2015年12月7日(月)7:34 中目黒公園にて楓を撮影
花言葉:「大切な思い出、美しい変化」
2004年9月から2005年9月にかけて、上海のフリーペーパー「コンシェルジュ上海」に小生が連載として書いたものです。10年の年月が経ちましたが、原文通り転載しました。当時としては斬新な内容であったかと思いますが、多くが今でも通用する要諦であると考えております。
例をあげれば、日本企業は中国企業との取引において、全部疑うか、完全に信じてしまうかと二者択一に偏ることが多く、あいかわらず、「中国人は信用できない」とぼやく企業があとを絶ちません。過度に疑うことなく、また、過度に信じることなく、冷静な対応が健全な取引が継続する鍵となることは今も昔も同様です。
また、中国では個人主義も強まることすらあれど、集団主義的な要素は殆ど見受けられません。10年前と比べ、中国の台頭が顕著になった今、巨大市場を有する中国と、冷静かつフェアに付き合っていくために本稿が何らかの参考になれば幸いです。
『日本人と中国人 第1回』
■ 日本、中国両国間の国民性や文化の相違を把握し、理解と友好を深めるため、日中各分野で活躍する知識人、経済人が指南する連載リレーコラム。第1回目は弁護士の高井伸夫氏。氏は、日本で弁護士業務や執筆活動の傍ら、02年に上海高井倶楽部を発足、日中友好に尽力を尽くしている。
中国に進出した日本人・日本企業の多くが、「中国人は信用できない。中国人に騙された。裏切られた」とぼやいているのをよく耳にする。しかし、私は中国人が必ずしもそのような民族ではないということを日本人・日本企業に説き続けている。そもそも、日本人がこのような認識をもつに至ったのは、日本人と中国人の民族性の根本的な違いを理解しないことが大きな原因であると言えるだろう。
中国人はひとにぎりのバラバラな砂
孫文先生(1866~1925)は『三民主義』の中で、「中国人はひとにぎりのバラバラな砂である」との論説を紹介した。つまり、乾いた砂は決してくっつかず、石にも岩にもなり得ないということである。一方、日本最初の憲法である聖徳太子の17条憲法第1条には、「和を以て貴(たつと)しと為す。忤(さから)ふこと無きを宗とせよ」の一節がある。島国日本は、天皇制を軸に国に対する信頼と国民同士の結束を営々と強め、結果として集団主義が形成されてきた。ところが、大陸国家の中国は古来より異民族との葛藤が絶えざる課題であった。王朝も絶えず変転し、漢民族が異民族に支配される時代も多かった。モンゴル民族による元王朝(1271~1368)や、満州族による清王朝(1636~1912)がその代表である。このような中国の地理的・歴史的プロセスから、漢民族は「国民」という概念をもち得ず、「人民」という概念をもつに至り、ここに中国人が個人主義となった所以があるのである。
個人主義の中国、集団主義の日本
しかし、個人主義はなにも中国人特有のものではない。他民族の支配を受けやすい大陸国家、即ちヨーロッパ諸国や、移民で結成されたアメリカもまた同様である。このように、世界の民族の大部分が個人主義であるのに対し、島国であるが故に他民族からの侵略を受けることなく、日本国土を脈々と支配し続けてきた日本民族は、世界の中でも珍しく集団主義の国なのである。
日本の契約書の中には必ずと言って良いほど「甲と乙は、信義に基づき誠実にこの契約を履行する。そしてこの契約に定めのない事項が生じたとき、又は、この契約各条項の解釈につき疑義の生じたときは、甲乙各誠意を以て協議し、解決する」の一条項を加える。ところが、中国人は個人主義という民族性から、権利の極大化と義務の極小化を図ることがすべての局面において大前提となる。よく日本人は、「中国人と契約しても契約を守ってもらえない。代金を支払ってもらえない」と嘆いている。しかし、代金を極力支払わないということは彼らが義務の極小化に努めた結果であり、民族性に適ったごく当たり前の言動と言えるのである。そこで、日本人経営者や財務担当者は、この点において抜かりのないよう慎重を期し、結果として契約書は詳細でかつ多義的解釈を許さないものでなければならないことになる。
さらに、日本企業の商品・サービスが、中国において日本と同様に受け入れられる為には、それらが揺るぎない価値を有するものであることが不可欠となる。つまり、中国人の権利の極大化に役立つものでなければならないということである。義務の最小化を前提とする中国人に対し、現金を提供してまでも、その製品・サービスを受けたいと動機付けでき、義務の極小化ということを忘れさせることが必要となる。
個人主義は中国社会のシステムや習慣の中にも度々見られる。例えば、中国人が自動車を我勝ちに走らせることは権利の極大化に、交通ルールが守られないことは義務の極小化に拠るものと言ってよい。また、個人主義の延長線上に家族主義、地方保護主義、さらには人治主義があるのである。紹介手数料も結論的に言えば個人主義に拠るものと言えるだろう。中でも個人主義がよく反映されているものは、夫婦別姓であろう。日本では民法750条において、夫婦同姓が義務付けられているが、中国では結婚しても夫婦の姓は同一とはならない。
このように、我々日本人の多くが頭を抱える中国人との様々なトラブル、葛藤の多くは、民族性の違いについての我々の理解不足に端を発しているといえるのである。
上海高井倶楽部
02年、高井伸夫氏により発足。上海に赴任・駐在、または、それを計画中の日本人が成功できるよう3か月に1度研究会を開催し、先輩・同輩・後輩間で知恵と知識を共有するとともに、後進にも提供する相互扶助的な非営利組織を構築することを目的とする倶楽部。理事に大手企業総経理や医師・研究家がいる。