2017年11月9日のアーカイブ

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2017年8月24日(水)13:02 ベロペロネを撮影
花言葉:「ひょうきん、おてんば」

 

 

第32回 人事・労務の未来(1)
(2009年10月5日転載)

 


高井伸夫弁護士は、企業構成員が「個」としての能力を十分に発揮できるよう条件を整えるのが、人事・労務管理の役割と位置付けている。いまや利益追求のみで通用する時代ではなく、心身の健康と人間性重視の姿勢で臨むべきであると提言した。

 

「個別人事管理」に重心

企業におけるこうした人の獲得競争が激化した根本原因は、①日本の人口が減少局面に入り“人材の市場”も縮小し、優秀人材の獲得競争がますます激しくなっていること、②グローバル化により企業は外国企業との競争を強いられていること、③日本の国内市場が縮小し、右肩上がりの成長路線を描けなくなったこと等であり、手をこまねいていればジリ貧になるという恐怖感が、潜在的にせよ強く意識されてきたからであろう。

10年ほど前に日本に成果主義が浸透し始める以前から、私は、「事業戦略・企業戦略は、人事採用戦略に宿る」と述べてきた。近年この人的資源獲得競争の中で、特に経営能力・管理能力・専門知識を備えた稀少人材を確保・維持・育成することの重要性は増し、今後もますます増加するのは必然で、それに伴い人事・労務の重要性がさらに高まっているのである。

そして、成果主義的な人事・賃金制度の定着と社会的な個人主義の風潮の高まりが相俟って、企業では集団管理よりも個別人事管理に重点が置かれるようになってきている。成長という右肩上がりのビジョン・価値観によって従業員に対する求心力を保つことは不可能になっており、その一例として、組合の組織率が低下し続けているのは当然の現象であり(2008年労働組合推定組織率=18.1%)、かつての団体交渉を中心とした組合・社員会対策は下火となっている。それゆえ、人事・労務管理の面でも、これからは個々人を対象として丁寧な対応を行う必要に迫られるだろう。

しかし、企業は秩序ある協働体・組織として活動し、成果を上げ続けなければならない存在であることに変わりはない。即ち、企業においては、社会的変化によっていかに組織の集団的な堅固さが脆弱化する状況にあっても、個別人事管理だけでは経営組織は成り立たず、集団管理も当然に必要とされるのである。したがって個別管理と集団管理の両立という点にこそ、これからの人事・労務管理の難しさの根本があると言ってよい。

さて、人事管理と労務管理の違いとは何か。人事管理とは、企業経営のために従業員の個々の処遇を決定すること、つまり、配置・賃金等の報酬の決定をすることである。配置の決定とは、各人が取り組む仕事の内容を決めることであり、賃金等の報酬の決定とは、単に賃金額の決定だけではなく、序列付けをし、どの地位の職位・職制に就かせるかにも関連してくる。そこで、配置と賃金は互いに大きく関係してくるのである。

これに対して、労務管理とは、多数の労働者を使用するに当たって公明・公平・公正に処遇していくことである。

 

実効性ある労務管理へ

要するに、人事管理が一人ひとりの個人を対象とするのに対し、労務管理は多数の労働者を対象とし、集団的に秩序付けるべく取り組むことである。

この意味において、人事管理と集団管理を旨とする労務管理とは根本的に異なるようにみえるが、集団も個人によって成り立つがゆえに両者は密接な相関関係にあり、一体感あるものでなければならない。そしてそのバランスは、個別企業ごとに経営理念によって異なってくると思われる。

現在では、前述のとおり個別人事管理の重要性が増してきているが、その背景には、従業員・社員が、使用者に対して個別に発言するようになったこともあるだろう。それゆえに、企業の対応は複雑にならざるを得ず、公明・公平・公正を期する労務管理自体が、難しくなってきたことを意味する。

また、労務管理は日々の積み重ねが重要であるが、労務管理にとっての日常的な指導・教育の意義を改めて考えさせられる近時の裁判例がある。

「T社事件」(甲府地判平21・3・17)では、営業職にある従業員が、社有車を子どもの保育園への送迎に使用していたこと、早退が多い等合計15項目の解雇理由により普通解雇されたことの有効性が争われたが、裁判では解雇は無効とされた。裁判所は、不適切な言動を繰り返す従業員に対して会社が指導を行ったことを示すメモは、記載が断片的で不自然であるため、公平かつ公正な立場から記載された物とは認められないとして、メモ自体の信用性を否定した。そして、会社が主張した解雇理由15項目中14項目について「事実を認めるに足りる証拠はない」としたのである。

