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2017年2月11日(土)7:40 中目黒公園にてローズマリーを撮影
花言葉:「記憶、思い出」 

 

 

第24回雇用の未来(終)
(2009年2月23日転載)

 

 

前回の最後に企業の「社会的貢献」の未来像について論じたが、近年においては「コンプライアンス」「環境問題」「社会貢献」等あらゆる問題を含めて企業の社会的責任(CSR=Corporate Social Responsibility)への取組みとして、多くの企業が社会に向けて強くアピールしている。

 

雇用創出は社会的責任

しかし、企業の社会的責任の第1は何といっても「企業の存続」であり、それは「雇用の確保」「雇用の創出」「雇用の場の創造」であることは絶対に譲れない。私が「雇用の創出」の最重要性をここで強調するのは、今後ますます深刻化する経済不況によって、雇用調整・リストラが加速されることのみが理由ではない。好不況を問わず、いついかなるときでも、企業は雇用を創出する社会的責任を負っているのである。

なぜなら、雇用の創出・雇用の場の創造がなければ、結局国民は困窮し、国そのものが倒産してしまうからである。まして、グローバル企業ともなれば、雇用の場が喪失すれば進出先の地域の経済にも打撃を加えることになる。企業の社会的責任は、今やグローバル規模で捉える必要がある。

周知のことであるが、ドラッカーは、著書「現代の経営」において2つのことを述べている。「事業の目的として有効な定義はただ1つである。それは、顧客を創造することである」「顧客だけが雇用を創出する。そして、社会が企業に資源を託しているのは、その顧客に財やサービスを供給させるためである」。

つまり、企業が事業を行うことは、雇用の創出に直結することであり、企業の社会的使命でもある。経営者は雇用創出という重大な責務を深く自覚しなければならない。そして政治家は、企業が雇用創出できる政策を実行しなければならない。

オバマ大統領に限らず、米国の歴代大統領が機会あるごとに自らの政策が雇用の創出にどれほど寄与するか国民に向かって必ず数値を具体的に明言するのは、そうした理解と緊張感があるからである。オバマ大統領も、グリーン・ニューディール等を看板に、2年間で300万人~400万人(うち90%は民間部門)の雇用創出をめざすと説いている。

この点、日本の政治は雇用については未だに「派遣労働者の正社員化で派遣先に100万円支給」等の役所の助成金(雇用調整助成金・中小企業緊急雇用安定助成金等々)が主流であり、発想が貧困である。

私は、今から10年以上前に「今こそ求められる抜本的な雇用改革―労働省予算は『雇用創出度』で格付けを」というテーマの論稿を発表したが(1998年12月14日号『日経ビジネス』掲載)、爾来、日本の立法や行政が「雇用の創出」をめざして知恵を絞り、効果的な政策の立案に真剣に取り組んだという事象を寡聞にして知らない。

お上の助成金頼みではなく、個別企業が雇用の創出を実行するには、何と言っても消費者・需要者(自然人のみならず法人も含む)の関心やニーズが奈辺にあるか追求してイノベーションを徹底させ、購買意欲を刺激する新商品・新サービス・新事業を開発し、顧客が“お金を落とす”に値する商品・サービスを構築することが重要であって、道はそれしかない。

「未来を予測する最もよい方法は未来を創り出すことである」(1971年ノーベル物理学賞受賞者デニス・ガボール氏)という言葉があるように、徹底したマーケティングが未来のヒット商品と雇用創出につながるのである。

 

研究開発に心血を注げ

こうした努力がなければ、自社の不採算部門から出した失業者や他企業からの失業者を吸収することなどできず、また新規開業による雇用の場も増えず、個人も企業も地域も国もいずれ破綻してしまう。今は資金繰りの困難さから実際上の難しさはあろうが、苦しくとも可能なかぎり新商品等の研究開発に励み、あるいは既存の商品・サービスについても斬新な形に変え、再度顧客に提供することに、経営者も従業員も心血を注がねばならない。

さらに、新商品・新サービスの開発に当たっては、1人の発明家による成果が新商品や新事業にもつながり雇用を創出し得ることにも留意すべきである。例えば、青色LEDの職務発明による相当対価の金額が争われ、社会的にも大きな話題となった「日亜化学工業事件」(2005年1月11日東京高裁で和解成立・和解金8億4000万円強)のケースを例にとると、元従業員の訴訟代理人を務められた升永英俊弁護士によれば、青色LEDの売上高の急伸により、当該企業の雇用数は「1993年当時の200人台から、2003年度は3000人程度と劇的に増大」したと報じられたという。1人の優れた発明家がいかに雇用の創出に寄与するかを示す好例であろう(升永英俊弁護士「法と正義と200億円判決」/日経BP社刊「ビジネス弁護士大全2005」101頁参照)。

