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2016年5月14日(土)10:51 上信越道横川SAにてデルフィニウムを撮影
花言葉:「清明」

 

 

第5回 注目すべきキャリア権
(2008年2月4日転載) 

 

 

今後の労働政策の中心

現代社会における「キャリア権」概念が、企業の人事労務関係・労使のみならず「働くこと」のあらゆる局面で検討されるべき重要なテーマであることは十分にお分かりいただけたと思う。「キャリア権」概念の今後の課題は、これを社会的にいかに認知させ法的にも実効性のあるものとして根づかせていくかということである。その前提として、今後は労働事象の万般において、「キャリア権」を十分に意識した判例理論の構築と労働法学説の再構築が必要となる。

 

人事権という概念は労働関係実定法には登場しないが、企業において組織法的展開が不可欠であるというところから実務上も判例上も認知されてきた経緯がある。このことは、キャリア権にも同様に当てはまるであろう。

 

実定法上は、雇用対策法等々にキャリア権の理念が登場し始めており、例えば募集採用における年齢制限を禁止している改正雇用対策法(2007年10月1日施行)の例外事由を定める施行規則1条の3第1項には、「長期勤続によるキャリア形成を図る観点から、若年等を期間の定めのない労働契約の対象として募集・採用する場面」(同3号のイ)等と明記されるなどしている。今後は、キャリア権は判例法あるいは学説等においても大いに認知され、労働関係の現代化を図る有力な武器として機能させるべきなのである。

 

▽「キャリア権」を肯定するシステムの構築を

「キャリア権」については、判例・学説・法制度・労働政策等が牽引役となって、「キャリア権」を肯定する社会的なシステムを構築しなければならない。さもなければ、「キャリア権」は個別企業からの忌避に遭い、決して実現し得ないだろう。まずは「キャリア権」を積極的に認定する方向に国が動き、一定のキャリアを構築した者には対価(然るべき給与)が保証されるシステムを構築しなければならない。厚生労働省の役割はこの点にこそあり、今の時代にあっては、労働組合問題等は二の次のテーマとなろう。即ち、個人の価値を増殖することにこそ、今後の労働政策の中心があるからである。

 

「キャリア権」を実効性あるものとするためには、「キャリア権」自体についての公認制度を定めなければならないと言える。この点、2007年11月16日に発表された厚生労働省「キャリア・コンサルタント制度のあり方に関する検討会」報告書(座長・諏訪康雄教授)は、働く者のキャリア形成の重要性を念頭に置き、専門職としてのキャリア・コンサルタント制度の構築を正面から提言している。

 

キャリア・コンサルタントとは、職業能力の向上や能力形成をめざす個人の抱える課題に対して、相談・支援を行う専門職である。2006年度末でキャリア・コンサルタントは4万3000人に達したというが、現状では、公的位置付けが与えられているとはいえ各養成機関による民間資格であり、玉石混交の感は免れないであろう。

 

同報告書は、キャリア・コンサルタントの「成果イメージ」を十分に描き切れていないとの指摘は聞かれるものの、統一的なキャリア・コンサルタント制度構築の意義を示したうえで、技能検定・能力評価制度的な統一的試験の導入を提言している。キャリア・コンサルタントに、「一定の能力水準にあることを公証するシステム」を用いることは、キャリア権概念を社会的に深化させ展開していくうえで極めて重要な具体策であろう。

 

非正規社員も対象に

▽企業と個人に求められる意識

キャリア権の社会的展開を考えるうえでは、次のことが因子になる。

 

第1に、企業の持つ風土・価値観等との、いわゆる相性(マッチング)の問題がある。個人も企業も、各々を取り巻く外部環境との互恵的関係を成立させなければ、「キャリア権」を認めたとしてもキャリアを通じた個人の幸せへはつながっていかない。

 

第2のテーマとしては、(1)個人に対しては「あなたは思想・信条・働き様・生き様等の働く価値観を他人に伝えられる明確な言語として保持しているか?」、(2)企業・組織に対しては「あなたの企業・組織は事業・ビジネスを行っていくうえでの価値観・こだわりを持っているか?」ということになろう。そして、個人は自己責任において、働く上でのWILL(夢・志)とCAN(強み・持ち味)を明確化せねばならず、企業は個人に求めるMUST(何をして欲しいか)の背景・必然性を人間社会および自然環境に対する価値貢献について明確にしなければならない。

 

▽安全配慮義務の上位概念

職人気質という言葉に代表されるように、日本人は昔から技を磨くことに熱心であった。これはまさにキャリア形成を意味している。企業の寿命が短くなってきた昨今、労働者のキャリア権の発揮のために企業は、社会人になってから学習の機会を求める労働者に、その機会を付与しなければならない。現在では、企業における夜学への通学の配慮が現実的課題として労務管理上しばしば登場しており、それを認めるべき方向に行きつつあることを労働専門家である者は誰しも気づいている。

 

「キャリア権」とは、安全配慮義務の上位概念である労働関係の保護義務が、本質的かつ具体的に展開された概念であると考えられる。労働者が職業能力を向上させキャリア形成をすることは、労働関係の本質的要素である人的・継続的な信頼関係を基礎として労働者に認められる利益である。このことは単に正社員だけの問題ではなく、非正規社員にも認められるべきテーマである。

 

企業は極力尊重すべき

本稿(上)で言及したとおり、「キャリア権」は労働権(憲法27条1項「勤労の権利と義務」)を踏まえた「職業選択の自由」(同22条1項)とも深く関係する。職業選択の自由のもともとの意義は、職業が生まれつき決まっていた身分制度を旨とする封建社会を否定する点にあるが、判例・学説によって企業と従業員間等でも保障されるべき権利となっている。そしてこの条文を現代的に読み替えるならば、その淵源は人間が仕事・職業を通じて人格形成を遂げることの重要性を明示した点に求められる。これこそが、職業選択の自由の根本的意義であると思われる。

 

そして、これをさらに推し進めれば、自由主義国家においては、自己責任でキャリア形成即ち人格形成を図っていかなければならないという当然の事柄を国民に示したということになろう。その結果、今後ますます企業は、従業員のキャリア権を極力尊重することになり、キャリアに対する配慮義務はいよいよ高まっていくことになろう。

 

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