「AIと私たち」 第9回

AIの責任能力~自動運転車

 

 AIが人と安全に共存していくためには一定のルールが必要である。しかしながらAIの発達の速度や規模に対し、AI周辺の法的課題の検討は遅れがちであり、新たな技術の導入の壁や足枷になっていることも少なくない。

 

■自動運転車による事故責任の所在

 身近な問題としてよく議論されているのが、AIによって自律稼働するロボット、機械、コンピューターが、人間や物に被害を与えた場合の責任は誰が負うのか、という問題である。たとえば、協調型ロボットが隣で働く人間の従業員を怪我させた場合や、自動運転車が事故を起こした場合、法的責任は誰が負うのか。自動運転技術の現状と共に取り上げてみる。

 

 現在、我が国では、東京五輪が開かれる2020年に向け、緊急時などシステムが対応できないときだけ運転者が操作する、「レベル3」の自動運転車の実用化をメーカー各社が急いでいる。

 2018年3月、限られた条件で運転を自動化するレベル(レベル4まで)においては一般自動車と同様に所有者に賠償責任を負わせ(参考:自動車損害賠償保障法3条)、メーカーの責任は車のシステムに明確な欠陥がある場合のみとする政府方針が示された(ハッキングによる事故の賠償は、盗難車による事故被害と同様に政府の救済制度を使用)。レベル5の「完全自動運転車」に達しない限りは「自動車の所有者、自動車運送事業者等に運行支配及び運行利益を認めることができ、運行供用に係る責任は変わらない」ことを理由として挙げている。この政府方針によってメーカーが過大な責任を負う懸念が薄れ、自動運転車の事業化の動きが加速したといえよう。

 

 レベル3以上の自動運転では運転主体が人間ではなくシステムになるため、これまでの道路交通法では想定外であるとして議論されてきたが、2019年5月、安全基準を定める改正道路運送車両法と、自動運転車の公道走行を可能にする改正道路交通法が可決、成立した。ただし、日本が批准している道路交通に関する条約、「ジュネーブ条約」は未だレベル3の自動運転は認めておらず、この改正に向け世界各国が主導権争いをしている状況にある。また、自動車の国際的な認証について話し合う国連欧州経済委員会(UN-ECE)の自動車基準調和世界フォーラム(WP29)もレベル3について認めていない。しかしこちらも2019年後半までにレベル3の国際基準案策定を目標としており、世界基準でレベル3が認められる日は近いと思われる。

 

■AIの判断に対する予見可能性

 こうしてみると自動運転周りの法改正や基準の策定は確実に進んでいるのだが、実は刑事責任についての議論は宙に浮いている。運転者は危険運転致死傷罪あるいは過失運転致死傷罪(自動車運転死傷行為処罰法2条3条5条)、メーカーは業務上過失致死傷罪(刑法第211条)に問われる可能性があるが、運転主体がシステムである状態で、運転者に予見可能性や結果回避義務はどこまで認められるのだろうか。

 

 事故原因がAI等の「故障」にあれば、メーカーが製造物責任を問われる。しかし、AIの「判断ミス」が原因である場合、どこまで製造物責任といえるか。すなわち、「AIの判断」のうちどこまでを「人間による製造物」と看做すのか、という問題だ。AIが人間を超えるシンギュラリティが訪れれば、人間の予測の限界を超える事象や問題が必ずや生じる。予見可能性のない事象に対して人間に責任が課せないとなれば、AIが責任を負えるのか、AIの責任の取り方とは、刑罰とは、といった点まで議論が及ぶことになるかもしれない。技術はあるのに運用できないということのないよう、先手先手で検討を進めなければならない。

 

 まとめ

 ・2020年を目処にシステム主体の自動運転車が実用化

 ・自動運転の事故賠償責任は原則、所有者にある

 ・刑事責任については検討が薄く、今後の課題である

 

(第9回ここまで/担当 高井・團迫・宇津野)

 

 

 

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