第5回 『3分間 社長塾』(1)
スピード判断力をつける
(前)株式会社かんき出版 社長
コトづくり研究会 代表
境 健一郎
高井伸夫先生が、かんき出版で3冊目に書かれたのが『3分間社長塾』。
多くの社長や社長を目指す人、中間管理職の人たちから「何度も読み返している」と評判になっている本です。
「デキる社長」と「デキない社長」の差が生じる原因はいくつもありますが、共通して言える大きな要因は、「判断力の差」だ、と本書では言っています。
さらに、瞬時に情報が世界中にいきわたる現在、すべてに、ますますスピードが最重要視されるようになりました。
だから、判断力があるだけではダメで、「スピード判断力」でなければ価値がない、と言い切っています。
では、デキない社長は、
なぜ、判断が遅いのか?
なぜ、間違ってしまうのか?
そしてなぜ、行動も遅いのか?
その原因は次の3つであると指摘しています。
一つは、自分の価値観・判断基準が定まらない。
一つは、視野が狭い。
一つは、自分にとらわれすぎる。
したがってスピード判断力をつけるには、この三つの原因を潰していけばいい。
本書には、その潰し方のヒントになることが書いてあります。
ここから【高井語録】を集めていきます。
なお、先生が塾長をした勉強会の一つに、10年で100回以上続いた人気の『社長フォーラム』があります。本書は、そのフォーラムで特に評判の良かった話をもとに書かれたものです。受講された社長の会社のほとんどが、「大黒字になった」と言われています。
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考えるよりスピード。スピードをもって結論を実行に移す
「人間には誰にも迷いが生じる。
『迷ったら原点に戻れ』
『迷ったら原理原則に戻れ』
創業経営者なら、どういう会社をつくろうとしたのか。何を大事にして会社を起こしたのか。
継承経営者なら、この会社の原点は何だったのか。
人間として、社会人として、やってはならないことは何なのかを思い起こすと、すぅーと目の前の霧が消えていくことが多い。
先手必勝の時代だ。
先行したヤマト運輸に他の宅配業者はなかなか追いつかない。
コンビニのセブン-イレブンにしても同じだ。
お客さまのニーズは極めて移り気である。その変化に対応するためには、普段からスピードを意識することである。
仮説を立てたらすぐ実行。後で検証しながら改善・改良していけばいいのだ。これは社長だけでなく、すべての組織でそのようにスピード化させなければいけない。
スピード判断力を意識できない会社に、明るい未来は訪れない」
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価値判断の優先順位を決めておく
「決断は迅速に歯切れよく。これがビジネスという戦場で勝ち残るための秘訣なのだ。
だが、いざというとき迷いが生じてしまうのはなぜか。
それは自分の価値判断基準をあいまいにしたまま、その場しのぎで判断しようとするからだ。
例えば、次のケースを考えてみよう。
新規事業がうまくいかず、赤字の額が脹らんだ。しかし、社会的に意義のある事業だし、いま撤退すると売り上げが下がってしまう。この事業は長年の夢だっただけに、あきらめたくない・・・・・・。
この問題の論点をざっと上げると、次のようになる。
・利益が出るのか、損をもたらすのか(損得)
・社会的に見て正しいのか、ただしくないのか(正邪)
・続けるべきなのか、撤収すべきなのか(存廃)
・ことは大きいか、小さいか(大小)
・感情を優先すべきか、理屈を優先すべきか(情理)
このように、一つの問題もさまざまな角度から検証できるが、難しいのは、それぞれの価値が衝突する場合だ。経営の現場では、
『損だが正しい』
『撤退すべきだが売り上げが下がる』
というように、ある決断を下せば他の価値判断基準が満たされないことがたびたび起こる。社長があれこれ迷う原因もここにあるのだ。
いま挙げた他にも、経営における価値判断基準にはさまざまなものがある。
強弱、善悪、和戦、親疎、公私……。
