前々回より、若手中国人の米留学生による米国所感を連載しております。

 

第3回 アメリカの教育

~米国教育の実態~

 

 「日本の教育はアメリカと比べたら」と高々に語られることをしばし見かける。確かに毎年発表される学術論文の数はアメリカの大学が日本のそれをはるかに超えており、ハーバード、スタンフォードといったトップレベルの大学の華やかな話がよく比較対象に出される。しかし、実態は多くの日本人の想像とかけ離れており、教育は現在アメリカが抱える最も大きな問題のひとつである。

 まず、米大学の学費は年々インフレしている。その背景として、国からの支援や公金がニーズに対して圧倒的に足りてないことがある。その上、国内外から生徒を勧誘している多くの米大学はインフラ投資に力を入れていることも要因の一つとして加わる。私が接してきたアメリカの大学生は国際生徒を除くほぼ全員が学費による借金を抱えていた。特に印象的だったのが昼に働き、隙間時間で単位を取りに大学にくる26歳の生徒がいたことだ。表向きにはダイバーシティが学園生活の豊かさにつながることを掲げている米トップ大学は、富裕層しか許容できない額の学費を請求している矛盾を抱えている。

 さらに国外からは盲点になるのがアメリカの高等教育だ。ブッシュ元大統領政権時、2002年からアメリカの公教育に導入されたNo Child Left Behind Act(通称NCLB法)はその名の通り、学力格差が生まれることを防ぐために発案された「どの子も置き去りにしない」ことを主旨にした政策である。NCLB法は共通テストの比重を重くし、生徒がACT (American College Test。米国中部の大学を中心に適性試験として採用)やSAT(Scholastic Assessment Test。米国の各大学で合否基準として広く採用)などの標準テスト*で高得点を取れたか否で学校のパフォーマンスが評価される。その結果、一年間通して学校で学ぶ授業内容が軽視され、生徒は共通テストで点数を取るための勉強をする傾向になってしまった。その為、国家単位で学力は低下し、比重の重い大学入試共通テストなどで不正を働く生徒が一定数いることが一時期問題となった。NCLB法は2015年に撤廃されたが、1世代を影響したこの制度はアメリカ社会に醜い爪痕を残したことで語り継がれるだろう。

*米国の大学進学には、SATかACTのいずれかのテストの点数の提出が義務づけられている。

 

 

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