2020年5月のアーカイブ

 

第5回 『3分間 社長塾』(1)
スピード判断力をつける

 

(前)株式会社かんき出版 社長
コトづくり研究会 代表
境 健一郎

 

 高井伸夫先生が、かんき出版で3冊目に書かれたのが『3分間社長塾』。

 多くの社長や社長を目指す人、中間管理職の人たちから「何度も読み返している」と評判になっている本です。

 

 「デキる社長」と「デキない社長」の差が生じる原因はいくつもありますが、共通して言える大きな要因は、「判断力の差」だ、と本書では言っています。

 さらに、瞬時に情報が世界中にいきわたる現在、すべてに、ますますスピードが最重要視されるようになりました。

 だから、判断力があるだけではダメで、「スピード判断力」でなければ価値がない、と言い切っています。

 

 では、デキない社長は、

  なぜ、判断が遅いのか? 

  なぜ、間違ってしまうのか?

  そしてなぜ、行動も遅いのか? 

 

 その原因は次の3つであると指摘しています。

  一つは、自分の価値観・判断基準が定まらない。

  一つは、視野が狭い。

  一つは、自分にとらわれすぎる。

 

 したがってスピード判断力をつけるには、この三つの原因を潰していけばいい。

 本書には、その潰し方のヒントになることが書いてあります。

 ここから【高井語録】を集めていきます。

 

 なお、先生が塾長をした勉強会の一つに、10年で100回以上続いた人気の『社長フォーラム』があります。本書は、そのフォーラムで特に評判の良かった話をもとに書かれたものです。受講された社長の会社のほとんどが、「大黒字になった」と言われています。

 

  • 考えるよりスピード。スピードをもって結論を実行に移す

 「人間には誰にも迷いが生じる。

 『迷ったら原点に戻れ』

 『迷ったら原理原則に戻れ』

 

 創業経営者なら、どういう会社をつくろうとしたのか。何を大事にして会社を起こしたのか。

 継承経営者なら、この会社の原点は何だったのか。

 人間として、社会人として、やってはならないことは何なのかを思い起こすと、すぅーと目の前の霧が消えていくことが多い。

 

 先手必勝の時代だ。

 先行したヤマト運輸に他の宅配業者はなかなか追いつかない。

 コンビニのセブン-イレブンにしても同じだ。

 

 お客さまのニーズは極めて移り気である。その変化に対応するためには、普段からスピードを意識することである。

 仮説を立てたらすぐ実行。後で検証しながら改善・改良していけばいいのだ。これは社長だけでなく、すべての組織でそのようにスピード化させなければいけない。

 

 スピード判断力を意識できない会社に、明るい未来は訪れない」

 

  • 価値判断の優先順位を決めておく

 「決断は迅速に歯切れよく。これがビジネスという戦場で勝ち残るための秘訣なのだ。

 だが、いざというとき迷いが生じてしまうのはなぜか。

 それは自分の価値判断基準をあいまいにしたまま、その場しのぎで判断しようとするからだ。

 

 例えば、次のケースを考えてみよう。

 新規事業がうまくいかず、赤字の額が脹らんだ。しかし、社会的に意義のある事業だし、いま撤退すると売り上げが下がってしまう。この事業は長年の夢だっただけに、あきらめたくない・・・・・・。

 

 この問題の論点をざっと上げると、次のようになる。

  ・利益が出るのか、損をもたらすのか(損得)

  ・社会的に見て正しいのか、ただしくないのか(正邪)

  ・続けるべきなのか、撤収すべきなのか(存廃)

  ・ことは大きいか、小さいか(大小)

  ・感情を優先すべきか、理屈を優先すべきか(情理)

 

 このように、一つの問題もさまざまな角度から検証できるが、難しいのは、それぞれの価値が衝突する場合だ。経営の現場では、

 『損だが正しい』

 『撤退すべきだが売り上げが下がる』

 というように、ある決断を下せば他の価値判断基準が満たされないことがたびたび起こる。社長があれこれ迷う原因もここにあるのだ。

 

 いま挙げた他にも、経営における価値判断基準にはさまざまなものがある。

 強弱、善悪、和戦、親疎、公私……。

 

 これらの価値のうち何を優先するか、問題が発生するたびに考えていれば、迷うのも当然だ。

 だから歯切れ良い決断を下すためには、価値判断基準を事前に決めておくことだ。

 

