• 今、話題のテーマについて各界で活躍している方々と対談をする一問一答形式のブログの第26回目です。
  • 第26回目は、株式会社浦上蒼穹堂 代表取締役 浦上満様です。

 


 

■ ■ ■ ■ 時流を探る~高井伸夫の一問一答 (第26回)■ ■ ■ 

株式会社浦上蒼穹堂 代表取締役 浦上 満 様

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[株式会社浦上蒼穹堂 代表取締役 浦上満様プロフィール]

1951年東京生まれ。

大学卒業後、古美術界の老舗、繭山龍泉堂にて5年間修行。1979年4月に独立、日本橋に浦上蒼穹堂を設立し、今年で満38年。

中国、朝鮮半島、日本の古陶磁を主に扱い、他に青銅器、漆器そして浮世絵(主に葛飾北斎)なども取り扱う。国内外の美術館、博物館の企画展にも協力、出品依頼が多数あり、1994年東京国立博物館で催された「中国の陶磁」展には全343点(国宝3点重要文化財30点を含む)中、42点を出品協力。個人コレクターを主眼におきながらも、国公立の美術館や財団法人の美術館、アメリカの美術館にも数多く作品を納める。

葛飾北斎の「北斎漫画」のコレクションは質量ともに世界一といわれ、1987年以来、現在までに35回以上「北斎漫画」展を全国の公立美術館で企画、開催。2016年、第10回国際浮世絵学会 学会賞受賞。

〔著書〕

  • 「古美術商にまなぶ 中国・朝鮮古陶磁の見かた、選び方」(淡交社)
  • 「北斎漫画入門」(文春新書)

 

〔現在〕

(株)東京美術倶楽部 常務取締役、東洋陶磁学会 監事、国際浮世絵学会 常任理事/総務委員長、アートフェア東京 コミッティ(運営委員)、慶應義塾大学特別招聘講師

浦上様と高井

(写真は左が浦上満様、右が高井伸夫 取材日に撮影)

[今回のインタビュアー・同席者は以下の通りです]

  • 高井伸夫
  • 高木光彦(弊所庶務・ドライバー)

(取材日 2017年8月26日(土)11:30~於:株式会社浦上蒼穹堂)

 


高井

浦上様といえば、北斎漫画のコレクションでは世界一と言われていますよね。

 

浦上様

北斎漫画は葛飾北斎が描いた絵手本です。初編から15編あって、これは江戸時代のベストセラーでありロングセラーなんです。私は18歳の時から集め始めておりまして、爾来48年間、今でも集め続けていて、専門家の間では質量ともに世界一のコレクションといわれています。

江戸時代の版本ですから、当時は1編につき、何百冊、何千冊とあったはずなんです。版画ですから、初摺りといって、初めに摺ったものがいいに決まっているんですね。なぜかというと、初めのうちは版木がまだエッジが立っている、ところが沢山摺っていくうちに、だんだん版木が摩耗して、線も鈍くなっていく。当然初摺りで、なおかつ保存状態がいいものが欲しくなる。200年も前に刊行されたものですから、保存状態が悪いものがいっぱいあるんですよ。摺りが早くて、保存状態がいいものを一生懸命探しているうちに、1,500冊にもなっちゃったんです。初摺りは1,500冊あるうちの150冊もないですね。とても貴重です。

自分で購入して「これより、こっちのほうが早いな」という経験を積んで、だんだん目も利いてくる。1,500冊も集めましたので、おかげさまで、大英博物館や東京国立博物館の所蔵品よりも良い「北斎漫画」を私は持っています。

 

 

高井

本当によい骨董品とはどういったものをいうのですか。

 

浦上様

例えば“三彩”は技法ですから、現代でも作られていますよね。中国は唐の時代、8世紀を中心に作られたのが、オリジナルの唐三彩です。本ものでも、ピンからキリまであります。理想をいえば、本ものの最高品を買うことです。でもそんなものはなかなか出てこない、出てきても1点で何千万円、何億円もする場合があります。値段も大切なファクターです。大切なのはそのものの本質を見ることです。