「詞は飛び書は残る」という法諺を紹介するまでもなく、裁判における証拠としての書面の存在は極めて重要である。そして、裁判対策だけの意味ではなく、労務管理の実効性をあげるためには、会社が自らを律するとともに、日頃から就業に関する的確な指導・教育を行う体制を作っておく必要があるのである。

 

アナログ的能力を活用

さて、企業間競争が激しくなるにしたがって、「企業を活かし、人を活かす」ことがなお一層必要となる。「企業を活かす」とは、集団管理の視点に立つことであり、経営者・管理職者のリーダーシップ・マネジメント力等々が要素となる。「人を活かす」とは個性を大切にされてこそ人は最大限の力を発揮できるとの個別人事管理の視点に立つものであり、個別管理の基本である「人を見て法を説く」ことが重要な要素となる。

こうして、個性に主眼を置く個別人事管理の強化という視点に立つと、集団管理の困難さが一層際立つことに気づくだろう。これからの人事・労務管理は、集団管理と個別管理の一層の統合を図らなければならないが、結局、両者の架け橋は評価にあり、その公明さ・公平さ・公正さと、適切な経営理念の推進を実現することにあると言えるだろう。

人の労働の価値基軸は、主に手足を使う肉体労働がメーンであったフットワーク・ハンドワークから、頭脳労働・知的労働がメーンであるヘッドワークに移行し、社会の進歩や変化とともに変わってきた。そして今まさに、主に心を用いることが重要な要素であるハートワークの時代(心の時代)となっており、そして、近い将来はハートワークよりもなお一層人間性全体を活性化する時代(ヒューマンワークの時代)になるだろう。

私が提唱するこの「ヒューマンワーク」とは、マニュアル経営と対峙する概念であり、人間性の原点に立ち帰り、心身の限界を尽くして、人として有する全機能をフルに働かせる労働を意味している。言わば、全人教育の成果としてなし得るものである。

グローバル化が進めば進むほど、民族の考え方の違い、価値観の違いを超えて機能する、人類に普遍的な「ワーク」であるヒューマンワークが必要とされるだろう。

つまり、人事管理・労務管理においても心・精神性、さらには多様な価値観を前提とした上で、個人の人間性を念頭において構築なければならない。

先に、経営能力・管理能力・専門知識を備えた稀少人材の必要性について触れたが、そこで重視される人間の資質・能力はデジタル的な能力(数値上明確化することのできない能力)にあると言える。現代のように誰もがITを仕事に活用するのが当然の時代となればなるほど、勝負はIT化できない能力、数値化できない能力の優劣にかかってくる。例えば、話す能力・意思伝達能力・問題発見能力・協調性・営業力・交渉力・プレゼンテーション能力・リーダーシップなどは、いわばその代表例である。これらは、成果を数字で示すような頭脳労働だけではなく、人の感情や思いに訴えかける能力を必要とする。そして、ITはこれらの能力を増幅させる「てこ」の役割を果たす。だからこそ、ヒューマンワーク社会ではわずかな違いが大きな成果の差につながるのである。

 

利益追求のみでは限界

さて、このヒューマンワークの時代においては、健全な肉体はもとより、心の健全性も当然意識されなければならず、健全な心身と人間性との統合があって初めて、人としての存在意義と機能が十分発揮できるのである。この点、人事・労務管理においても人間性の尊重は当然意識されるべき視点であり、経営者や管理職者についても、また企業の精神である経営理念や事業活動自体についても、さらたには就業規則等の規定類の運等に当たっても、心身の健康と人間性を重視する態度で臨む必要がある。そして、こうした姿勢は企業構成員の意思統一を図るためにも極めて重要である。

人事労務管理の目的は、「企業の活性化を図る」「事業経営の成功を期する」ことに尽きるが、これは利益のみを追求するだけでは不可能であり、個々の企業構成員が「個」としての能力を十分に発揮することが必要不可欠となるであろう。即ち社員・従業員・労働者を、尊厳ある存在として扱うべく人事・労務が重要視される時代となってきたということなのである。

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