 たとえば最初から「損益」を第一に考えると決めておけば、たとえほかの価値判断基準を満たさなくても、スムーズに決断を下すことができるはずだ。

 ただ、判断すべき価値は、時代によって変化するという点には気をつけたい。

 

 では、いま重要な価値判断基準とは何なのか。それは次の3つである。

 ・正邪……ルールに沿っているかどうか

 ・善悪……社会的に良いことをしているかどうか

 ・顧客……お客様に満足していただけることになるかどうか

 

 あなたの判断基準は本当に明確か」

 

  • 商談は3回以内に道筋をつけろ

 「『相手の元に100回通って契約を取った』と自慢げに話す営業マンがいる。確かに、石にかじりついてでも、という精神力には感服する。

 

 しかし、一つの契約を取るのに100回も通っているようでは、仕事は非効率。

 私は3回交渉しても商談が進展しなければ、撤退も選択肢に入れることをすすめている。

 

 3回以内で話をまとめるには、事前の準備と、1回目の訪問に気を配ることが重要だ。

 

 アポイントが取れたら、まず面会していただくことについて礼状を出す。そして初めての面談の二日ほど前に、今回の商談で検討していただきたい内容を書面で送る。この2つをしっかりやれば、こちらの誠意や熱意の大部分は、事前に伝えておくことができる。

 

 そして1回目の訪問では、事前に書面でいろいろ要望を伝えていたとしても、あえてこちらの薦める点を1点に絞って話を進め、あとは柔軟に対応する。

 最初からあれやこれやと要求すると、相手との間に壁ができるばかりだ。譲る姿勢があることを示せば、相手との距離もグッと近くなって、交渉もスムーズに進むはずだ。

 たいていは2回目の交渉でまとまる。

 

 2回目も状況が思わしくなければ、3回目は別の角度から攻めてみる。こちらの味方になってくれる第三者を連れて行ったり、条件をガラリと変えてみたりするといった方法で、1回目、2回目とは違うアプローチをする。

 

 それで進展がなければ、商談は失敗に終わる確率が高い」

 

  • リーダーシップにカリスマ性を加えろ

 「経営者のなかには、

 『リーダーシップのある社長がよい社長だ』

 と信じている人がいる。しかし、それだけではまだ不足だ。

 リーダーシップのある社長は、難局においても素早い決断を下すことができる反面、その強引さゆえに批判を受ける。

 

 リーダーシップのある社長がいる会社でも、社員の3割くらいは何らかの不平不満を持っているのが普通だ。そんな不平不満を弱めさせる力、放棄させる力。それがカリスマ性だ。

 

 カリスマ性のある社長は、同じような決断を下しても、慕われ尊敬される。社員にとってはまさに憧れの対象なのである。

 ただし、カリスマ社長になるには、いくつかの条件がある。

 

 まず第1に、軸足が定まっていること。価値判断基準がふらふらしているようでは、社員はついてこない。

 

 第2に、どんな質問や課題がきても、きちんと答えられることが大切だ。たとえ分からないことがあっても、電話1本で事実関係を確かめることができる人脈を持っている。あるいは、すぐに何にでも応えられる腹心がそばにいるなど、あの社長に聞けば、解決の糸口が見つかると思わせることだ。

 

 第3に、カリスマを作る条件として忘れていけないのは、社長が醸(かも)し出す〝不思議さ“だ。

 知り合いの社長は、会社設立以来、毎朝7時に出社し、深夜2時まで残業して帰るという生活をしている。それなのに疲れた顔は一切見せずに、毎日違うスーツをピシッと着こなしている。

 社員はその姿を見て、「いつ寝ているのか?」と驚き、その超人ぶりに畏敬の念をいだくようになったそうだ。

 

 平凡からカリスマは生まれない。不思議さは、どんなことでもかまわない。この人はすごいと思わせることだ」

 

  • 儲けたければ知性・感性を磨け

 「いま顧客の判断基準は、快か不快か。面白いか面白くないか――。つまり自分のかゆい所を掻(か)いてもらえるかどうかが、財布のひもを緩める基準になる。

 保険業界で常にトップ10に入っているようなセールスマンたちは、ほとんどが次のように話す。

 『アポを取って60分の時間をもらっても、最初の50分は世間話に費やす』

 およそ保険に関係のないことで相手を喜ばせる。これを続けると、こちらから保険の営業をしなくても、保険に入ってくれたり、人を紹介してくれたりするようになるという。

 

