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2016年2月26日(金)8:02 芝公園にて菜の花を撮影
花言葉:「快活、明るさ」 

 

 

第6回 同一労働同一賃金
(『労働新聞』平成27年6月22日より転載) 

 

世の中の不公平の最たるものは、同等の仕事をして同じような成果を上げながら一方が他方より低い評価を受け、低い賃金しか得られないことではないだろうか。これは、労働の場面における人間としての尊厳に係る問題ともいえるであろう。

 

正規社員と非正規社員との格差問題を考えるとき、私はILOが提唱する「ディーセントワーク」(働きがいのある人間らしい仕事)という言葉を思い起こす。社会的存在である人間は、深層心理で他者から評価されることを願う習性を持っている。それゆえ評価は何より向上心につながり、個々の能力を高める起爆剤にもなるのである。同じ職場で能力不足の正規社員と同じ仕事をして同等かそれ以上の成果を上げていても、非正規社員という理由だけで生活に窮するような低い賃金となれば、人間としての誇りが損なわれ士気が下がるのは当然のことだ。

 

労働基準法は、3条および4条で労働者の賃金等の差別的取扱いを禁じているが、法文上はいわゆる同一(価値)労働同一賃金の原則は定められておらず、パートタイム労働法にも同一労働同一賃金の文言はない(今国会に民主などの野党3党が提出した通称「同一労働同一賃金推進法案」にもこの文言はない)。

 

しかし、この概念は、同じ働きをした場合は同じ評価・処遇を受けるべきであるという労働の根源的テーマである以上、遠からず法文化されると私は思っている。もし法文化されると、企業の現場では成果主義的賃金体系がより一層強調され、当然のことながら正規社員の平均賃金は下がる。このことに皆は気付いているだろうか?成果主義の事務職の評価は非常に難しいが、「透明性」「報われること」を念頭に、社員誰もが見える公正・公平・公明なシステムを採るべきであろう。

 

均衡待遇のもとでは、雇用関係解消の場面でも均衡が求められるようになり、不況時の人員削減の場面で非正規社員であるがゆえに正規社員よりも先に解雇されるという構図は論理的に否定される。さらにはそれと表裏一体のこととして、正規社員の解雇についても然るべき理由があれば解雇をより可能にする方向が今以上に意識されざるを得ないのではないか。

 

ところで、同一労働同一賃金を実現するためには、「職務」の内容を明らかにして「職務給」に移行する手続きが必要である。この点、企業経営者も労働組合も同一労働同一賃金の実現に消極的で従来の「職能給」を維持したいために、企業は職務説明書の作成に熱心ではないようだ。昨秋の臨時国会では、安部首相も塩崎厚労相も、職能給を前提とする日本の労働市場のあり方を追認するが如き発言をしている。

 

一方で、厚労省は「職務分析実施マニュアル」を出し職務説明書の作成を慫慂しているが、私の知る限りではほとんど活用されていない。パートタイム労働法で正規・非正規の均衡・均等待遇をめざす施策とセットとなるものだろうが、行政として本腰を入れているのか甚だ疑問である。ILO憲章前文に「同一価値の労働に対する同一報酬の原則の承認」と明記されていることを、日本政府としても重く受け止めなければならない。

 

目覚めていない企業経営者や官僚は同一労働同一賃金の実現に反対するだろうが、結局は時代の変化に抗しきれないと思う。問題はその先見性を誰が発揮して、旗振り役を担うかということなのである。

 

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