2017年6月14日(水)11:22 長野市にてランタナを撮影
花言葉:「合意、厳格」
平成29年6月13日 中小企業と企業統治セミナー 開催報告
今年1月~3月、「週刊 労働新聞」において連載された「経営・人事担当者向け 中小の企業統治論(全11回)」を契機に、連載執筆者のうち、エゴンゼンダー株式会社代表取締役社長の佃秀昭氏、中央大学法科大学院教授・弁護士の升田純氏を講師にお招きし、去る6月13日、市ヶ谷法曹ビル(弊所所在ビル)において「中小企業と企業統治セミナー」を開催した。具体的な数値、事例を元にした講演を行って頂き、受講者からは大変好評の声を頂いた。
富士ゼロックス、東芝が不正会計問題で生死をさまよっているが、インチキのない、厳格な時代に沿った感覚で今後の経営を考えていかなければ、企業は生き残れない時代になった。(そもそも「不正会計問題」ではなく、正しく「違法請求」というべきである。)
中小企業の経営者からしてみれば、中小企業は企業統治とは縁遠いと思われているかもしれないが、以上のことを念頭に置いて、今回、セミナー受講者にお話を聴いて頂いた。
(講師:エゴンゼンダー株式会社代表取締役社長 佃秀昭氏)
エゴンゼンダー社が東証一部上場企業380社から取ったアンケートの回答の結果から見えること。380社のうち、500億円未満の売り上げの会社(比較的規模の小さい企業も含まれている。ここでは、便宜的に中小企業と称する)が101社。1兆円以上の企業が57社であったが、売上高500億円未満の規模の企業に着目する。
中小企業の半数近くが、社外取締役の会社への貢献度に満足していない。中小企業では、社外取締役が法律・会計専門家にやや偏っているきらいがあり、3人に2人は弁護士か公認会計士であるというのが日本の中小企業の現状であるが、それが社外取締役の貢献に対する評価の相対的な低さにつながっている可能性がある。
→ 特に中小企業においては、まず社外取締役の出身・職業の構成について、企業経営経験者を入れるなどし、社外取締役の貢献度を高める方向性の検討をしてみてはどうか。
企業規模を勘案すれば理解できる水準。指名委員会の設置状況は、売上高1兆円以上の大企業は80%以上が設置済みであるのに対して中小企業は約24%と非常に低い数値だが、これは使える資源が限られている中小企業にとって、運営が大変な負担になるからだと考えられる。
→ 指名委員会の設置は必ずしも必要ではないと考えるが、指名委員会の運営負担の大きさは企業にとって今後も大事な論点であると捉えたい。
そもそも、法律・会計専門家が指名委員である場合、経営者として優れている人を見極める知見があるのかどうか。適格性を備えた指名委員を招聘することの困難さも問題。
自己評価・第三者評価の実施率は、売上高1兆円以上の大企業では94.7%、1000~5000億円の企業は59.7%、500億円未満の中小企業では50.5%
→ 中小企業も、企業規模を勘案すれば積極的に対応していることがうかがえる。もっとも、企業規模が小さければ小さいほど、必要性を感じない経営者も相当にいる可能性がある。
経営陣を「攻め」と「守り」の両面から規律し、結果的に企業価値の向上に資するような組織運営を行う仕組みを作ること
・企業価値に与える、トップの影響が大きい
・経営の意思決定が極めて迅速
・企業規模ゆえ、資源(人的・資金的)の制約がある<
※考慮すべき論点として、そもそも中小企業に企業統治改革は必要か?