 では相手のかゆいところを、どう見極めるのか。これは理詰めではなく、相手が何を考えているかを感じる力、つまり感性が豊かであることを要求される。

 ビジネスは相手があって初めて成り立つもの。儲けたければ、相手の気持ちを考え、思い、感じることが何よりも大切なのである。

 

 知性・感性の時代は、理論だけで人は動かない。

 『理に動く理(り)道(どう)、知に動く知動(ちどう)という言葉は辞書にない。感情で人が動く感動という言葉があるのみ』だ。

 安いから買ってくれる、品質がいいから人気が出る、という理屈だけでは通用しない」

 

  • 稼げる仕組みづくりは、すぐそばにある

 「あなたの会社には、『名物』と呼べるものはあるだろうか。

 社員でもいい。商品でもサービスでも、とにかくお客様の目を引いて、一度は買ってみたい、試してみたいと思われる特長があると、それが業績回復の起爆剤になる。

 もしなければ、自分たちでつくればいい。

 

 私はあるスーパーの再建をお手伝いすることになった。そのとき各店舗の店長に、

 『ジャンル別に名物商品を3つ作ってください』

 とお願いした。たとえば、青果売り場なら産地直送のナス、総菜売り場なら揚げたてのコロッケといった具合だ。最初は各店舗に名物が1つあるかないかの状態だったが、各売り場に3つできるようになると、客足が戻ってきた。

 

 次にお願いしたのが、

 『それぞれ名物店員になってください』

 ということだった。

 

 魚のことなら何でも知っている。レジを打つスピードが速い。いつもニコニコしている……など、なんでもいいから個性を出してお客様に顔を覚えてもらう。

 各店員がそれを心がけることで、お客様とのつながりが太くなり、一時落ち込んでいた売り上げも安定して増えていった。

 

 このように身近にあるものから、名物商品や名物サービス、名物社員を意図的に作れば、業績不振から抜け出すことも可能だ」

 

  • 社長自らが営業のパイプを総点検せよ  

 「全国規模のあるメーカーの経営再建をお手伝いをしたが、業績悪化の原因は営業パイプの劣化だった。

 

 パイプが壊れた原因のひとつは、押し込み販売だった。そこで私は、全役員に担当の営業所を割り当てて、押し込み・押し売りのチェックを徹底的にやってもらった。いわばパイプの総点検だ。

 

 さらに一度失った信頼を回復するため、全役員に担当の販売店や代理店を回ってもらった。

 一度や二度ではない。黒字化するまで、何度でもだ。

 パイプが細くなって行きづらいという販売店があれば、とくに重点的に訪問してもらった。苦情やお叱りに役員が現場で耳を傾けてこそ、信頼回復の足がかりができるし、営業がいかに会社にとって重要なものかが自覚できる。

 

 役員の外回りは社員教育にもつながる。自分の上司が必死に駆けずり回っている姿を見て、社員は営業の厳しさを学ぶ。研修を100回受けさせるより、役員と一緒に頭を下げて回ったほうがずっと効果的だ。

 

 また同時に、役員にはそれぞれの担当営業所で、新しいパイプを作ることもお願いした。つねに新規開拓し、新しいパイプを敷設することで、企業は安定的に成長していける。

 ほかに改善した箇所もあったが、こうした一連の営業改革で、そのメーカーは1年で赤字をほぼ解消できた。黒字化の原動力になったのは、やはり営業力の強化だった」

 

次回は6月26日(金)に掲載いたします。

「明るい高齢者雇用」

第14回 45歳から転身準備―新たな挑戦めざし―

(「週刊 労働新聞」第2160号・1997年7月14日掲載)

 

