2019年9月のアーカイブ

 

第9回 AIにも「ロボット三原則」を

 

あすか人事コンサルティング
代表 太田 正孝 

 

 9月になって過しやすい気候になってきました。地球の自転軸が公転面に対して傾いていたお陰で日本では季節の移ろい、夏から秋へ、を楽しむことができます。

 

 さて、高井先生から与えられたこのコラム「徒然なるままに」も早いもので残り少なくなりましたが、先日の台風15号の直撃を受けた千葉県民の一人でもありますので急遽自然災害についても少し触れてみたいと思います。

 

 千葉県は結構広いので場所により天候が異なります。私のいる千葉市周辺は房総半島部や柏市、印西市など北西部といつも同じではありません。今回の台風は千葉市に上陸したので隣接する私の地域の真ん中を通過していったと思います。

 8日日曜の深夜から明け方は強風で家が揺れつづけ、風雨の打ちつける音のすごさもあって家が崩壊するかという強い恐怖感に襲われました。深夜に突然停電して以降2晩半電気のない暮らしになりました。

 いままでの停電は比較的短時間で終わっていたので台風通過後しばらくして復旧するだろうと楽観的に思っていました。しかしお昼ごろ出かけようとしたところ、道路を塞ぐ大きな倒木や小枝、落ち葉の物凄さにまず驚きました。ラジオで千葉市内の瞬間風速が57メートルと聞いて合点がいき、県内の被害の大きさを予感させられました。

 何から何まで電気に依存していたと実感しながらの2日半熱帯夜に襲われ生活スタイルの脆い面を考えさせられました。「おばあちゃんの知恵」ではないですが昭和時代の省エネ生活の工夫や知恵を思い出しながら過ごすようにしていました。

 あれから相当期間、停電や断水の復旧、応急修理待ちが続いている地域の方々の苦痛やご苦労についての報道が続いています。早期の復旧を願うばかりです。

 

 停電によりデスクトップ型のPCしかない私は情報遮断されましたので改めてPCのない時代を思い起こしてみました。

 コンピューターが職場に入ってきたのは30数年ほど前からだったと思いますが、当時はまだ使い勝手も良くなく机の上には黒電話が存在感をもって鎮座していました。情報伝達の多くは電話や直談、会議での打合せ、一杯やりながらの情報交換などで意志決定をしていました。

 労働条件は高度成長時代の延長もあって年々向上していました。労働力も団塊の世代が参加してきていたので年代別の労働力はピラミッド型でいい具合になっていました。

経営学者アベグレンが「日本的経営三種の神器」として「年功序列制」「終身雇用」「企業別組合」が日本企業成功のキモと指摘し、この言葉が流行した頃です。

 

 日本人の心情に年功序列意識があり、伝統的な先輩後輩関係の維持を尊重する人事賃金制度が一般的だったと考えられます。社会的な作法や言葉づかいにも違和感なく整合し、企業文化として根付いていました。責任感、協調性が大事で、気配り力や集団に貢献することを評価する企業社会だったと思います。人事考課も性格特性や執務態度などのプロセス評価が重視され成果は個人評価としては二の次でしたが年功序列制度と相性が良かったと思います。

 

 一方で個人の職務成果を数値化して評価する狭義の成果主義の評価制度は事前の決め事も多く、上司の負担がかなり増えるとして運用面で拒否反応がでて定着させるのに苦労しました。このような転換は時期尚早だったと思った顧客企業もありました。

 その後20年ほどの間、国際化が進んだ企業では仕事の成果を重視する制度への転換は進みつつあります。高井先生がかねてより「口と筆を酸っぱく」してあちこちで指摘されていたように年功序列の制度は役割を終えつつあります。早く時代に則した制度に替えないと人員選抜・配置、役割配分、期待成果の間で齟齬がでてくるのは明白です。

 

