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2017年3月17日(金)7:33 芝公園にて菜の花を撮影
花言葉:「快活、明るさ」



第25回リストラの本質と手法―恐慌下における諸現象を踏まえて―(1)
(2009年4月27日転載) 

 


高井伸夫弁護士は、日本経済が“脳梗塞”状態から抜け出すには8年を要するとみている。半身不随となる前に、正社員削減を含めたコスト対策を最優先すべきであるとした。1000件を超すリストラに携わった経験を基に解決の方向性を明らかにする。

 

光輝くべき春を迎えても、日本社会には重苦しい閉塞感が漂っている。今回の不況は一過性ではなく、恐慌と言える性質のものである。私が敬愛する中前忠先生(中前国際経済研究所代表)は、昨年12月の講演で、現在の金融不況はまだ三合目にすぎず惨憺たる状況が今後も続くと指摘された。

思えば、2007年12月初旬(当時日経平均株価1万5000円台・1ドル110円台)、私が某証券会社の経営幹部に「日経平均株価は7000円、為替は1ドル75円となり、不況は少なくとも2015年まで続く。大手証券会社ですらそれまでに従業員を半分以下にリストラせざるを得ない」と予測したときには誰も信じなかった。しかし、今ではそのとおりの展開になっていると言ってよい。各企業は急激に業績を悪化させ、リストラこそが企業存続のために必須であり、企業はリストラ義務を負っていると言っても過言ではない。「(2008年12月からの1年間で)270万人の雇用が喪失する可能性がある」(2009年2月4日、前日銀副総裁・大和総研理事長武藤敏郎氏講演)との見通しはさらに悪化するだろう。

私が企業の人員整理を担当し始めたのは、1963年に弁護士になって間もなくのこと。これまでに数多くのリストラ案件を体験し、その数は余りにも多く自分自身では数えていないが、1000件以上になるという人もいる。その経験から、企業の再構築(本来の意味のリストラクチュアリング)には、常に半歩先を読む先見性と、問題点を明確にした上で解決への方向性を具体的に解き明かすことが必要であると痛感してきた。

本稿では、まず導入として不況が2015年まで続くと予測する根拠等を述べ、次回以降、企業が生き残りをかけて行う人員削減策の問題点を真正面から取り上げ、提言を行いたい。

 

日米同時破産の懸念も

ドラッカーは「放っておけば不況も自然に治ることは確かであろう。しかしその頃には患者は死んでいる」とし、「あらゆる先進社会が、不況に対しては積極的な対策をとらざるを得ない」と指摘している(初版1946年『企業とは何か』第12章参照)。

今年1月10日付日本経済新聞で、倒産法の専門弁護士であり裁判官としても活躍され、退官後には産業再生機構の委員長を務められた高木新二郎先生が、「万が一トヨタや日産、ホンダの売上高が半減した場合も想定して、日本も支援策を検討した方がよい。影響が甚大な大企業には公的資金を入れ、中小企業にはモラトリアム(借金の棚上げ)をする。職を失った人への生活保護など総合的な対策を考えたほうがよいのではないか」と明言されたのも、また、金融危機で資金調達が困難になった一般企業に対して、一定要件のもと公的資金を活用して資本注入する新制度創設が国会で審議中なのも(改正産業活力再生特別措置法)、前掲のドラッカーの言葉と同じ問題意識に立つ。そして、トヨタ自動車が4月まで国内生産台数を前年同期比で半減させたり、新日本製鐵が粗鋼生産高を前年度比4分の1減とした状況をみれば、まさに高木先生の「売上が半減した場合は公的資金を入れて救う以外ない」とのご指摘が現実化しつつあることが分かる。日米同時破産ということも半ば公然と言われ始めている。 さて、歴史的に紛争の解決方法として「競争的解決」と「協調的解決」という2つの方途が考えられるが、恐慌の克服策としても、それは同様である。

 

正社員も例外ではない

1929年の世界恐慌の際、人類は戦争という競争的解決による経済の立て直しを選択し、第二次世界大戦(1939~45年)に至った。すなわち、1927年(昭和2年)の金融不況以降、極めて深刻な経済状況に陥った日本も「競争的解決」による克服をめざした。1929~31年頃の東京朝日新聞の見出しを見ると、「空前の就職難時代」「減俸令発表さる(現在の公務員の賃金ダウン)」「官庁も会社も皆人減らし」「失業地獄」「民間会社・銀行も減俸にならえ」等々の言葉が並び、当時の厳しい状況が伝わってくる。1930年度卒業生就職率は、大学卒39.1%、専門学校卒43.8%であり、まさに「大学は出たけれど」(1929年、小津安二郎監督映画作品)どおりの状況であった。結局、わが国は有効な打開策を講じることができず、満州事変(1931年)、日中戦争(1937年)という形で大陸への軍事的な領土拡張策を展開し、市場確保と軍隊の増強によって失業者の吸収・救済を図ろうとした。

かくして日本では1937年には一時的軍需景気で「競争的解決」は成功したかにみえたものの、1945年には敗戦を迎えた。この戦争で日本を始め多くの国が焦土と化し、生産力が減退すると同時に大量の物資が必要となったが、戦後にはイノベーションにより需要が喚起され経済が復興したのである。

ところが、今このような世界的規模の戦争をすれば核による地球の破壊をもたらすのは必定であり、今回の恐慌は戦争という競争的解決を用いることはできない。それが、協調的解決しか取り得ないと世界で強く認識されている所以である。例えば、世界同時不況の解決策について協議する金融サミットが、G7ではなく日米欧に新興国を加えたG20によるものであることも、世界規模による協調的解決が必至である証左であろう。

先にこの不況は少なくとも 2015年まで続くと予想したがその根拠は、1929年の世界恐慌の終息まで16年間要したことから(第二次大戦の終結は1945年)、今回世界全体で強力に協調的解決が可能になったとしても、少なくとも半分の8年間は必要と考えたらからである。

いわゆるサブプライムローンに端を発した金融危機で、血液であるカネを送り出す心臓の役割を果たす金融機関が、不良債権の急増により機能不全に陥っている。そのため、借金(テコ)で消費・投資していた人々が資金調達できなくなり、カネの流れも滞ってしまった。これは言ってみれば脳梗塞のような状態であり、回復には時間がかかるであろう。「血液」が流れないと「身体=市場」に酸素や栄養が届かず、深刻なダメージとなって半身不随に陥り、更に企業倒産という壊死さえも起こり始めている。

各企業は、この未曾有の不況下で先が読めず、完全な機能不全に陥る前にコスト削減を最優先し、正社員をも人員削減の対象とするリストラを続けざるを得ない状況なのである。

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