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「仕事人のための接待学」第2回 高井伸夫

 思い付きメモの効用

日本経済新聞(夕刊)連載 1998年4月20日掲載

 

私はほとんど毎日のように、時には昼休みにも、接待を受けたり、接待をしている。職業上の必要性からだ、と言ってしまうと身もふたもないが、まずは人間関係の構築、すなわち信頼関係を築くことなしに、事実の解決への道も開けないからである。

それでは初対面の人、あるいは心配事を抱えた人との間に、どうしたら信頼関係を築けるのだろうか。

まず相手から学ぶ、教えていただくという気持ちを持つとともに、相手に安ど感を与えるために、晴れやかな顔、自信のある顔で対することである。不安げな顔、おぼつかなげな表情では相手の気持ちを落ち込ませる。

また、相手が話したいことや、こちらの質問に対する答えを最後まで話してもらう(途中で話の腰を折らない)ことも大事だ。そして、相手の関心事に対して的確な応答をすることである。

私の本業は企業の人事労務に関与することだから当然ながら、社長、人事部長など企業の幹部との会合が圧倒的に多い。そこで、相手が持っている悩みなりストレスなりにいかに近付くか、すなわち、共感していかに的確にアドバイスするかに腐心する。

さて、私はそのような会食・接待の場にいつもメモを持って行くことにしている。

それは相手の話の中で琴線に触れたところや、引き受けた用件、関連あるいは類似する案件、人物などをメモするだけではない。話の途中で、本当に唐突に思い付いた言葉、他の用件、あるいはひらめきといったものを、わずか五文字か十文字くらいでチョッチョッとメモしておくのだ。

話題豊富な人と面談すると、これが二十や三十の項目となる。

このような少し仕事から距離を置いたフランクな場で思い付くことは実に豊富だ。会議で真剣に討論している時より幅広い項目に及ぶことは言うまでもない。

それらをメモしておかないと、忘れてしまうだけでない。忘れまいとする気持ちから、現に歓談している相手との話がはずまなくなる。メモをすれば、まさにその瞬間から忘れてよいことになるから、ストレスにもならない。そして私は遅くとも翌朝午前中には、その項目を処理している。

接待とは実は相手のためにするのではない。自分自身のために行っているのだということが、このことでもわかるだろう。だからこそ接待相手への礼を失することがないように、いっそうの気配りを改めて心しなければならない。

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