→ 必要ない企業もたくさんあると思われる。(e.g. 優れた経営者によるワンマン経営で企業価値が向上しているケース)
①企業戦略等の「大きな方向性」の決定
②経営幹部のリスクテイクの環境整備
③独立した立場からの実効性の高い監督
・・・取締役会の責務を果たすために何をすべきか
①取締役会の議案・・・戦略的重要性の高い議案の選定と付議基準の見直し
②取締役会の構成・・・社内・社外バランス見直しと多様性(知見・経験)の確保
③事務局機能・・・専任部署などの新設、優秀人材の配置など
④傘下委員会の機能・・・指名委員会・報酬委員会の設置、委員会体制の強化
⑤取締役会の議事運営・・・議事運営の見直し、議長のファシリテーション(*1)強化等
⑥社外取締役の支援・・・事前説明の充実、社内会議への陪席許可等
⑦開催頻度・時間等・・・開催頻度の減少と1回あたり時間の拡大など
⑧取締役会評価・・・取締役会の課題認識と自己内省・PDCAサイクル(*2)の導入
※特に大事なものは①②④
*1 会議の場で、発言や参加を促したり、話の流れを整理したりすることで合意形成や相互理解をサポートすることにより、組織や参加者の活性化を促進させる能力のこと。
*2 Plan(計画)→ Do(実行)→ Check(評価)→ Act(改善)を繰り返すことによって、業務を継続的に改善させる手法。
経営者年齢が上がるほど投資意欲の低下やリスク回避性向が高まり、経営者が交代した企業のほうが利益率が高いということは、中小企業庁のデータからも分かっている。事業承継は極めて重要な問題。
→ しかし、
・経営トップの影響力の強さゆえ、現在のトップが経営権を承継することに対してなかなか踏ん切りがつかないという問題
・人材確保の難しさ
経営者とは?
既存秩序にとらわれず、リスク志向である。ビジョンが目標を定める。やりたいことが目標(やらなきゃいけないではなく、やりたいことは何か)。選択肢を狭めるのではなく広げていく。うまくいっている間こそどんどん手を入れていく。人との衝突を恐れない。変化の推進者である。
(講師:中央大学法科大学院教授・弁護士 升田純氏)
・企業統治は、法律によって支えられている。また、法律を遵守することが基本となっている。
・企業経営は、知っているかどうか、気が付いているかどうかにかかわらず、法律に関係し、法律が適用される場面が多い。
・経営資源には、資金の調達、原材料の調達、優秀な労働力の確保、信用の形成・向上、取引関係の形成・維持、情報の入手・活用など、有形のものに限らず無形のものもあるが、ここに法律の活用も加えるべき。
・法律の活用は無形の経営資源であり、代価、費用を要しない。
・法律の中には刑罰等の制裁を定める法律があり、そこに注目が集まりがちだが、事業者に様々な権利、利益、便宜を与える法律も多数存在する。(e.g. 補助金を与える法律)
・企業における実際の法律問題の実情として、法律の内容・改正動向への無関心、それ故の法律違反による信用の低下、コンプライアンス違反の指摘を受ける、権利や利益を提供してくれる法律の利用を見逃してしまう、訴訟対策に出遅れる等がある。
→ ただ、企業の中には、法律を積極的に活用し、経営・事業の戦略に活用する所もある。
・法律の内容、改正動向には常に関心をもつ。
・法律の変わり目(改正の前後)は、企業の経営、事業にとってリスクが大きくなるものの、逆に利益を得るということもあるため、注意しておくこと。
・同業者の会合、講演会、セミナー等、あらゆる機会を利用して法律に関する情報を入手する。
→ 特に、法律を所管する各省庁のホームページは情報が満載であり、これを日頃活用することをお勧めする。そして、詳細を正確に理解するためには各省庁への問い合わせ、弁護士への相談をすることが重要。
・企業の経営、事業の場面で法律のことを一度は話題にし、疑問が生じたりした場合には必ず確認する。
・法律の活用は、最終的には訴訟において勝訴判決を得て、確定しなければ実現しない。
・また、訴訟に巻き込まれることもある。
・常日頃から訴訟対策に留意することも重要。
※「論より証拠」
・訴訟には「請求」「主張」「立証」「判断」の4つの手続きがある。
4つの手続きのうち、勝つために一番重要なものは何か?
→ 証拠による立証であり、「論より証拠」の格言
証拠の種類は5つ
①本人(会社の場合は代表者)の供述
②証人の供述(証言)
③鑑定人
④文書(インターネット上の電子文書、録音媒体等を含む)
⑤検証物
良く利用される証拠は①②④
訴訟対策として、証拠を常日頃から蓄えておくことが必要。
以上