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2016年7月3日(日)7:36 山の上ホテル付近にてアンスリウムを撮影
花言葉:「煩悩、旅立ち」

 

 

第8回 ハートワーク時代のメンタルヘルス
(2008年5月12日転載)

 

 

企業や働く個人にとって最も重要なことは、常に前進し成長を果たすことである。そして、組織体である企業は多数の労働者の統合があってこそ初めて成果を生むシステムであるから、ヘッドワークおとびハートワークの競争を繰り広げている彼らの能力を、組織体として最大限に発揮させるための労務管理を推進することが必要になる。

そこで最も重要な役割を果たすのが、管理職教育である。大切なのは部下に対する「ほめ方」「叱り方」の能力である。失敗をした部下を叱り飛ばすだけの管理職は無能である。成長につながる励まし方ができなければ、結局は成果に結びつかない。その意味で、管理職には心理学の勉強が必須であると言えよう。

上司の言動による部下の自殺(パワハラ自殺として取り上げられた)に業務起因性を認めた判決が昨年立て続けに出されている(東京地判平19・10・15、名古屋高判平19・10・31、大阪地判平19・11・12)。企業における心の問題を考える場合、管理職の「ほめ方」「叱り方」教育がいかに重要か、司法も警鐘を鳴らしている現状にある。

 

脱落者の増加が顕著に

企業における労務管理の要諦である教育・矯正は、「教育」「指導」「注意・警告」の過程を経て、教育・矯正措置を超えた「懲戒」の段階に至る。教育は集団を対象とした指導・教育であり、指導は個別教育であり、注意・警告は叱責という分類になる。仕事を通じて馴染んだ公務員関係の労働法で、公務員には「注意」の中にも①「口頭注意」、②「厳重口頭注意」、③「書面注意」、④「厳重書面注意」という4段階があると知り、小生は当時から、「教育」から「警告」に至る展開を意識してきた。

これまでは、公務員はもちろん民間企業の労働者もこうしたプロセスへの耐性を有していたが、近年は指導集団である「教育」段階で脱落する者が出てきている。この傾向は次第に顕著になり、教育に耐えても指導に耐えられない。指導に耐えても注意に耐えられない者が増えつつあるのが現実である。このように労務管理としての教育・矯正措置を断念するかという命題にすら企業は直面しているが、それは認め難いことである。

企業は組織的な活動・統一的な活動を求めるがゆえに、集団的な教育は避けて通れない。ここに実は教育・矯正活動としての労務管理である「ほめ方」「叱り方」を管理職が勉強する必要性に迫れられている理由がある。管理職は、部下に対する「ほめ方」「叱り方」について指導・教育を受け、注意・警告をされながら、管理職自身も成長していくプロセスが必要となった。

統一的・組織的活動を効果的かつ円滑に行うためには、個別労働者を対象にした教育・矯正活動だけでなく、集団を意識した教育・矯正活動を実行しなければならない。そうでなければ、組織体としての企業活動は不可能だからであるが、ここに困難さがついてまわる側面のひとつがある。「教育」「指導」「注意・警告」という行為自体が、管理職の能力次第では、部下の精神障害を招く原因となりつつあるのが現実だからである。

上司の言動等がパワハラになり得るのは、「指導」「教育」「注意・警告」というプロセスが、成長を促す趣旨と受け取られず、相手の精神に傷跡を残し、嫌がらせ・いじめ・暴行と受け取られるからであろう。

しかしこれは、管理職の能力不足だけではなく、仕事に生きることが非常に疲れる時代になってしまっていることも反映していると言ってよい。日本経済が右肩上がりの時代には皆が立身出世を目指し、自分なりに成長していた。しかし、今では成長どころか没落・右肩下がりの時代になったから仕事に生きること自体が非常に疲れるようになってきた。90年代後半から企業に成果主義的人事制度が導入されたことに伴い、組織が集団主義から個人主義へと移行したことも、逃げ道のない心理状態を増幅させている。組織の変革によって、個人の没落・スピンアウトの度合いが甚だしくなっている。

そして、うつ病等の精神疾患は、ホルモン変化の問題や職場での男性優位の状況、ワークライフ・バランスの悩み等の理由から、女性の方が男性の2倍多いとも聞くが、ハートワークのダメージを深刻化させないためにも、企業にとってメンター制度や女性にも働きやすい職場環境を整備することが、今まで以上に必要になってきている。

部下の上司に対する言動や社員間の言動にも、十分な指導が必要である。部下や同僚の心ない言動により、ナイーブな上司が傷付き精神障害に陥る可能性や、職場いじめの問題が極めて顕著になっている現実がある。ここにコミュニケーションさらにはより基礎的なカンバセーションのあり方の探求を企業の中で展開していかなければならない理由がある。

昨今の企業における仕事の指導はOJTが中心となり、ノウハウ・ハウツーしか教えなくなっている。本来、現場教育・職場教育では、仕事内容だけでなくその仕事の持つ目的や必要性等の根本的な意義が語られなければならない。そこにこそ仕事の意味や働きがい・生きがいを見出すからである。仕事の根本を語らない職場教育は、結局は働く者を歯車の一つに貶め、働く者は「全体の中の自分」ではなく、「部分としての自分」という思いを強く抱いてしまう。

そうして自分のやりたいことが分からず、仕事をすればするほど徒労に終わってる気分にさえ陥り、実際にしたいことへのこだわりが強まって、落差の甚だしさに空虚感を味わう。このように、仕事に対する徒労感やパッションの喪失が、企業で働く者のうつ状態を招く基盤であるように思えてならない。ハートワークが必要とされる時代には、今まで以上に仕事のやりがいの説明と得心が何よりも必要とされるのである。

 

人間性喪失の危機実感

ハートワークの時代と敢えて協調しなければならない理由も、社会の営みからハートが失われ、人間性の喪失の危機を実感していることにある。社会の変革が進む中で精神障害者が激増している現実は、例えば糖尿病の研究・治療が格段に進歩しているのと逆行して、患者が急増している状況とも似ている。社会の急激な変容についていけず人間性を崩壊させる者が増えているのであり、これにどう対処すべきかはメンタルヘルスにおける最大のそして根本的なテーマであると言ってよい。

企業におけるメンタルヘルス問題について執筆するとき、この問題は、より根本を極めた大胆な発想の転換がなければ対応策即ち解がないということを小生はいつも痛感している。本稿「上」冒頭でも紹介したとおり、現在でも生涯を通じて国民の5人に1人が発症するという見方もあるメンタルヘルス問題は、ガンや心臓疾患や脳障害の発症率よりも高いということを肝に銘じて、企業における人事労務を進めなければならない。

紙幅の制約がありここで筆を置くが、現在の最も深刻かつ重大なテーマであるメンタルヘルス問題については、また機会をみて論じたい。

 

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