2019年3月のアーカイブ

 

 

第3回 歴史・地理学の役割とホモサピエンスの責任

 

あすか人事コンサルティング
代表 太田 正孝

 

 かつて、詩人サミュエル・ウルマンの「青春」という詩が経営者の間で流行ったことがあります。松下幸之助さんが座右の銘にしていた、というので脚光をあびたようです。

 それは「青春とは、人生のある期間をいうのではなく心の持ち方を表す。優れた創造力(想像力)、逞しい意志、燃えるような情熱、勇猛心、冒険心、・・・ 年を重ねただけで人は老いない、理想を失うときに初めて老いが来る。・・・」というものです。

 私がこの詩を知ったのは20才代後半と思います。当時、定年は60才というのが主流でしたので、定年退職者表彰式の記事を読むと、多くの社長さんがこの詩を引用し、退職者を送り出されたようです。今、世の中は年を追って高齢者が増加していますが、元気に「青春」を実行されている人も多く見かけるようになりました。高井先生はこの言葉どおり青春まっただ中で活躍されていますが、私はじめ周りにいる仲間の多くは少々くたびれて「半分青い」くらいか、あるいは「白秋」を迎えているのが現状です。高井先生を見習って「青春」に返ることを目指して過ごしていきたいものです。

 

 ところで、私は初回で、歴史地理を学んできたことを書きました。その頃の気分に戻って、本当の「青春」時代を少し振り返りながら、実老人の「青春」の思いについて書きたいと思います。

  私の地理学の恩師は考古学と地理学を極め、独自の歴史地理学を築き、教えていた人だったですが、とりわけ野外での巡検(フィールドワーク)を大事にしておられました。

 この学問はその場所に行かないと真の研究にならないという信念から地理学教室の面々を恩師の巡検に同行させ指導するスタイルでした。今の時代でいう率先垂範、現場主義ということでしょうか。いまその時を思い返すと結構その後の旅行の仕方に影響していると感じます。景色を眺めながらその地に暮らす人々や歴史を想像する癖となって残っています。

 

 歴史地理学の研究では、対象地域の名士のお宅を訪れて古記録や古地図など資料を収集したり、古老の話をうかがったりしながら調査と解読、解釈をしていきます。正直、古文書を読むのが大変で苦労した思い出があります。この過程で好奇心と探究心、忍耐力、粘着力、推理力などが身に付き始めたように思いますし、誰もよく知らない庶民や農民漁民の知恵や工夫の歴史を垣間見て、高校で習う権力者の歴史だけが歴史ではないと考えるようになりました。尤もこれはマニアックかつ地味すぎて世間受けはしないですが。

 

 義務教育や高校では他に学ぶべき多くの事柄があるために「主な歴史的事象」とその年号などを主に学ぶようです。大学受験でも歴史や地理はあまり重視されていないので、大学生か社会人になって興味があれば歴史書や小説、旅行、映画、TVなどで勉強してください、といったことになっていて残念です。日本は地震、火山など災害の多い国で歴史的、地理的要素が防災、減災に大きく関連するのでもう少し重視した方がいいのではないでしょうか。歴史に造詣が深い経営者も多くおられるので社員の採用の際には、その人の思考過程に歴史が含まれているかどうかを考慮していただきたいものです。

 

 さて、地理学ですが人間の歩みを研究する歴史学と重なるところもありますが、自然環境とのかかわりにおいて、地形や気象条件の違いからくる多様な地域社会の姿、独特の文化を研究する分野です。古くはドイツの地理学者が唱えた決定論「人間の活動は環境とりわけ自然環境によって支配されている」、フランスの地理学者が唱えた可能論「人間は自然に干渉し、自然に服従することはない。人間の叡智・技術による限りない未来への可能性」と両論のせめぎ合いがありました。

 要は人間と自然環境のどちらに重きを置くかであって単純に割り切れない問題であるものの、色んな分野で派生的に研究されています。例えばダーウィンの進化論は適者生存が幹にあるので決定論に寄っていると思いますし、さらに昨今の自然災害を考えると地形、気象など圧倒的な自然力に対して人間の文明が太刀打ちできないのをみると決定論が優勢と言えます。どうでもいいように思われるかも知れませんが、原発立地などの報道をみていると議論は可能論と決定論の戦いであり、両論での整理をして落としどころを探ればより建設的な議論ができるのではないかと思います。

 

