高井伸夫の社長フォーラム100講座記念~1講1話・語録100選~
【第12回】社員の人事権と神棚意思決定(1994年7月6日)
社長の支配力の原点は人事権だ。人事権とは、どんな仕事を担当させるかということ。仕事を割り付ける権利、これを人事権という。その決定権を社長が持っている。
仕事を割り付けるとは、人間性の発揚にかかわってくる。つまり人事権とは、どの程度人間を人間にするか、人間になるかを規定することである。だから社長は、ゆめゆめ人事権を手放してはいけない。
「専務、今度の役員昇格候補は誰がいいですか」、「営業の加藤がいいと思います」。「常務、人事担当としての意見を聞かせてください」、「開発にいる佐藤を推薦します」。このやりとりから社長は、加藤と佐藤が候補者であるという社内的な認識があると理解する。
専務はその瞬間、加藤に対して「君を推薦しておいた。次期役員としてがんばってくれたまえ」と言う。それは励ましよりも自分の勢力を張ろうとする目的があるわけだ。一方、常務は佐藤に向かって「専務は加藤を推したけれども、僕は君こそと言っておいたよ」と言う。
その結果としてこの人事がそのまま決まると、専務が加藤を決め、常務が佐藤を決めたことになる。社長の人事権は霞んでしまう。
だから社長としては、意見は聞かなければならないが、どうやって他人の意見の介入を遮断するかが課題となるわけだ。この問題に対して私が編み出した方法が「神棚意思決定法」である。
まず社長が直筆で書く。「第○期株主総会において新たに役員に迎える者、加藤一郎、佐藤治郎」と書く。その内容を秘して3日間神棚にあげておく。そのことを社内に知らしめる。即ち「役員候補者の名は神棚にあるよ」とリークすることだ。それを3日後にみんなの前で読みあげる。そうすると社長と神様が合議のうえで決めたということになる。これが日本人の感覚に極めてふさわしい社長の支配力確保表現の方法になる。
ここで大事なのは「書くこと」と「神棚に供える」こと。神棚がなければ金庫に入れる。入れてあることを社内に知らしめておく。社長の人事権犯すべからず。社長が独自に決定したという世界を演出することだ。