「AIと私たち」

第5回 AIと人事労務(2)人間にしかできないこと―キャリア転換の要―

 

■キャリア転換の必要性

 経済協力開発機構(OECD)によると、2018年の日本の就業者一人当たりの労働生産性は加盟36カ国中21位であり、主要先進7カ国でこの50年近く最下位である。さらにこの先少子化により生産的労働者数が減れば、一人当たりの生産性が急上昇しない限り、我が国の経済成長は益々鈍化する。世界一の高齢化率を誇る我が国が労働力を補い、あるいは生産性を高めて国力を支えるには、AI等の新技術の導入は不可避であり、人間は「人間にしかできないこと」へのキャリア転換を迫られる。

 AI時代においてキャリアを繋げていくためには、AIを受け容れ、共存・協調の姿勢でいることは大前提として、AI時代でもなお「変わらないこと」を見極め、不変の知識や能力を身に付けておくこと。それに加えて、「人間にしかできないスキル」を身に付け、磨きをかけていくことが肝要である。これは必ずしも「仕事」に限らなくてもよいが、「人間にしかできない何か」を成して人生を謳歌し、お金も稼げるのであれば言うことはない。

 

■人間の有利性

 では「人間にしかできないこと」とは何か。よく言われるのは創造性を要する分野である。芸術やデザイン、発明に限らず、過去にデータのない柔軟な発想はAIからは生まれない。例えばAIには、2本の紐と板を組み合わせたブランコが「楽しい」という発想はできない。

 マネジメントやホスピタリティにまつわることなど、人との高度なコミュニケーションもAIには難しい。例えば人事考課でも、AIが導いた解をパソコンが人に伝えるのと、人が人に伝えるのでは、受け手の印象が大きく異なり得る。また、人を動かすのは人である。多様な価値観を受容できる柔軟性や感情に訴える表現能力、すなわちリーダーシップやカリスマ性といったものが人を動かす。人間同士のコミュニケーション能力やチームワークなどの社会技能は人間にこそ成せるものである。創造力、交渉力や指導力といった「社会的知能」は社会や文化に関する豊富な暗黙知が必要であり、機械には求め難い。

 直感や常識を有することも人間の強みだ。将来的にはAIに人と同等の能力が備わるという専門家もいるが、AIと人間には肉体を持っているか否か、すなわち生命体であるか否かという絶対的な違いがある。命に起源をもつ食欲や危険察知に関する直観、第六感などは、AIが知識として学習することはできても、本質的に会得することはできない。

 また、人が言葉を理解する際に文法以上に頼っているのは、膨大な常識、生まれながらに組み込まれた暗黙知である。AIは、「人間はおなかが空き、おなかが空いたら食べる」ということを1つの決まりとして記憶するに過ぎない。ここに人間の有利性がある。AIの分析を活用しつつ、人間の有利性を生かして新たな価値を追加することができれば、最もAIの恩恵を享受する結果となろう。

 

■機動力の重要性

 会社など1つの環境に縛られず、自分が活躍できる場所に迅速に移動できる機動力を備えることも重要である。元来日本は新卒一括採用や年功序列、終身雇用といった伝統制度もあり、世界的に見ても人材の流動性が低いとされる。さらにAIなどの急速な技術進歩によって人材の技能の陳腐化が進めば、人々は転職後の賃金低下リスクを恐れて現職に甘んじやすくなり、ますます流動性は悪化する。

 しかし、AIの発達により人間の仕事が変われば会社もまた変わらざるを得ない。自身の能力をより活かせる場にフットワーク軽く移動した方が、生産性はもちろん充実度も増すであろう。手持ちの技能が陳腐化するのであれば、価値のある技能を得て次のキャリアに進まなければならない。

 

■AIを使いこなす人生のために

 過去の産業革命では、新世代が新たに必要な能力を獲得すれば足りたが、AI時代の変化は非常に速く、かつ、長寿化によって人間の現役期間が延びている以上、現役世代にもそれが求められる。激しい技術変化に適応するためには自己研鑽が欠かせない。学び続け、創造的でいられる人こそAIとの100年人生を謳歌できよう。「正解のない問題に立ち向かい、自分なりの答えを導き出し、自分の思いや考えを人に伝える力」を身に付けることが、「AIに使われずAIを使いこなす人生」の要である。そしてこれは人生そのものを豊かにする要でもある。

 

まとめ

・「変わらないこと」を見極めること

・活躍の場へ移動できるだけの機動力を持つこと

・自分で考え、自分の思いを伝えられる力を育てること

 

 

 

 

 

 

(第5回ここまで/担当 高井・團迫・宇津野)

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