 戦後誕生した人たちが50歳を超えた。まさに団塊の世代が高齢者となる時代を迎えつつある。間もなく高齢者雇用問題は一気に噴出するであろう。中高年雇用の問題は、単に将来不足する労働力といった問題ではなく、国家財政との絡みがいよいよ加速度的に激しくなるだろう。高齢者雇用を進めなければ、逼迫した年金財政の危機は到底回避できない。現在14.6%の65歳以上の高齢者の比率が、2010年には21%、2025年には27.4%、2050年には23.3%になると、国立社会保障人口問題研究所は推定している。年金支給開始年齢が引き上げられると、60~64歳の労政年金受給者120万人はいわば失業者となる。仮に、年金支給開始年齢が67歳になれば、実に数百万人もの雇用の場を開発しなければならないことになる。少子化の進行も対岸の火事と言えない状態であるから、労働力、特に社会の基礎を支える労働力として、高齢者を活躍させなければならなくなる。高齢者を楽隠居させるには、国家財政的にも、また若者達にも荷が重すぎる。このような追い詰められた状況が、高齢者雇用に「深刻さ」の影を落とし、「暗い」イメージを引きずったものとなる。そのような状況下で、高齢者の雇用を開拓していくことは、まさにパイロットとしての明るい高齢者雇用の実像を紹介することから可能になろう。この項で紹介する人たちを見習い、またそれを踏み台として、高齢者雇用の場を広く深くしよう。明るい高齢者雇用の具体的な事例、成功例を紹介しながら、どの様な留意点が大切であるかを様々な観点から論じていくことにしたい。

 さて、今多くの斡旋機関によって大企業から資本関係のない中小企業への出向が進められている。すなわち大企業の賃金を保障されながら中小企業に雇用の場を見つけるというシステムである。出向という言葉は、官庁から民間へ、大企業から中小企業へ、親会社から子会社へ移るということから、一般に左遷、都落ちの響きがある。本人も意気阻喪することがあるようであるが、これを新しい世界への挑戦、自己能力の発見の場、労働寿命の延長の足掛かりとして捉え、思考の転換を図り、生き生きとした毎日をどう創造するかといったテーマを自身に課していくことで意欲、生きがいが生まれ、人生観、世界観まで変えることになる。そして高齢者雇用の全体を明るくすることにもつながるのである。

 長年習得した技術、経験を生かした人、異業種への転換を決意した人など、いくつかの出向成功例を紹介することにする。

 某大手電気メーカーに在籍したA氏は、品質管理・生産管理などを担当していたが、本社東京の某弱電メーカーの技術管理室長として甲県にある工場へ出向することになった。55歳を超えると転職は難しさを増す。統計上からいえば55歳を境に急激に有効求人倍率が下落するからである。具体的には、50~54歳では0.6倍だが、55~59歳のは0.2倍になってしまうのである。その意味では、いざその時になって準備をするのではなく、45歳から決心して転身を図ることに取り組まねば、およそ成功はおぼつかないと言えよう。

 

高井伸夫の社長フォーラム100講座記念~1講1話・語録100選~

【第17回】営業社長の心得、営業部長の心得、営業マンの心得(1995年2月24日)

 

 社長にとって「営業マンは分身である」というスタンスで取り組まなければ、社長業は務まらない。分身であるから、営業部隊と共感しなければならない。共に感じ共に悩むという姿勢がないと、統率者、営業部隊長として務まらない。

 営業部長は営業マンにとって鵜匠であり、また羊飼いでなければならない。営業部長は、企業の存続発展のために営業マンが利益をあげることを目標にしているが、そのためには営業部員を育成する気持ちがなければならない。育成概念、育成感覚がないと営業部長は成功しない。それだけではない。即戦即決即利益の鵜匠である。3年後5年後までは待てない。

 営業マンの心得は、基本2カ条。1つは、自社の商品をよく勉強すること。少なくとも、まずはお客様から「商品を知らない営業マンだ」と指摘されない程度には勉強すること。商品の長所とともに短所も知ることが大切である。そして、絶えざる勉強によって商品開発への提案につなげる営業マンが優秀な営業マンである。

 2つ目は、お客様に好意をもつこと。松下幸之助氏は「お客様に好かれよ」と言った。言うは易く行うは難し。媚びになる。媚びになっては営業にならない。だから私は「お客様を好きになれ」と言っている。

 この2つがあれば、営業の本質である「合意の形成」に的確に近づきうる。営業とは、「偶然を必然にし奇跡を平常化すること」とは何回も言ってきたが、それはこの2つがあってこそ初めて実現できるのだ。