これらの価値のうち何を優先するか、問題が発生するたびに考えていれば、迷うのも当然だ。
だから歯切れ良い決断を下すためには、価値判断基準を事前に決めておくことだ。
たとえば最初から「損益」を第一に考えると決めておけば、たとえほかの価値判断基準を満たさなくても、スムーズに決断を下すことができるはずだ。
ただ、判断すべき価値は、時代によって変化するという点には気をつけたい。
では、いま重要な価値判断基準とは何なのか。それは次の3つである。
・正邪……ルールに沿っているかどうか
・善悪……社会的に良いことをしているかどうか
・顧客……お客様に満足していただけることになるかどうか
あなたの判断基準は本当に明確か」
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商談は3回以内に道筋をつけろ
「『相手の元に100回通って契約を取った』と自慢げに話す営業マンがいる。確かに、石にかじりついてでも、という精神力には感服する。
しかし、一つの契約を取るのに100回も通っているようでは、仕事は非効率。
私は3回交渉しても商談が進展しなければ、撤退も選択肢に入れることをすすめている。
3回以内で話をまとめるには、事前の準備と、1回目の訪問に気を配ることが重要だ。
アポイントが取れたら、まず面会していただくことについて礼状を出す。そして初めての面談の二日ほど前に、今回の商談で検討していただきたい内容を書面で送る。この2つをしっかりやれば、こちらの誠意や熱意の大部分は、事前に伝えておくことができる。
そして1回目の訪問では、事前に書面でいろいろ要望を伝えていたとしても、あえてこちらの薦める点を1点に絞って話を進め、あとは柔軟に対応する。
最初からあれやこれやと要求すると、相手との間に壁ができるばかりだ。譲る姿勢があることを示せば、相手との距離もグッと近くなって、交渉もスムーズに進むはずだ。
たいていは2回目の交渉でまとまる。
2回目も状況が思わしくなければ、3回目は別の角度から攻めてみる。こちらの味方になってくれる第三者を連れて行ったり、条件をガラリと変えてみたりするといった方法で、1回目、2回目とは違うアプローチをする。
それで進展がなければ、商談は失敗に終わる確率が高い」
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リーダーシップにカリスマ性を加えろ
「経営者のなかには、
『リーダーシップのある社長がよい社長だ』
と信じている人がいる。しかし、それだけではまだ不足だ。
リーダーシップのある社長は、難局においても素早い決断を下すことができる反面、その強引さゆえに批判を受ける。
リーダーシップのある社長がいる会社でも、社員の3割くらいは何らかの不平不満を持っているのが普通だ。そんな不平不満を弱めさせる力、放棄させる力。それがカリスマ性だ。
カリスマ性のある社長は、同じような決断を下しても、慕われ尊敬される。社員にとってはまさに憧れの対象なのである。
ただし、カリスマ社長になるには、いくつかの条件がある。
まず第1に、軸足が定まっていること。価値判断基準がふらふらしているようでは、社員はついてこない。
第2に、どんな質問や課題がきても、きちんと答えられることが大切だ。たとえ分からないことがあっても、電話1本で事実関係を確かめることができる人脈を持っている。あるいは、すぐに何にでも応えられる腹心がそばにいるなど、あの社長に聞けば、解決の糸口が見つかると思わせることだ。
第3に、カリスマを作る条件として忘れていけないのは、社長が醸(かも)し出す〝不思議さ“だ。
知り合いの社長は、会社設立以来、毎朝7時に出社し、深夜2時まで残業して帰るという生活をしている。それなのに疲れた顔は一切見せずに、毎日違うスーツをピシッと着こなしている。
社員はその姿を見て、「いつ寝ているのか?」と驚き、その超人ぶりに畏敬の念をいだくようになったそうだ。
平凡からカリスマは生まれない。不思議さは、どんなことでもかまわない。この人はすごいと思わせることだ」
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儲けたければ知性・感性を磨け
