2017年2月17日のアーカイブ

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2017年2月4日(土)7:24 中目黒公園にてエリカ・ダーレンシスを撮影
花言葉:「博愛主義・幸運・孤独」 

 

 

第23回雇用の未来(4)
(2009年2月16日転載)
 

 

 

深刻な不況のもと製造業の派遣社員が大量に失職したことが契機となり、昨年末頃からワークシェアリング(仕事の分かち合い)導入の当否がさかんに議論されてきている。

 

難しい“ワークシェア”

ワークシェアリングの概念が、今回ほど意識された不況はなかった。ITバブルが崩壊した時期である2002年に「多様な働き方とワークシェアリングに関する政労使合意」が発表され一時は話題にもなったが、その後議論は自然消滅してしまった。

これまでの不況では「雇用調整」「リストラ」等の言葉が横溢していたが、今回の大不況ではこれらとともに、未だわが国で実績のない「ワークシェアリング」が注目されている。

その原因の1つは、今回の不況は従来のものとは質的に異なる極めて深刻なもので、物やサービスが極端に売れないため、仕事量自体が縮減し、人員整理だけに頼っていてはいかんともし難い経済状況であることにある。

確かに今回の不況に限れば、雇用を些かでも維持するための緊急手段として、ワークシェアリングを採用することも1つの方途であろう。しかし、①ワークシェアリングは人間の向上心を刺激しないこと、②ワークシェアの向く職種はともかく標準化が難しく、個々の相違工夫が求められる「ハートワーク」等においては仕事を分かち合うこと自体が難しいこと、③競争力が低下した産業の構造転換が遅れる弊害があること(③は本年1月9日付日経新聞・日本総研山田久氏談)等の理由で、ワークシェアリングの採用は基本的には望ましくない。

現に、生産性向上の権威として著名なデジタル関連製造業の経営者から、ワークシェアリングがいかに働く能力を蝕む仕組みであり、組織をダメにするかということを、私は直接お伺いしたことがある。製造業はワークシェアリングに適する業種との認識が一部にはあるが、この経営者は「製造業こそワークシェアは成功しない」と断言された。その理由は、仕事を分け合うことで生産性は落ちるし、また好況になって増産体制に入ろうとしても、一度“分かち合い”で力の出し惜しみが恒常化し、心身を完全になまらせてしまうと、労働能力は容易には元に戻らず、企業は立ち行かなくなるという。

現場にはこうした認識が強いにも拘らず、ワークシェアリングが話題になっている理由は、今回の不況が恐慌状態と言うべき立ち直りが容易でないものであり、働くこと・仕事に勤しみ対価を得ること自体が人間性の発露として重要であるという原点に立ち返って、働く機会を極力確保すべきと判断されていることにあると思われる。

恐慌下で大量の失職者が出ることは、長期にわたり収入が途絶える者が増大するだけでなく、失業して社会への貢献の場を失うことが人間性の喪失につながり、ひいては人間の尊厳を毀損するのである。

ワークシェアリングについての議論は、正規・非正規の処遇格差の是正を真剣に考える契機を提供する点においては意味があろう。

折しも、与謝野馨経済財政担当相は、ワークシェアリングに関する文脈の中で、「同じ職場で、同じ時間、同じ労働をして、賃金がこんなに違うのは社会的に正しくない」と発言したという。これはまさに「同一労働同一処遇」概念の必要を説くものであり、政府もその実現に向けて研究を開始したと思われる。

 

派遣対象業務を見直し

今や雇用者の約34%に当たる非正規雇用者の問題を抜きにして、雇用の未来は語れまい。これからは、非正規社員にも正社員への道を開かなければならないし、現に法制度もそのように発展し続けている。非正規社員という身分のみを理由とする差別が禁止されることは自明の理と言ってよいであろう。

雇用の未来には、正規が非正規かという形式的身分ではなく、本人の専門性こそが尊ばれる。

専門性とは、一般人が簡単には習得できない能力・技術・技能を言い、一定期間にわたってその仕事に打ち込んで初めて修得できるものであることは言うまでもない。

専門性ある者は一般人と差別化され尊重されるから、自ずと自律心・自立心を有し従属労働からいくらか脱皮できる。そして、タレントということになれば、なお自律性・自立性が高まり従属労働から解放されるのである。つまり、専門性の本質は「従属労働からの解放」にあると言ってよい。その意味において、これからは能力・技術・技能を蓄えることを労働者が意識すべき時代である。労働者が自律・自立できる専門性を備えていることがこれまでにより強く問われることを、これを「キャリア権」思想の発展とともに日本の新たな社会システムとしても一層強化していかなればならない。

そして、昨今話題になっている派遣労働について言えば、極めて専門性の高い業種のみに限定する方向で見直しを図るべきである。但し、専門性を優先するあまり、専門業務の派遣労働者がなし得る専門外業務の割合を「1日・1週間当たりの就業時間数で1割以下」(労働者派遣事業関係業務取扱要領)とする現行の基準は硬直的であり、20~25%程度の比率まで認める必要があろう。なぜなら日本の企業では互助で仕事をするので、専門性がある程度緩和されなければ組織が円滑に回らず、かえって生産性が低下する可能性があるからである。

 

社会貢献で生産性向上

企業が社会的存在であるという意味は、企業は社会的貢献を果たさなければ存在が許されないことを意味する。これは当然のことであり、社会的貢献の重要性を実践する企業が、尊重・尊敬されるということである。これからの企業は今まで以上に社会的貢献を意識し、金銭・賃金以外のインセンティブを従業員に与えることに熱心でなければならない。

また、企業は社会的貢献によって事業展開にアドバンテージを得ることにもなる。なぜなら、企業の社会的貢献は従業員ら自身の矜持につながり、個々人が満足感をもって仕事に取り組むことになるから、その結果企業全体の生産性が高まり好業績をもたらすのである。

不況の影が色濃くなりつつあった2008年の秋に聞いた旅行業の話だが、「カンボジアのアンコールワットに行こう―草むしりをしよう」という企画に、50~60人もの若者が応募してきたという。今の若者は、物見遊山の旅よりも社会貢献をする点に価値を見出し奮い立つのである。

経営の未来は、「社会貢献」にこそ成長の道筋がある。そして雇用の未来には、企業は本人の志願と企業の適格性を前提とした合意によってはじめて可能になることではあるが、労働者を半年間休ませて社会貢献活動に従事させるということも必要になってくるのである。

 

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