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第2回 「キャリア権」と私の出会い

 

あすか人事コンサルティング
代表 太田 正孝

 

 全豪オープンで大坂なおみ選手が優勝しテニスファンのみならず日本人に喜びと感動を与えてくれました。スポーツ以外のIT関係や囲碁将棋などのゲームの分野でも若い人達が活躍し世界トップクラスの力を発揮しています。この人達は十分な経験を積んだのちに世界に出ていくというよりも幼い時から親しんだ結果、天賦の才が早く花開いたというのが実感です。勿論その陰には本人の努力と親や周囲の支えがあったのでしょうが、その分野に必要な才能と努力がぴったり適合した賜物と思います。人の一生でどのようなキャリアを築いていくのが幸せか考える上で大いに参考になる好例だと思っています。

 

 高井先生がライフワークの一つとして「キャリア権」という考え方の普及と法制化実現に取り組んでおられるのはご存じの通りです。高井先生は弁護士という枠を越えて、常々世の中の動きとその行き着く先について多面的な予測をし、働く人がどのように扱われるべきかについても様々に発信されています。TVドラマでの弁護士像は受託案件の勝ち負けにこだわる姿や、その奥にある正義と悪の葛藤に翻弄される姿がよく描かれていますので、素人の私は正邪両面をもつ勝負師みたいなイメージを持ってしまいます。しかし高井先生はそういったイメージを超越して人間の本質そのものを追究しながら行動されているようです。そのターゲットの一つが今話題の「キャリア権」だと思っています。

 

 そこで、私自身の「キャリア権」との出会いですが、十数年前、私はヘイグループという外資系人事コンサルティング会社でコンサルタントをしていた頃のある日、高井先生からキャリア権についての諏訪康雄先生の論考を見せられどのように思うか、と「尋問」をうけました。私は「欧米先進国ではおおむね自分のキャリアは自分で決めるという自己責任の根深い生活文化があり、宗教的、歴史的にキャリア権が暗黙の裡に定着しているが、日本では組織の方が個人の生活より優先する文化なので、なかなか受け入れにくいテーマと思う」というようなことを話した記憶があります。成果主義的制度策定にむけたコンサルティングの範疇に社員が上るガイドラインとしての「キャリア・ラダー」の設計も含まれていたこともあって好奇心が刺激され、高井先生のペースにどんどん引き込まれていくことになりました。そのご縁でNPO法人キャリア権推進ネットワークで五年前の設立時から参画し現在に至っています。

 半世紀以上の長きに亘って人事労務にかかわる案件を経営側に立って扱ってこられた高井先生が、あえて「キャリア権」に着目し、その普及と法制化にむけた活動を始められたのは先を読んだ結果として必然の流れだったと思います。「ハートワークの時代」における人事考課の主要な要素であるコンピテンシー評価をうまく応用することで、その人がキャリアを築くにふさわしい分野は何かを想定することができます。私は実践型の人事コンサルタントとして「キャリア権」の考え方をクライアント組織に取り入れられないか模索をしているところです。

 

 次にキャリア権の考え方に影響する昨今の労働面の動きについて触れてみます。

 

 日本に在留する外国人は260万人(外国人登録)、そのうち働いている人は122万人となっており、昨年暮の入管法改正で今後益々増えていくようです。その結果、日本の労働慣行も世界モデル(といっても基本は職務と成果重視の欧米型モデル)に近づいていくのは自然なことと思います。また、高齢者の事実上定年がない運用拡大を加味すると年功序列型の人事運用や賃金体系も変化して行かざるを得ないでしょう。加えて副業や複業が広く認められるようになれば、 60年程前にジェームズ・アベグレンが著書「日本の経営」の中で日本の強みの「三種の神器」としたもの、即ち「年功序列制」「終身雇用」「企業別組合」という特徴がゆっくりと崩壊して行くことにつながります。

 昨今の政府の働き方改革は長時間労働の是正、高齢者の就労、同一労働同一賃金、が主たるポイントと承知していますが、加えて労働力充足の対応策として外国人働き手の招聘、女性の一層の社会進出と経営幹部への登用が今後の日本社会の発展のためには不可欠な要素になるのは間違いありません。女性登用についてさらに言えば、80年代に世界中で女性の昇進に対して「ガラスの天井」があると言われていたことを思い出しますが、日本ではその進捗が際だって遅い事はダイレクトに昇進問題だけでなく労働力不足にとっても大いなる課題です。人口の大都市集中からくる通勤難、核家族化、育児や介護の負担、保育施設や仕組みづくりの遅れ、男女賃金格差、マネジメント教育などのリカレント教育環境の不足など、労働・教育環境を総合的にとらえたインフラ整備が喫緊の課題と思います。

 

 「風がふけば桶屋が儲かる」という話がありますが、人口減の中で働く人の人生を幸せにする環境作りという目的の達成に向けてどのような指標をどのような順序で達成していくか、桶屋の話を参考にして大きな絵柄づくりが求められています。今や一つの施策で完結するものはなく、生体のように多くの要素や意外な要素が相互にからみあっている時代と思います。

 総理官邸を筆頭とする行政府、政党、自治体、経団連や連合、さらには大学や研究機関などの想像力を集約・駆使し、国民の智慧を吸収しながら国の様々な戦略作成にあたって欲しいものです。この大構想の基盤の一つとなるのが「キャリア権」という概念かもしれません。

終わり

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