加えて、雇用の創出のためには、雇用の受け皿作りという視点も重要となる。

例えば労働集約的なサービス産業であれば、労働生産性を向上させることによって低収益体質から高収益体制へと脱皮させることが、絶対的に必要になる。今後はグローバルな企業間競争は更に激しくなり、また顧客の要求水準も一層高くなるから、生産性がますます問われることになる。従って、働く者には常に高いレベルの成果が問われ続けるし、業務改善は半永久的に続けていく必要があるのである。

 

このままでは国が滅ぶ

なお、生産性が要求されるとさらなるスピードや計画性が求められるのが必定であるが、一方でこの激務についていけない者も増えてくる可能性がある。ワーク・ライフ・バランスの考え方は、若手・女性・高齢者を中心にこれから根付いていくと思われるので、短時間で効率よく業務を行うためには、労働時間管理の重要性も増してくるだろう。全ての点において、これからはマネジメントの質を上げる必要性が生じている。

これからの日本企業は、誰もが予想しているとおり淘汰の危険にさらされながら経営を行うことになる。しかし、現下の不況は次に到来する本当の意味の惨状のプロローグに過ぎないかもしれない。

わが国は、明治維新、第二次世界大戦の敗戦等々、未曾有の社会変動を幾度もくぐり抜けて復興を遂げ発展してきたが、21世紀になって急速に進展したグローバル化・IT化には真の意味で未だ対応しきれていない。また人口減少・優秀人材の育成と海外流出防止の問題にも効果的な対策を打てず、国のあり方そのものが旧弊から脱し切れない。このままでは、国が滅ぶことは必然である。

雇用の未来は経営の未来であり、ひいては日本の未来である。そして、日本の未来は日本人の未来である。未来が明るくなるためには、雇用の創出が必要不可欠なのである。

ILOは「ディーセント・ワーク=decent work」(働きがいのある人間らしい仕事)の実現をスローガンとして提唱し、経済雇用政策の中心にすべきであると主張しているが、どのような仕事がdecentであるかを議論する以前のレベルとして、失業と脆弱な雇用(非正規労働)が問題視されている。

オバマ大統領の演説においてもdecentという言葉が使われ、各家庭が「jobs at a decent wage(適正な賃金の仕事)」を得ることの重要性を指摘している。仕事の量(仕事の有無)だけでなく仕事の質(働きがいのある人間らしい賃金)を問題にしていることがILOのディーセント・ワークの考え方にも通じているのである。

ILOの主張を待つまでもなく、雇用の創出は政治の最大課題であって、しかもその雇用がもたらす仕事は日本人を活気づけ、自己実現の喜びを与えるような「decent work」でなければならないといえる。補助金政策でたとえいくらかの雇用が確保されたとしても、それは後ろ向きの暗いものであり、明るい未来には決してつながらないのである。

 

人間性教育を一層重視

今は、ヘッドワークの時代からハートワークの時代を経て、本稿第3回(2月9日号)でも述べたように「ヒューマンワークの時代」を迎えようとしている。

それは、単に知識・知恵だけを持っていれば済むという世界ではなく、豊かな知識と知恵を兼ね備えていることに加えて、さらに人間性それ自体の発揮が求められるいわば「超・知識の時代」である。

 

それゆえ、学校でも企業でも、知識はもとより倫理・道徳面を含めて人間性の教育が一層重視されて然るべきである。その意味で雇用の未来では自らを「知」と「人間性」の両面で磨き続ける者しか、生き残ることはできない。

米国で黒人初の大統領が誕生したことで引き合いに出される機械が多いキング牧師だが、彼は歴史に残る演説(1963年8月「I Have a Dream」)で「肌の色ではなく内なる人格で評価される国」に米国がなることが夢であると語った。「人格」での評価・人間らしさの評価とは、働く者にもまさに当てはまる言葉なのである。

人格で評価される時代とは、誰もが人間の尊厳の重要性を認識し、それに値する振る舞いが求められる社会である。人間は価値ある存在として全ての生命体の頂点にあり、生物としての魂の次元においても、また人間存在の核心である人格においても尊厳性が発揮される状況を構築しなければならないということなのである。世界第恐慌を思わせる今の大不況期であればこそ、人間についてのこうした基本的な哲学が求められる。

「雇用の未来」をこの方向に導くことで、世界に誇れる品格のある社会が実現できるものと確信している。

 

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