2019年10月4日のアーカイブ

「AIと私たち」 第12回(最終回)

AI時代の生き方

 

 AIについて個人的に学び始めて4年と少し。この間に世界は着実にAIを発達させ、私たちは多くの恩恵を享受している。3年前は「AIが人の仕事を奪う」という悲観論が多く聞かれたが、今ではAIとの共生を前提とした議論(AIでできること、危険性、対処法、法整備等々)が活発になっている。特に我が国は元々他の先進諸国に比して労働時間が圧倒的に長く生産性の低さが指摘されているところに加え、深刻な少子高齢化による人口減、労働力不足が加速する中、AIの活用による生産性確保は国力維持に欠かせないと言っても過言ではない。世界一の長寿国家ゆえに「日本は世界で最もAIの導入に適している」という声も聞かれたほどなのに、「AI後進国」と揶揄されるようになってしまっている現状を覆すには、相当な時間と改革を要する。

 

■国のなすべきこと

 国レベルでは社会的なコンセンサスを積み上げ、制度設計を進めると同時に、AI教育の地盤を強固なものにしなければならない。2020年度から英語と同時にプログラミング教育が小学校で必修化されることはその一端であろう。プログラミング教育といっても、プログラミング言語を学ぶのではなく、「コンピュータを受け身ではなく、積極的に活用する力」や「プログラミング的思考(論理的思考力)」の習得を目指す。指導者(教師)側が対応できるのかという懸念はあるが、先送りにする時間的猶予はない。

 また、国は人生100年時代も見据えた「リカレント(学び直し)教育」に力を入れ、AI人材を増やしたい意向だが、こちらも我が国はOECD諸国の中で世界最低水準と評されている。国民性や制度の差もあれど、労働時間が長く低賃金傾向にある現在の日本において自主学習できる国民は限られており、「時間がない」、「お金がない」の2点が突出した障害となっている。社員に手当を出して積極的に学び直しを進めたり、教育プログラムを組んで社内で人材を育てたりする企業もあるが、これらは体力のあるごく限られた大企業の話。我が国の全企業数のうち99.7%を占める中小企業の人材を育てるには、国のバックアップが必要である。未来に向けた幼児教育、高等教育の改革は勿論重要であるが、現役世代にも相当額の投資がなされなければならない。

 

■企業のなすべきこと

 ただし、国のバックアップがあったとしても、現役世代が学び直しを果たすためには、各企業内で少なくともヒトに余裕を生む必要がある(カネについては国の援助を活用する道がある。文科省HP参照http://www.mext.go.jp/a_menu/ikusei/manabinaoshi/index.htm)。そのためには生産性の向上が欠かせない。人間よりもAIが優れている分野はどんどん任せ、人間は人間がやるべき仕事だけに集中することで、作業量は減ると同時に作業効率は上がり、確実に余裕が生まれる。

 雇用形態は既に変容しつつあるが、今後、人口減に適応した働き方への移行が否応なく求められる。AI等のIT技術を積極的に取り入れ、リモートワークや週休3日制、フリーランスや副業等、一企業としてではなく、国全体でより生産性が見込める働き方を受け容れ、対応していかねば、企業としての生産性が上がらないことはもちろん、人材離れをも招きかねない。AIが雇用の流動化を後押しし、経済が活性化すれば、結果的に各企業の利益につながる。

 AIの導入にかかる初期費用は技術進歩によって年々下がる一方、導入できる分野や作業は年々増え、同時に、AI導入を手助けする企業やサービスも拡大している。よく分からないからといって蓋をせず、1日でも1時間でも早く着手すること。その分だけ競争に勝ち残る確率は上がる。

 

■個人のなすべきこと

 AIについて意欲を持って向き合っている人が確実に増えていることは、弊所主催のAIセミナーへの参加者傾向からみて明らかである。そして若者は新しいツールを抵抗なく受け容れる。今の子どもたちは1歳でスマホのスワイプ(画面移動)やピンチイン・ピンチアウト(縮小・拡大)を自然に覚えてやってのける。喋る冷蔵庫もお掃除ロボットも自動運転車も当たり前に存在する世界で成長する彼らには、「AI」という区分すらなくなるかもしれない。昔は「AI」だったものが技術進化によって常識になり、「AI」とは呼ばれなくなる、というのは松原仁教授(公立はこだて未来大学教授・人工知能学会 前会長)も述べているところである。

 ただし、現在時点において我が国の人口は中高年齢者層の占める割合が圧倒的に高い。AIを含むITリテラシー(知識・利用能力)が低く、それゆえに恐れ、変化を嫌う層であり、国・企業のトップを占めるのもまたこの層であることがAI改革停滞の一因であることは否めない。この意味で、個人の意識改革が日本のAI時代の大きな鍵を握っているのである。

 

■学ぶことがAIの信頼性を高める

 4年間AIを見つめてきて、5年は当然、10年先を見据えて動かなければ取り残されることをあらためて実感している。短期的にはGAFA(米グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン・ドット・コム)に代表される大手IT企業がその利益を享受しているように見えるかもしれないが、中長期的にはAIの生産性の恩恵は社会全体に行き渡る。この過程において受け身でいては、自身のデータを、ひいては自分自身を都合よく使われるだけになってしまう。個人が学び、納得のうえで情報を使う環境を選び、データ管理の技量を上げる。それは今の自衛はもちろんのこと、高齢化の備えにもつながる。AIについて理解することまでは難しくとも、AIの使い方やデータリテラシー(知識・利用能力)は身に着けられる。人間はAIが使える分野・課題を考え、明らかにしてAIに対応させ、人間の得意分野と棲み分ける。そうした意識がAIの信頼性を高める。

 人生100年時代において生涯学習が叫ばれる昨今、AIを新たな生きがいにしてみても良いのではないだろうか。

 

 まとめ

 ・AI人材育成の鍵は国と企業の相互努力と中高年齢層の意識改革

 ・AIを学ぶことでAIの信頼性を高める

 ・AIを人生100年時代の生きがいとせよ

 

(終/担当 高井・團迫・宇津野)

 

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