 また営業部長は、部下の弁解に耳を傾けても理解してはいけない。弁解とグチは限りなくある。弁解を「理解」したら創意工夫が始まらない。営業はとかくエクスキューズを言う。例えば、今年の冬は暖かいから売れない、問屋が納めてくれないなど。だからどうする、ということが何もない。エクスキューズを許してはいけない。これを認めないことが営業のポイントになる。

 

中国広州在住の私の友人による、中国における新型コロナウィルス対策をテーマとした連載は今回で一旦最終回といたします。

 

【中国在住日本人から見た中国における新型コロナウィルス】
第4回 中国で再び・・・

 

 未だに各国で衰えることのない新型コロナウィルスに関して、これまで3回に渡り一気に封じ込めることに成功した中国における防疫対策とAPPを活用した管理体制についてお伝えしてきた。そんな中国も、春節後に戻ってきた外国人が持ち込んだウィルスにより新増感染者をゼロに抑えきれず、再び警戒地区に設定されるエリアも出てきた。

 日本の2ヶ月先を行く中国の現状から、この新型コロナウィルスの完全収束が簡単ではなく、収束したかに見えて再び小さなピークを迎えることを繰り返す可能性があること、そして徹底した管理の重要性が見て取れる。

 

1.中国にいて肌で感じる環境変化

 2月9日春節休暇最終日に中国に戻って以来現在に至るまで、外出時は全員がマスク着用を徹底していることは、国家による管理の徹底と人民の意識の高さがうかがえる。

 

(1)2月:完全封鎖による徹底管理

・飲食店・娯楽施設は全面営業停止、仕事は在宅、食事は自宅で自炊かデリバリー、買物は1世帯1日1回1人まで。

・高速道路の料金所・スーパー・会社などで検温、37.3度以上の人は一切入れない。

 

(2)3月:徐々に回復の兆し

・飲食店は顧客同士の距離を離して、ゴルフ場はロッカー・更衣室の使用を禁止して、徐々に営業開始。企業によっては在宅頻度を減らす傾向に。

・飲食店は検温・記帳(身分証明書番号、携帯番号など)、ゴルフ場その他は検温以外にAPPで過去行動範囲を確認、会社では入る前だけではなく日中も検温。

 

(3)4月上旬:完全回復

・飲食店・娯楽施設・商業施設など、ほぼ完全回復するも、検温・記帳・APPによる行動履歴確認は継続。

 

(4)4月中旬以降:予想通りの再燃

・飲食店その他で外国人の感染者が発端となり、黒龍江省はロシア人から、広州はアフリカ人から、感染拡大。

・個人の行動管理が徹底されていることから、感染者と接点のある人は発症していなくても隔離することで拡散を防止。

※北京では5月全人代が開催されることもあり、上記広州に比べて各種管理は厳重で活動の回復は遅い状況。

 

2.収束したかに見えたが再燃した広州の例

(1)広州の白雲・越秀エリアの警戒レベルUP

 安全レベルで安定していた同地区もアフリカ人が多いこともあり、4月中旬再び警戒レベルがあがる。

→同エリアへの立ち入りを禁じる日本企業も出てきた。

 

(2)広州からの渡航者を隔離

 雲南省・海南島など、4月になって広州市の一部エリアで警戒レベルが上がったことを受けて、当該エリアに限らず広州からの渡航者を14日間隔離する都市がでてきた。

→日系企業も中国国内出張が解禁になりそうなタイミングであったが、事前に出張先の管理ルールやホテルその他の受け入れ可否を十分確認するなど慎重な対応を求められるようになった。

 

(3)市中心レストランで感染者が食事し店員も感染

 感染した外国人がレストランで食事をしたため店員も感染。同日以降同レストランで食事をした全員が郊外の政府指定ホテルに14日間隔離され、その間に検査2回のPCR検査を受けて共に陰性で開放される。開放されて更に1週間後に改めてPCR検査を受けて陰性となり、これを受けて完全にシロと認定される。その間、各種APPの背景は青ではなく赤に表示されており、行動の自由は制限される状況。

→4月中旬以降、日本人の外食を禁止する日系企業もあったが、同エリアの新増感染者がゼロに収束したことを受けて、5月になって十分注意しながらの解禁としている。

 

 日本でも専門家によれば“感染者が皆無になることは難しく、減っては増え、増えては減りを繰り返しながら収束に向かう”とのことであった。中国でも一旦新増感染者がゼロとなり収束したかに見えて、小さな波がまた来てしまった。

