「AIと私たち」 第6回

AIと人事労務(3)キャリアコンサルタントの台頭と教育改革

 

■AI時代の働き方環境整備

 AI時代におけるキャリア転換を円滑に進めるには、個人の意識改革と同時に、社会にも意識や制度の改革が求められる。新たな能力開発を促す財政的支援や教育・職業訓練機会の提供、スキルを得た人が働き場所や働き方を変えやすくなるような法制度改革といった労働市場の整備が必要となる。例えば、短期での転職者に対する企業側・社会全体の意識改革、失業保険給付や有給休暇付与の条件変更などだ。都市部にしかない業種・会社の仕事に、地方在住者でも従事できるようなリモートワークの拡充も急がれよう。

 *リモートワーク…従業員が会社に出社せず、自宅など自由な場所で仕事をする働き方。

 高齢化が加速度的に進み、特に都市部で介護施設の供給が追い付いていない現状からみれば、介護離職に追い込まれる人材は増加の一途を辿る。人材不足と介護貧困の両問題を解決するには、時間と場所という制約について極めて柔軟な働き方を実現するほかにない。幸いにもAIやIoTによってそうした対応が技術的に容易になっているのだから、採り入れないのは人間の怠慢である。それで人が足りない、外国人を呼び込めと言っているのでは順番が違うのではないだろうか。

 

■キャリアコンサルタントの需要拡大

 産業構造の転換に対応した人材育成や成長分野への労働移動も必要になる中で、今以上に活躍が期待されるのが、職業選択や職業生活設計、職業能力の開発・向上に関する助言や指導を行うキャリアコンサルタントである。

 AI時代には既存の職種に代わる新たな職種が多く生まれるから、キャリア転換においても職種変更が多々生じうる。職種の変更は労働者のそれまでのキャリアを失わしめる行為であり、自分の人生を半ば失うことと同義といっても過言ではない。これを回避するために最も重要なのは、人生における最初の職業選択である。すなわち、将来に向けた職業とのマッチングだ。AI時代のキャリアコンサルタントは転職者だけではなく、むしろ新入社員にこそ大切な存在になるのではないだろうか。

 また、AI分野の知見のない企業の人事部だけでは、長期的に見て有効な採用・配属、さらにはその後の配置転換を判断できなくなるから、キャリアコンサルタントの意見を重視しなければならなくなるだろう。

 もちろん、これからのキャリアコンサルタントがAIの基礎知識を得るのみならずAIの今後の発展状況について逐次新しい情報を習得し、知見を養うことは大前提である。よりキャリアを伸ばす方向、すなわち、AIに奪われない、人間固有の能力に特化した方向へと提案しなければならないからだ。

 

■教育改革の必要性

 人材育成に取り組むリーダーや指導者、教師などの教育者層を再教育する必要性も高まる。トップ人材の育成とミドルスキル人材の底上げは、社会人教育のみならず、大学や大学院教育でも必要である。これに国は投資しなければならない。

 特に学校教育は抜本的に変えていかなければならない。小学生になる今の子どもの65%は、現時点で存在しない仕事、すなわち、将来生まれる新たな仕事に就くと予想されている。前回述べたように、創造性やコミュニケーション能力の醸成が極めて重要になるだろう。

 

■文理一体の改革を

 第3回で述べた通り、日本のAIやIoTといった最先端技術分野の人材不足は極めて深刻なのだが、これを受けた国は端的にAI人材を増やそうと理系強化に奔った。すなわち、2015年9月、文部科学省が国立大学に対し、人文科学や社会科学、教員養成について組織の廃止を含む見直しを求めたのである。

 しかし、AI時代には機械には真似できない「人間力」を養う文系学問の重みが増す。前回述べた「社会的知能」もこれに類するものだが、AIに対する人間の有利性を補強する力が大切になるのである。実際、英米の人工知能科学者は、「若い人には、数学や自然科学に加え社会科学、人文科学と幅広い分野をバランスよく教えるべき」、「自然科学は世界をどう理解するかを教え、人文科学は我々自身をどう理解するかを教えるので非常に重要。科学技術と支え合う道を探るべき」だと述べている。

 日本はAIを開発・研究する理系学生を増やすと同時に、AIを扱う人間を育てるためには文系も蔑ろにせず教育の質を高め、理系学生にも文系科目を学ばせねばならない。2021年からセンター試験に代わる「大学入学共通テスト」で問われるのは、従来の詰め込み型の知識や1つの正解ではなく、課題を見つけ、解決へ向けた思考力・判断力・表現力などの総合力である。

 AI時代においては理系、文系と区切ること自体が最早ナンセンスである。「仮説を立て検証するプロセスの訓練」と、「技術や科学を面白いと思う気持ち」を育成し、豊かな言葉で表現する、「人間力」を高めることが肝要である。

 

  まとめ

 ・企業も意識改革とリモートワークなどの環境整備を

 ・AIに長けたキャリアコンサルタントを活用する

 ・文理一体の教育で人間力を強化する

 

(第6回ここまで/担当 高井・團迫・宇津野)

ご利用案内

内容につきましては、私の雑感等も含まれますので、真実性や正確性を保証するものではない旨ご了解下さい。

→ リンクポリシー・著作権

カレンダー

2019年4月
« 3月   5月 »
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
2930  

最近の投稿

カテゴリー

月別アーカイブ

プロフィール

高井・岡芹法律事務所会長
弁護士 高井伸夫
https://www.law-pro.jp/

Nobuo Takai

バナーを作成