 この3月11日で東日本大震災から丸8年が経ちました。すさまじい地震と津波は地球の巨大なプレートの動きに因るものでした。

 日本列島は2千万年前あたりから大陸の一部が離れてゆっくりと作られ、現在の形にだいたい落ち着いたのは2万年前くらいといわれています。この変動は、止まることなく少しずつ進行しています。そうなっていることは頭ではわかってはいるのに今日明日に大きな変動は起こらないだろうと楽観しがちですが、人間は「茹でカエル」状態が心地よく感じていられるほど短命だからでしょう。

 

 近所の団地造成現場をみると、小高い丘を削って谷間を埋めて一面平らにする工事が進んでいます。いずれこの地に家が建つでしょうが、大きな地震がくると谷間だった部分は崩壊リスクが高いでしょう。地理的特性・個性を考慮しないで経済効率優先で地表の細工をつづけているわけです。福島第一原発も元々高さ30mあった場所を炉冷却用海水循環の効率化のためか、わざわざ大幅に「嵩下げ」して建設したことが基本問題と考えられます。 仮に標高を下げたら補助電源とその燃料を頑丈な高所に複数置くとかのトレードオフ対策をしておく必要がありました。発電所なので自然災害時であっても冷却電力を失うことはない、と考えてメルトダウン絶対阻止の二重三重の対策をしていなかったのでしょうか、残念です。何せ相手はなにが起こるかわからない自然の営み、しかも千年万年単位のスパンで起こることですから、可能論ではなく決定論にたって考えておくべきだったと思います。

 

 私達は太陽という巨大な核融合炉からあまたの恩恵を受けています。太陽エネルギーが太古の昔から植物や動物にその形を変え、その蓄積された石炭、石油や天然ガスなどのエネルギー資源を急速に消費していることを人はあまり意識しません。今や、超巨大な石油タンカーやLNG船が日常的に航海しています。万一の重大事故に備えてフェールセーフ策がとられているのは当然ですが、設備の劣化、システムの欠陥、人的ミス、さらにはテロなど人間起源のリスクがあるのも昨今の姿です。こうしたことから地球規模の災害につながりかねない時代ですので、歴史的地理的視点も取り入れ、広い視野と長い時間スパンから文明社会の諸問題を考えるようにしたいものです。

 

 われわれホモサピエンスの最大の責任は、あらゆる動植物の運命を左右する地球の環境保全に尽きるのではないでしょうか。 

                                       終わり

 

「仕事人のための接待学」 高井伸夫

第10回 節度知り気後れなく

日本経済新聞(夕刊)連載 1998年6月14日掲載

 

 日産自動車が行った「仕事上での接待を辞退する」などの「接待禁止」宣伝に対して、ソニーの大賀典雄会長(当時)やトヨタ自動車の奥田碩社長(当時)は「続ける」と言明している。

 大賀会長は「企業としては、景気に水をかけて冷やすような行為の決定は、厳禁だと思っています」(雑誌『財界』1998年5月19日号)。また奥田社長は「日本の慣習として必要不可欠で、トヨタとして全廃する考えはない」(日本経済新聞1998年5月21日付)と述べたという。

 すべての接待を拒否することは、人間が社会的動物である、すなわち意思疎通、心の交流を図って生きる存在であることを看過した見解であり、手厳しいシッペ返しを受けるだろう。

 これについては「経費削減なら分かる。接待はすべて後ろめたいとなると過剰反応ではないか。接待で疑似的な仲間関係を作るのは欧米でも同じ。要は節度、規律の問題だ」(日本経済新聞1998年5月21日付「春秋」欄)という指摘もあった。もとより妥当な評論であろう。

 節度といえば、民・官の贈収賄などと同様、民・民にも涜職(とくしょく)罪があることは、ほとんど知られていない。

 商法第493条(現・会社法第967条)は、取締役等が職務に関し不正の請託を受け財産上の利益を収受・要求・約束したときは5年以下の懲役または5百万円以下の罰金(1項)、利益の供与・申し込み・約束を為した側の者は懲役3年以下の懲役または3百万円以下の罰金(2項)に処せられる旨規定している。

 この条文は現在、事実上死文化している。だが、競争の時代となり、ルールの適用が日々厳格になるにつれて、この条文が生命力を持つ時代が間もなくやってくるだろう。接待がこれに該当するとされる時代も見込まなければならない。

 さて、「接待は社会性を持つ」と言ったが、そのことを学ぶに好適な書物がある。西川恵氏著『エリゼ宮の食卓』(新潮社刊)である。

 社会主義者であったミッテラン前フランス大統領がいかにその「饗宴(きょうえん)と美食外交」を尊び、実践してきたかを活写し、同大統領の教養とフランス文化を体現する行為として接待が行われていることを語っている。

