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2015年11月22日(日)8:03 早稲田鶴巻町507にてホットリップスを撮影
花言葉:「知恵、尊重」 

 

 

第1回 下学上達(かがくじょうたつ)
(『労働新聞』平成27年1月26日より転載) 


私の関心事はいろいろあるが、その最たるものは古代史と絵画である。仕事で手詰まりになったときほど、こうした専門外の分野に触れて思考をいったん解放しリフレッシュする効用を、強く実感したものだった。また、ジャンルを問わず手当たり次第に小説を乱読することも、私の大切な趣味のひとつである。一切の先入観を持たずに作家の創造した世界に没入し、時空を超えて心を自由に遊ばせる感覚は、読書から得られる最高かつ唯一無二の愉しみであるといってよいだろう。

 

最近では、帚木蓬生(ははきぎ・ほうせい)氏の作品群を堪能し、そして学んだ。例えば、日本の2~3世紀の古代史を扱った小説『日御子(ひみこ)』には、倭国(日本)の伊都国から漢(中国)への朝貢に通訳として加わった日本人男性が、現地の役人から論語の「下学上達」という言葉を教えてもらう場面が描かれていた。「下学(かがく)して上達(じょうたつ)す」と読み、その意味は「日常の身近なところから学んで、次第に深遠な学問に進んで行くこと」(『広辞苑』)、「自分より身分・年齡・学識などの低い者からもきいて学び、どんな卑近なこともおろそかにしないで、一日一日上達していく」(諸橋轍次著『中国古典名言事典』)などとされている。この小説で初めて知った言葉である。

 

普通に考えると、「下を見ずに上を向いて生きなさい」というように、向上心を刺激する教えのほうが一般的かもしれないが、孔子は、まずは地に足をつけて学びを着実に蓄積することで道を究めなさい、それが天にも通ずる道なのだといっているのであろう。

 

私の専門分野である人事・労務問題にも、「下学上達」の心構えが求められる。基本書や裁判例を熱心に勉強して法理論を頭では理解していても、組織を構成する千差万別の価値観を持つ多数の人々に対応する段になると、当然のことながらまったく勝手が違うものだ。人事・労務はヒトの問題を扱う領域であるだけに、日頃から視野を広くもって、小さなことでも深く一生懸命に勉強し、例えば関連する些細な言葉でも突き詰めて調べて考えるような「下学上達」の姿勢がなければ、関係者を納得させられるだけの説得力や迫力が出てこない。

 

経営状態の悪化に伴い、やむなく賃金の引下げあるいは人員削減を実施しなければならなくなった経営者から、法律相談を受けたとしよう。弱り切った経営者を前に、法律の条文や「合理性」「必要性」「相当性」「手続の妥当性」などの硬い言葉だけを羅列しても、問題解決にはつながらない。経営者が一番悩み、気がかりに思っている本音を引き出し、相手の心に響く表現で問題点を明らかにしていく手腕が必要とされるのである。そして、反対派の人々に対しても、企業存続こそ経営者の社会的責任であると正攻法で説き、「やむなし」と思ってもらえるだけの大義名分を語る能力がなければならない。こうした手腕や能力は一朝一夕には身につかないものだ。しかし、日頃から「下学上達」を実践していれば自ずと体得できる。

 

「生活から切り離された知識は活きてこない」とは、外山滋比古先生(英文学者・エッセイスト)の名言だが(『週刊文春』対談記事など)、これも「下学上達」と相通ずる指摘だと思う。人事・労務問題に携わる方々は、身近な細かい事柄を疎かにせずに「下学」し、「上達」してもらいたい。

 

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