
第4回 『3分以内に話はまとめなさい』 (2)
できる人と思われるために
(前)株式会社かんき出版 社長
コトづくり研究会 代表
境 健一郎
以前にある会合で、50代後半の弁護士と隣り合わせになったときのことです。
偶然にもその方は、ある裁判で、高井伸夫先生が弁護されている企業の相手側の弁護士だったそうです。そのときの高井先生の弁論や尋問が、「敵ながらあっぱれだった。聞きほれた」と思い出を話ししてくれました。「法曹界では、高井氏の反対尋問は評判ですよ」とも語っていました。
先生が塾長をする勉強会の一つに、10年で100回以上続いた人気の『社長フォーラム』があります。そこで講演されたテープを起こして読むと、一字一句そのまま原稿になるほど、しっかり纏まっている。話に無駄がなく、構成も説得力があり、「て」「に」「を」「は」にも配慮された内容です。
その音源を聞いても、まろやかな口調で、人を包み込むような温かさが伝わって引き込まれます。
このような「話し方」について、どのように身につけてこられたのか。
3月27日号に引続き、今回も表題の書籍のなかから、【高井語録】を集めていきます。
「相手の心に残る話し方のためには、出だしはゆっくり話し始めることが肝要。どんなに持ち時間が短いときでも、最初はつたないまでにスピードを遅くして話し始めると、スムーズに話に入っていけることが多いのです。
とくに短い時間しかないと思うと、つい早口で始めてしまいがちですが、つんのめったようになって、いつまで経っても自分のリズムになりません。一通りの話はできたとしても、相手へのインパクトは欠けてしまうことになります。
次に大切なのが、話の構成です。
ご存知の方も多いと思いますが、文章の構成や物事の順序を表すのに、『起承転結』『序破急』という言葉があります。
『起承転結』は漢詩の句の並べ方からきた4部形式の方法論です。スピーチや講演の場合、とくに気を使いたいのが『起』と『転』です。『起』でどれだけ話し手に関心を持ってもらえるか。これに成功すると、あとの展開がずっと楽になります。『承』ですこし緊張を解き、『転』で変化や落差を演出。そして『結』をスピーディに展開します。
『序破急』は日本の音楽・舞踊・演劇における構成要素を表したもので、3部形式になっています。
『起承転結』に比べると、スピード感があり、現代向きと言えそうです。
話の構成も、このどちらかを選んで進めていくと、話が論理的になり、聞き手に理解しやすくなります。
『起承転結』のなかに、さらにそれぞれ『序破急』や『起承転結』を入れて、論理的な展開や、ストーリー性を、リズムよく持たせる工夫をされたほうがいい。
この手法は、3分間という短い時間でも同じです。つまり3分であっても起承転結や序破急は必要で、むしろ短いときほど、話の構成の輪郭がはっきりして理解してもらいやすい。
私の話し方をまとめると次のようになります。
・あらかじめ話す内容を決め、資料を準備しておく
・はじめは超スローテンポで始める
・必ず話す時点の直近の話題を盛り込む(枕詞)
・序破急か起承転結で話を構成する
これが短い時間で話をする基本であり、あとは相手、状況、時間などに応じて、その場で臨機応変な対応をすればいいのです」
「話の上手な人の手にかかると、相手はちゃんと聞いている。これには秘訣があるのです。
人間は誰でも、実際の年齢とは別に3つの心をもっていると言われています。親の心(ペアレント=P)、大人の心(アダルト=A)、子どもの心(チャイルド=C)です。
小学校に通うようになった女の子がこう言いました。
『お母さん、私、明日から小学生でしょ。だからお子様ランチはもうやめようと思うの』
この子は大人の心で話しているのです。この女の子とスムーズな対話をしたいなら、親も大人の気持ちになってA-Aで会話をすれば、噛み合った話ができます。
しかし、子どもを叱るときは、親がCの心になっては通じにくい。やはりPの心で叱らなければならない。なぜなら親の心なら、『とことん諭す』という気持ちになれます。