 接待を否定することは、教養の披露と文化の交流を否定することにもなる。接待は、その意図を昇華せしめる人間性を必要とするという大前提で、気後れなく取り組めば、何の恐れを持つ必要もない。(終)

 

※編注:2019年3月現在の事情に合わせ、一部加筆いたしました。

 

高井伸夫の社長フォーラム100講座記念~1講1話・語録100選~

【第3回】社長の最大の仕事は「方向性を示す」こと(1993年7月22日)

 

 哲学者ニーチェが語った様々な原理原則の中で、私の記憶に残っているのはたった1つ。「偉大とは方向性を指示することなり」。日本の政治家も経済人も方向性が示せないわけだ。だから偉大な政治家も経済人もいない。

 経営者の最大かつ重要な仕事は、ビジョン・方向性を明示することだ。

 今はことさらに経営力が問われる時代になった。このとき重要なことは明確な方向性を打ち出すことである。ビジョンを提示しないといけない。ビジョンとは「お金の落ちているところ」を指し示すことである。

 経営者自身が、絶えず新商品、新事業、新拠点づくりに関心を持ちつづけ、絶えざるチャレンジ精神をもって取り組むこと。拡大拡張を意識しないといけない。今の委縮経営の中でこそ、自社がどのような方向に進むのかをきちっと語らなければならない。ビジョンを明確にし、方向性を明示する企業が伸びていく。

 2番目に大事なことは、頭で考えるだけでなく、明文化すること。これが非常に大切だ。

 3番目には、方向性を明示するだけでなく、迅速にこれを実現しなければならない。変化とスピードの時代には、実現していくことにこそ価値がある。

 課題は「お金の落ちているところ」を発見できる嗅覚があるかどうかにかかる。市場の発見、商品の創造、人材の見定めができる経営者が勝ち残る。

 

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<働き方改革> 第5回 トランスコスモス株式会社

 

一時、私が体調を崩していたため、連載を休止しておりました連載「働き方改革」ですが、今年からまた再開することと致しました。

再開第一回目に取り上げさせていただくのは、トランスコスモス株式会社様です。

トランスコスモスは本社を東京に構えていますが、大阪本部、名古屋・和歌山・福岡・京都等の支社の他、米シリコンバレーにも支店があり、その社員数は約5万3千人にものぼります。このような大きな会社で、「働き方改革」を推進するためには、どのようなことを行っているのでしょうか。

執行役員 人事本部担当 兼 サービス推進本部人材マネジメント統括部担当 名倉英紀様と人事本部 企画推進部 HR推進部 課長代理の中村彩香様にお話を伺いました。

 

1 意識の共有

トランスコスモスは社員国内約3万5千人の大規模企業であるにもかかわらず、今回の取材で伺ったお話からは、足並みを揃えて働き方改革に取り組まれている様子が窺われました。

これまで別個に行ってきた取り組みを、「働き方改革」という大きなプロジェクトとして一つにまとめ、各々の取組の進捗状況を管理しながら、特に法にかかわってくるものについては人事部主導で促していく、という形態で現在、働き方改革を推進しているとのことです。

会社HPにも働き方改革のページを作成するなど、全社を挙げて働き方改革に取り組んでいることを明瞭にしていることも、良い効果をもたらしているのでしょう。対外的なアピールのみならず、社員に意識改革を促し、働き改革による新制度を利用しやすい環境になっているのだと思います。

 

2 長時間労働の削減

今回の取材でまず印象に残ったのは、労働時間の削減です。

従来100時間を超すことも珍しくなかったという残業時間が、バックアップ体制や日々の管理、長時間の残業が生じた際の役員面談、産業医面談の義務付け、さらには残業が連続した場合は評価へ反映など、徹底した管理や成果主義を採用したことにより、現在は平均して1か月20時間程度になったとのことで、目に見えて成果が出ていることが分かります。

また、上から残業を減らすように指示するだけでは、現場はサービス残業などで対応し、実質的な解決にならないということから、説明会を開き、社員に直接働きかけを行ったそうです。

その他にも、3S運動(※1)のような改善運動を行ったり、コンテスト形式で年間300人以上の優秀な従業員を表彰したりするなど、徹底して業務を改善して、生産性を向上することに務めました。

また、タイムカードのみならずパソコンのログイン・ログアウトの記録、入館・退館記録のチェックなどを通して、毎月厳しく労働時間を管理しているそうです。

 

