2017年7月14日のアーカイブ

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2017年6月9日(金)9:34 上海市内の公園にて撮影

 

 

第29回 リストラの本質と手法ー恐慌下における諸現象を踏まえてー(5)
(2009年5月25日転載)

 

 

勉強は一生続けるもの

経営不振に陥った企業への公的資金注入制度を新設した改正産業活力再生法が4月22日に成立した。既にいくつもの企業が同制度の活用を検討している。本改正法は3年間で企業価値を向上させる事業計画の策定を要件とするが、適正な人員削減の実行や経営責任を厳しく問わない点で企業の根本的な再生策としては不十分であろう。

さて、企業のリストラ(再建・再興・経営体制の再構築)を実現するためには、組織改革などのハード面の施策のみならず、個々人の意思・行動というソフト面の施策も極めて重要である。今回は、リストラ問題における労働者側のテーマの主に光を当ててこの連載を締めくくりたい。

個々の労働者は、優れた専門家・技術者・技能者として常に学び続け、雇用されるに値する能力(エンプロイアビリティー)を養っていかなければならない。そして、そのための基盤としては、収入の範囲内で生活する能力を身につけた上で、清く正しく貧しくとも生きる姿勢を身につける必要があろう。

それには、今この大変な不況の中、学校教育だけでなく、社会人となってもさらなるキャリア確立のために勉強を続けていくべきである。つまり、より高度な教育を受けるべく、大学卒業後も不足する知識や技術を身につけるためにコミュニティースクールや専門学校・大学・大学院に一生涯を通じて何回でも再入学する必要性が増すだろう。ドラッカーも「人を雇うのは、強みのゆえであり、能力のゆえである。何度も言うように、組織の機能は、人の強みを生産に結びつけ、人の弱みを中和することである」(『マネジメント』第23章参照)と述べているように、個々の労働者が勉強することは、労働者と企業の双方の利益となるのである。

そこで、これからはキャリアコンサルタントの重要性が高まることが予測される。学生に対してのみならず企業内でも、メンタルヘルスをも踏まえた心理学的手法を用いて、相談を求める者の心理面を重視しつつ、自らの力で解決できるように援助するメンター・助言者としてのキャリアコンサルタントの教育・育成が、ますます必要となってくるであろう。

ところで今は一般に企業では副業を禁止しているが、景気悪化による賃金目減り補填のために、副業を容認する動きがあるという(例「富士通」2009年2月4日付産経新聞等)。これはリストラに関連するテーマとしても、重要な側面を持っている。なぜなら本連載第3回でも述べたとおり、これからはリストラの激化に伴い、判例法上のいわゆる「整理解雇の4要件」が厳格化されると予測されるが、賃金ダウン分補填のために副業を容認したとなれば、企業は「4要件」のうち「解雇回避努力義務」を一部履行したとされ、裁判になっても人員削減策が容認される方向に働くのではないかと思われるからである。

経営悪化によりやむを得ず副業を容認するのは窮余の策であるが、本来は、個人の能力の多様な開花を支援すべく、そして産業社会の活性化のためにも、全企業が前向きに副業の容認をすべきだと思われる。企業に勤める者が副業を視野に置くことは、個人の収入の幅を広げるだけにとどまらず、個人の職業選択の自由度を高め、自らの将来性や次の人生ステージを意識することにもつながるだろう。それゆえ「副業」という言葉よりも、「マルチ・ジョブ」等のような表現で前向きに捉える必要があろう。

 

個人の教育投資を優遇

そして、マルチ・ジョブ実現のためには①労働契約法の制定過程で検討された「副業禁止規定の禁止」を再検討し、法改正で条文化を実現する。②個人の能力開発にかかわる教育研修費を非課税とし、個人向け能力開発資金の貸与制度を設けるなどの実際的な取組みが必須となる。また、企業にも社員の全人生は背負いきれない旨の方針を明示する決断が迫られることになる。これは経営理念の大転換とも言えよう。

なお、マルチ・ジョブの容認には、社外秘情報の漏洩等の恐れがあることも留意しなければならない。企業秘密の管理状況が甘いケースも散見され、企業側の就業規則等の整備、社員への研修も必要である。

リストラクチャリングは、何度も述べた通り、本来企業再興のための経営体制再構築という意味であるが、わが国では人員削減策の実施という意味で用いられるのが一般的である。人員削減策は企業経営にとって、本来質と量の双方にかかわる問題である。しかし経営困難という緊急事態に陥った場合、質の向上を期する時間的余裕がないために、量の減少を図るという方向に行かざるを得ず、リストラを行う企業の再興は人員削減となって登場してくるのである。

ところが、企業が経営の限界に陥り、倒産含みの状況に陥ると、優秀人材は会社を見限り転職するため、企業の再興は不可能になってしまう。そこで、本連載第3回でも述べたとおり、正規・非正規の身分に関係なく優秀人材のリテンション策を講じなくてはならないのであり、将来的な課題として、どこの企業でも通用する職業能力を社会的に認定し、正規・非正規の「均衡処遇」を実現すべきである。

その点を踏まえて、職種別労働市場の定着を期待する向きもあるが、一部の専門的職業を除いては、職種別の労働市場は定着しないと思われる。なぜなら、企業に寿命があるように職種にも寿命があるからである。例えば、江戸時代の職業で今日残存しているのは3分の1程度であるという。時代の進化とは、職種が「多産多死」を迎えることでもあるから、今後ますます残存率が低くなるであろう。

 

賃金ダウンし投資余力

そこで、今までのように例えば営業職であればその職種を前提に自動車・化粧品等の業種を選択するのではなく、これからは、職種よりも個人の一生涯のキャリアプラン(家族構成・地域・子育て等々)を前提とした上で、職種・業種を柔軟に選択できるような“キャリア志向別”の労働市場の形成が重要になると思われる。そして将来的には、前述のキャリアコンサルタントが、求職者側の視点から長期的スパンに立った上で、当人にとっての最適な“売り時”を判断し指導していく社会になることが望ましいのではないだろうか。

さて、現下のような恐慌状態にあっては、無暗に人員削減を行うのではなく、残された従業員全員が一丸となって全力で取り組まなければ業務を維持できず、事業・企業として生き残れない現実がある。限られた投資余力を“選択と集中”により焦点を絞って活用しなければならない。そして、資金収支を確保し、でき得るならば投資余力をいくらかでも強めるために、総体としての人件費削減策つまり賃金ダウンを実施する必要性が日に日に強まっている。そこで、賃金ダウンについては本連載「09夏号」(注:本ブログに8月11日に掲載予定です)にて詳述したい。

 

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