 それでもその波を徐々に小さくし、そして完全収束させればよく、中国はそのための仕組みを構築し実践していると言える。感染者がいれば接触者含めて厳重に隔離できるのは、ビッグデータも活用したAPP活用や商業施設での記帳といった行動履歴管理のなせる業である。

 

 新増感染者を完全に抑え込んだ中国でさえ、海外からの入境者の影響でこうしたことが起こる。

 日本はまだそれ以前の新増感染者をゼロにする段階ではあるが、常に2ヶ月前の動きをしている中国を見ながら、中国同水準での対策徹底による早期の回復に期待したい。国情の違いから強い強制力は働かないが、個人の意識を高め日本にあった形での対策を実現して欲しい。がんばれ!日本!

 

 

「中国の最新事情」
第5回 新型のコロナウイルスについて(4)

 

高井・岡芹法律事務所
上海代表処 顧問・中国律師 沈 佳歓

 

 最近、時間があるので、日本の映画を観ています。最も好きな監督の一人は今村昌平監督です。彼の作風が自然主義で、作品の中に人為的な演出が少ないことや、赤裸々に人間性を描写することが多く、しかも、観客らの欲求に迎合せず、むやみに情を煽るより、人は本能で理性と秩序を踏みにじる生き物であることを伝える故、彼のカメラに映った人々は時々二足立ちの獣に見えます。

 中でも特に大好きな作品は<楢山節考>です。1983年のカンヌ映画祭にてパルムドールを受賞した作品です。今村監督の代表作であるだけではなく、日本映画界の傑作でもあると思います。

 

 映画の概要は、はるか昔、山奥にある村に住む村人が、食料と農産物に恵まれない過酷な環境の中で一生懸命食料を確保し、生き抜いていく物語です。

 そのような背景から、生きるために、村の住人達は楢山参りという決まりを作りました。簡単に言うと70歳を迎えた老人を楢山の奥まで連れて行き、大自然に帰すという名目で置いてくるというものです。いわば棄老行為です。

 主人公の辰平さんが今回70歳になる自分の母親おりんを山の奥に背負っていく番になり、これを巡る子と母の間の葛藤が描かれています。

 映画の最後、お母さんのおりんが息子辰平の未練を断ち切るため、今生別れの時にも、歯を食いしばって、死と直面しながら、ひと声も発せず、片手で心の恐怖を抑え、もう方手で息子を追い払うシーンが観衆一人一人の目に焼き付き、心の深いところに訴えかけたでしょう。このような悲劇を決して繰り返すわけにはいかないと。

 

 映画の中の世界では、人々は貧しくて、食料が足りない時代にいて、自分が生きるために、仕方なく、棄老という苦渋の選択をしたまでです。

 しかし、現在は?コロナウイルスに対抗するために、一部の科学者が集団免疫という概念を言い出しました。簡単に言うと、ウイルスに対して、特に何か対抗策を講じず、一部の人間に感染させ、彼らの免疫力を頼りにし、ウイルスに勝った人が残りの人たちの防波堤となり、ウイルスの感染連鎖を遮断するという発想です。

 一見問題なさそうな方法ですが、しかし、今回のコロナウイルスは老人が特に感染力が強く、病死率が高いです。集団免疫という何もせず、自然の優勝劣敗に任せ、自然淘汰に身にゆだねる予防法では、真っ先に倒れるのは老人です。まさに老人に先に死ねと言わんばかりの対応策です。これと映画の中の、食料の節約ために老人を一人一人山の奥に捨てるという原始的な方法となんの違いがあるでしょう。

 時代は変わりました。人々が一生懸命働き、科学を進展させ、何十倍何百倍の富と物質を作り上げた今、我々の最低限の望みは将来自分が老いた時、自分が山の奥に行かされないこと、そして自分の子孫にそんな決断の時が永遠に来ないことにあるのではないでしょうか。

 しかし残念ながら、この時代になってもなお集団免疫という棄老を優先的に選択する人がいます。彼らが今放棄し、諦めたのは他でもない、今まで彼らに献身的に尽くしてきた先駆者であり、その人たちの行く末は未来の自分であることが何でわからないのでしょう、いや わかりたくないのでしょう。

 時代が変わっても、人の性はそんなに簡単に変わらないということですね。

 

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