- 今、話題のテーマについて各界で活躍している方々と対談をする一問一答形式のブログの第23回目です。
- 第23回目は、世田谷区長保坂展人様です。
■ ■ ■ ■ 時流を探る~高井伸夫の一問一答 (第23回)■ ■ ■
世田谷区長 保坂展人様
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[世田谷区長 保坂展人様 プロフィール]
1955年11月26日、宮城県仙台市生まれ。中学校卒業時の「内申書」をめぐり、16年にわたる内申書裁判の原告となり、そこから教育問題を中心に取材するジャーナリストになる。96年11月、衆議院議員初当選。09年までの3期11年で546回の国会質問に立ち、「国会の質問王」との異名をとる。2011年4月の世田谷区長選挙で初当選。区内で車座集会ほか、区民参加の意見交換の場を次々と持ち、今後20年の「世田谷区基本構想」をまとめる。
著書:「相模原事件とヘイトクライム」(2016年、岩波ブックレット)、「脱原発区長はなぜ得票率67%で再選されたのか?」(2016年、ロッキング・オン)、「88万人のコミュニティデザイン」(2014年、ほんの木)、「闘う区長」(2012年、集英社新書)ほか、著書多数。
[今回のインタビュアー・同席者は以下の通りです]
- 高井伸夫
- 公益財団法人ヒューマニン財団 理事長 寺山智雄 様
取材日:2017年7月31日 於:世田谷区役所
高井
一番力を入れてる区政は何ですか。
保坂様
時間も精力も大きく使ったのは保育園の整備等の子育て支援政策です。世田谷区では、10年前には年間6,000人子どもが生まれていましたが、今は8,000人生まれています。少子高齢化といいますが、世田谷区は子どもが増え続けています。
平成23年度以降、増加し続けていた待機児童数ですが、6年ぶりに前年度の数値を下回り、3歳以上の待機児童は解消することができました。今後も、0歳から2歳までの待機児童解消に向け、努力をさらに続けていきたいと思います。
また、子どもの数だけでなく、すべての年代で万遍なく人口が増加しています。区の人口は年に1万人ずつ増えていて、現在、約90万人の方が暮らしています。あと十数年で100万くらいになるのではないでしょうか。
高井
世田谷区では人口が増えているのですね。世田谷区の予算は豊富なんですか。
保坂様
平成29年度予算で、一般会計が約2,987億円、特別会計を含めると約4,785億円です。世田谷区は一番豊かだということではありません。むしろ人口が約90万人と多いので、ふるさと納税の影響が都内で一番大きいです。
高井
世田谷区はふるさと納税の影響が大きいとはどういうことですか。
保坂様
影響が大きいというのは、区財政から出ていく金額が多いということです。ふるさと納税制度による影響で、平成29年度の世田谷区住民税減収額は、約31億円にも上りました。これがどんどん増えていくと手の施しようがありません。
高井
ふるさと納税の影響で、減収額がもっと増えることもあり得るのでしょうか。
保坂様
仮に、世田谷区のすべての納税者が限度額までふるさと納税をしてしまうと、最大200億円減収する可能性があります。そのため、区では、ふるさと納税制度の現状やそれに伴う影響、区の取組みをわかりすくまとめたリーフレットを作成しました。また、直接区民の方にふるさと納税の影響を伝えるため、私も街頭に立ち寄付を呼びかけました。100億円の減収になると、もう、予算が組めない状態になります。もちろん50億円でもかなり影響がありますが、そうなりますと、新築工事は全部無制限でストップするだとか、区のサービスを一時的に止めることになりかねません。投資など政策的に使えるお金を削るしかありません。
高井
最近、総務省を中心にふるさと納税の見直しをしていますよね。
保坂様
地方の活性化といっても、都会の保育園、あるいは、学校建設が止まるようなところまでいくとは総務省も考えていなかったんじゃないでしょうか。
ただ、地方の高齢化と、少子化、人口減少というのは非常に深刻ですよね。現在は、地方都市にいる若者が、首都圏にかなり多く流出していますが、その地方都市が衰退すると、地方から首都圏に来る人もいなくなると言われています。ですから、地方の衰退は都市部にとっても非常に大きな問題で、ふるさと納税ではない形で、いろいろ関わりを持つことが重要だと考えています。
高井
地方とふるさと納税ではない形で関わりをもつとは、例えば、どういうことですか。
保坂様
世田谷区は北海道から沖縄まで約40の交流自治体があります。普通の自治体の付き合いにしては多い方だと思います。今週末(注2017年8月5日~6日)に、“第40回せたがやふるさと区民まつり”を開催しますが、36の地方自治体が特産物を持って世田谷区に集まるんです。もう40回も続くお祭りで、非常に多くの区民も楽しみにしています。毎年、交流自治体の市町村長が集まって、“せたがやふるさと区民まつり首長懇談会”を開催したり、特産品の販売だけでなく、さまざまな交流があります。
例えば、川場村は、世田谷区と、姉妹都市事業の縁組み協定を昭和56年に結んでいます。川場村には、関東好きな道の駅第1位に選ばれた“道の駅川場田園プラザ”がありますが、これは世田谷区の名誉区民である鈴木忠義氏をはじめ世田谷区が積極的にかかわり、姉妹都市事業に端を発し、発展した例です。新潟県十日町は、お正月に毎年何十トンもの雪を持ってきてくれて、子どもたちがそれで遊んだりします。自然エネルギーを地方で作ってもらって世田谷区で買い取って使うということも実現しだしたりしてるんです。それだけの地方とつながっていることは世田谷区の資産です。
寺山様
エネルギーについてのお話がありましたが、区長という地方自治体の首長になって、エネルギー政策を考え実行されるうえで一番悩ましいことは何ですか。