例えば、あるジャンルで、最高のものが1億円だとして、同じ時代の同じ窯で焼成されたものでも10万円しかしないものもあります。本ものでありながらこの1億円と10万円の差というのは、普通ちょっと理解できませんよね。それぐらい厳しい差があります。

 

 

高井

本ものとガラクタをどうやって見分けるのですか。

 

浦上様

やっぱりそれは、長年の経験と、経験を通じて培った美意識でしょうね。そんなに難しいことではありません。私たちは若いうちから数多くのものを見ている。特に見始めの頃は、変なものを見ちゃいけない。いいものだけをたくさん見る。そうすると、変なものを見た時に、自然に拒絶反応が出ます。嫌だとか、気持ち悪いとか。そんなのは君の感想だろうといわれそうですが、それが大事なんです。そうやって一種の感覚が純粋培養されていきます。ただ、それを勘とか感覚だけで終わらせず、本を読んだり研究したり、いろいろ勉強もします。今は、世界中の美術館で、優れたコレクションを見ることができます。現物を見る機会がある。そういう時にしっかりといいものの造形や感触を叩き込んでおきます。比較してみると“いいもの”と“そうでないもの”との違いが分かってきます。

 

高井

そういった“目利き”の後継者は育っているんですか。

 

浦上様

どの業界も、「後継者不足だ。質が落ちた。」と言いますが、それなりにいると思うし、いなきゃ困りますね。

今、一番の問題は、優れた本ものに触れる機会が少ないことです。美術館の学芸員で例えると、いい作品を、展覧会のためによそから借りてきたりする。その時に、学芸員が直接触れることができないんですよ。日通とかヤマトの美術専門のチームがあって、その人たちが、作品を開包したり展示したりする。なぜかというと、何か事故が起きて美術品が壊れたりした時に、そういう人たち以外の人だと、保険が下りないからです。

これはまさに本末転倒の話で、プロの学芸員が触らなきゃいけない。特に新米の学芸員なんか、そういう時に触ってものの重さとか、高台の様子を覚えるんですね。ところが、触れることができないから、一生、目利きになれませんよ。

われわれ、いわゆるプロの美術商がなぜ目が利くかというと、恐ろしいほど沢山ものを見ているんです。それも手にとる。手にとって、体で覚えているんです。だから、そういう訓練をしていかないと、眼なんて肥えるもんじゃないんですね。保険が問題なら、特記事項に、ここの学芸員の誰々が触って、もし何か事故があっても保険が下りるというような条項に変えたらいいんですよ。今のままだと、どんどん不毛になって、目利きが育たなくなると思います。

 

 

高井

先生は長年古美術を扱っていますが、オールマイティの目利きですか。

 

浦上

オールマイティという人は、ハッキリ言っていません。いたら、それはかなりあやしいと思ってください。みんな、自分の得意のジャンルしか分からないです。ただ、得意なジャンルを極めた人は、当然いろんなものを見ていますから、だいたいのことは分かるんです。でも、“だいたいのこと”であって、自分の自信を持って言えることしか、言っちゃいけないんです。

全部オールマイティ、どこかの占い師じゃないけど「黙って座れば、ピタリと当たる」なんて、そんなふうに言う人がいたら嘘だと思ってください。

それぞれの分野で「これはあの人だな」というのがあるんです。私も「これはもう浦上さんに聞こう」という立場にならなければいけない。お互いにそれぞれの分野で、引き出しを持っているわけです。これはあの人に聞く。それはもう、ものすごく確かです。学者さんは値段まで分かりませんが、プロは当然値段まで分かっちゃう。

 

高井

日本の美術の問題点について教えてください。

 