「いま顧客の判断基準は、快か不快か。面白いか面白くないか――。つまり自分のかゆい所を掻(か)いてもらえるかどうかが、財布のひもを緩める基準になる。
保険業界で常にトップ10に入っているようなセールスマンたちは、ほとんどが次のように話す。
『アポを取って60分の時間をもらっても、最初の50分は世間話に費やす』
およそ保険に関係のないことで相手を喜ばせる。これを続けると、こちらから保険の営業をしなくても、保険に入ってくれたり、人を紹介してくれたりするようになるという。
では相手のかゆいところを、どう見極めるのか。これは理詰めではなく、相手が何を考えているかを感じる力、つまり感性が豊かであることを要求される。
ビジネスは相手があって初めて成り立つもの。儲けたければ、相手の気持ちを考え、思い、感じることが何よりも大切なのである。
知性・感性の時代は、理論だけで人は動かない。
『理に動く理(り)道(どう)、知に動く知動(ちどう)という言葉は辞書にない。感情で人が動く感動という言葉があるのみ』だ。
安いから買ってくれる、品質がいいから人気が出る、という理屈だけでは通用しない」
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稼げる仕組みづくりは、すぐそばにある
「あなたの会社には、『名物』と呼べるものはあるだろうか。
社員でもいい。商品でもサービスでも、とにかくお客様の目を引いて、一度は買ってみたい、試してみたいと思われる特長があると、それが業績回復の起爆剤になる。
もしなければ、自分たちでつくればいい。
私はあるスーパーの再建をお手伝いすることになった。そのとき各店舗の店長に、
『ジャンル別に名物商品を3つ作ってください』
とお願いした。たとえば、青果売り場なら産地直送のナス、総菜売り場なら揚げたてのコロッケといった具合だ。最初は各店舗に名物が1つあるかないかの状態だったが、各売り場に3つできるようになると、客足が戻ってきた。
次にお願いしたのが、
『それぞれ名物店員になってください』
ということだった。
魚のことなら何でも知っている。レジを打つスピードが速い。いつもニコニコしている……など、なんでもいいから個性を出してお客様に顔を覚えてもらう。
各店員がそれを心がけることで、お客様とのつながりが太くなり、一時落ち込んでいた売り上げも安定して増えていった。
このように身近にあるものから、名物商品や名物サービス、名物社員を意図的に作れば、業績不振から抜け出すことも可能だ」
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社長自らが営業のパイプを総点検せよ
「全国規模のあるメーカーの経営再建をお手伝いをしたが、業績悪化の原因は営業パイプの劣化だった。
パイプが壊れた原因のひとつは、押し込み販売だった。そこで私は、全役員に担当の営業所を割り当てて、押し込み・押し売りのチェックを徹底的にやってもらった。いわばパイプの総点検だ。
さらに一度失った信頼を回復するため、全役員に担当の販売店や代理店を回ってもらった。
一度や二度ではない。黒字化するまで、何度でもだ。
パイプが細くなって行きづらいという販売店があれば、とくに重点的に訪問してもらった。苦情やお叱りに役員が現場で耳を傾けてこそ、信頼回復の足がかりができるし、営業がいかに会社にとって重要なものかが自覚できる。
役員の外回りは社員教育にもつながる。自分の上司が必死に駆けずり回っている姿を見て、社員は営業の厳しさを学ぶ。研修を100回受けさせるより、役員と一緒に頭を下げて回ったほうがずっと効果的だ。
また同時に、役員にはそれぞれの担当営業所で、新しいパイプを作ることもお願いした。つねに新規開拓し、新しいパイプを敷設することで、企業は安定的に成長していける。
ほかに改善した箇所もあったが、こうした一連の営業改革で、そのメーカーは1年で赤字をほぼ解消できた。黒字化の原動力になったのは、やはり営業力の強化だった」
次回は6月26日(金)に掲載いたします。