「仕事人のための接待学」第3回 高井伸夫
歓談を演出するコツ
日本経済新聞(夕刊)連載 1998年4月27日掲載
接待の場では、おのずから会話があり、話が弾み、まさに歓談とならなければならない。そのためには、事前の情報収集が大切である。
NEC常務取締役の大森義夫氏がこのたび、97年7月から12月にかけて日本経済新聞夕刊「あすへの話題」に寄稿したエッセーを取りまとめた小冊子を発表された。その中に「パワーステーション」という標題の文章がある。
そこでこう語っている。「情報は、時に大いに集め、大いに散ずるのがよい、その方がよく集まる」「他人の情報は熱心に“収奪”するが自分の知っている情報は全くしゃべらない人物がいた。面白くないと感じていたが、周辺もそうだったらしく彼にはだれも情報を話さなくなった」
然りである。
寡黙な人の接待は、時にシーンとなって、話がとぎれ、違和感すら生じる。そしてお互いに疲れを感じるようになる。時を忘れて談笑しストレスを解消するには、胸襟を開いて己を語ることが必要である。
また接待の場において最も大事なことは、寡黙にならないこととともに、自慢話をあまり露骨にしないことである。大森氏のエッセー集の最後に「露骨はいやだね 小粋がいいね」との一節があるが、まさにその通りである。
問題はここからである。
接待の場では、相手が自慢したがっていることに触れ、そして相手が自然と自慢話ができるような状況設定をしていくことである。そうするとおのずから会話が弾む。
この情報の交換という世界は極めて楽しい。私はこれを接待における一つの実践目標にしている。その結果、様々なことを学ぶ。
例えば、接待は営業のために行なうのが大半であるが、営業の本質について思い付いたのも、この語り合いの中だった。『営業は偶然と奇跡の連続だ』『営業力とは、偶然を必然にし、奇跡を平常にする努力をいう』といった私のテーマの一つが生まれたのも、接待の場においてだった。
それには、彼・彼女に語ってもらうだけでなく、自分も一緒にその場に参加して語り合いの焦点を合わせる努力をすることである。
そして談笑する時に大切なことは、相手の人にお会いできたことに感謝する気持ちを持つことである。これがなければ、談笑には余韻が残らない。
一期一会の精神というが、まさに偶然と奇跡によってその人と会うことになったことを、大げさに言えば神に感謝するほどの気持ちがなければ、談笑は空虚なものになってしまう。