3 ダイバーシティー

(1)女性活躍推進

トランスコスモスは、IT企業としては珍しく、スタート時は9割以上の社員が女性だったそうで、現在でも正社員の4割、契約社員の8割を女性が占めています。

しかし、以前は、女性の役員が数人いたところ、その後、人数が減少したため、9年前から管理職に占める女性の割合を増やすことを目標として「女性活躍推進プロジェクト」を立ち上げ、現副社長がオーナーとなって、積極的に女性活躍に関する様々な施策に取り組んできたそうです。その結果、管理職に占める女性の割合は、現在は20%近くまで増えてきました。

施策の内容の一部としては、管理職となることに二の足を踏みがちな女性の背中を押し、キャリアアップを促すために、選抜されて全国各本部から集められた優秀な女性社員を対象として、社内研修「キャリアバリュー」では次々世代のマネジメント層にあたる女性社員の育成を行い、「キャリアベーシック」では次々世代のマネジメント層にあたる女性社員の育成と管理職候補の女性向けの研修を行っているとのことです。いずれも、「上を目指すためにはどういったことをしなくてはいけないか」を常に考えて行動することを意識づけるための研修が行われているそうです。

また、女性が働きやすい環境を作る施策の一環として、産休・育休の復帰に当たってのサポートや休暇中のコミュニケーション、児童が小学校3年生修了まで時短勤務を認める等の措置をとり、その結果として、毎年、産休・育休をとる社員が150名程度いる中で、休暇後の復職率は96%を誇ります。現在は、育児のために退職してしまうことを防ぐために、在宅勤務をトライアル的に導入しているとのことです。

こういった取組みが認められ、トランスコスモスは、厚生労働大臣による、「えるぼし認定」(※2) や「くるみん認定」 (※3)など、多くの認定を受けています。

 

(2)外国人労働者の受け入れ

現在、トランスコスモスには、外国籍を有して日本で働いている従業員が300名程度いるそうで、その数は今後も増え続ける見込みです。

毎年、韓国・中国・ベトナムから新卒で10名~15名程度をコンスタントに採用しているのみならず、インターシップの受け入れも積極的に行っているそうです。

他企業でもこれから増えるであろう外国人労働者の採用に向けて留意点を伺ったところ、「相手の文化を尊重すること」というシンプルでありながら真摯な回答をいただきました。また、当然、言葉の問題があるので日本語の勉強会を開催するなど、コミュニケーションをきちんととることも大事にしているそうです。家族を伴って来日している場合、家族へのサポートやケアも検討するなど、慣れない土地で働く労働者に対し、心身ともに手厚い配慮をしています。

 

3 コラボヘルス

トランスコスモスでは、社員の健康管理を推進することができるよう、けんぽ組合と人事が連携を取るよう努めています。今年1月からは、より、けんぽと人事の垣根をとって効率性を高めるために、人事の健康推進課のメンバーを兼務出向という形でけんぽに送っているそうです。

また、産業医・保健師・臨床心理士のチーム化を図り、より有機的に機能するよう整備する予定とのことです。

最終的には、社員に健康診断の受診を促すのみならず、診断結果の分析など受けた後のフォローをワンストップで行うことで、社員一人一人に対する健康をケアし、更にそれができるようになったら、より予防的な施策を一緒になって行うことを目指しています。

 

4 まとめ

実は、今回の取材にトランスコスモスにお邪魔した際に、早くに到着してしまったので、エントランス横のソファをお借りし、10分程度座っていました。

そこで、社員の方たちが出入りをする様子を眺めていたのですが、皆さんの表情の明るさや華やいだ様子が非常に印象に残りました。

今回伺ったお話しからも分かるとおり、トランスコスモスでは、社員が安心して働くことができる空気がまずあり、それに基づいて作られた制度・環境が整っているのでしょう。

また、トランスコスモスでは、女性や外国人など、幅広い人材を積極的に受け入れているように見受けられました。日本経済向上のためには、多様な労働力の確保が必要不可欠ですから、トランスコスモスの受け入れの姿勢や取り組みには大いに学ぶべきところがあると思います。

 

(※1)…職場環境の維持改善で用いられるスローガン。3Sは、整理、整頓、清掃の頭文字。

(※2)…一般事業主行動計画の策定、届出を行った事業主のうち、女性の活躍推進に関する取組の実施状況等が優良な事業主は、都道府県労働局への申請により、厚生労働大臣の認定を受けることができる。

(※3)…次世代育成支援対策推進法に基づき、一般事業主行動契約を策定した企業のうち、計画に定めた目標を達成し、一定の基準を満たした企業は、申請を行うことによって「子育てサポート企業」として、厚生労働大臣の認定を受けることができる。

 