保坂様
悩ましいことですか・・・。私がよく知る首長さんの中に宝塚市長がいるんです、宝塚市は実は広大な山があるんです。そういった自然環境だったら、その自区内でエネルギーの調達方法もいろいろ考えられるわけです。世田谷区はほぼ住宅地なので、自然エネルギーの地産地消は世田谷区ではなかなか難しいなと。そこで交流自治体との連携を考えました。
高井
自然エネルギーについて、交流自治体との連携とはどういったことですか。
保坂様
例えば、桜の名所で有名な、長野県伊那市高遠で、この4月から水力発電所が稼働し始めました。ここで発電した電力を買って世田谷区の41の区立保育園で使っています。いままで区立保育園では、年間約6,000万円の電力料金を支払っていましたが、水力発電に切り替えることで500万円ほど安くなる見込みです。これまで中部電力に全て売電してきた長野県も、新電力の買取り価格が、従来よりも高くなり、年間約2億円の収益が得られるそうです。地方の自治体が、都市部の自治体へ電力を送るという仕組みは日本で初めての仕組みです。この仕組みを作るのに、環境省や経済産業省、それぞれの自治体、長野県と、世田谷区と共同で準備しました。東西のヘルツの違いなど、困難な面もありましたが、一つ一つ突破しました。これを受けて、8月1日に、エネルギー連携だけの会議が開催されます。
その他にも、交流自治体の一つである八幡平市は日本で有数の、地熱発電のポテンシャルが高いのですが、送電網の整備が整わないという課題がありました。この課題を突破するのに約5年かかりましたが、ようやく実現しました。こういった自治体と自治体の連携は全国にどんどん広がるはずです。世田谷区だけがあちこちの自治体と連携してやるだけでなく、別の地方自治体と地方自治体が協力してやることも可能です。このように、ネットワーク型で見ていくと意外とやれることがあると思っています。
高井
地方自治体との連携のほかには、どういった取り組みをされていますか。
保坂様
世田谷区内には、16の大学(隣接含む)があります。昼間の学生総数が約9万人で、研究室もたくさんあります。そういうところと、区の政策等をつなげてコラボレーションするということをやっています。例えば、商店街の活性化や、東京都市大学と連携して世田谷区にある等々力渓谷を清流化するプロジェクトなどが始まっています。エネルギー分野でも、大学や企業が入ってきたりすると、より加速して可能性が拡がるのではないかと、そういった形で、原子力や、化石燃料に依存した発電に依存しない電力をいかに作り、確保していく仕組みをつくるかということに、かなり時間も割いてます。
この分野は、狙いどおりに5年前に立てた戦略どおりに動いているんですよ。
高井
区長の将来の夢は何ですか。
保坂様
一つは、住民自治。住民自治というものが日本では言われながら、なかなか実現してこなかった。今回、高知県の大川村で村議員のなり手がいないので、村議会を廃止して村総会を検討するというニュースがありましたが、全員自治は、民主主義の一番原始的な姿ですよね。それを、90万都市の世田谷区でやりたい。世田谷区では、くじ引きで当選者を決めてその当選者に集まってもらうという形で無作為抽出型住民ワークショップを開催し、いろいろなことを議論してもらっています。
高井
無作為抽出型住民ワークショップですか。今まで何回ぐらいやっているんですか。
保坂様
今までで、あれこれ合わせると、もう20回以上やってるんです。
高井
そんなにやってるんですか。知りませんでした。あまり報道されませんよね。
保坂様
そうですね、あまり報道されていませんが、一番特色があることだと思っています。くじで選ばれた住民の方の話してることや、意見は、非常に素晴らしくて、かえって、われわれ役所の人間や、政治で言われてることよりも遅れてるんではなくて、進んでるというふうに感じます。行政も、政治も間接ですが、その現場にいる住民の方々の話から気付くことや、提案されることは非常に貴重です。そういうことをまちづくりとか、自治体経営の中にどこまでビルトインできるのかっていうのが当面の目標です。無作為抽出型で議論する以外に、毎日、区長へのメールを頂いています。これは毎日10人くらいからメールが届きます。そういった声を自治に活かしていきたいと思っています。
寺山様
最後に1つだけ教えてください。働き方について、区の職員が5,100人ほどいますが、それだけの職員を抱えているトップとしての働き方について何かお考えがあれば教えてください。
保坂様
世田谷区では、イクボス宣言っていうのをやりました。フランスが少子化から反転した理由をいろいろ調べていて、フランスは、男性の産休2週間取得を義務付けている、というのを知りました。今、フランスでは男性の産休の取得率は8割ぐらいらしいんですけど、お父さんが育児の当事者になるっていうのは大きい理由ではないかと。2子目、3子目に大きく関わっていくという。そこから派生して、世田谷区役所では、生まれたら、いろんな休暇を使って、ちゃんと子どもに向き合いましょうという問題提起をしたんです。ただ、区長だけ言ってても、なかなか徹底できないので私だけでなく、部課長が、みんなでイクボス宣言文にサインをして職場の目立つところに掲げることにしました。
高井
イクボス宣言ですね。
保坂様
その他に、保育のこと考えたときに、特に女性の社会参加を考えたときに、今、区で推進しているのは、いわゆるテレワークです。すぐ近くで子どもをみてもらいながら仕事ができる子どもの見守り機能付きのワーキングスペースの設立を含め、「働くこと」と「子どもとともに過ごす時間」を両立させる施策を検討しています。
高井
本日は貴重なお話をありがとうございました。
以上