 昨今、日本の労働事情が女性、高齢者、外国人の労働力導入拡大、若手労働力の不足も相まって急激に変化しています。長期展望でも総人口の減少、都市集中化と地方疲弊化の進行など、悲観的な見通しが多くなっています。

 この歴史的な労働環境変化の中、高井先生には持ち前の発信力で政治経済労働界に刺激を与えてくださるよう期待したいと思います。

 

 コンピューター化の話にもどすと、いまでは技術が高度化し、IoT、クラウド、ビッグデータ、AI、5G等々さらにはその集大成として応用面での自動運転などが取り沙汰されています。背景にはハードウェアの進化が著しく、所謂「ムーアの法則」(CPUの性能が18ヶ月で2倍になる・・・インテル創業者のゴードン・ムーアが1965年に示した)で劇的に進歩したデバイスを使った情報技術が人間を知的領域でも凌駕する段階に入りつつあります。

 お台場方面に行く都市交通「ゆりかもめ」など軌道が確保されているところにはすでに無人運転が導入されています。まもなくバス、トラック、電車などにも拡がりそうな勢いで、運転席にはだれもいない乗り物に乗るのが現実になると言われています。

 

 人事労務の領域もビッグデータを活用したAI化が進み大事な採用活動もAIが行うなんていうのも始まっています。近未来、人間が働く職種は何か、など雑誌なんかで取り沙汰されるようになりました。この流れをみるとAIに対応するために人事労務が一層重要分野になることでしょう。一定の成果を上げた後は皮肉にも人事部門自体がAI化されてしまうかもしれませんが。

 

 AIも機械の一種ですから不具合の発生は避けられないでしょう。複雑に発展してきた人間社会でいつも完全に機能すると言えないと思います。例えば都心の複雑な交通インフラのなか運転手のいないバスに平気で乗れる人はどれ位いるでしょうか。AIが人間の感情や倫理的判断を求められる場面で瞬時に最適解を出せるとは思えないのです。倫理的判断をともなう有名な問題「トロッコ問題」ではAIはどうするのでしょうか。AIを設計する人が仮に倫理観をアルゴリズムに取り入れられたとしてもAIが人間の感覚では冷酷ともいえる行動をとる可能性があるからです。これからもAIに不向きな領域が存在しつづけると思いますので、個人的には何でもAIに依存することのないように厳しいルールを整える時期が来ているように思っています。 

 立法、法律は当然ですが人間領域にも精通した高井先生のAIチームで是非議論していただきたいところです。

 

 1964年SF作家アイザック・アシモフが考案した「ロボット(工学)三原則」を思い出します。「人間への安全性、命令への服従、自己防衛」というものです。「ロボットは人間に危害を加えてはならない。また、その危険を看過することによって、人間に危害を及ぼしてはならない、・・・など」この原則はその後のSF小説にとどまらず現実のロボット工学にも影響を与え、今でも有効と思います。AI時代にはこの原則はますます大事なこととして尊重されようを願うばかりです。

終わり

 

「明るい高齢者雇用」

第6回 40年勤めてまだ課長―米国では普通のこと―

(「週刊 労働新聞」第2152号・1997年5月12日掲載)

 

 

 前回に続き遠藤安岐子専務理事とのインタビューをご紹介する。

 Q、アメリカでは職務給が一般的と聞きますが。

 A、完全な職務給体系です。新陳代謝は20歳代からあるといえ、できない者は即座に「クビ」…の国ですから、年齢に関係なく、始終、社員は変わっています。給料に関してですが、給料は年齢に関係なく職種で相場がありますので、その職種から上に行かない限り、または会社を変えない限り給料は上がりません。例えば、60歳の方も23歳の方も、もし職種が「セクション・チーフ=課長」だと、全く同じです。40年勤めてまだ課長か、と言われても本人が良いなら会社は高い給料を払うわけではないので、「これでいい」のです。それに対して誰もおかしいと思いませんから。

 