浦上様

日本の政治家とか官僚や役人という人たちは、非常に美術に弱い、疎いんです。それが問題だと思っています。美術は政治家にとっては票にならない。官僚も学業は優秀なんでしょうが、子どもが「お父さん、今度の日曜日、美術館に連れて行って」と言われても「お前そんな時間があったら勉強でもしていろ」とか、「せめてスポーツにしろ」とか言う。要するに、美術は無駄なもの、ある意味では、一種の遊びだという感覚で捉えている人が多い。

企業でも銀行でもトップになる人というのは、人間性が大事ですよね。外国で「私、美術が嫌いです」とか「関心がありません」と言ったら、「私は野蛮人です」ということを、自ら吐露しているようなもんなんですよ。ところが日本人は、それに気が付いていない。一流の政治家でも、一流の経済人でも、それが非常に恥ずかしいということに気が付いていないんです。

日本人は、勉強なら勉強だけができればいい。企業なら、ただ仕事がちゃんとできればいいとか、そんなことばかり言っているけれど、そこに文化的な素養がないと、欧米では馬鹿にされるんです。少なくとも、トップには立てない。

 

 

高井

日本人がより美術に親しむためには何が必要でしょうか。

 

浦上様

根本的には教育です。小さい時から、日本には、美術に対してのびのびと見る環境がなさ過ぎると思います。

外国では、よく美術館の大きな絵の前で、子どもたちがペタッと床に座って、先生か学芸員の人たちから「これはね、こういうことが描いてあるのよ」と説明を受けている光景を目にします。日本だと、「静かにちゃんと見て、レポートを書きなさい」と言われる。だから、子ども心に「厄介な所に連れてこられたな」と思ってしまう。要するに、もっと自由に本当にその世界に馴染むような教育がされていない。日本の美術教育っていうのは、中学校も高校も、惨憺たるもんです。文化は金だけかかって何にもならないって、一般の人も思ってしまっていると思います。

 

高井

美術に対する教養が必要なんでしょうか。

 

浦上様

“教養”とは少し違います。教養というと勉強なんか嫌だと思ってしまう。私は、美術を楽しんでほしいと思っています。

よく美術館へ行くのは敷居が高いとも言われますが、私たちが2015年に日本初の春画展を開催した時、3ヶ月で21万人の入場者があり、特に若い女性が殺到しました。その中には「美術館に生まれて初めて来ました」と言う人もいました。春画がどうこうということではなく、本当に見たいものがあれば人は来ます。

本当に見たいものを見る。何か好きなものを見つけることが大事です。例えば美術館へ行って混んでいれば順番に見る必要はありません。すいているところから見て「あ、これ好き」と思うものがあったら、作品の名前を覚えておく。そして、また行った時に「ああ、これやっぱり何回も見ても好きだな」と、そういうことから入っていけばいいんです。そうやっているうちに、だんだん、いい意味で深みにはまって行く。好きな絵をみると疲れが吹っ飛んじゃう。例えば、おいしい物を食べたり、素晴らしい景色を見たときと、美術も同じなんです。

また、若い時はいいと思ったけれども、年を取ってきたらちっともいいと思わない。逆に若い時、これはつまんないと思っても、だんだん年を取ってきたら良くなった、なんていうこともあります。ものを通して自分が見えてくる。そういうこともあるから、美術は面白いんです。古美術だって古くさいと思わず今に生きる人間として、人類の遺産と思って、まず見ること。自分の好きな作品を、素直に見ながら、少しずつ勉強していく。そうしたら、美術が楽しいし、また、はたから見ても「あの人はちょっと格好いいわね」ということになると思いますよ。

 

 

高井

浦上さんは今後どういう生き方をするのですか。

 

浦上様

私は美術商ですから、よい作品をそれにふさわしい美術館やコレクターに収めていくということです。やはり、できるだけいいものを扱いたい。あの世まで持って行けないだけに、そのものにとって一番ふさわしい所に収める。そうやって日本の美術を盛り上げるのに一役かって、「いい仕事をしたな」と思えたら嬉しいです。

 

以上

 

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