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2016年12月4日14:41 千代田区九段南3にてポインセチアを撮影
花言葉:「祝福、幸運を祈る」 

 


第19回人材グローバル化(終)
(2008年11月3日) 

 

 

協調性を重んじる意識

今年のノーベル物理学賞・化学賞を日本人が計4人受賞したことは、日本による研究が国際的に評価された結果である。自然科学3分野に限っていえば、日本人(出生時)受賞者はこれで13人になるが、同分野全体の530人に比べれば僅かにすぎない。そして、日本人受賞者には米国籍を取得したり米国の研究所に在籍している方が多いことを考えれば、純粋に日本の力であるとはいい得ず、素直には喜べない。日本国籍あるいは日本国内の研究所では世界に羽ばたけないという現実が研究者の世界にあるといわれて久しいが、改善が遅々として進んでいないようだ。

オリンピックを成功させた中国は、次なる目標としてノーベル賞受賞者の増大をめざし、全学者を叱咤激励していくに違いない。そこで日本もさらなる精進が必要であるが、それは研究者のグローバル化以外にない。

前回も述べたが、日本は人口減少の桎梏から逃れられない。2015年には世帯数も減少局面に入ると推計されているので、国力はあらゆる分野で衰退していく。その結果、世界における日本のプレゼンスは大いに低下し、経済では世界に相手にされない国となってしまうだろう。そのため、日本は経済的にもグローバル化せざるを得ず、幼稚園・小学校から実践につながる語学教育をたたき込むことは勿論のこと、日本史・世界史等の充実を図っていかなければならない。文部科学省が推進したゆとり教育などは、世界に遅れをとるあまっちょろい政策であることを自覚しなければならない。そしてダイバーシティ教育を単元として採用することも、グローバル教育の一環として必要になっていくであろう。今の日本の教育のままでは国内有名大学を卒業したとしても単なる井の蛙にすぎない。

今の日本には、「第一の開国」(明治維新)、「第二の開国」(戦後復興)に続く「第三の開国」=「制度疲労を乗り越え、グローバル化を加速する」が必要であると説く文献は、私の認識と同一であるといってよい(『2015年の日本』東洋経済新報社)。

極東の島国であるという地勢的な問題もあり、日本人はグローバル化が不得手とみられがちであるが、諸外国と比べて日本人・日本企業は協調性を重んじる意識が高いという点は、グローバル化に向けての長所である。これを自覚し長所を伸ばしていけば、日本人はグローバル化が不得手と決め付けることはできない。

多様な人々と共に働き、社会を構成するには、民族・国籍等の属性を超越した生身の人間としてのコアな部分が、より一層重要な価値を持つことになる。それを象徴的に表現する言葉として「ハートワーク」があるが、これは「良心・善意・成長」を基本とする概念である。そして、「ハートワーク」よりもなお一層人間性如何が問われるものとして、「ヒューマンワーク」という概念が生まれる。これは、心身を限界まで尽くして、「血と汗と涙の結晶」としての全人格・全人間性をかけての自己表現をすることであり、人間の理想である「夢・愛・誠」の世界に通ずるものである。どんなに些細なことでも相手のことを考え、一生懸命に尽くし、「結晶」を見せることによって、猜疑心や反発で頑なになった心を溶かすことができるのである。

余りにも繊細すぎる表現や手法は普遍性を失い、民族性や文化が異なる相手には通じない。人間関係において、日本人が血と汗と涙をともに流すことができる存在として、外国人に認識してもらう態度を取れるかどうかが課題となるのである。

 

外に向け発信する努力

人事労務の課題としては、グローバル化には「日本ファン」を作ることも重要である。我々が相手国を尊敬する気持ちと同様に、日本文化に対する敬意を持つ人でなければ、パートナーとして選ぶことはできない。

中国人が日本を見て憧れるのは、よくある現象である。私の上海事務所と提携している中国人弁護士は、この夏初めて訪日した折の滞在記でその感動を語っていた。きれいな空気・青い空や海に感激するだけでなく、日本人社会の緻密さに強烈な印象を持ち、清潔感や繊細かつ緻密な美意識に富んでいること、日本人の生活が秩序立っていることに感動していた。そのように感じる中国人は非常に多い。

こうした気持ちになってくれる外国人を増やすことは、日本のグローバル化を下支えする重要な要素であるから、海外企業における人事労務は内にこもってはならず、外に向かって日本の良さを発信する努力をしなければならない。

また、企業がグローバル化すれば、自国の技術力は当然現地にも広まり、それを凌駕しようと各国のライバルが磨きをかけてくるから、他国の追い上げに負けぬよう自らの技術力・技能をさらに進化させなければならない使命を負うことになる。「技術」はデジタルな世界であって、教えたり伝えたりできるものだが、

「技能」はアナログな領分であり、教えることのできない匠の世界である。そのため、技能を身に付けるためには、民族・国籍を問わず、血と汗と涙の結晶を求めて磨き続けるしかないのである。

そしてこの論稿の最後に、明治30年代に日本人で海外経営に成功した人物を紹介しておこう。それは、のちに東京市長となった後藤新平(1857~1929)による台湾統治である。後藤は日本人が台湾に行って、台湾人を日本人のようにしようとしてもできるはずがないし、やってはならない、現地の人々の習慣を重んじるべきであるということを旨とし、台湾全土に向かって「民政優先」を宣言し、港や道路、鉄道を整備し、東京よりも早く上下水道まで完備したという。また殖産のためには、郷里(陸奥)の後輩、新渡戸稲造をスカウトし、彼が提言したというさとうきびの品種改良の大成功で、台湾に多くの富をもたらした。後藤と新渡戸は台湾の産業育成と近代化に大いに成功したのである。

 

他国の幸福を願うこころ

晩年の後藤がことあるごとに説いて回った「自治三訣」、つまり「人のお世話にならぬよう、人のお世話をするよう、そして報いを求めぬよう」という思想は、日本人の海外経営に当たっても教訓を与えるものである。即ち、経営の現地化に当たっては、現地の文化・習慣等を尊重して現地に合わせる姿勢を前提としたうえで、絶えず刺激を与え続けることが重要である。

今の世界的な金融不安により経済沈滞が、グローバル化を停滞させると見る向きもあるようだが、グローバル化という時代の流れはもはや決して押し止めることはできない。政治、経済、文化をはじめあらゆる面で世界と強く連動する時代のなのである。今後も世界の中で日本企業の存在感を保持し高め得るかは、謙虚で他国の人々の幸福をも心から願える人材を育成できるか、そして、そうしたグローバルに対応できる人事労務制度を構築できるか否かにかかっているといっても過言ではない。

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