 日本人を規律する「長幼序あり」という儒教的社会感の下で、実力主義が機能するか、賃金が職能給体系に徹することができるかという根本的問題が高齢者雇用の明るさを大きく左右するであろう。しかし日本の年功序列社会の下では就社意識が横溢し、就職意識はない。明るい高齢者雇用の実現に向け、各自がスペシャリスト、プロフェッショナルになる必要があるとなれば、当然職種を格段に意識することになろうし、またそうでなければ明るい高齢者雇用はないということになる。そこにこそ、明るい高齢者雇用を実現する意識改革の原点の1つがある。

 

 Q、アメリカには定年制がありますか。

 A、定年制はあります。アメリカの企業、官庁、地方自治体その他に関しても、定年は一応65歳ですが、これは65歳から連邦政府のいわゆる厚生年金が100%支給されるからです。62歳で引退した場合、年金は65歳まで80%しかもらえないのですが、それでも早く引退する人もあります。但し、これはあくまでも政府で義務付けられている積立年金だけに頼る人で、一般に政府の年金だけには頼らず、個人で年金積立てをしたり、生命保険積立年金などで退職に備えています。

  軍隊や地方自治体(州政府、都政府、市役所)では、25年間勤めると自然に引退となり、それ以上勤めても年金が上がる訳ではないし、給料も上がらないので、普通45歳くらいで引退し、第2の職に就き、年金プラス給料で人生を送る人が多いです。

  また、マイアミ市の職員の場合ですが、25年間市役所に勤めると、仕事をしても、しなくても、年間6万ドルの年金プラス給料が収入なので、かなり裕福です。

 

 アメリカにも定年制があるのである。そしてアメリカでも定年制と年金制度が大いに絡まっているようである。日本において、それが今後可能かどうか、やはり課題であることをここでも知るのである。

 

 

 

高井伸夫の社長フォーラム100講座記念~1講1話・語録100選~

【第9回】合意の形成~営業力とは「偶然を必然にする力」(1994年3月23日)

 

 経営も営業も、根本は「合意の形成」である。少々のトラブルやクレームで引き下がっては合意の形成にならない。ひたむきに合意の形成に向けて努力することが、結局は合意の形成につながる。

 合意の形成には、まず、相手を自分化すること。相手の価値観をわが社の価値観に置き換えることが合意形成の第一歩だ。相手のためになる商品を開発し、提供しようという姿勢があって、初めて相手の価値観を洗脳できる。

 営業とは偶然と奇跡の連続であるが、最近の営業不振は、偶然性すら少なくなって奇跡が多くなったことにある。

 

 営業力とは偶然を必然にする力、奇跡を平常にする力である。そのための努力を継続しなければならないが、その原点は「創意工夫」しかない。

 創意工夫とは、自分の商品をよく勉強すること、お客様の商売を熟知する(彼を知り己を知りて百戦危うからず)ことだ。

 創意工夫の次には、お客様に好意をもつ、即ちお客様から好かれるのではなくお客様を好きになること。そしてお客様のお役に立つという精神をもつことである。

 

 事業資産は様々あるが、その中に「営業資産」という価値観を組み入れないと、これから企業は生き残れない。そのためにもクレーム対応力は大切になる。

 1つの言葉をきっかけに信頼を勝ち取っていく。そのきっかけとなる意味ある言葉が「不平不満」、「苦情」。それらに解を与える努力から営業資産がつくられていく。それはお客様の気持ちに応えることだからである。

 

 

「AIと私たち」 第11回

AI応用期を迎えて

 

 「AIはすでに学術研究の時期を終え、世の中で応用する活用期に入った」―先日、AI企業への総額23兆円の巨額投資を発表したソフトバンクグループの孫正義会長兼社長の言葉である。日本企業の経営者の多くは先輩がつくったものの焼き直しをしており「真剣さが足りない」との厳しい言葉も並ぶ(日本経済新聞2019年7月28日朝刊2面)。

