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平成29年4月7日(金)11:30 埼玉県日高市高麗神社にて桜を撮影 

 

 

第26回リストラの本質と手法―恐慌下における諸現象を踏まえてー(2)
(2009年5月4日転載) 

 


経営悪化した企業がリストラを断行する本来の目的は、雇用調整によるコストダウンそれ自体ではなく、あくまでも事業経営システムの再構築(リストラクチュアリング)にあることを忘れてはならない。リストラを行う際の留意事項として、リストラ後の業務維持・再興が掲げられる所以もこの点にある。

 

雇用解消の具体的手順

とすれば、企業のリストラに当たり最も重要なミッションとは、「企業戦略は人事戦略に宿る」との理念のもと、組織のあり方を次代の事業戦略に合うように見直し、必要な人材を見極めて内部に留めることである。そして人材の選別は正規・非正規という雇用上の身分に関係なく、労働者自身の資質・能力・技能、技術を公明・公平・公正に判断した結果に基づいて行わなければならない。

経営悪化に陥った企業の雇用調整の手順は具体的には、①企業戦略に基づき今後の組織像を明確にする、②組織を活性化できる優秀人材の引き留め策を実行する、③正規・非正規の区別なく「ロー・パフォーマー」の雇用を解消する、④その上で全社的に早期退職者の募集を行う、⑤それでも雇用調整が進まない場合には非正規労働者を雇止めする―ということになろう。

翻って企業のリストラの現状をみると、非正規労働者が雇用の安全弁とされ、不況になると彼らが真っ先に切り捨てられているし、古い裁判例ではあるが最高裁判所もそれを「合理的な差異」として是認している(日立メディコ事件=最判昭61・12・4)。しかし、リストラの本質が事業の再構築・再興にあるという根本に立ち返れば、非正規という身分のみを理由とする雇用関係の解消は不合理にして悪であるという法思想が生まれ、新しい判例が登場するのは必然であろう。優秀人材の見極めは身分を問わず事業再興に資する能力の有無でのみなされるべきことを忘れてはならない。

 

「含み損社員」から着手

ところで、雇用差別見直しの歴史を顧みると、まず男女差別の解消に始まっている。1985年に制定され数度の改正を経たいわゆる男女雇用機会均等法は、既に差別的取扱いを禁止していた募集・採用、配置・昇進・教育訓練、福利厚生、定年・解雇に加えて、2006年の改正で降格・雇用形態の変更・労働契約の更新・退職勧奨等も差別禁止とした(同法6条)。

次に禁止されたのは年齢差別である。雇用対策法は、2007年の改正で募集および採用における年齢制限の禁止を事業主の努力義務から義務規定とした(同法10条。但し例外事由あり)。

そして2008年4月に施行されたいわゆる改正パートタイム労働法では、「同一労働同一処遇」の理念のもと、短時間労働者の待遇はその働きや貢献に応じて決定することが求められた。特に、通常の労働者と同じ働きをしている者の待遇について差別的取扱いが禁止され、均等待遇の確保が明示された(同法1条、8条等)。

今後は、正規・非正規の身分差別がなお一層見直され実力本位となり、将来的には雇用解消の場面でも差別が禁止されるに至ると思われる。

なお、直接雇用ではない派遣労働はそもそも雇用調整の安全弁として機能することを企図された雇用形態であるから、今回のような恐慌時にまず契約関係が解消されるのは理論上当然である。今回の「派遣切り」問題は、Just in time方式で一挙に行われた雇用調整の様相が余りに鮮烈であったために、派遣労働の実態が社会問題としてクローズアップされたのである。マスコミ等で、彼らの契約を真っ先に打ち切ることが社会的弱者への仕打ちの如く非難されたのは、労働者派遣法を含む労働法全般が労働者の人間としての尊厳を最低限確保するための社会法であるという認識が、立法・行政に希薄だったためであろう。今後、単純労働は次第に直接雇用へと移行せざるを得ず、派遣労働は制定当初のように専門性の高い職種に限定されていくのではないだろうか。

このように雇用差別の見直しが進む結果、雇用関係の解消に当たっては正規・非正規という雇用上の身分に拘泥せず、ロー・パフォーマーか否かを基準とすべきであるという法思想が生まれ、人材の賞味期限切れへの対応が意識されるようになる。そして雇用調整のルールとなる新たな最高裁判例および立法措置も生まれ、実力主義のもとでの雇用調整が行われるようになるだろう。

ところで、非違行為はないがロー・パフォーマーである者を勇退に導くプロセスの具体例は次のとおりである。①まず、含み損社員のワーストを選ぶ。実際には様ざまなしがらみなどから本当のワーストを除外する傾向が強いが、これらを乗り越えて選定する。ここで留意すべきはあくまで現在の実力によって判断することであり、過去の実績を勘案してはならない。②次に、2回ほど配置換えを行いこの間指導・注意・警告を繰り返して「誰もが当該労働者に往生した」という実績(例えば人事考課が3回連続最低ランクであるなど)を記録する。この点、裁判所も「勤務評定という客観的な評価に基づいて最も低い評価を受けた者を解雇するという人選がされたものであるから」、「被解雇者(3回連続最低ランクのDを受けた者)の人選は妥当であった」としている(東京都土木建築健康保険組合事件=東京地判平14・10・7)。③その後、「残念だが勇退をお願いする」というプロセスを経て勇退に導く。その際、企業各々のカラー・社風に副った表現で、「勇退を求める」「淘汰する」という趣旨を明確に伝える。この時、然るべき退職金を支払うことが重要である。④当該労働者の勇退後は、それが前例となりその後の淘汰は容易に進むだろう。

 

正社員でも躊躇は無用

さて、前述のとおりいわゆる改正パートタイム労働法の「同一労働同一処遇」の理念は、雇用関係の“出口”=雇用関係の解消においても、十分に留意されるべきである。その結果、これからは正社員の既得権である雇用保障と賃金にメスを入れることが、リストラのメーンテーマとして不可避となってくる。

正社員の雇用保障を打破する最も合理的で現実に即した方法は、先に述べたように「含み損社員」の解雇規制を緩和することである。なぜなら、成果主義的な人事制度と賃金体系が浸透した今日の状況にあっては、貢献と雇用保障とのバランスを失する従業員は解雇されてもやむを得ないとする法的思想が生まれ、その結果として正社員の単純一律的な雇用保障は不適当と理解されるに違いないからである。

経営悪化に陥ってしまった企業の果たすべき社会的責任の根本は、事業再興に向けて本当に必要な人材を見極めたうえで、人員削減をしてでも企業の存続を図り雇用の場を確保することにある。そのためには、経営者は正社員のリストラを躊躇してはならないのである。

 

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