2017年7月28日のアーカイブ

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2017年6月17日(土)11:59 長野市栗田付近でロベリアを撮影
花言葉:「謙遜」

 

 

第7回 高度プロフェッショナル制度

 

株式会社日本総合研究所
リサーチ・コンサルティング部門
青木 昌一

 

1.残業手当の免除

先日新聞などでも取り上げられていましたが、前回のテーマで残業手当の問題を議論する中で必ず取沙汰されるのが、残業対象にならない職種の新設です。

現在の我が国の法律の枠内で残業手当の対象を外れている職種としては管理監督職がよく知られています。

ただし、以前から本来管理監督職として求められる要件を満たしていないのに、「あなたは当社の管理職です。」と位置づけ、残業手当を支払っていない、いわゆる「名ばかり管理職」の問題があり、10数年前から大きな社会問題として取りざたされてきました。

この管理監督職以外に残業手当の支払いが免除されるものとして裁量労働制があります。裁量労働制とは簡単に言えば、仕事の進め方の裁量権を労働者に委ねる代わりに時間外手当の支給を免除するものです。しかし、厳密に言うと、「残業手当を免除」と表現しましたが、実際には「みなしで時間外の設定を認める」という枠組みの中で、個々の時間外労働時間を細かに積み上げて残業手当を算定することは不要にしますという制度になっています。

裁量労働制にはふたつの種類があり、ひとつは「専門業務型裁量労働制」、もうひとつが「企画業務型裁量労働制」です。

「専門業務型裁量労働制」の適用職種は労働基準法で定められており、それらの職種に限り労使合意など必要な手続きを経て時間外手当の支給を免除するものです。

「企画業務型裁量労働制」はいわゆる企画業務に就くホワイトカラーを対象にみなし時間外を定め、時間外手当の支給を免除する仕組みです。ただし、「企画業務型裁量労働制」は濫用の恐れが高いため、「専門業務型裁量労働制」と比較すると、必要な手続きが厳しく設定されています。

また、管理監督職と異なり休日出勤の手当は支給が免除されるわけではありません。

 

2.新たな枠組み

アメリカなど欧米では残業手当の支給対象にならない仕組みとして、いわゆるホワイトカラーエグゼンプションが存在しています。

例えばアメリカの場合、「ホワイトカラー要件」、「俸給要件」、「職務要件」の3つを満たせば時間外手当の支払いが免除となります。「職務要件」についてはさらに3つの種類があり、「管理職エグゼンプト」、「運営職エグゼンプト」、「専門職エグゼンプト」が定められています。

先ほど裁量労働制では時間外労働を「みなす」という趣旨のことを述べましたが、そうではなくそもそも時間外労働に対する残業手当の支払いを「免除」する、言い換えると「時間で給料の算定を行うこと自体をやめよう」という考え方のもとに検討されているのが「ホワイトカラーエグゼンプション」です。

ご案内のとおり、一度は2016年4月の導入を目指し、法制化が進められていましたが、さまざまな議論を呼びはしたものの廃案になり一旦表舞台からこの議論が消えました。

しかし、今回「高度プロフェッショナル」制度として再び議論が浮上し、連合から104日の休日確保などの修正条件などが付きはしたものの一定の理解が示されたと報道されています。

 

3.なるか「高度プロフェッショナル制度」

高度プロフェッショナル制度の最大のポイントは労働時間で賃金を決めるものではなく、あくまで「成果」に対して賃金を支払うという考え方に全面的に軸足を移すことにあります。

その要件として、現在なされている報道によると、「研究開発や金融、コンサルタントなどの高度な専門的知識を必要とする業務」に就き、「年収1075万円以上」の者という認定条件が柱になっているようです。

今後詳細な詰めがなされ、「高度プロフェッショナル制度」の法的整備がなされる日も近いと考えています。一方で大きな論点になるのではないかと私が考えているのは「年収1075万円」という報酬要件です。

その他の要件については今の裁量労働制度の枠組みがある程度たたき台として使えそうなので議論は比較的早く進むのではないかと思います。しかし、報酬要件が設定されるのはこの制度が初めてになります。

真偽がまだ確認できていないのですが、1075万円というのは労働者全体の3倍程度の年収で算定されたようです。であれば、ここまで精緻にしなくても1000万円とか1100万円でも良さそうな気がします。

それはともかく報酬要件の1075万円という基準の確定方法と確定時期をどうするかが悩ましいのです。

というのは、サラリーマンの年収が確定するのは12月の給与や賞与が支払われてからになります。仮に残業手当の支給がないとすると、月例給与はほぼ固定になりますが、賞与は会社や個人の評価で大きく変動することが多いと言えます。そうすると1075万円に達すると見込まれていた年収が、賞与が思ったほど伸びず1060万円でしたとなる可能性が現実的に少なからずあります。

また、年収のカウントそのものを4月~3月とするのか、1月から12月にするのかによっても大きく異なります。多くの企業がいわゆる昇格を4月や7月に実施するケースが多く、昇格や昇進によっても年収は変わります。この辺り対象者認定時期も一定のルールを定める必要がありそうです。

とは言えここまで議論が進むと、かつて高井先生がおっしゃっていた成果で給料を決める制度が実現する日はもうまもなくではないかと考えています。

 

以上

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