 

■課題は当事者意識の希薄さ

 当連載でも欧中米に対する日本のAI関連分野の遅れは指摘してきたところであるが、昨今はもはや我が国がAI先進諸国に追いつくことは不可能であり、これ以上差を開けられぬようにする他ない、といった論調が多く見られる。研究職等の専門家だけでなく、国民皆が、特に中小を含む経営者層が当事者意識を持ってAIを理解し、取り組まねばならないことは、各所で繰り返し発信してきたが、個人レベルの理解に留まり、企業や国を挙げた大きな流れを生み出すまでには及ばなかったことは至極残念である。経営者の多くはこの5年程を「AIはなんだかすごいらしい」「AIで何かできるらしい」という段階から動けないままであったように思われる。

 いずれ社会システム全般がAIの支配する機構へと変革する。その中でAIと人事労務の関わりはさらに大きく変質し、労働法もまた大きく変わりゆくだろう。政府は「同一労働同一賃金」の実現に向けてパートタイム労働法(改正後は「パートタイム・有期雇用労働法」)、労働者派遣法を改正し、2020年4月1日からの施行を決めた(中小企業の「パートタイム・有期雇用労働法」の適用は翌2021年4月1日から)が、AIが普及すればこの問題もかなり様相を変えるはずだ。低生産性層や低賃金層とAIとの職務の代替の進み方如何だからである。AIが労働市場や労働力に与える影響は計り知れない。労働市場の分析や新しい雇用指標も必要であろう。

 AIはすでに人間と共存している。その活躍の場は多岐にわたり、生活のありとあらゆる面で人間をサポートしつつある。研究者・開発者等の専門家に委ねるのではなく、個々人が当事者意識を持ってこれを前提としたより良い社会づくりを考えなければならない。

 

■AI利用に潜む危険性を考える

 AIに絡む問題の恐ろしいところは、インターネットやデータと密接に関わることによる操作簡易性、拡散性、その速度・範囲が世界に及ぶという広範囲性と永続性ではないかと思う。

 2018年4月には、AIによって「偽造」された、前アメリカ大統領バラク・オバマ氏が現トランプ大統領を非難する「フェイク動画」が話題になった。大した手間も掛けずに作られた政治的目的、経済的利害関係を持ったフェイク動画が一瞬で世界中に拡散され、「フェイク」であることが見破られない限りごく簡単に世論を動かし、社会的混乱を招く。

 2019年8月に日本で起きた、就活生の「内定辞退率」予測データを販売した「リクナビ問題」では個人情報というデータの取扱いが深刻かつ重大な問題となり、大きな議論を呼んだ。AIと共存し、より生産性の高い新たなサービスを生み出していく中で、その根幹となるデータの利活用の流れは必然である。必然だからこそ、それを皆が受け入れられるような仕組みやルールの整備が欠かせない。本件も諸問題が「適切に」処理されていれば、より精密・迅速な採用活動や雇用のミスマッチ解消、ひいては経済活性化に資するサービスであったと思われる。大企業が当該データを購入したとの報道が後を絶たないのはその証左である。今回の事態は、AIやデータ経済の進展に企業はもちろん、国民も、そして国も追い付いていない実態が露呈したとも受け取れよう。

 

 政府は6月に大阪で開催されたG20サミットにおいて「信頼ある自由なデータ流通(DFFT))」を提唱し、経済産業省がデータ活用事例集の公表準備を進めている(参考:経済産業省によるDFFTコンセプトサイト)。法制度、企業倫理、個人の意識をAI時代に適応させることが急務である。

 

 

 まとめ

 ・個々人がAIとの共存に対する当事者意識を持つこと

 ・AIとの共存における利便性とともに危険性を理解すること

 ・国、企業、個人がそれぞれにAI時代に適応すること

 

(第11回ここまで/担当 高井・團迫・宇津野)

 

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