<イッピン> 八幡馬―青森県八戸市
小生の執務室に馬をかたどった華やかな置物がある。八戸の民芸品「八幡馬」だ。
見ていて飽くことなく、大切にしている。700年の歴史をもち、三春駒(福島県郡山市)、木下駒(宮城県仙台市)と並び日本三駒の一つに数えられるこの馬は、当地では結婚祝いや新築祝い、七五三に重宝されてきたそうだ。
作者は四代目大久保直次郎氏。鉈一本で仕上げる「鉈削り」の伝統技法を受け継ぎ、50年にわたり伝統的八幡馬を制作しておられるただ一人の方である。
氏のことを知ったのは、日本経済新聞文化面の記事であった。生涯作り続けると仰るそのお心と「八幡馬」の素朴な美しさに魅かれた。
実際手にとってみると、魂のこもった像であることがありありと伝わってくる。どっしりとして勇壮、しかし気品があり、うつくしい。これが1キロもある大きな鉈一本で切り出されたとは、とその技に驚くばかりであった。
実は、この「八幡馬」は、明治の代より八戸市郊外の櫛引八幡宮の祭典のとき、その境内だけで売られるものである。二頭の八幡馬は、当地の寿司の名店、八戸重兵衛の女将でいらした旧知の伊藤孝子氏のお世話になり、晴れて小生のもとにやってきた。ご縁がまた新たな縁につながったことに感謝している。
大久保氏のご息女が、お勤めを辞して八幡馬の制作を始められたとのこと。八戸の風土に根ざし、当地の生活様式とともに伝承されてきた伝統ある「八幡馬」が、こうして人と人をつなぎ、地域と地域をつなぎ、これからも普遍的な価値をもって氏の精神とともに受け継がれていくのだろうと思う。
「目標は死ぬまで作るということ」と語る大久保氏にいつかお目にかかり、氏の手になる「イッピン」を前に、様々なお話をうかがいたいと願っている。