ところが、Aの心で叱ると子どもは反発することが多くなるのです。
最近、親の幼児虐待事件が増えています。これは、親が子どもを叱るとき、
『この子は私の人生の邪魔をする』
といった、自分勝手な大人の心で叱っていることが多いからと思われます。
大人だから『わかるはずだ』とか、親・上司だから『こうあるべきだ』と原理原則に固執することなく、『いま相手はどの心でいるか』『自分はどの心で接するべきか』を考えて話をすれば、あなたの話は、思いのほかよく通るようになるはずです。
話しがうまくいく状態は、両者が調和的な関係にあるときです。これをラポールといいます。この状態になると、お互いの心にベルトがかかったようになり、話がスムーズに運ぶのです。
その状態に持っていくには、以下のような方法があると言われています。
・相手のまねをする
・相手に関心のあることを示す
・相手とラポールが成立しているかを確認する
・相手の価値観を知るために質問する
・相手のニーズを知るための質問をする
この方法を使う場合に、相手の心のPACを考慮していれば、話はうまくいきます」
「話をするとき、自分なりの個性を出そうと努力する人がいます。
自己の独自性を出そうという志は買えますが、必ずしも他人と異なった意見を言う必要はない。
大切なのは『自分がどう考えるか』ということ。最近は誤解して、『人と違ったことを言おう』とする人が増えてきているようです。これでは真の個性化は図れません。
例えばAさんが強力なインパクトを与え相手を説得したとします。Bさんは同じテーマを自分の気持ちに素直に従って話した。結果はごく平凡な話し方になり、聞き手に強いインパクトを与えられず、必ずしもうまく説得できなかったとします。もちろん話し手に対する信頼性は、Aさん・Bさんが同程度だったとした場合です。
話しが終わった時点では、AさんのほうがBさんよりも説得力で優れていたことになりますが、人間の態度変化(説得の結果)には、時間という要素が加わる。
時間要素を加味すると、強いインパクトの説得の効果は右肩下がりに落ち込む傾向がある。
逆にBさんの緩やかな説得の効果は、時間とともに上昇傾向を見せる。
どちらが有効かは必ずしも言えませんが、契約書を書かせる様な性質の説得だったら、Aさんはクロージングを早くした方がいいし、Bさんはしばらく間を置いてプッシュしたほうがいい。
結果として、話を通じさせるのに、あまり奇をてらう必要はありません。個性だ、独創性だと騒ぐ必要もありません。
それより自分自身を磨いて、自分自身が考えて、それを素直に出せば、相手は説得できます」
「いくら3分間で話し終えたとしても、相手に影響力というか話したことによる一定の効果が与えられなければ、短く話した意味がありません。
どうしたら、短く話せば話すほど、相手が耳を傾け、効果が出てくる話し方になるのか。
一つは相手を見て話せ、ということです。
もう一つは、 『呼びかけ法』という話し方があります。この話し方をすると、ふつうの話し方では『他人事』にしか思えなかったような内容が、ガラリと変わり、聞き手自身の身に迫ってくる感じになる。なかなか便利な話し方です。
たとえば、戦争反対を人々にアピールしたいとき、
『戦争になれば多くの人が死にます』
というような言い方では、『そんなこと当たり前だよ』 と思われてしまいがち。これではまったく説得力がありません。
だが、学校の先生が生徒たちを前にして、
『私は君たちの一人だって戦場で死なせたくない』
と言ったらどうか。話の中身がにわかに自分に迫ってきます。
このように二人称で呼びかける話し方は、きわめて『喚起効果』が高く、聞き手を引き込むことができるのです。
話でも文章でも、言葉を操る場合の優劣は、喚起力がとても大切。
喚起とは『注意、関心、自覚、良心などを呼び起こすこと』ですが、同じ言葉を使っても、言葉の組み合わせ方や文体で、喚起力はまったく異なってきます。
