理にかなった方策だと思います。ただし、これには労働組合が強く反対するでしょう。なぜならば日本の労働組合の大半は、正規社員で構成されているからです。

 

・ 非正規問題の次に気になるのは、女性管理職の少なさです。11月19日(木)の新聞で、世界経済フォーラムが発表した資料で、「男女平等ランキング」で日本は101位という記事がありました。

日本人の国民性だと思いますが、日本の女性は管理職になりたがらない傾向があります。それは周囲との軋轢を憂慮してのことです。女性は、目立ちたがりやになれないのが一般です。

それを克服するには、経営トップが、社内全体に対して、「残業・出張はしなくてよい」「結果を出してくれれば労働時間は問わない」ということを言い続けることです。そして、「あなたは過去◯◯という場面で成果を出してくれた」ということを強調し、あるいは「◯◯で業務改善してくれた」ということを言い続けることです。そして、「同僚もあなたを認めている」ということを言い切ることです。

また、女性が管理職になりたがらないのは、周囲との軋轢を憂慮するだけでなく、家庭のことを重んじて仕事のみに熱中できないこともあるのではないかと思います。

特に子育て中は時間の拘束を厭うという傾向が強いことは言うまでもありませんし、子育てが終わった頃に親の介護が始まるという巡り合わせもあります。共同体社会がほとんど崩れてしまった日本では、敢えて行政が共同体と同じ役割を果たす仕組みを作出して、女性への厚い支援をおこなわなければ、女性は安心して働くことはできないと思います。

 

・ 第三には、社会の多様性に応える土台作りの必要性を感じます。社会には、さまざまな生き方、さまざまな働き方のニーズがあります。多様性の時代です。多様性の時代にはそれぞれのニーズに応え、土台作りに真剣にならなければならないと思います。

その土台作りのひとつの方策としては、幼児・小学生・中学生の時代からキャリアというものを意識させ、これに向かって幼児・児童・生徒・学生が努力するシステムを構築することが重要であると思います。

具体的には、インターンシップ、エクスターンシップ等にはじまり、さまざまな過程が考えられます。遊び心も刺激するような、キッザニア等の施設で、子ども職業体験を充実させることも重要でしょう。これは厚労省としてすぐにでも取り組むべきことです。

 

・ ITからAIあるいはロボットやIOTという時代になってきますから、ヒトにしかできないことに注力することが、若いときから必要だと思います。それにはまずはAIやロボットに、若いとき、幼児・小学生・中学生の頃からなじむこと、そしてそれに慣れてそれを超えるという姿勢を貫くことが必要です。厚労省もAIやロボットに関する児童見学会を企業に義務付けることが必要でしょう。

 

・ 「世界でのビジネス競争」という時代になってきましたから、ソロバン勘定だけでは競争に勝てません。論語の世界ということです。「論語と算盤」(渋沢栄一)という言葉がありますが、論語、要するに「道義・道徳・道理」を教えこむことが必要です。そのためには企業の就業規則その他にそれを明示することも必要でしょう。

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