2019年1月4日のアーカイブ

「AIと私たち」

第3回 AI人材不足と育成の課題

 

経済産業省が2016年6月に発表した「IT人材の最新動向と将来推計に関する調査結果」によると、IT人材の中でもAIなどの開発を担う「先端IT人材」は2015年時点で1万5千人が不足。2020年には4.8万人にまで拡大する。少子高齢化による労働人口減少により、IT人材の供給力が低下する一方でそのニーズは拡大するだろうから、人材不足は今後ますます深刻化するとみられる。

人材不足の原因はいくつかある。まず、前回述べたように国内報酬の低さ、その背景にある経営層の理解・認識不足である。AIやビッグデータ、それらを扱う人材の価値が分からないから、なすべき投資がなされない。また、AIやIT、ICT等、新技術の用語はバズワード(一見説得力があるように見えるが、具体性がなく明確な合意や定義のないキーワード)化し、必要な人材の定義が明確化されにくくなっている。政府文書などでも何かと「IT専門家」を目にするが、具体的にどのような技術を持っていて何をする人材を指すのかよく分からない。その結果、雇用者側にとって被雇用者が期待する人材であるか不明瞭になり、スキルセットの不一致を招いたり、スキルに見合う待遇を検討しづらくなったりするのである。さらに、年功序列制度が未だに色濃く残る日本企業では人事制度や給与体系が硬直的で例外が認められないことも一因であろう。シリコンバレー近郊でのAI人材の給与は全米平均より4割以上高いという。これでは海外への人材流出は避けられまい。

 

急務かつ不足が著しいAI人材の育成には、即戦力となる社会人教育と、長期的な視点での学生教育の両輪が必要である。

国内IT企業や研究機関は社内配置転換や研修制度を設けるなど内部育成に努めているが、これまでITと縁遠かった企業で突然そうした施策を講ずることは難しい。しかし、そうした企業に勤めながら「AIを学びたい」と思っている潜在的人材は少なからず存在する。日本ディープラーニング協会がエンジニアの資格試験を実施するほか、東大や大阪大学などでは社会人向けのAI講座を開いている。企業はこうした場に積極的に社員を投入し、他を投げ打ってでもAI人材の育成に投資すべきである。AI時代において、AIを使いこなせない人間はAIに使われることになる。

滋賀大学や東京工科大学など、AI関連学部の開設は進みつつあるが、「AIブームがいつまで続くか分からず、AIの学部や学科は新設しにくい」との声もある。これが大きな読み違えである。今の「AIブーム」は既に日常になりつつある。英語を学ばずにはいられなくなったように、AIを学ばずにはいられなくなる。学部や学科新設への躊躇いは、AI人材の報酬が高まらないことと同じ問題を孕んでいる。すなわち、我が国のトップや経営層には、これだけAIが身の回りに溢れかえるようになってなお、「AIとの共存」という未来が見えていないのである。

AIの学部や専攻を開設し、学生の卒業までに4年以上。その間に世界との差はますます開く。そうして、今打開策を講じなかった大人が表舞台から去った後、世界で戦う武器を持つ機会を奪われた次世代は、AIに使われる人間として生きていくほかなくなるのだ。

 

経済制裁の影響で国外の人材は集めにくいイランでは、AI産業において女性が活躍している。極論ではあるが、AI人材の育成には専門プログラムさえあれば足りるため、参入障壁が低く、誰もが「教育者」になりうるのだという。近年、国内では、人口減少に伴う労働力不足に対し女性の活用が期待されているが、日本国内における女性のAI人材というのは圧倒的に少ない印象である。小学生からパソコンに親しむ現代、AIについての授業が必修化され、大卒者は全員AIの基礎知識を備えているくらいにできないものだろうか。ただでさえ生産人口が減り続ける中、国を挙げて取り組まなければ、AI人材不足は到底解消しない。

 

まとめ

・少子高齢化による人口減で需要が増し、AI人材はより不足

・AI人材の育成には社会人教育と学生教育の二輪が必要

・国を挙げて次世代を「AIを使う」人間に育てよ

 

(第3回ここまで/担当 高井・團迫・宇津野)

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