『呼びかけ法』というのは、相手に呼びかけるだけではない。こちらの想いや意思、決意を効率よく相手に伝える方法でもある。だからインパクトがあり、聞いた人は感動したり、決心したり、次なる行動を起こさざるをえなくなるのです。
つまり、身につまされる思いをさせて、イエスかノーかの判断を求めるところにポイントがあると言えるでしょう。
そうすることで、相手が意志を表明せざるをえない、意志を固めざるをえない、意見を表明せざるをえない状況にもっていくということです」
「話をしていて、批判したくなるときがあります。その仕方が下手だと話がこじれる。こじれると壊れるか、長引くかどちらかです。といって、しなければならない批判もある。早く話を通すためには、批判のテクニックも大切になってきます。
批判するとき留意しなければならないのは、普段にもまして、相手の面子(メンツ)をつぶさないような配慮が必要です。
絶対してはいけないのは全否定。
相手を批判するときは、まず批判の前に相手の話のなかから、肯定できる材料を引き出し、その旨を先に伝えておく。それから批判に入るようにする。
ただし批判する内容に関しては、妥協してはならない。何がよくないか、はっきりと言うべきです。
次に、批判を批判で終わらせないこと。
そのためには批判したあとに、必ず『建設的』な意見を付け加えておくこと。このような形で批判すれば、相手との関係をこじらせることなく話が進められます。
たとえば、
『売り上げが伸びないことについてどう思うか』
というのも非建設的な質問です。『どう思うか?』ではないのです。
『現状はどうか?』
『原因は何か?』
『対策は何か』
『そのときのリスクは何か?』
『何から始めるか?』
といった具体的な質問が必要なのです。
当事者意識を持ち、建設的な方向へと話を持っていくことが、極めて重要です」
「言葉は誰でもしゃべれるので、その巧拙がもたらす差を意識しない人が意外と多い。
しかし、人間は言葉で社会生活を営んでいるので、正しい話し方こそが、人生を切り開いていく重要な道具と言っても過言ではありません。話し方を研究して、人を説得し、人から好かれる話し方をしないと、人生はうまくいかない可能性があるのです。
言葉を操るにあたって、私は次の点に気を付けて点検することだと思います。
➀余計な言葉を使っていないか
人と話をしたあとの自分の気持ちを考えてみればいい。その人と別れて何か心に引っかかるものがあったら、『言い過ぎたのではないか』と疑ってみること。ほとんどの原因が自分の側にある。
気楽なおしゃべりは別だが、仕事上の会話の場合は、『余計な言葉は極力使わない』という節約発想が大切。特に知ったかぶりの発言は禁句。
②言葉が不足していないか
これは比較的避けられる。事前に言うべき内容を点検し、最低限これだけは伝えるという項目を頭にたたき込んでおく。そのとき『何項目』と数を意識しておくと忘れにくい。
③必要以上に言葉を飾り立てていないか
言葉を飾り付けると、内容がぼやけてくるおそれがある。下手に飾ることで混乱し、誤解、曲解することがある。仕事上の話では、修飾語はできるだけ使わないようにする。
④相手のためになっているか
これは見落としがちなこと。普段は気づいていないが、人と会って話をするということは、世の中全体から眺めたら、ものすごく縁のあること。世界には60億の人間がいるが、1人の人間が出会う人はほんのわずか。
しかも親しく話をする機会を持てるのは、僥倖と言ってもよい出来事。『ああ、この人と出会え、話ができてよかったな』と思われるような話を心がけたい。
➄自分のためになっているか
人と話すのは何か目的がある。その目的が常に自分にとってプラスになるかを考えること。もしプラスにならないなら、話をする必要はない。無理に話をすると、ろくなことにならない。話をする前に『これから話をすることはどう自分のためになるか』を点検することが大切。
この5点をいつも念頭に置いて、自己反省する習慣をつければ、おのずとよい話し方ができるようになります」
次回は5月29日(金)に掲載いたします。