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2016年7月16日(土)7:27 中目黒公園にて韮を撮影
花言葉:「多幸、星への願い」 

 

 

第11回 管理監督者問題の本質(3)
(2008年7月28日転載)

 

 

前回、大井方子氏の論文「数字で見る管理職像の変化」を引用したように、スタッフ職の数はいわゆる管理監督者の数よりはるかに多い。ところが、スタッフ職を管理監督者並みに扱うべきであるという解釈は、行政通達(昭63・3・14基発150号)があるのみで、法文上の根拠はない。言わば鵺(ぬえ)的な存在であると言ってよい。

これを直視し法律上どのように扱うべきかを考えることが、管理監督者問題の改革への出発点となるのである。スタッフ職と同心円上のものとして専門職概念があるが、それは今日的に「プロ人材」と呼ばれている。スタッフ職の論を進めるにあたり、企業における「プロ人材」の増加および需要の高まりについて、まずは論ずる。

 

経営者を動かす役割も

「プロ人材」とは、並みの一般人には到達し得ないひときわ優れた専門的能力・技術を身につけた者を指す。その域を目指す並みの人材は大勢いるが、真のプロ人材は実際問題として極めて少数の人間に限られる。スタッフ職との関連で言っても、スタッフ職の中でプロ人材と呼べるものは極く僅かにすぎない。

このような有能な人材を輩出するためには、企業は候補者としての人材を多数擁していなければならない。真のプロ人材は、まさに時間を超越した自己啓発・切磋琢磨の中から生まれるのが真実だからである。しかし、有効な組織体を構成するための人員確保の必要性から、企業はプロ人材たらんとする中程度レベルの人材をも数多く抱え込む必要がある。

リクルートワークス研究所の「ワーキングパーソン調査2004」をもとに、リクルート社はプロフェッショナル人材の規模推計を行っている。推計によれば、言わば「自称」も含めたプロ人材は2002年において合計568万人で、その比率は雇用者の11.6%を占め、産業別ではサービス業が最も多く、プロ人材の約4割の(216万人)に及ぶ。そしてビジネス・プロフェッショナル(=ホワイトカラー系プロフェッショナル)人材は380万人でプロ人材の67%を占める。2015年には、プロ人材は612万人と2002年より44万人増加し、割合は12.6%に上昇すると予測されている。

サービス経済化・ソフト経済化・グローバル化・産業の高度化・競争の激化等に伴って、ますますプロフェッショナルな人材が産業界から渇望されることがこの調査から分かる。これまでは専門的職業人とは医師・弁護士のような特別な資格を有し専門知識を駆使して仕事をする者を指すのが一般であったが、今では特に資格が要求されないビジネスの世界でもプロ人材が要求され、一部がスタッフ職として活躍するようになった。

ところで、スタッフ(staff)とは元々は軍用語であり、staffには参謀・幕僚という語訳があてられている。軍における参謀とは、自らは上司部下のラインから外れ指揮官の補佐をするstaffであり指揮官にのみ責任を負う。参謀もスタッフ職も、上役になり代わり戦略構築や行動計画等の立案をして貢献するという点では、組織において同様の役割を担っている。しかし、企業におけるスタッフ職は、助言のみならず、それぞれの役割に伴う機能を果たす責任をも担う点で、軍の参謀より幅広い概念と言えよう。

高度情報化・グローバル化・競争激化等が甚だしく進行する今の社会では、現場からの情報がこれまでより遥かに重要になっているので、企業経営には参謀、参謀補佐、そしてその補佐…等々の役割が必要になり、スタッフ職が増えてきているという実態があると言ってよい。

フットワークの時代にはヘッドワークやハートワークの機能等を重視する必要がなかったから、経営は経営者の専門領域であり、その意を受けた経営補助者としての管理監督者が多数の一般社員を統率し社員を単一的な価値観で労働せしめていた。

ところが、ヘッドワークそしてハートワークの時代には、経営者は、個々の従業員がハートワーク等を十分に発揮しながら職業倫理・企業理念に叶う言動を自ずと取るような状況・環境を創り出し、社員それぞれの個性を活かした「考え方・思い方・感じ方」を発揮させることこそが重要になってくる。したがって、経営者のリーダシップ・マネジメント力は労働者を拘束する方向ではなく、労働者に個性を発揮させる方向に向けて、ハートワークがよく機能する「多様性が尊ばれる世界」にしていかなければならないのである。その結果として、経営者個人の発想による経営判断の重みはフットワークの時代に比べて相対的に低下するが、その結果、トップダウン方式ではなく、末端社員個々人の自律的な活動を一体化してこそ、企業としての体を成すことになる。

そして従来は経営者に強く求められていた具体的な指示命令が次第に抽象化され、より幅広く従業員にも自律的・自覚的な言動が求められるため、このプロセスにおいて、経営者を動かすスタッフ職が重要視される。かくして、スタッフ職にはその資質や発想や言動において経営者的かつ事業家的感覚を有し、逞しく新しいアイデアを産み出す人材が求められるのであり、企業はそうした人材が多ければ多いほど活性化し、競争に勝ち抜いていけることになる。

経営者はそうした人材を見出す“目利き”でなければならない。と同時に、スタッフ職の成果を的確に取捨選択するために、彼ら個々の様々な思いや意見をも洞察する能力と包容力ある姿勢が求められるのである。

 

立法的解決以外になし

スタッフ職の急増という背景で、今の社会では労働基準法の管理監督者の規定では如何ともし難くなっているが、それにも拘らず、学者はもとより弁護士もまた判例もスタッフ職について詳しく論じていない。スタッフ職の問題は、立法的に解釈する以外に道はない。

従来の企業組織はピラミッド型で、一定の上位層にある者は管理監督の役割を担うという認識があった。しかし、組織そのものがフラット化し、またグローバル化してきたことで、会社の機能スパンも広がりトップ以外の経営者もスタッフ(staff)化した。即ち、経営者は、現場に下りて独自の発想をすることを行動の基盤にしなければならなくなったのである。この状況下では一握りの経営者だけでは、多種多様な情報を集めそれを解析するというのが実質的に不可能になってきている。それが執行役員(スタッフオフィサー職)の存在理由でもあろう。

スタッフ職のようにマネジメントに関与せず、経営につながる職務に専念する役割の者を、今の労基法は全く想定していない。用語はともかく、「経営者」・「スタッフオフィサー職(上位のスタッフ職)」・「スタッフ職(一般のスタッフ職)」・「管理監督者」・「一般職」等々という区分で、法律を再構築して規定しなおすことを、具体的一案として提言するものである。

 

 

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