第7回 「真善美」のバランスと働き方改革に思うこと
あすか人事コンサルティング
代表 太田 正孝
7月になって去年の猛暑を覚悟していたところ梅雨寒がつづいているようで、わりと過ごしやすいので「ホット」しています。一方で農家にとっては日照不足による作物の被害が出ているので大変だそうです。さらに欧州の猛暑など地球規模で異常な気象にみまわれているのも心配です。日本列島はこれから昨年並みの猛暑になるとの予報がでているので身構えているところです。この拙文が高井先生のブログに載るころは果たしてどうなっているのか、気象庁のAIの実力の程が判明していることでしょう。
さて、本職のコンサルに関連することですが、このところ優れた実績を上げている経営者はアートの心を重要視しているとクライアント先でも話題になるようになりました。 コーン・フェリー・ヘイグループ(8月からヘイの名が消えるそうです、一OBとしては少々さみしいですが)に所属し作家でもある山口周さんの好著 『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』にも書かれていますが、「真善美」のバランスのとれた感性とリーダー能力がこれからの経営者に求められるということです。
「真善美」と言えば、高井先生が昔から強調されてきたワードでもあり、いつの世でもどの地でもあてはまる不変の真理なのでトップリーダー達の訓示などにも再三とりあげられています。そんな中で昨今のITの進展の影響か論理や合理性、効率性、数値偏重に傾いた世の中にあって、人の倫理観と感性と共にバランスを取る必要性が再認識されてきているのでしょう。学歴偏重や没個性を過度に重視する社会の同調圧力から脱皮して、アートの世界のような個性あふれるマルチな価値観を尊重したいという現代のルネサンス運動が起こっているのかもしれません。
この「美」について、高井先生はかつて数十年前にニューヨークで美術の仕事にも関わっておられたと伺ったことがあります。当時のJALのニューヨーク支配人室の駐在員と美術の関係で親しくされていて、偶々私の知人でもあった彼の話題で盛り上がったことを思い出しました。先生は昔から多方面に興味をもち果敢に人の輪を拡げておられたので、そうした縁が縁を呼ぶ姿に感嘆し続けています。
法曹界の人は論理性を追い求めるので堅くて近づきにくい人達だと昔の私は固定観念をもっていました。しかし意外にも人の感性にも重きをおき芸術に造詣深い人も多い、ということを高井先生から教わりました。子供時代から美術には縁の遠かった私も西ドイツのフランクフルトに駐在していた折りに日本からのお客様の求めで同行した有名な「シュテーデル美術館」のコレクションをみて名画のパワーに目覚めたことを思い出します。今調べるとフェルメールの「地理学者」というのが当時もそこにあったようですが。全く記憶になくとても残念です。時間に余裕ができた今は上野界隈や、旅先、出張先の美術館や博物館に時折いくのですが、その端緒がドイツ時代にあるような気がしています。若い時からもっと真善美のバランスをとって美術や芸術にも親しんでいれば「優れた経営者」の一員になれていたのではないか、と自嘲的な言い訳を考えているところです。
まもなく、参議院選挙です。(この拙文が高井先生のブログにアップされる頃には結果が判明していますが)世界はそれぞれの既存の価値観や固有の文化の大転換期を迎えているようであり、かつその変革スピードが衝撃波を伴う「超音速」レベルになっていると感じます。
そんな中、政党や立候補者の主張を見聞きすると厳しい時代にイノベーションで挑む迫力と新鮮味に欠けるものや、現実離れした主張もみられ政治家志望者の資質に疑問を感じています。政治は現実対応的なところが目立つのですが、その中に深い先見性から来る方向が含まれているかどうかを見て判断していきたいと思っています。単なる理想理屈だけでは多くの人は動かされないことを選挙で示されればいいのですが。
日本は法治国家と言われていますが果たしてどうでしょうか。元々国民の行為のすべてのケースをもとに法律として文章化するなんてことはできないのは自明です。法律にはこのような原理的条件があるので、裁判所が個別ケースを審議して裁定するような仕組みになっていると思います。その裁定も過去の判例にとらわれすぎると今の社会には合わない結果になるのも当然だと思います。
時の流れのパラパラ漫画で例えれば過去のとある時点の一枚の中で作られたのでしょうから、現在の世の中に必ずしもうまく整合しないのは明らかです。変化する国民の価値観と倫理感に対応しスピードをあげて常に見直し修正が不可欠です。議員には任期中はこれらメンテナンス作業にも、さらには、立法プロセスの無駄の排除にも没頭してもらいたいものです。子や孫の代に真の法治国家を引き継げるように法曹に関わる人達にお願いしたいと思います。
心のバランスをとるためにちょっと明るい話題で締めくくりたいと思います。
探査機「はやぶさ2」が地球から約2億キロと遠く離れた小惑星「リュウグウ」に二度目の着地に成功しました。関係者の輝くような笑顔と喜びようはTVを通じても伝わってきました。あとは地球に無事帰還するばかりです。
小惑星への着地に向けては、あらゆるケースを想定したシミュレーションは10万回やったので自信はあった、と聞いて改めて感銘を受けました。プロジェクトチームやサポートチームの人達は計画段階から何年もそれこそ寝食を忘れて没頭されてきたことと思います。
一般世間では「働き方改革」で残業削減が叫ばれている中、彼らにはこの探査プロジェクトに参画する喜びと成功にむけての苦労をいとわない気概と努力があったと思います。きっと苦しみも喜びに替える強い達成指向性があったのでしょう。
私の想像ですが、もし労働時間に縛られていればプロジェクトの成功可能性は少なかったのではないかと思っています。
人は大きな目標をもてば好奇心と達成にむけての挑戦意識が活発になり時間を忘れて没頭するものです。平たく言えば楽しくて仕方がない状態です。
そういう意味で一律の残業削減では人間の特性からみて近視眼的なところがあり、それでうまく解決するとは思えません。さらには自由な時間が生まれることで別の問題を引き起こすかもしれません。働き方改革の目玉のひとつではあるでしょうが、状況をみながら多様な方法を見つけ出す必要があると思います。
「はやぶさ2」の難しい着地成功と同時にその裏にあるメンバーのご苦労や働き方に少し思いを巡らせて、この回を終わりとします。
終わり