以上

「AIと私たち」

第5回 AIと人事労務(2)人間にしかできないこと―キャリア転換の要―

 

■キャリア転換の必要性

 経済協力開発機構(OECD)によると、2018年の日本の就業者一人当たりの労働生産性は加盟36カ国中21位であり、主要先進7カ国でこの50年近く最下位である。さらにこの先少子化により生産的労働者数が減れば、一人当たりの生産性が急上昇しない限り、我が国の経済成長は益々鈍化する。世界一の高齢化率を誇る我が国が労働力を補い、あるいは生産性を高めて国力を支えるには、AI等の新技術の導入は不可避であり、人間は「人間にしかできないこと」へのキャリア転換を迫られる。

 AI時代においてキャリアを繋げていくためには、AIを受け容れ、共存・協調の姿勢でいることは大前提として、AI時代でもなお「変わらないこと」を見極め、不変の知識や能力を身に付けておくこと。それに加えて、「人間にしかできないスキル」を身に付け、磨きをかけていくことが肝要である。これは必ずしも「仕事」に限らなくてもよいが、「人間にしかできない何か」を成して人生を謳歌し、お金も稼げるのであれば言うことはない。

 

■人間の有利性

 では「人間にしかできないこと」とは何か。よく言われるのは創造性を要する分野である。芸術やデザイン、発明に限らず、過去にデータのない柔軟な発想はAIからは生まれない。例えばAIには、2本の紐と板を組み合わせたブランコが「楽しい」という発想はできない。

 マネジメントやホスピタリティにまつわることなど、人との高度なコミュニケーションもAIには難しい。例えば人事考課でも、AIが導いた解をパソコンが人に伝えるのと、人が人に伝えるのでは、受け手の印象が大きく異なり得る。また、人を動かすのは人である。多様な価値観を受容できる柔軟性や感情に訴える表現能力、すなわちリーダーシップやカリスマ性といったものが人を動かす。人間同士のコミュニケーション能力やチームワークなどの社会技能は人間にこそ成せるものである。創造力、交渉力や指導力といった「社会的知能」は社会や文化に関する豊富な暗黙知が必要であり、機械には求め難い。

 直感や常識を有することも人間の強みだ。将来的にはAIに人と同等の能力が備わるという専門家もいるが、AIと人間には肉体を持っているか否か、すなわち生命体であるか否かという絶対的な違いがある。命に起源をもつ食欲や危険察知に関する直観、第六感などは、AIが知識として学習することはできても、本質的に会得することはできない。

 また、人が言葉を理解する際に文法以上に頼っているのは、膨大な常識、生まれながらに組み込まれた暗黙知である。AIは、「人間はおなかが空き、おなかが空いたら食べる」ということを1つの決まりとして記憶するに過ぎない。ここに人間の有利性がある。AIの分析を活用しつつ、人間の有利性を生かして新たな価値を追加することができれば、最もAIの恩恵を享受する結果となろう。

 

■機動力の重要性

 会社など1つの環境に縛られず、自分が活躍できる場所に迅速に移動できる機動力を備えることも重要である。元来日本は新卒一括採用や年功序列、終身雇用といった伝統制度もあり、世界的に見ても人材の流動性が低いとされる。さらにAIなどの急速な技術進歩によって人材の技能の陳腐化が進めば、人々は転職後の賃金低下リスクを恐れて現職に甘んじやすくなり、ますます流動性は悪化する。

 しかし、AIの発達により人間の仕事が変われば会社もまた変わらざるを得ない。自身の能力をより活かせる場にフットワーク軽く移動した方が、生産性はもちろん充実度も増すであろう。手持ちの技能が陳腐化するのであれば、価値のある技能を得て次のキャリアに進まなければならない。

 

■AIを使いこなす人生のために

 過去の産業革命では、新世代が新たに必要な能力を獲得すれば足りたが、AI時代の変化は非常に速く、かつ、長寿化によって人間の現役期間が延びている以上、現役世代にもそれが求められる。激しい技術変化に適応するためには自己研鑽が欠かせない。学び続け、創造的でいられる人こそAIとの100年人生を謳歌できよう。「正解のない問題に立ち向かい、自分なりの答えを導き出し、自分の思いや考えを人に伝える力」を身に付けることが、「AIに使われずAIを使いこなす人生」の要である。そしてこれは人生そのものを豊かにする要でもある。

 

まとめ

・「変わらないこと」を見極めること

・活躍の場へ移動できるだけの機動力を持つこと

・自分で考え、自分の思いを伝えられる力を育てること

 

 

 

 

 

 

(第5回ここまで/担当 高井・團迫・宇津野)

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