「中国の最新諸事情」
第6回 民法典の誕生
高井・岡芹法律事務所
上海代表処 顧問・中国律師 沈 佳歓
最近、中国において最も熱い話題は<民法典>です。
2020年5月28日,中国で開会された第十三期全国人民代表大会三次会議で《中華人民共和国民法典》が審議され、可決されました。これは我が国初の民法法典です。2021年1月1日に施行される見通しです。
<民法典>は、中国現行の婚姻法、契約法、担保法など数多くの法律を整理し、体系化を図ったものです。編纂が何度も失敗し、数十年が経過しました。その過程の中で、計画経済秩序から市場経済秩序、毛沢東から習近平、たくさんの変化と移転を経て、中国特有の事情をめぐり試行錯誤を何度も試みた結果、ようやく一つの法律として固まりました。
民法典は物権、契約、継続、相続など7編1260条から成り、一個人から社会生活の隅々までの規定を含み、まさに、これからの中国の社会生活の百科事典とも呼べるシロモノであります。
今回この場を借りて、民法典の中の注目条例一つを紹介しましょう。
離婚に「クーリングオフ期間」
現在、コロナウイルスの蔓延で外出できず、夫婦が一日中家の中に居て、些細なことで喧嘩をし、双方の感情に亀裂が入り、結果離婚まで発展するケースが増えているそうです。いわゆる「コロナ離婚」というものです。
当局の調べによると、今年に入って上海をはじめ、深圳など都市の離婚率が急増しています。そのせいで、離婚申請を受ける民政局はすでに、何か月先まで予約が満ぱい状態だそうです。
その矢先に、今回の民法典の中に離婚冷却期という概念が設けられました。簡単に説明すると、仮に夫婦双方が合意で協議離婚を民政局に申請したとしても、離婚の効力が発効するのは30日以後です。その間、どちらかが後悔し、離婚したくなくなったら、その申請を撤回できるという内容です。もちろん、「コロナ離婚」を食い止めるだけの目的で、この条文を設けたわけではありません。人々の幸せを守るために、衝動的な離婚という悲劇の減少を狙った条項で、為政者の善意が感じられます。
最初の狙いこそよかったのですが、この条文にパブリックコメントを募集すると、各方面から猛反発をまねきました。 主な意見として「合意離婚なのに、それすら自由にできないの?」と文句を言う人がいれば、「衝動的な結婚は自由なのに、衝動的な離婚には厳しいんだ、まるで入場料だけ集めて、あとで勝手にしろというような悪徳商売だね」と皮肉を言う人もいます。
私の意見として、結婚、離婚、再婚というのは人の自由です。この制度によって、本来できた協議離婚が一方の撤回により、訴訟離婚に転じせざるを得なくなりました。裁判所の負担が何倍も重くなることを置いたとしても、離婚裁判は大体結審まで時間がかかります(中国実務では最短1年)。その長い間に当事者双方、精神的にも、金銭的にも大きなダメージが受けることになりますし、仮に一方が譲って仮面夫婦になって、婚姻を維持したとしても、当事者の幸せにはならないでしょう。
そのような結果にならないように、祈るばかりであります。