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右上から時計回りに
2016年6月19日(日)10:36国立新美術館にてくちなしを撮影 花言葉:「優雅」
2016年6月19日(日)8:23九段北4にてアガパンサスを撮影 花言葉:「恋の訪れ」
2016年5月29日(日)11:20栃木県足利にてカシワバアジサイを撮影 花言葉:「慈愛」

 

 

第6回 ハートワーク時代のメンタルヘルス
(2008年4月28日転載) 

 


厚生労働省の「国民(成人)の2人に1人は過去1カ月間にストレスを感じており、生涯を通じて5人に1人が精神障害と診断され得るという調査結果もある」(2006年3月「平成17年度職場におけるメンタルヘルス対策のあり方検討委員会報告書」中央労働災害防止協会)とのショッキングな報告を紹介するまでもなく、程度の差こそあれ、メンタルヘルスの不調が自分自分や職場の同僚等にも普通に起こり得る身近な問題であることは、誰もが体験的に感じているであろう。企業からのご相談においても、メンタルヘルスの不調から問題行動をとる者、休職する者、あるいは休職期間を終えて復職する者等々に関する内容が、実感としてここ4~5年急増し続けており、一向に収まる気配がない。また、精神障害と自殺の強い相関関係が指摘されるなか、2006年の自殺者は3万2155人で、そのうち企業等組織で働く者(管理職を含む)の人数は8790人に上っている。これら労働者が全体の25%前後を占めるという比率はほぼ一定であるが、数は増加傾向であり、企業等で働く者の自殺者数は1978年よりも3000人以上増えている。

職場のメンタルヘルス問題は働く者のモチベーション如何に直結し、企業の労働生産性をも左右する経営の重大テーマの一つなのである。

 

働き方の進化と関連性

精神障害を引き起こす一因として一般にあげられるのは、長時間労働の弊害である。「電通事件」(最判平12・3・24)では最高裁も「労働者が労働日に長時間にわたり業務に従事する状況が継続するなどして、疲労や心理的負荷等が過度に蓄積すると、労働者の心身の健康を損なう危険のあることは、周知のところである」としている。確かに、慢性的な長時間労働が心身を疲弊させることは事実だろう。しかし、私が機会あるごとに述べているように、昔の労働時間は現在よりも確実に長かったが、職場で精神障害の問題が生じるのは稀なことであった。なぜだろうか?労働時間の長さだけでは、メンタルヘルスの問題を説明できない。最近は総じて以前よりも人間関係を結ぶのが不得手になり、IT発達の影響で多面的な血の通ったコミュニケーションをとる能力が低下していることやストレス耐性が劣化していること等が社会的背景として語られるが、それのみならず、精神障害の問題は労働の進化と関連性があると私は考えている。

 

労働は、主に手足を使う労働・肉体労働がメーンである「フットワークの時代」から、頭脳労働・知的活動がメーンである「ヘッドワークの時代」に至り、さらに主に心を用いることが重要な要素である「ハートワークの時代」へという変遷をたどってきている。それゆえ、「フットワークの時代」には、肉体労働を長時間続けても精神的疲労につながりにくいが、「ヘッドワーク」「ハートワーク」の長時間労働は精神的負荷となるという対比が認められるだろう。

 

社会は「フットワークの時代」から「ヘッドワークの時代」を経て、今まさに「ハートワークの時代」を迎えようとしている。これからの社会では「良心・善意・成長」を旨とし、心を大切にすることに価値が置かれる。「良心」とは、自分の心に恥じない姿勢で生きることであり、「善意」とは他人の心を慮って行動することであり、「成長」とは自分自身はもちろん周囲の関係者にも成長を促し、向上心が促され、それぞれの自己実現への欲求に満足感を与えることを意味する。即ち、企業活動においても心の働きが重要な役割を果たすようになるが、そのような性質の労働を続けていると、野球のピッチャーが投球過多で肩を壊すのと同様、心が壊れやすくなることになる。

 

企業活動におけるハートワークの基本は、まずは競争下に生き続けるということである。社会でも企業でも秩序形成のためには、順位付けが必要となる。これは動物も同様で、例えばボス猿という大将がいて、群れの順位付けが整い初めて猿の社会の秩序が保たれているのである。しかし、社会で競争がなされ順位付けが行われると、人間は悲しいかな、敗北の不安感と淘汰の恐怖に苛まれ、その状態が長くなれば挫折することになる。そして、敗者は打ちのめされるのである。

 

ハートワークのこうした競い合いが激しくなればなるほど、“ハートが壊れる”事態は一層強く招来されるのである。もち論、「ヘッドワーク」=頭脳の酷使によって、“頭が壊れる”こともある。これまでは、ヘッドワークの過重の結果もたらされる異常をもって精神障害とされてきたが、精神障害はそれだけではなく、ハートワークの時代には、ハートが壊れると言うこともまた精神障害であると意識しなければならないのである。

 

「ごちゃまぜ」精神医学

つまり、精神障害はヘッドワークの障害とハートワークの障害であることになるが、今の精神医学はこの区別を明確にすることなく、ごちゃまぜにして対処してきている。しかし、ヘッドワークの障害とハートワークの障害とを見極めて、それぞれの対処法を確認していく手続きが必要なのではないか。さらに言えば、ヘッドワークの破綻とハートワークの破綻とはそもそも異質のものであるから、その違いを意識して精神障害の治療は始められるべきではないだろうか。これは門外漢の発想かもしれないが、優れた専門医に私のこうした疑問を率直にお尋ねして教えを乞うたところ、最終的には患者さんの個別性が最も重要であるというご指摘のもとに大いに賛同していただけた。

 

専門医の分析によれば、(1)ヘッドワークの加重は精神機能の変調を引き起こし、主に精神科で治療されるべき病気(統合失調症・躁うつ病・うつ病等)をもたらす。これらには、薬物療法主体の治療が必要とされる。(2)ハートワークの加重はストレス関連障害や摂食障害、あるいはうつ病等を引き起こし、主にカウンセラーや心療内科で治療されるべき病気(セクハラ・パワハラを含む)をもたらす。これらには、カウンセリングなど心理的治療が必須であるという。

 

そして興味深いことに、休職後の復帰では、フットワーク⇒ヘッドワーク⇒ハートワークの順で行わせるのが一般的であるという。つまり、労働の進化のプロセスを踏ませるというわけである。

 

次回は職場におけるメンタルヘルスの問題として大きなテーマとなっている職場復帰・リハビリ勤務問題を取り上げたい。

 

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