「明るい高齢者雇用」
第11回 年齢差別で提訴―背景に経済の停滞―
(「週刊 労働新聞」第2157号・1997年6月16日掲載)
『カリフォルニア州で判事をしている私の義父に定年について聞いてみました。カリフォルニア州では、判事の定年制があり、定年は70歳です。定年退職すると、現役時代の65%の給料が死ぬまで支給されます。彼が定年退職したその歳は、退職後、さらに6年間は現役の判事として勤められる制度がありました(現在は3年になっております)。彼は75歳まで判事を務め、75歳になった去年“Judge Pro Tempore”(パートタイムの判事―ボランティア的なもの)に転じ、日当50ドルをもらって判事を務めています。
また、コンサルタント業務は現役時代に才能や知識があった人でないとありつけない職種です。ボランティア活動に従事する人も、かなり経済的余裕がないとできない分野です。学校などでボランティア的に教鞭を取っている老人も、やはり先生としての専門分野における知識、経験が豊富でないとできない仕事です。私の家内の母親は、老人専用コミュニティに住んでおりますが、老人の中でもボランティアをしている人は見掛けないそうです。
彼女は毎日水彩画を習ったり、大学の趣味の講座を受講したりして、わりと忙しい毎日を過ごしております。そのような老人専用のコミュニティでは、皆、家族から別れて暮らしております。家族が老人をそのような施設に入れたのか、または、自分で選択して入ったのかはそれぞれ違います。家内の母の場合は、自分で選択して入りました。
お金のあるほんの一部の老人は、所有していた家を処分し、老人専用の高価なマンションを購入し、近くの短大やアダルトスクールなどの趣味の講座で、陶芸やアートなどを学び優雅に暮らしている人達もいます。しかし、アメリカの大多数の老人は、このような生活はできないと思われます。
20年位前に新聞を賑わした記事に、前述した退職金制度の下では高齢者を退職間近まで雇うと会社側に退職金を支払う義務ができてしまうので、退職間際に高齢者の首を切るという社会問題がありました。現在は企業が退職金を支払う制度はなくなってきています。
地元紙に載った最近の記事を御紹介します。カリフォルニアで大手の法律事務所(何千人という弁護士を抱えている)Pillebury, Madison & Sutro’sで、55歳以上のセクレタリーが、高齢という理由だけで計画的に解雇され、解雇されたセクレタリーや解雇したマネジャーも原告となり、この法律事務所をエイジ・ディスクリミネーション(年齢差別)で訴えているというニュースでした。法律事務所でさえ、このような事件を起こしていることを考えると、明るい高齢社会はまだまだ遠い世界と言えます』(前回から続く)。
企業の収益性が失われ、それを回復するためのリストラが続いているところでは、アメリカに限らず高齢者雇用は企業にとって負担となり、リストラの第一の対象となっている。即ち経済情勢の斜陽化という状況下では、高齢背は雇用は原則的にはあり得ないと見なければならない。明るい高齢者雇用は経済全体の活性化があって初めて可能な途であることを、アメリカの事例を見ながらも、承知しなければならない事実なのである。