第4回 意志あるところに道あり

 

あすか人事コンサルティング
代表 太田 正孝

 

 4月1日に新元号「令和」の政府発表がありました。報道によると、多くの国民が新しい時代を迎えるという感慨をもったようです。一方で、国際化、情報化時代にあって日本独自の元号をつかうことは時代にそぐわない、といった意見も紹介されていました。しかし、大方は新元号を歓迎していて節目の重みを大事にする日本人の心理性向の根強さを感じました。昭和、平成、これからの令和と三代に亘って生きる私世代も令和時代をどのようにしてすごそうかという思いでいるところです。

 

 4月に宇宙関係の大ニュースもありました。

 小惑星探査実用機「はやぶさ2号」は現在まで順調な飛行をつづけているとのことです。JAXAの人達はもとより、膨大な精密部品づくりに貢献されてきた中小企業の方々はヒヤヒヤしながらも自信を深められたことと思います。まだまだ続くミッションを完全に成功させて、2020年末に予定されている無事帰還が期待されます。

 もう一つのビッグニュースは宇宙の神秘の一つ、ブラックホールの写真が公開されたことです。時間と空間の物理の常識が通じないブラックホールの写真は撮影することができないといわれていたので驚きでした。ブラックホール自体は真っ黒になっている実際の写真をみると、いままで理論に基づいてCGで作られた画像とそっくりだったので、人の想像力の素晴らしさにも驚きました。

 南極を含む世界各地の電波望遠鏡を原子時計で極めて正確に同期させ、地球規模の仮想電波望遠鏡(電波干渉計)の膨大なデータを2年かけて国際チームで処理した結果だ、という顛末を知り、改めて天文物理学者達のすさまじい執念、好奇心、智慧、国際協力など彼らの功績に感嘆しているところです。

 直径一万キロに相当するこの電波干渉計は、人間なら「視力300万」の解像力に相当し、月面においたテニスボールを識別できる位と聞いて科学技術のすさまじさを感じた次第です。まさに宇宙の神秘をなんとか知りたい、という学者達の共通意志がひとつ実ったわけです。

 高井先生もよく引用される言葉「意志あるところに道あり」、この言葉はリンカーンが言い出したとされ、あのアインシュタインも1922年の来日時、帝国ホテルのベルボーイにお礼の意味でこれを書いたメモを渡したという逸話を思い出しました。やはりスーパー天才も自分に言い聞かせながら業績を積み重ねていったのかもしれません。

 

 桜が満開になり気分も上向く4月はまた新年度をむかえる児童や学生、新入社員にとっては新しい道に踏み出す月でもあります。新入社員を迎える側でも期待を込めて待っている頃でしょうか。採用の場では良い人材を求めて売り手市場になった昔風にいえばこの「金の卵」をどのように確保していくかに知恵を絞っていたことでしょう。

 就職サービス関連会社のデータでは、キャリアアップをするために4割程度が将来転職を考えながら入社している、といわれ、また早期退職率では学歴にかかわらず新入社員の3割程度が3年以内に実際に会社を辞めているということです。

 

 新しい環境や仕事につくと誰でも不安な気持ちになり適応できるかどうかで悩みます。それを乗り越えて新たな展望を開く人と、辛抱ができずに適応努力をしない人とに分かれていきますが、職業人生航路の第一歩として選んだ仕事や会社になじめないとすればそれは多分不幸なことだと思います。昔から「石の上にも三年」という諺もありますので兎も角、初めての仕事に全力で取り組んでいくのが大事と思っています。自分に合うか合わないかはその後に、つまり3年経った後くらいに決めても遅くないのではないでしょうか。

 

 働き方改革の中で、AI(人口知能)やICT(情報通信技術)の著しい進展の先には、今は花形の仕事もいずれAIに取って代わられるなどといわれています。そのために今のうちに副業や複業をして、時代の流れに耐える能力を身につけておいた方がよいなどとの意見もかなりでてきています。

 その背景には「終身雇用」が徐々に崩れてきている事実があるのでしょう。しかしながら、現実には身近に迫っていると実感している人は少ないのではないでしょうか。有名会社が副業を認める制度をいれたなどとの報道を見かけますが、みんなが副業を始めたら、それこそ新たな社会問題を起こさないか、よく考える必要があると思っています。

 

 欧米では一般に終身雇用ではないのが普通ですが、(だいぶ昔のことですが)私の通算10年ほどのドイツ・アメリカでの経験では現地の同僚達はできるだけ今の仕事をつづけて安定した生活を送りたいというのが普通でした。勿論、高みを求める人達はキャリアアップと収入アップを求めて転職していったのも事実ですが、欧米の文化の中では自己責任で生きていくというのが基本なので多様な価値観が併存は当然で、どちらでも良かったのかもしれません。

 

 日本では終身雇用が続けられる会社ではそれを続けて人々の安定生活を支える努力が今後も求められるでしょうし、会社生命が比較的短い浮き沈みの多い業界にいる人については、自分が進んで行きたいキャリアパスとそのキャリアラダーを想定してそれに必要は能力アップをしていくのが大事です。そのためには自分の性格、行動特性、得意分野、好奇心を持続できるエリア・楽しさ、粘着力、語学力、教養の程度、などなど冷徹に自分についての棚卸しが求められます。これを怠ると、自分向きと思って転職したとしてもそこで困難に直面すると又々転職を考えるという、いわゆるジョブホッパーになって人生の大事な時期を無駄に過ごすことになってしまいかねません。日本では転職が狙い通りうまくいく人はまだ少数だと思いますのでこの事実をよく見つめておくべきでしょう。

 

 最近、外資系に入社するのが就職を控えた優秀な学生さんの間で人気だそうです。確かに日本の会社に入る「就社」というより、はじめから専門分野を決めた採用方式をとる外資系は魅力的に見えるのでしょう。外資系では、おおむね能力・成果主義に基づく企業文化ですので、それを理解して厳しい状態に自分を置いて自らを磨きながら挑戦していくという若者には適しています。例えばアメリカに生まれ育ったつもりで就職し、自ら主体的にキャリアを築いていくのと同じことですので格別難しいことではないかもしれません。外資系にいた私の経験では、論理がすべてと考える人は成功していないように思いましたし、教養が豊かで喜怒哀楽といった人間そのものを理解する人でないと成功しないと思います。やはり人間の基盤は世界共通だという証かもしれません。また、日本の受験競争を勝ちぬいた実績そのものは実社会ではあまり役立たないでしょう。仕事では答えのない課題が多いので、事にあたっては「論理的に考え」、且つ、高井先生が言われる「ハートで考え」、そのバランスに立って最善の案をみちびきだして実行しなければなりません。

 外資系の門をくぐった人は、このところを良くわかって活躍してほしいものです。

 

 4月という春の心あらたまる頃にあって、今年のトピックスをもとに、新入社員に対して、あるいは迎える側としての思いを、「意志あるところに道あり」に込めてみました。

 そして5月からの「令和」時代が、文字通り美しく平和であることを願いつつ。

終わり

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