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2016年10月3日(月)11:45 北京龍熙温泉度假酒店にて撮影

 

 

 

第15回「実現不可能な一億総活躍社会」
(平成28年3月28日)

 

 

今年の春闘はベアが縮小し、一部では非正規の賃金が底上げされたというが、雇用者全体の約4割を占める非正規労働者の多くは組合に入らず(パートタイム労働者の推定組織率は7%)、春闘の熱気の埒外にいる。

 

最新の民間給与実態統計調査(国税庁2014年)をみると、年間平均給与額は正規478万円、非正規170万円で、非正規は正規の3割強にすぎず、両者間には甚だしい格差がある。このように低収入の非正規労働者は経済的な自立が難しい状況にある。同じような仕事をしても、雇用形態の違いだけで賃金に著しい格差が生じるのは、法理論の範疇を超えて人道的に許されないといわざるを得ない。経済的に自立できなければ誇りを捨てて働く存在とならざるを得ず、仕事を通じて自己実現を図ったり、達成感や喜びを得たりする機会も極めて少なくなる。

 

非正規労働者は経済不況の深刻化とともに90年代後半から急増し始めた。2003年には雇用者に占める割合が30%を超え、15年には37.5%に達している(総務省「労働力調査」)。非正規労働比率が5割を超え、現状に大きな不満を持つ層が多数派になると、社会不安がより強くなるであろう。おそらくこうした危惧感から、安倍政権は「同一労働同一賃金の実現」「一億総活躍社会」というスローガンを唐突に掲げざるを得なくなったと私はみている。しかし、人件費の総額が決まっている以上、正社員の待遇を下げて非正規の待遇を上げることでしか両者の格差を解消することができないことから、既得権を持つ正社員側の拒絶は強硬であろう。

 

労働運動の総本山である連合は同一労働同一賃金の採用に消極的であり、報道によれば「正社員は残業や転勤のリスクもある。そうした負担も考え合わせて賃金を払うべきだ」という趣旨の発言をしている。

 

政治家も経済界も、連合に脅かされてひるんでいる。政治家は日本の行くべき道を誤ってはならないし、経団連は組合との対決を避けてはならない。格差の解消をめざすのはいまや国是であり、日本に活力を戻す重要な施策なのである。

 

いまから70年前、戦火で廃墟となった日本は国全体が貧しかった。しかし、日本全体が熱気をもって取り組み立派な復興を遂げた。だが、低収入の非正規社員が4割もいる社会では、希望も活力も熱気も望むべくもない。このような状態では「一億総活躍社会」の実現は不可能なのである。

 

論語には「寡(すく)なきを患(うれ)えずして均(ひと)しからざるを患(うれ)う」「貧しきを患(うれ)えずして安からざるを患(うれ)う」という言葉がある。

 

これを格差問題の解消への構図に当てはめてみると次のようになるだろう。つまり、正規と非正規の処遇格差がある(=「均しからざる」)ことを憂うべきで、正社員の賃金をダウンさせることが憂いを解消することにつながるのであり、また、非正規の増大により社会不安が招来することこそが憂うべき事態であり、正社員の賃金が下がり今より貧しくなったとしてもそれを憂うことはないのである。

 

こうした筋道を作るために、政界のトップも経済界のトップも決しても挫けず、真剣勝負であると覚悟してやらなければならない。格差問題を解消し、同一労働同一賃金を真の意味で実現しなければ、日本は生き延びることはできないだろう。

 

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